忍ぶれど… 兄は俺の光――息が届くほど近くにいるのに、けっして触れてはならぬ想い人

志生帆 海

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色は匂へど……

完結後の甘い話『思い出』①

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 前置き。

『忍ぶれど』は先日無事に二人が宮崎のリゾートホテルの一室で結ばれるシーンで完結しました。しかしこの兄弟は切ない時間の方が長く、少し私的に糖度が足りません。なので完結後の甘い話を思いつくままに置いていきます。二人の甘い恋模様をどうぞ。


****

 宮崎旅行中に翠とようやく一つになれた。

 本当に長い長い道のりだった。

 北鎌倉に戻ってからも、時折、離れの茶室で、互いの温もりを求め分け合っている。

 そして今宵も、ずっと翠の中にいる。

「あっ、あっ……もう……流……これ以上は無理だ……」
「頼む、もう少しだけ」
「だが……あぁ……っ」

 しまった。

 また暴走して、翠の朦朧とするまで延々と求めてしまった。

「はぁ…」

 俺に抱かれた直後の翠の色気は半端ない。

 裸のまま布団に身を投げだし、気怠げに横たわっている。

 いつもきちんとしている人の乱れた姿に煽られる。

「翠、無事か、今、水を持ってくる」
「流……大丈夫だよ。僕も嬉しい……でも少し……眠ってもいいか」
「あぁ」

 俺は押し入れから肌掛けを取り出し、美しい裸体を隠してやった。

 どうにも足が剥き出しなっているのが、気になってな。

 ここでは俺しか見ていないのに、これは長年染み付いた癖だ。

 翠の生足を意識したのは、まだ中学生の頃だ。

……

 中二の五月。

 高校生になった翠の体育祭を、母と見に行った。

「流も同じ高校に入れたらいいわね」
「いや、高校は別がいい」
「そうなの?」

 母は高校こそ、翠と一緒に通って欲しいようだが、俺は県立と決めていた。中学受験で失敗した学校にわざわざ入る趣味はないし、上品でおっとりした校風も柄ではない。

 だが、翠にはこの学園がよく似合っている。

 堅い門で閉ざされた両家の子息が多く集う私立の男子校。

 楚々として品のある翠には、このような土壌がよく似合う。

「ところで母さん、兄さんは何の競技に出るんだ?」
「えっとね、午前中は綱引きと部活対抗リレーよ」
「ふぅん、部活対抗リレーか、兄さんの剣道着姿、かっこいいだろうな」
「ふふん、あなたもまだまだ甘ちゃんね」

 母さんは何故か楽しそうに笑っていた。

 部活対抗リレーは囲碁、将棋、科学、美術、管弦楽の文化部で1チーム、運動部は剣道、空手、バドミントン、ゴルフ、卓球と、サッカー、陸上、野球、バスケ、バレーという2チームに分かれていた。

 文化部はひょろひょろメンバー結集の囲碁部が、一位でゴールして盛り上がった。

「さぁ翠の出番よ」
「おぅ!

 剣道部のメンバー4人が列になって登場した。

 やはり剣道着姿だ。しかも面までつけて……

 ところで、その重たい衣装で姿で走るのは難しいよな。

「あらやだ、皆、同じ背格好で……ええっと、どの子が翠かしら?」
「一番最後の走者だよ」
「どうして分かるの?」
「そりゃ、俺の(大好きな)兄さんだからさ」

 一番頭が小さくて手足が長いのが兄さんだ。

 剣道着姿で面をつけていても、ちゃんとも分かる。

 とにかく断トツで、スタイルが良い!

 スッと背筋を伸ばした凜とした雰囲気は隠せない。

 濃紺の剣道着がよく似合っている!

「ふふ、そうね。確かに我が子だわ。翠は足が速いからアンカーね」

 ところが、レースが始まってギョッとした。

「か、かあさん、なんで袴の裾をたくし上げて走るんだよー」
「そりゃ、走りにくいからでしょ」

 うげっ!
 
 にっ、兄さんはしないでくれー!
 
 心の中で叫んでしまった。

 兄さんの生足が公衆の面前で曝されるなんて、絶対に駄目だー!

 俺の切ない想いは通じたのか……

 前の走者はすね毛たっぷりの足を曝してドタドタ走っていったのに、兄さんは違った。

 そんなことしなくても、そのままの姿で俺の前を颯爽と駆け抜けていった。

 兄さんは元々俊足なので、剣道着姿でも身軽で綺麗な走りだった。

「こ、これは、剣道部の快挙です!」

 アナウンスの興奮も無理はない。

 翠が前を走る4人をごぼう抜きしたのだから。

「きゃー カッコいい」
「あれ、誰かしら」

 保護者の黄色い歓声、うるせー!

 あれは俺の兄さんだ。

 俺の翠だ!
 
 そう叫びたくなった。

 この独占欲は、弟が兄を慕う域を超えているのでは?

 心の中で警笛が鳴ったが、俺はそれを押し退け、走り出した。

 
「流、どこに行くの?」
「兄さんのとこ」
「あんたは、まったくブラコンね」
「どうとでも!」

 しまった!

 ゴールした兄さんが面を外している。

 さらさらな色素の薄い髪。
 
 白い肌に切れ長の目、目元のほくろ、端正な顔立ちの兄さんの頬は上気し、玉のような汗が額に浮き出て、それを手ぬぐいでサッと拭っていた。

 周囲のどよめき。

 そりゃ無理もない。

 こんなに容姿端麗なのだから。

 兄さんの美しさは中身を伴うから、尚、美しい。

 しかし兄さんの生足は隠せても、素顔はバレちまったな。

 やっぱり兄さんは手が届かない人だ。

 しょげ返っていると、退場門を潜った兄さんが俺を見つけ近寄ってくる。

「流! 見てくれたのか」
「あぁ、その……汗、すごいな」
「うん、一位を取りたくてね」
「どうして?」

 欲のない人なのに珍しい。

「覚えていないの?」
「なにを?」
「小さい頃、流がいつも『兄さんは一番がいい』と言ってくれたから、色々頑張れたんだ。今も……そうかな?」
 
 本当にこの人は無自覚過ぎる。

「あぁ、兄さんは一番さ」

 兄さんが一番好きだ、大好きだ!

 その言葉は今はまだ伝えられないが、きっといつか。

****

 あの時から翠の生足に妙に敏感になり、脱衣場で風呂上がりの兄さんと鉢合わせした時なんて真っ赤になっちまったな。

「ん……流、寝ないの?」
「あぁ……寝るよ」
「少し冷えてきたね」
「暖めてやる」

 翠の素足に自分の足を絡めるようにして抱きしめた。

 全部、俺のものだ。翠……

「翠、一番好きだ。大好きだ」
「ふっ、嬉しいよ。昔からよくそう言ってくれたよね」
「え? そうだったか」
「うん、可愛かったなぁ、僕が大好きって毎日言ってくれて」
「お、おい? なんだ? そんな記憶ないぞ」
「2,3歳の時の話だよ」

 ふんわり微笑む翠の唇に、俺の頬も緩んだ。

 思い出すのは幸せなことばかり。

 あんなに切ない日々だったのに、今は……幸せだから。 


 
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