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85章
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85章. 旅ネズミの自殺
拠点の屋敷にほど近い、暗い海の岸辺に、乙女が独り、心細く立っている。
灰色の砂まじりの風が、髪を撫でて、素足の指に砂がまとわりつく。
この墨絵のような風景の中で、カリナの手に【ロザリオ】が握られ、宵の霧の中で祈る。
『わたし、このロザリオを……どうしたらいいの?』
そうして霧にまぎれ、いつの間にか、アメト、つまり司祭インベルが隣に立っている。
司祭は独り言のように、カリナに語りかける。
「僕が、不思議に想うのは、
なぜ、旅ネズミは死ぬために崖へ走るのか?」
「えっ……?」
「謎なぞ…だよ。答えがわかったら、何でも望みを叶えてあげる。」
「…………。」
カリナは、突然の司祭インベルの登場に、面食らって声も出ない。
「ひさしぶりだね」
「会いたいって想ってくれたでしょ。」
「だから来た。」
「…………。」
インベルの様子に、カリナは当惑して言葉に詰まる。
「君が望むならいつでも会いに来るよ……必ず。
来るって、信じてくれれば……ね。」
訝しむカリナに、優しく微笑を向けながら、司祭インベルは、続ける。
「どうして、そのロザリオ捨てなかったの?」
「持ってたら危ないの、分かってたでしょ?」
カリナは、胸の前で手を硬く握りながら目を伏せ、答える。
「貴方の大切な物だって、思ったから……返したくて、……あの…返します。」
その軽率さを、半ば嘲笑するように司祭は、ははっと息を漏らす。
『ずいぶん、お人好しだな。』
「………。」
『まるで、……彼女みたいだ』
インベルはそう思いながらも、素っ気なく答える。
「ふうん。…いらない。」
しかし、そう言いながらカリナの方へ手を伸ばした。
「でも貸して」
受け取った、ロザリオにインベルが魔力を込めると連なった宝石が発光する。
「はい。もうコレで君を追いかける、探知魔法は切れたよ。」
そう言って、ロザリオをカリナの首にかけてやる。
「あの……あの…、マユリって女の人の名前…、ですよね。」
インベルは驚いて、少し間を空けてから答える。
「……そうだよ。」
「…あの、わたし…。」
カリナは少し躊躇しながら、それでも思い切って話す。
「わたし、恋人さんの代わりじゃないです。」
インベルは、やや意外そうにカリナの顔を眺め、真意を探っている。
カリナはさらに、畳み掛ける。
「だから、コレは受け取れません。」
司祭インベルは、やや驚きながらも少し考えてから、答える。
「あの子の……代わりはいない。」
「でも君に持っていてもらいたい、……なんでかそう思ってしまうんだ」
「…………。」
「捨てていいから。」
「……それでも。受け取れません」
「それに、貴方の事、わたしどう思ったらいいか……」
「……それって、どういう……?」
カリナは思い切って、疑問を切り出した。
「あの、孤児院の子ども達は…
どうなったのですか?」
「………。」
「あの後調べましたが、みんな行方不明になっていました…」
「…………」
カリナは暗い気持ちで、最悪の予想を口にする。
「子供達を……殺したのですか?」
カリナは念を押す様に、言葉を重ねる。
「みんな…貴方を慕っていたのに……」
─刹那、司祭インベルから柔和な笑顔が消えた。
「だったら、何だと言うの?」
「僕は魔族なんだ。」
「君たち人間と同じこと。養豚場で豚を慈しみ愛情を持って育てるが、最後は喰うでしょ?
一体、何が違うというの。」
「それは…でも……こんな。」
「君達、人間には理解できないかもしれない、自分達が狩られる側だってこと」
司祭インベルは平然と言い放った。
「酷い……。あなたのした事は、許されるコトじゃありません。」
カリナはポツリと言うと、泣いてしまう。
「ごめんね……嫌いになった?」
「………。」
「……わたし、わたし…」
「…それとも、嫌いになれない?」
「……………。」
カリナは、かぶりを振る。
「…そんな……ことっ…」
「そんなに、似てる?
……ハルト、いや魔王に」
「!!」
司祭インベルは、強引にカリナの身体を引き寄せ、耳元で囁く。
「キミの身体に、ハルトの…魔王の呪印があるよね。」
カリナの背に回された、腕にチカラが入る。
「魔王の痕跡は、すぐわかる。」
「初めて見た時から気づいてたよ、この子はハルトの獲物だって。」
カリナの驚いた表情に、司祭は自らの顔を近づける。
今にも、キスしてしまいそうな距離に、カリナは息を呑んだ。
「僕と魔王は……ね。双子の兄弟なんだよ。」
「!…………。」
カリナは、ショックで俯いて、黙ってしまう。
「……………。」
「こんな話しをしたかったんじゃない…。ただ、理解して欲しかったんだ」
「魔族というものが、どういう生き物なのか…」
「僕が何をしようとしているのか、君にだけは……ね。」
「わたしには、分かりません。
小さい子供を…殺してまでしなければいけない事なんて。」
それを聞いて、アメトは悲しく微笑する。
「いつか……いつか、理解して欲しい。
なぜこんな事をしているのか…。」
悲しむカリナを見つめながら、司祭は寂しく言い残す。
「……君のそういう、優しさが、
……好きだよ……」
強い風の中、カリナは、その声をかすかに聞いた気がした。それとも気のせいだったのだろうか。
「じゃあね。」
そう言って、インベルは消えてしまった。
いつの間にか、砂まじりの霧は晴れ、星降る夜空が眼前に広がった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
あとがき
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるの!!」
と思ったら
下にある⭐︎⭐︎⭐︎から、作品の応援お願いいたします。
面白くても、つまらなくても、正直に感じた気持ちをコメント頂けると、今後につながるのでありがたいです。
『お気に入り』もいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。
拠点の屋敷にほど近い、暗い海の岸辺に、乙女が独り、心細く立っている。
灰色の砂まじりの風が、髪を撫でて、素足の指に砂がまとわりつく。
この墨絵のような風景の中で、カリナの手に【ロザリオ】が握られ、宵の霧の中で祈る。
『わたし、このロザリオを……どうしたらいいの?』
そうして霧にまぎれ、いつの間にか、アメト、つまり司祭インベルが隣に立っている。
司祭は独り言のように、カリナに語りかける。
「僕が、不思議に想うのは、
なぜ、旅ネズミは死ぬために崖へ走るのか?」
「えっ……?」
「謎なぞ…だよ。答えがわかったら、何でも望みを叶えてあげる。」
「…………。」
カリナは、突然の司祭インベルの登場に、面食らって声も出ない。
「ひさしぶりだね」
「会いたいって想ってくれたでしょ。」
「だから来た。」
「…………。」
インベルの様子に、カリナは当惑して言葉に詰まる。
「君が望むならいつでも会いに来るよ……必ず。
来るって、信じてくれれば……ね。」
訝しむカリナに、優しく微笑を向けながら、司祭インベルは、続ける。
「どうして、そのロザリオ捨てなかったの?」
「持ってたら危ないの、分かってたでしょ?」
カリナは、胸の前で手を硬く握りながら目を伏せ、答える。
「貴方の大切な物だって、思ったから……返したくて、……あの…返します。」
その軽率さを、半ば嘲笑するように司祭は、ははっと息を漏らす。
『ずいぶん、お人好しだな。』
「………。」
『まるで、……彼女みたいだ』
インベルはそう思いながらも、素っ気なく答える。
「ふうん。…いらない。」
しかし、そう言いながらカリナの方へ手を伸ばした。
「でも貸して」
受け取った、ロザリオにインベルが魔力を込めると連なった宝石が発光する。
「はい。もうコレで君を追いかける、探知魔法は切れたよ。」
そう言って、ロザリオをカリナの首にかけてやる。
「あの……あの…、マユリって女の人の名前…、ですよね。」
インベルは驚いて、少し間を空けてから答える。
「……そうだよ。」
「…あの、わたし…。」
カリナは少し躊躇しながら、それでも思い切って話す。
「わたし、恋人さんの代わりじゃないです。」
インベルは、やや意外そうにカリナの顔を眺め、真意を探っている。
カリナはさらに、畳み掛ける。
「だから、コレは受け取れません。」
司祭インベルは、やや驚きながらも少し考えてから、答える。
「あの子の……代わりはいない。」
「でも君に持っていてもらいたい、……なんでかそう思ってしまうんだ」
「…………。」
「捨てていいから。」
「……それでも。受け取れません」
「それに、貴方の事、わたしどう思ったらいいか……」
「……それって、どういう……?」
カリナは思い切って、疑問を切り出した。
「あの、孤児院の子ども達は…
どうなったのですか?」
「………。」
「あの後調べましたが、みんな行方不明になっていました…」
「…………」
カリナは暗い気持ちで、最悪の予想を口にする。
「子供達を……殺したのですか?」
カリナは念を押す様に、言葉を重ねる。
「みんな…貴方を慕っていたのに……」
─刹那、司祭インベルから柔和な笑顔が消えた。
「だったら、何だと言うの?」
「僕は魔族なんだ。」
「君たち人間と同じこと。養豚場で豚を慈しみ愛情を持って育てるが、最後は喰うでしょ?
一体、何が違うというの。」
「それは…でも……こんな。」
「君達、人間には理解できないかもしれない、自分達が狩られる側だってこと」
司祭インベルは平然と言い放った。
「酷い……。あなたのした事は、許されるコトじゃありません。」
カリナはポツリと言うと、泣いてしまう。
「ごめんね……嫌いになった?」
「………。」
「……わたし、わたし…」
「…それとも、嫌いになれない?」
「……………。」
カリナは、かぶりを振る。
「…そんな……ことっ…」
「そんなに、似てる?
……ハルト、いや魔王に」
「!!」
司祭インベルは、強引にカリナの身体を引き寄せ、耳元で囁く。
「キミの身体に、ハルトの…魔王の呪印があるよね。」
カリナの背に回された、腕にチカラが入る。
「魔王の痕跡は、すぐわかる。」
「初めて見た時から気づいてたよ、この子はハルトの獲物だって。」
カリナの驚いた表情に、司祭は自らの顔を近づける。
今にも、キスしてしまいそうな距離に、カリナは息を呑んだ。
「僕と魔王は……ね。双子の兄弟なんだよ。」
「!…………。」
カリナは、ショックで俯いて、黙ってしまう。
「……………。」
「こんな話しをしたかったんじゃない…。ただ、理解して欲しかったんだ」
「魔族というものが、どういう生き物なのか…」
「僕が何をしようとしているのか、君にだけは……ね。」
「わたしには、分かりません。
小さい子供を…殺してまでしなければいけない事なんて。」
それを聞いて、アメトは悲しく微笑する。
「いつか……いつか、理解して欲しい。
なぜこんな事をしているのか…。」
悲しむカリナを見つめながら、司祭は寂しく言い残す。
「……君のそういう、優しさが、
……好きだよ……」
強い風の中、カリナは、その声をかすかに聞いた気がした。それとも気のせいだったのだろうか。
「じゃあね。」
そう言って、インベルは消えてしまった。
いつの間にか、砂まじりの霧は晴れ、星降る夜空が眼前に広がった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
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