月夜の湖 (改訂版)

志生帆 海

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闇の章

このような姿で 2

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 平らな胸の突起を指でこねまわされ撫でられ、口に含まれる。さらに徐々に時間をかけて生まれたままの姿にされていき、身体の隅々をざらついた舌で嘗め回され吸われる。

 そんなことに慣れた俺のモノは次第に固くなり、その固くなったものを見逃すはずもなく、帝は口に含み味わい始める。

「あぁ……あ……あ……」

 嫌なのに抗えない。身体とは不思議な反応をするものだ。

「も……もぅ、お許しを……」
「まだ駄目だ!」
「で……でも……」

 蕾にいきなり指を突っ込まれ、強引にかき回される。俺は激痛に顔を歪める。いつまでたっても慣れない行為だ。それでも、感じる部分に指で何度も何度も刺激を与えられると、俺もようやく疼いてくる。

「どうだ……いいだろう」
「んっ……い、い……」

 感じたくなどないのに、俺の意思とは関係なく身体が反応していく。それから牡丹は自分のものを俺の中に一気に沈めこむ。俺は声を殺し、唇を噛みしめ乱暴な仕打ちに耐える。

「あぁ可愛い洋月よ。お前をいくら抱いても抱き足らぬ」
「今宵のような姫の姿は一層そそるものだ」

 帝はいつものように俺の躰が馴染むのを待たず、何度も何度も激しく腰を揺らし突いてくる。

 俺の感情なんて関係ない。
 俺は母の身代わりの人形だ。
 心なんて持ってはいけないのだ。

「もう……どうかお許しを……」

 無駄だと知っているのに、いつもいつも苦しくて懇願してしまう。

「あっいや……いやだ……そこは…もう」

 この時間が一分一秒でも早く終わればと願う。帝の胸に乱暴に抱かれ激しく腰を打ち付け揺らされながら、俺は夕刻の丈の中将からの口づけを瞼の奥に浮かべる。

 すると首筋につけてくれた印に熱が籠ってくる。

 これは決して抱かてはいけない男に抱かれながら、真の想い人との愛撫の続きを想像する、とても悲しい営みだ。

 俺はいつになったら、こんな狂った情事から解放されるのだろうか。涙を堪え、ただただ帝が果てるまで、このまま言うがままの姿でやり過ごす術しか知らない。

 誰か教えてくれないか。
 どうしたらこの腐った世界から逃れられるのか。

 そう思いながら、疲れ果てた俺の意識は徐々に遠のいていった。

****

 朝になり目覚めると昨夜の女子の装束が、裸の躰に無造作にかけられていた。朝日が差し込む明るい部屋で自分の躰を確認すると、帝の愛撫が至る所に残っていた。もうどれがあの人からの印だか分からない状態になっていた。

「牡丹に気が付かれなかった。よかった……あの人との想い出を汚されたくない。絶対に知られたくない」

 昨夜は女子の装束を纏った俺に興奮した牡丹は、いつもより激しく執拗に俺を攻め抱き続けた。俺の意識がなくなるまで、おそらく明け方まで。だからだろう。躰に鈍痛が走り、腰に力が入らない。

 こんな状態でも皆に気が付かれる前に、この部屋から出ないといけないのが皮肉なことだ。

****

 朝日が昇る中、俺は影に隠れるようにひっそりと宮中を後にする。

 躰が悲鳴をあげている。
 もう限界だ。こんな生活。

 次の催促がくるまで、暫し休養したい。丈の中将の住む、あの庭へ行こう。
あの樹の下で、あの樹をあの人だと思い、もたれて躰を休めたい。

「どちらへ参りますか」
「……左大臣邸へ向かってくれ」

 牛車に揺られながら、そっと鏡に映す首筋には、あの人のつけてくれた印がまだ残っていた。周りには牡丹につけられた印が多数あるが、俺には分かる。あの人の印がどれであるか。

 そっと指でなぞってみると、あの人の暖かい口づけをじんわりと思い出す。

「ただ一目でいいから……あの人に逢いたい」

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