ColorcrustProject「いるはずのいない君に色のない花束を」

秋乃空銀杏

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第二章「俺だけが」

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寝ぼけているのだろうか?手を目にやりごしごししてもう一度目を開けてみる。
「はっ!?」
俺は勢いよく体を起こす。
「ここは…どこだ?」
酷く混乱した。寝ぼけているだけなのか。
それとも急な記憶喪失なのか。
俺が起きて今見ているはずの世界は、いつも見ている世界と全く違う景色だった。
見慣れない天井。見慣れないカレンダー。
何から何まで俺の部屋に無いもので、いつもと違う窓とカーテーンの隙間から一筋の朝焼けの光がさしていてた。
俺が持っている目覚まし時計はボタン式なもので、少し大きめなタイプなものだったはずだった。
だが実際時間を設定されているであろう機械はCMで観るような最新式のスマホみたいな機械から、無機質な音で、ピピピ。ピピピ。という音だけが繰り返されていた。
まるで呪文のように。時間を繰り返して。
「は……?」
「どこだ…ここは。」
どこにいるんだ?ここは。
俺は事実を再確認するかのように、事実と思いたくない夢のような現実を、言葉にした。
だが、ここが夢というにはあまりにもリアルで、夢というにはあまりにも感覚がリアルだった。
寝てる時に体を勝手に移動されたとかそんな理由なのだろうか?
最後の光景を思い出せ……
誰かのベッドかもしれないがそんな事はどうでもいい。何があった…。
俺は心の中で強く暗じる。
自分の最後の記憶は…自分の部屋で寝ていたはずだ。はずだったのだ。
記憶を失っているのか?
カーテンからさしこむ光が鬱陶しかった。
何が…起こっている、俺は立ち上がりカーテンの所まで二三歩歩き勢いよくカーテンを開けた。
すると、全く知らない世界の景色がそこにはあった。
背の高い建物。ビルが並んでいる。
ここはアパートなのだろう。窓の外を見下ろすと、下に車が走り、信号には大勢の人達が並んでいる。
俺が住んでいる英季町の景色とは全く違う。
「どこなんだよ…。ここは…。」
鳴り止まないスマートフォンのアラームが「何か」が起こったのだと思わせるように鳴り続ける。
これは俺の持ち物じゃない。
そう思ったが、俺は思わず手に取る。
2032年7月19日8時45分。
スマートフォンには確かに、確かにそう表示されていた。
俺が住んでいた世界の10年後の世界である。
「は?」
思わず悲鳴にも似た声が出る。
俺が、俺だけが、この世界に取り残されていたのだろうか?
はぁー…。一旦落ちついて状況を整理してみよう。
え~っと、朝起きたら10年後の知らない人の部屋にいたと…。
分かるか!こんなの!
俺はどうしようもなくて少し笑みをこぼしてスマートフォンのような機械をベッドにほおり投げる。
だが、もし、もしもこの世界が10年後で、今存在している俺が10年後の俺だとしたら…。
俺はタイムリープしたということになる。
夢というにはリアルすぎるよな…。
と、右手で左の頬を触る。
俺はまた、はぁー…。と、さっきより長いため息を吐いてスマホをもう一度拾い上げて暗証番号を打とうとしてみる。
俺のスマホの暗証番号は…。
0029っと
これは俺の高校受験の時の入試番号だ。
俺はこの番号を解除番号にしていて、俺だとしたら変更の設定をめんどくさがって変えずにずっとこの暗証番号にしているだろう。
カチッと音を立ててホーム画面に行く。
まじでか。
ってことはこれは…俺の…持ち物ってことか?
ってことは…。
少し考えるのが怖くなってくる。
俺は、10年後にタイムリープして来たということだろうか?
情報が新しい世界を広げてみようと、部屋のドアを開けてみる。
アパートというのはさっき分かっている。
リビングに出ると、シンプルに整理された家具が並んでいた。こっちは脱水場だろうか。
大きな鏡がある。
少し覗いてみる。
……。
言葉が何も出て来ない。
そこには自分の知っている俺はいなかった。
髭を剃った後の顔は社会人のようで、いつも腐っていた目は、さらに腐るかのように見開いていないようで見開いてた。
俺は…俺なのか?
逃げ出したい。この部屋から。
逃げ出したい。この世界から。
俺だけが、この世界に取り残されたかのように、時間だけがただ過ぎていく。
息が荒くなる。
なんで俺が。
俺は、俺なのか、本当に。
少ない情報の中で意識だけが、取り残されている。
もっと情報が欲しい…。だがこれ以上考えこんでもなにも分からないだろう。
 外に出て見よう。
俺の中で一欠片の勇気が生まれた。
もし外の世界が宇宙人なら、殺されてしまうかもしれない。
 だが本当に、俺が10年後の俺で、この世界が10年後なら…。
見てみたい。
なんて思ってしまった。
もう吹っ切れるしかない。
そう思うと行動は早かった。
玄関に足を進める。
手に汗を握る。
少し怖い。
大丈夫だろうか?
変わってしまった、全く違う、知らない世界。
一歩踏み出したいという気持ちと、逃げ出したいという気持ちが混ざり、なにもしたくなくなる感覚に陥る。
ふぅー。と長いため息をつく。
よし、行こう。
ガチャ。とドアを開ける。
ビュオオオ。風が迎えに来たかのように、この世界にも夏は来るんだ。と思わせるように、少し暖かい風が部屋の中に入ってきた。
すごい。
一番最初に浮かんだ言葉だった。
さっき窓の外から見た都会のような雰囲気の高い建物ということは分かっていたが、こんなにも景色が変わって見えるものだとは思わなかった。
青い空。白い雲。
これはどこの町にもあるが、こんなような高い建物も、俺の町にはなかった。
俺だけが、知らない世界。
気がつくと俺は、足を動かしていた。
 もう逃げ出したいと言う気持ちよりも、探検したいという気持ちの方が強かった。
陽ざしも俺を歓迎するかのように眩しく、ギラギラと輝いていた。
どこに行くとかいう目的は特になく、ただ、この世界をもっと見てみたい。それだけだった。
信号が赤になり、俺の足も止まる。
俺以外にもこの信号を渡るであろう人達も、足を止めて信号が青になるのを待っていた。
 この生物達は、人間なのだろうか?
生気はある。
〘2032年、夏、新たな物語が、始まる。 〙
後ろの背の高い建物のモニターから、劇団式の広告のような音声が聞こえた。
信号が青になり、待っていた人々が歩き始める。
俺は後ろのモニタに気をとられて、足を止めいていた。
「タイムリープしてきたってことか?」
なぜ?理由は分からない。
思わず口に出してしまう。
本当にタイムリープをしたのだろうか?
急に、この世界にほおり出されたのだ。
この全く知らない世界に。
トゥルルル。トゥルルル。
突然、さっきポケットの中に入れた存在を気付かせるかのように鳴り出す。
一瞬、何が起こったか分からなくなり、頭の中が真っ白になった。
この世界で俺の存在を知ってるであろう存在に、連絡を取ろうとされているということだ。
だが、当然俺はこの電話の向こう側の相手を知らない。
どのような立場関係にあるかすらも、俺には分からないのだ。
スマートフォンを手に取って見てみると、
「三上さん」
と表示されていた。
やはり、俺にはこの人物は分からない。
この電話をとろうか悩んでいると、
「通話終了」
と表示されて、通話を切られてしまった。
俺は少しホットしたが、同時に凄く不安になった。
この世界が未来の世界だとした、俺はどこかに就職しているのだろう。
だとしたら仕事関係の上司または後輩または同僚からの連絡を、無視した。ということになる。
だが逆を言えば俺の事を知っている人物がいるということはこの世界に跳んできたというよりは、10年後の俺の意識と入れ替わったと思うのがきっと正しいのだろう、なんて思った。
「気が付いたら連絡下さい。」
と三上さん?と思われる人のLINEから、手元にあるスマホの通知として表示された。
10年後でもLINEあるんだなー。
いやいや、そうじゃなくて、
どう考えてもやばいでしょ。この状況。
会社に行かなくては。
ここがタイムリープしてきた10年後の世界だとしても。
三上さん?に
「すいません。今すぐ行きます!」
とLINEして振り返り走る。
当たりは全く知らない世界。
俺だけが、違う世界の住人。
走りながら、横目で建物を見る。
えーと。とりあえず、自分の家であろうアパートに戻りスーツに着替えて…。
あれ?そっからどーすんだ?
丁度信号が赤になり、俺の足も止まる。
俺、今から家に行った後のことが分からないとは…。
相当焦ってんな、俺は。
なぜだろう。この世界で起こったことが自分の事のようで、自分が何とかしなきゃ。なんて思うのは。
この世界のことなんてどうでもいいのに。
元の世界に戻る方法だけ考えていればいいのに。
だけど今自分が置かれたこの状況が、楽しいとも思ってしまう。
退屈な日常にいた自分が、全く違う世界にいるなんて、どこの漫画の主人公だよ。
 今の俺は物事を楽観的に捉えているのだろう。自分でもそう感じる。
口元が少し緩む。
信号が青になる。
俺は今来た道を小走りで向かう。
退屈な日常だった。
なんで俺はこの世界にいるんだろう。なんて自分の価値が分からなかった。
だけど今は、楽しい。
今は、俺がこれからどうなるのか、とても興味がある。
俺だけが、この世界に取り残されていたとしても。
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