悲しい月(改訂版)

志生帆 海

文字の大きさ
44 / 73
第2章

今、その時 1

しおりを挟む
 朝日と共に目覚め、隣に寝ているジョウの心臓にそっと手を当てた。

 ドクッドクッ……

 規則正しく脈打つ心臓の音に安堵する。

 生きて……傍にいてくれるよな。今日もジョウの存在に感謝する。

 君が傍にいてくれさえすれば、俺は過去の出来事をすべて封印して、ジョウとの未来を考え前向きに生きていける。

 ── ジョウ目覚めたら裏山に来てくれ ──

 手紙を残し、そっと寝床を抜け出し手早く訓練着に着替え、裏山に駆け登った。

****

 『雷光』

 俺が生まれ持った力。自分自身の躰から空を駆け巡る雷を作り出せる力だ。

 この不思議な能力のことを……まだジョウには、きちんと話せていなかった。あとでジョウがここへ来てくれたら全てを打ち明けよう。雷光を作る力を持っているのが知れ渡ると、国や権力に無理矢理この力を貸さなくてはいけなくなるので危険だから、亡くなった師匠から「隠し通せ」と言われていた。隠さないといけないような力を俺自身どうしたら良いのか分からず、いつも戸惑っていた。

 今、目を閉じれば、師匠の言葉を再び思い出す…

 「いいか……よく聞け。ヨウよ。その雷光は決して人に見せてはいけない。だがその雷光は遠い昔からの言い伝えによると、逢いたい人と逢いたい人を結びつけることが出来る力があるそうだ。本当に使わなくてはいけない時、その時が来たら自然に分かるはず。その時は躊躇わずに使いなさい」

 以前遙か彼方で思い悩む俺の片割れのような奴に、俺の想いを届けることは出来た。だが現実に俺の世界に来てしまった人間と俺の世界の王様を、遙か彼方へ託す方法なんて知らない。師匠が生きていらしたら、助言してくださったのだろうか。

 目の前に額当てを置いて、じっと見つめる。

 辺りに人がいないか確認してから、目を閉じて腹の丹田に気を思いっきり込めていくと、次第に指先がチカチカと光り出し、更にその光は電流となって体中を駆け巡り、力が満ちていく。

 「はっ!」

 完全に満ち足りたところで、一気にその額当てに向けてその力を雷光に変えてはじけ飛ばす。額当ては雷光に包まれ光り、風に乗るように一瞬浮かんだが、数歩先で落下した。

「くそっ!駄目だ……分からない」

 どうやったら王様と赤い髪の女を時空の彼方へ飛ばせるのか。額当てすら動かせないのに、人間を動かすなんて到底無理だ。遙か彼方からあの赤い髪の女は確かに雷光に乗ってやってきたと言っていた。俺のこの力がうまく使えれば、あの女と王様を遙か彼方へ送ることができるのでは……そう思うのに、その術が分からずもどかしい。

 時間がない。王様の病は日々進行している。

 ジョウが昨日不安げに呟いていたではないか。
 一刻でも早く解決しなくてはいけない問題だ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

薔薇摘む人

Kokonuca.
BL
おじさんに引き取られた男の子のお話。全部で短編三部作になります

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

【完結済】王子を嵌めて国中に醜聞晒してやったので殺されると思ってたら溺愛された。

うらひと
BL
学園内で依頼をこなしていた魔術師のクリスは大物の公爵の娘からの依頼が入る……依頼内容は婚約者である王子からの婚約破棄!! 高い報酬に目が眩んで依頼を受けてしまうが……18Rには※がついています。 ムーン様にも投稿してます。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...