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第1章
秘められた過去 10
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しばらく茫然としていた私だが、このままヨウを帰らすわけにはいかないと、はっと我に返った。
そして足早に部屋から去ろうとするヨウの背中を優しく抱きしめて部屋に引き留めた。
「ヨウ……よく話してくれた。辛かったな。私は……自分が恥ずかしい。ずっと前からヨウのことが気になって見ていたはずなのに、結局何一つちゃんと見ていなかった。そこを恥じている……恥ずべき人間は私だ!ヨウは何も穢れていない!」
背中からまわした腕に力を込めると、ヨウの肩が震え出した。
「俺はこの話を告げる時が、お前との別れの日だとずっと覚悟してきた。なのに……こんな俺を穢れてないと言ってくれるのか。俺は……俺は……うっうっ」
途端にヨウは幼子のように泣き始めた。ヨウの……こんな姿は見たことがない。胸が切なく痛くなった。
「ヨウ……大丈夫だ」
「俺は探していたんだ。こんな風に俺を抱きしめてくれる人を……ずっと怖かったんだ……ずっと嫌だった!ずっと誰かに助けてもらいたかった!ずっと声にならない悲鳴を上げていたのだ!」
興奮したヨウの口調が荒くなっていく。今まで耐え忍んでいたものが一気に溢れ出たように、ヨウは私の胸の中で身を震わせて慟哭した。
そんなヨウを抱きしめ背中を優しく撫でながら、私はここ数年のヨウの様子を思い出していた。
今更だが、いくつか思い当たる、気が付いてあげられたかもしれないことがあった。
真夏の鍛錬時、以前はヨウも上半身を脱いで汗を流していたのに、ある時から一切鎧を脱ごうとしなくなった。襟元もきっちりしめ、どんなに暑い日でも手首まで覆い隠していた。
「そんなに着込んでいては、この暑さだ。身体に堪えるぞ」
「……分かっている」
助言すると何故だか寂しそうに笑って、いつもそう応えるだけだった。
私が王室の医務室で夜中まで仕事をしていると、ヨウがたまに人目を忍んで灯りもつけずに身体を洗っているのを見かけた。
最初は夜の鍛錬でもして汗を流したいのかと気にも留めなかったが、何回も続くので「ヨウ?」と声をかけると、ビクッと身体を震わせ「来るな!」と叫ぶので不思議に思ったものだ。
まさか人前で脱げないような傷を背負っていたなんて!
ある時は、脂汗を浮かべ真っ青な顔をして痛み止めをもらいに来た。
「どこが痛む?診察するから衣を脱いで」
そう声をかけると、顔を赤らめ薬だけ奪い取り急ぎ足で去って行った。
ヨウの脈を測った時、手首に消えかかった痣を見つけた。
「腕に痣がある。鍛錬の時に傷つけたのか?」
よく見ようと腕貫を捲ろうとした途端、悲しい笑み浮かべヨウはするりと私の手をすり抜けた。
ヨウの眼はいつも何か言いたそうにしていたのに、私はヨウが嫌がるかと思い、嫌われるのが嫌で一歩踏み込んで聞くことをしなかった。
あぁ…なんてことだ。
今になってすべてが結びついた。
ヨウが前王に三年もの間犯され続けていたなんて、誰も気が付いていなかった。こんなにヨウのことを見つめていた私でさえも……。
後悔と自責の念で、私の眼に悔し涙が浮かんだ。
ヨウを守ってやれなかった。
許してくれ……。
これからは私がヨウを守ってやりたい。
ヨウの心と身体の傷を癒してあげたい!
私の切なる願いは、ヨウの耳に届いただろうか…
腕の中で涙に濡れているヨウの顔にそっと触れ顎を持ち上げ、私の方を向かせると、助けを求めるような切ない表情をしていた。
口から漏れる嗚咽を塞いであげたくて、そっと口付けをした。
とめどなく流れ落ちてくる涙をとめてあげたくて、目元を優しく吸った。
そして胸元にヨウをしっかり抱きしめた。
「ヨウ……これからは私がいる。だから……もう泣くな」
そして足早に部屋から去ろうとするヨウの背中を優しく抱きしめて部屋に引き留めた。
「ヨウ……よく話してくれた。辛かったな。私は……自分が恥ずかしい。ずっと前からヨウのことが気になって見ていたはずなのに、結局何一つちゃんと見ていなかった。そこを恥じている……恥ずべき人間は私だ!ヨウは何も穢れていない!」
背中からまわした腕に力を込めると、ヨウの肩が震え出した。
「俺はこの話を告げる時が、お前との別れの日だとずっと覚悟してきた。なのに……こんな俺を穢れてないと言ってくれるのか。俺は……俺は……うっうっ」
途端にヨウは幼子のように泣き始めた。ヨウの……こんな姿は見たことがない。胸が切なく痛くなった。
「ヨウ……大丈夫だ」
「俺は探していたんだ。こんな風に俺を抱きしめてくれる人を……ずっと怖かったんだ……ずっと嫌だった!ずっと誰かに助けてもらいたかった!ずっと声にならない悲鳴を上げていたのだ!」
興奮したヨウの口調が荒くなっていく。今まで耐え忍んでいたものが一気に溢れ出たように、ヨウは私の胸の中で身を震わせて慟哭した。
そんなヨウを抱きしめ背中を優しく撫でながら、私はここ数年のヨウの様子を思い出していた。
今更だが、いくつか思い当たる、気が付いてあげられたかもしれないことがあった。
真夏の鍛錬時、以前はヨウも上半身を脱いで汗を流していたのに、ある時から一切鎧を脱ごうとしなくなった。襟元もきっちりしめ、どんなに暑い日でも手首まで覆い隠していた。
「そんなに着込んでいては、この暑さだ。身体に堪えるぞ」
「……分かっている」
助言すると何故だか寂しそうに笑って、いつもそう応えるだけだった。
私が王室の医務室で夜中まで仕事をしていると、ヨウがたまに人目を忍んで灯りもつけずに身体を洗っているのを見かけた。
最初は夜の鍛錬でもして汗を流したいのかと気にも留めなかったが、何回も続くので「ヨウ?」と声をかけると、ビクッと身体を震わせ「来るな!」と叫ぶので不思議に思ったものだ。
まさか人前で脱げないような傷を背負っていたなんて!
ある時は、脂汗を浮かべ真っ青な顔をして痛み止めをもらいに来た。
「どこが痛む?診察するから衣を脱いで」
そう声をかけると、顔を赤らめ薬だけ奪い取り急ぎ足で去って行った。
ヨウの脈を測った時、手首に消えかかった痣を見つけた。
「腕に痣がある。鍛錬の時に傷つけたのか?」
よく見ようと腕貫を捲ろうとした途端、悲しい笑み浮かべヨウはするりと私の手をすり抜けた。
ヨウの眼はいつも何か言いたそうにしていたのに、私はヨウが嫌がるかと思い、嫌われるのが嫌で一歩踏み込んで聞くことをしなかった。
あぁ…なんてことだ。
今になってすべてが結びついた。
ヨウが前王に三年もの間犯され続けていたなんて、誰も気が付いていなかった。こんなにヨウのことを見つめていた私でさえも……。
後悔と自責の念で、私の眼に悔し涙が浮かんだ。
ヨウを守ってやれなかった。
許してくれ……。
これからは私がヨウを守ってやりたい。
ヨウの心と身体の傷を癒してあげたい!
私の切なる願いは、ヨウの耳に届いただろうか…
腕の中で涙に濡れているヨウの顔にそっと触れ顎を持ち上げ、私の方を向かせると、助けを求めるような切ない表情をしていた。
口から漏れる嗚咽を塞いであげたくて、そっと口付けをした。
とめどなく流れ落ちてくる涙をとめてあげたくて、目元を優しく吸った。
そして胸元にヨウをしっかり抱きしめた。
「ヨウ……これからは私がいる。だから……もう泣くな」
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