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闇の章
突然の口づけ 2
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「あっ……」
洋月の君は驚いたように小さな声を上げ、顔を横に背けようとした。私はそのほっそりとした顎を押さえつけ、逃げることが出来ないように封じ込め、その唇を割り舌を侵入させた。
「うっ」
その柔らかい感触に、触れてはいけないものに触れてしまった。そう思った。女遊びの達人と言われる私が、こともあろうに同性である洋月の君との口づけひとつに夢中になっている。それにしても、この人との口づけはなんと甘いのだ。抵抗しながらも、あがってくる熱い吐息の甘美なこと、この上ない。
息ができないほどの長い口づけの後、洋月の君に自由を戻すと、口元を手で押さえ、怒りというよりは驚きで満ちた表情を浮かべていた。そして恐る恐る問いかけるように口を開いた。
「丈の中将……君は何故このようなことを……」
そんな暗闇でおびえる小鹿なような表情に、私の中の男の部分が爆走した。もう止まらない!洋月の君の両腕を床に抑えつけ、馬乗りになる。
「えっ!あっ……待って! 何をする?」
状況が理解できないでいる洋月の君のことなどお構いなしに、直衣を手際よく緩め、胸元を露わにしていくと、ほっそりとした汚れなき白い鎖骨が暗い部屋に浮かび上がった。
ゴクリ──
あまりに美しく誘っているようなそのきめ細かな肌に、思わず喉がなってしまう。深呼吸をした後、腕の中に閉じ込めた洋月の君の首筋に沿って、吸い付くような接吻を落としていく。口づけを落とす度に、ピクピクと躰を震わせる洋月の君が愛おしい。
「あっ駄目だ。そんなことをしたら知られてしまう!」
「誰にだ?どうせ妹とはなんの関係も持っていないのだから、心配しなくていいだろう?」
「違うっ!そうではないっ」
「じゃあ君は一体誰を想っている?どんな姫なんだ?君の心を捉えて離さないのはっ!」
私は苛立ちを感じ、洋月の君の直衣を徐々にはだけさせながら、露わになった肌の部分に噛みつくような口づけをし、言葉と口づけで容赦なく攻め立てていく。
「じゃあ、一体誰のことを想っている?人に言えないような相手なのか」
嫉妬だ。見えない相手に嫉妬していた。私はその相手への牽制も込め、更に首筋に私の痕を残したくて激しく薄い皮膚を、赤い痕が残るまで吸った。
「んっあっ……駄目だ!いけない。俺には想う姫などいない。ただ……俺は支配されている。だから君はそんなことをしてはいけない。あぁ……牡丹が知ってしまう。やめてくれ!君まで傷つけたくない」
洋月の君はそう答えた後、流されるままに私に委ねていた躰を思いっきり跳ね除け、乱れ行く直衣を手で押さえた。
「牡丹って……?」
私は腑に落ちない気持ちで一杯だったが、洋月の君のあまりに怯えた表情に、上り詰めていた高ぶる感情が収まってしまった。途端に洋月の君の眼には涙が溢れた。
「丈の中将はけっして……俺を想ってはいけない。俺は君を傷つけたくないのだから」
そう告げると……急ぎ直衣を整え、部屋から抜け出して行ってしまった。私は呆気にとられ自嘲気味に笑うしかなかった。
「参ったな。私としたことが、とうとう洋月の君相手に、こんなことを仕出かすなんて」
****
牛車に揺られながら、震えが止まらない。今宵は牡丹からの呼び出しが入っていたのだ。急ぎ首筋を鏡に映し確かめると、花弁が舞い降りたかのように、1箇所だけはっきりと色付いてしまった部分を見つけ、絶望的な気持ちになった。
これは、絶対に牡丹に気付かれてはいけない。
まさか丈の中将が急にあのようなことをするなんて、油断していた。
牡丹に見つかるわけに行かない秘密を躰に植えつけられてしまった気分で悲しくなる。震える躰を自ら抱きしめ、恐れ慄きながらも直衣の乱れを急ぎ整え、深く口付けされて熱く湿っている口元を名残惜しくも……しっかりと拭った。
何故なら、この牛車は宮中の牡丹の元へ向かっているから……
洋月の君は驚いたように小さな声を上げ、顔を横に背けようとした。私はそのほっそりとした顎を押さえつけ、逃げることが出来ないように封じ込め、その唇を割り舌を侵入させた。
「うっ」
その柔らかい感触に、触れてはいけないものに触れてしまった。そう思った。女遊びの達人と言われる私が、こともあろうに同性である洋月の君との口づけひとつに夢中になっている。それにしても、この人との口づけはなんと甘いのだ。抵抗しながらも、あがってくる熱い吐息の甘美なこと、この上ない。
息ができないほどの長い口づけの後、洋月の君に自由を戻すと、口元を手で押さえ、怒りというよりは驚きで満ちた表情を浮かべていた。そして恐る恐る問いかけるように口を開いた。
「丈の中将……君は何故このようなことを……」
そんな暗闇でおびえる小鹿なような表情に、私の中の男の部分が爆走した。もう止まらない!洋月の君の両腕を床に抑えつけ、馬乗りになる。
「えっ!あっ……待って! 何をする?」
状況が理解できないでいる洋月の君のことなどお構いなしに、直衣を手際よく緩め、胸元を露わにしていくと、ほっそりとした汚れなき白い鎖骨が暗い部屋に浮かび上がった。
ゴクリ──
あまりに美しく誘っているようなそのきめ細かな肌に、思わず喉がなってしまう。深呼吸をした後、腕の中に閉じ込めた洋月の君の首筋に沿って、吸い付くような接吻を落としていく。口づけを落とす度に、ピクピクと躰を震わせる洋月の君が愛おしい。
「あっ駄目だ。そんなことをしたら知られてしまう!」
「誰にだ?どうせ妹とはなんの関係も持っていないのだから、心配しなくていいだろう?」
「違うっ!そうではないっ」
「じゃあ君は一体誰を想っている?どんな姫なんだ?君の心を捉えて離さないのはっ!」
私は苛立ちを感じ、洋月の君の直衣を徐々にはだけさせながら、露わになった肌の部分に噛みつくような口づけをし、言葉と口づけで容赦なく攻め立てていく。
「じゃあ、一体誰のことを想っている?人に言えないような相手なのか」
嫉妬だ。見えない相手に嫉妬していた。私はその相手への牽制も込め、更に首筋に私の痕を残したくて激しく薄い皮膚を、赤い痕が残るまで吸った。
「んっあっ……駄目だ!いけない。俺には想う姫などいない。ただ……俺は支配されている。だから君はそんなことをしてはいけない。あぁ……牡丹が知ってしまう。やめてくれ!君まで傷つけたくない」
洋月の君はそう答えた後、流されるままに私に委ねていた躰を思いっきり跳ね除け、乱れ行く直衣を手で押さえた。
「牡丹って……?」
私は腑に落ちない気持ちで一杯だったが、洋月の君のあまりに怯えた表情に、上り詰めていた高ぶる感情が収まってしまった。途端に洋月の君の眼には涙が溢れた。
「丈の中将はけっして……俺を想ってはいけない。俺は君を傷つけたくないのだから」
そう告げると……急ぎ直衣を整え、部屋から抜け出して行ってしまった。私は呆気にとられ自嘲気味に笑うしかなかった。
「参ったな。私としたことが、とうとう洋月の君相手に、こんなことを仕出かすなんて」
****
牛車に揺られながら、震えが止まらない。今宵は牡丹からの呼び出しが入っていたのだ。急ぎ首筋を鏡に映し確かめると、花弁が舞い降りたかのように、1箇所だけはっきりと色付いてしまった部分を見つけ、絶望的な気持ちになった。
これは、絶対に牡丹に気付かれてはいけない。
まさか丈の中将が急にあのようなことをするなんて、油断していた。
牡丹に見つかるわけに行かない秘密を躰に植えつけられてしまった気分で悲しくなる。震える躰を自ら抱きしめ、恐れ慄きながらも直衣の乱れを急ぎ整え、深く口付けされて熱く湿っている口元を名残惜しくも……しっかりと拭った。
何故なら、この牛車は宮中の牡丹の元へ向かっているから……
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