偽勇者は救世主である。

囮勇者、最後の戦い

　彼女の周りには、事切れた裏ギルドの先輩たちと、恐らく王国の兵士たち。そして魔族の遺体。
　今この地に立っているのは囮勇者ヤミと、ジャドグミヤがいなければ魔王と呼ばれていたであろう、魔王軍四天王が一角のギガントトロールのガオス。

　ガオスは10mにも届かんとする背丈と、巨大な棍棒を振り回す。ヤミたちがつけたであろう多数の傷はあるものの、少々の出血がある程度で、致命傷には遠く及ばず。
　対するヤミは左腕は使い物にならず、利き腕の右手のみで剣を振るい、満身創痍の身体に鞭打って、ガオスの攻撃を避け続けている。

　体力の消耗を抑えるには相手の攻撃を見切り、その攻撃が触れるか触れないかの間合いで避ければ良いのだが、ガオスの一振りは隙こそ大きいが、空気を巻き込み暴風と化す。近すぎれば巻き込まれ、半端な距離では体制を乱され、そのため大きく避けざるを得ず、それがまた体力の消耗を招く。

　気合の限界を感じた瞬間ガオスの一撃に大き過ぎる隙を見つけ、ヤミはガオスの懐へと突撃した。

　ニヤリ

　ヤミの視界の外でガオスはほくそ笑んだ。
　その隙はガオスによる誘いで、ガオスは地面を殴打し大地を揺らし、ヤミの体制を崩した。そのタイミングでガオスはヤミの身体に棍棒の一撃を食らわせ、食らったヤミは大きく飛ばされ、大岩に叩きつけられた。