庭の椅子

庭の椅子

　おばあちゃんの庭には、椅子が２つあります。
　ひとつは、中くらいの高さの椅子。
　もうひとつは、背が低い椅子。
　この背が低い椅子は、亡くなったおじいちゃんが、孫のためにと足を短く切ってくれたものです。　　
　かわいい椅子たちは、もう何年も庭に置かれていました。
　春がきました。
　庭にでたおばあちゃんが椅子をみて言いました。
「おやおや、ずいぶん汚れちゃったわねぇ。そうだ！布を張り替えてあげよう」
　そうして、大きなホッチキスみたいなものをだしてきました。
「布も家に余ってるのがあったわよねぇ」
　押入れの中をごそごそさがしまわって、青色のデニム生地とピンク色の布を引っ張り出してきました。
「きれいにしてあげるからね」
　おばあちゃんは、背の高い椅子に青色のデニム生地を貼りつけます。
　背の低い椅子には、ピンク色の布を貼りつけました。
　そして、２つの椅子を仲良くならべて置きました。
「あら、かわいい!　お似合いのカップルさんみたいだわ」
　おばあちゃんが家に入ったあと、デニムの椅子がピンクの椅子に声をかけました。
「ぼくたち、生まれ変わったみたいだね！　気分もいいし、地球をひと回りしてこない？」
「わぁ～素敵!　行きたいわ」
　そのとき、強い風が吹いて、２つの椅子は浮かび上がりました。
　すい～っ。
　２つの椅子は、どこまでも飛んでいきます。
　青空が、ふたりを包んでいます。