そして鬼と成る

お坊っちゃま

「火燐ー？朝だぞ？起きろー」

と、声をかけると、

「…んー…、あと十分…。」

とまぁ、お決まりの声が帰ってきたので、カーテンを思いっきり開ける。すると、

「…まぶしー…!!…死ぬ…!!」

と火燐が言った。
どこぞの引きこもりだよ。
と思いながら、一階に連れていき、朝食を食べさせた。
実は俺、料理が意外に好きで、味には自信がある。もちろん、この屋敷にも一応、料理人もいるのだが、朝食とお弁当だけは自分で作っているのだ。
どうだ！旨いだろう！
と言う顔で、火燐をみると、

「普通ー。」

キッパリと言い切られてしまった。
結構落ち込むわ…。
よし！
次は美味しいと思ってもらえるような朝食を作ってやるぞ！
と、俺は密かに決意したのだった。

一方その頃、火燐の心の中では、物凄い葛藤が起きていた。

今日の朝食、すごい美味しいのに、私、普通って言っちゃった～…！
それも、お兄ちゃんが作ってくれたのにぃ…!!
私のバカぁ～…！

昨夜の一件から、今の心の葛藤を見て、もうお分かりだろう。
そう。
火燐は、兄である雫の事が、大が４つ付くぐらい好きなのだ。
つまり、火燐の葛藤は、自分が素直になれないが故の心の葛藤なのだ。
しかし、そんな事は、鈍感な雫に伝わるはずもなく、ますます、自分が嫌になる火燐であった。


◇◇◇


「火燐？ここに弁当置いとくからな？行ってきまーす」

と、家を出て、学校に向かったのだった。
もちろん、火燐は嬉しすぎて、バグってしまったのだが、それを滴が知ることはなかった。





教室に入ると、何故か、ざわついていた。

「大河ー、何かあったのか？」

と、聞くと、大河は

「いや、朝からリムジンで学校来るやつ初めて見たぞ？」

そういうことか。
確かに、その通りである。
しかしこれは仕方ないことであり、予想されていた事態でもあるので、考えておいた対処法で何とかする。

「いやー、今日は仕方なかったんだよ。だって、ベンツがパンクしちゃってさ。だからなんだよ。」

その一言で、教室中が静寂に包まれる。
これはやってしまった説である。
しかし、今の台詞に欠陥は見当たらない。
どこでミスを犯した!?
普通考えれば一発でわかるだろう。
〝ベンツがパンクしちゃって〟と言うところが欠陥であると、滴は気づけなかったのだ。
そしてこの日を境にお坊っちゃん認定されてしまったのだった。