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三章「知らない世界の向こう側」
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こっちか??
10年経っているのだろう。夢だとしても。
この体は10年間、動き続けてきたのだろう。
単純に計算すれば、27歳である。
おっさんだ。
考えた事もないようなおっさん。
そしてそのおっさんの体を今、Googleマップの機能を使ってあるべき所に向かっている。
「株式会社、OriginalColorCrustPROJECT文庫」の事務所だ。三上さんの履歴によるとどうやら俺は、この会社に所属しているらしい。
恐らくだが、会話内容的にライトノベルの出版会社なのだろう。
小さな会社なのだろうが、俺はこの会社に所属しているらしい。
ということは小説家の、担当編集なのかな?俺は。
なんてことを左手にスマホを持ちマップを確認しては前を向いて走り、マップを確認しては前を向いて時には曲がったりして走っていた。
息切れがかなり早かった。
だがマップでは20分と表示されているから、そこまでの距離はないのだろう。
時には疲れて急ぎ足を交えながらも、何とか会社の前についた。
エレベーターがあるが遅刻しているし待ちたくないので、外で本社は4階と記されていたので階段をかけのぼり本社と記されたガラスのドアを勢いよく開けて入った。
そこには受付のカウンターが手前にあり、奥には3、4人がパソコンの入力作業のような事をしていた。
そしてその会社員と思われる人達は、
凄い勢いで入ってきた俺の方に驚いたように顔を向けていた。
はぁ、はぁ、はぁ。と自分でも息切れしている自分が分かるくらいなのだが、手を膝にやり上半身を支えながら顔を上げて、言葉を放つ。
「すいません!遅れました!」
すると社内?はシーンとしてといた。
俺はあれ?とばかりに首をかしげる。
すると右横の「会議室」と記された看板のドアが空いて、眼鏡をかけたいかにもショートボブの「できる女」みたいな見た目の人が、俺の方に向かってきた。
「おそーい!柊編集部部長!」
その女性は俺を「編集部部長」と呼んでいた。
編集部部長なのか、俺はと思いその響きが新鮮で感動しているとその女性は俺の手を引きどこかに連れていこうとする。
「もう来ちゃってますからね!」
と、怒り口調でその女性は喋る。
右胸の名札には「三上」と、書かれていた。
この人が三上さんか、と思い彼女の思うがままに連れられた。
♦
そこは会議室だった。
中には三上さんと俺が長テーブル机の横の椅子に座っていて長テーブルには封筒と封筒の上に置かれていた「企画書」らしきものが置かれていた。どうやら企画書の解説をしてくれるのだろう。そして質問をするみたいな感じか。目の前の長テーブルには、封筒を抱えた中学生くらいの少女?がいた。
「それでは企画書の解説をよろしくお願いします。」と三上さんがペコ。っとその女の子に礼をふる。
そして三上さんは礼をしながら俺をにらんできた。
これは俺も礼をしろ。というサインなのだろう。
俺も「よろしくお願いします」とペコ。と礼をする。
「それではまず最初に作品タイトルは「森山君とオタクの花言葉」
と、その少女は手馴れているかのように、饒舌に、語り始めた。
その会議の時間は楽しかった。
もともと小説は結構読んでいたから、企画書に関する質問を、シナリオに関する質問をイキイキとその少女にして、帰ってくる返事に満足できなかったら、具体的にどういう訳か?など聞き返したり、凄く充実した会議だった。
一通り解説が終わり俺の質問も出尽くすと、
「それではこの企画の出版枠を来月に取りますのでよろしくお願いします」
と、またその少女に詫びて礼をする。
俺はよし、と思い、「よろしくお願いします」とばかりにまた、その女性にペコ。と礼をする。
すると、「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
とその少女は俺達に向けて礼をする。
そして三上さんは立ち上がり、会議室のドアを開けて、「先に出ていいよ」と優しく笑みを向けてくれた。すると、その少女は俺におじぎをして先に会議室を出ていった。
俺もその流れで出ようとすると三上さんが会議室に入りドアを閉める。
俺は、はっ!と驚くと般若のような顔をした三上さんが俺に話しかけてきた。
「遅れてきた理由を聞こうか」
笑顔なようで、般若のようで。と、一瞬思ったが、般若だろ。と思ってしまう。
「いや、あの、すいません、寝坊してしまって……」
10年前から来ました!なんて言えない。
「もー、しっかりしてくださいよー!部長ー!」
「部長が来なかった分スケジュールおしてるんですからね!」
と胸元に荒く紙束を押し付けられる。
手元にとってみると1枚目にスケジュールと印刷されていた。
「さーて、働いて貰いますよー?」
と、三上さんがそう言うと背中を押されて自分のパソコンなのだろうか、椅子に座らせられた。
「じゃあ、午前中に入力作業、お願いしますね。午後から会議が三件ありますので」
三上さんが笑顔でそう答えるのを俺はただ見上げていた。
すると三上さんが封筒を机にバン!と置いて、どこかに行ってしまった。
まさかこの封筒に印刷されている文字を、このパソコンを使って入力作業をしてくれ。ということだろうか。
明らかに午前中じゃ終わらない量でしょ…。これ。
ブラックだな。社会人らしいや。と思い、少し笑みがこぼれる。
さて、入力作業くらいは俺もできるだろうし、頑張るか。
♦
それから俺は、この編集部の仕事にあけくれた。
入力作業を死にものぐるいで終わらせて、
昼食は三上さんが持ってきてくれて、
午後の会議は、さっきと同じような新作企画書の解説など、連載中の作品について考えたりした。
そして後は、出版枠の調整スケジュールの締切が今日までと三上さんに言われて、ひたすらスケジュールの事について考えて、色々なメモなどを漁ってスケジュール表を完成させていたりした。
そんな時間を送っていると、気がつくと夜になっていて他の編集の人達は「先に帰ります。」などと言い、三上さんと俺だけが仕事を残って取り組んでいた。
「よーし。終わったー!」
俺が入力作業をしていると奥から、三上さんが今日のお仕事終了!の合図を出すかのように声をあげていた。
俺の仕事はあと一段。この一段を売上グラフの下に入力すれば俺の作業も終了だ。
俺は、もう少しだー、と思い少し伸びをする。
「今日の柊部長、なんか可愛かったですよね」
後ろで帰る準備をしながら三上さんが俺に話しかけてくる。
精神体感では歳上なわけだから、そういう事を言われるとマジで照れる。
俺は緊張して手を止めてしまう。
汗をダラダラ流しながらあくまで自然を装って言葉を返す。
「なんでですか?」
「だって部長、部長の方が歳上なのに、ずっと敬語ですもん」
と笑いながら三上さんが答えた。
「いつも仕事に余裕ある感じでクールなのに、今日だけはなんか初めて編集者やる人みたいに張り切っちゃってて…」
三上さんは、その整った顔をずっと崩しながら三上さんは言葉を続ける。
「今日どうしちゃったんですか???」
と、トドメを刺すかのように三上さんが俺に向けて言葉を放つ。
「とりあえず、仕事終わらせます」
と、めちゃくちゃ恥ずかしがりながら俺は答えた。
俺の顔が熱くなる。やばい。早く帰ってくれないかな。この人。と心の中でそう思う。
「分かりました、明日編集部おやすみですもんね、明後日、またお会いしましょう、お疲れ様です。さようなら」
三上さんはクスッと小悪魔のように笑い、右横にトートバッグを抱えて編集部を出ていった。
10年後の世界。案外悪くないかもしれない。
なんて、明かりを消された誰もいない夜の編集部を見ながらそう思う。
好きな事で食べていける。なんて素敵な事なのだろう。確かに大変だけれど。
ブーッと、スマホが着信を受け取った合図が俺のスマホに送られる。
司だった。
「今日、飯食いに行かね?」
とLINEで送られてきていた。10年後でも俺は、こいつと絡んでいたのか、とまた笑みがこぼれる。
俺は
「分かった、どこに行けばいい?」
と文字を送った。
10年後の司か。一体どうなってるんだろうか。
楽しみだ。
♦
居酒屋。人生で生まれて初めての居酒屋だ。
だが、ここが10年後の世界ならば、生まれて初めてのカウントに含まれるのだろうか?なんて思う。
居酒屋特有の匂いと違う会社のおっさん達がワイワイと盛り上げている。
そして俺も、おっさんなのだ。
目の前に出されているビールは、飲むべきなのか、飲まないべきなのか、精神体感は17歳だ。
未成年飲酒を守るべきなのだろうか?
なんてことを考えていると、目の前の席に座っている司が、がぶがぶハイボールを飲んでいた。
「久しぶりだなー、そらー、2年半ぶりくらいか?」
なんてことを言われても、この体と司がいつ会ったかなんてしらない。もっといえば、この10年間き何が起こったのかすら分からないのだ。
「飲まないのか?」
司が首をかしげてそう聞いてきた。
やっぱり成人してないし、なんか凄い断りずらいけど飲みたくない。
ここで飲んだら不良の階段を登るようで嫌なのだ。
「いや、飲む気分じゃないんだ」
なんて返してみる。
自然に返せているだろうか?
「なんかあったのか?嫌な事とか」
司が心配そうな顔をして聞いてくる。
「ないよ。そんなの。」
「それよりお前はどーなの。」
結構自然に言葉を運べた気がする。
「聞いてくれよー、そらー。」
そこから俺は、ずっと司の愚痴を聞いていた。
この世界でこいつと初めての会うが、何年も過ごしてきた親友かのように、俺は司と話していた。
気がつくと深夜になっていて、司は酔いつぶれていた。
「帰るかあー、そらぁー。」
酔いつぶれた司が立ち上がる。
フラフラになりながら会計をしに行った。
「大丈夫か?」
と、心配そうな顔をして司に聞く。
「おー、」
とだけ返事をしていた。
店から出て、俺達2人は、タクシーを待っていた。
司がフラっとして倒れそうになる。
俺は司を受け止めて支えた。
「本当に大丈夫なのかよ、お前」
再確認するかのように司に聞く。
「お、おう。それよりありがとな、話、聞いてくれて。」
司は立ち直して俺の方を見ずに、車が通らない道路を見ながらそう答えた。
昼のように少し蒸し暑かった空気も、今はそうでもなく、涼しいと言えるほどでもなく、風は冷たくなっていた。
電柱が俺達をスポットライトのように照らしている。
俺達は、ただ前をみて、なにも、喋らなかった。
奥でフラフラのおっさん達が肩を組んで駅に向かっている。物音はといえば、それくらいだった。
10年経っても俺たちの関係は変わらない。
この夢のような現実に、不確かな物も多いが、
それでも俺はこの現実を信じたかった。
ブォォー。と、車の音が近ずいて来る。
タクシーが来たようだ。
どっちが乗る?と、俺は司の方を向く。
司は「先に乗っていいぞ」と口にする。
「ありがとう」
と口にし俺はタクシーに乗る。
すると自動でドアが俺達の間に蓋をするかのように閉まった。
「じゃあな」
と、口にしているんだろうが、声は聞こえない。
タクシーは司を置いていくかのように残して進んで行った。
俺は窓から司を見ていた。
司は胸の前で小さく手を振る。
俺はフフっと、小さく声を出して笑った。
♦
今日は楽しかった。
久々に楽しいと思う日だと、そう思った。
俺は、電気を消してベットの中で、疲れを癒すかのように俯せで枕の中に顔を向けてめりこんでいた。
10年後の世界なんて、
俺の全く知らないこの世界にも、俺が楽しめるようになってるんだ、なんて思った。
「元の世界になんて、戻らなてもいいのに。 」
なんて言葉がつい、こぼれてしまう。
元の世界より楽しくて、元の世界より退屈じゃない。
元の世界に戻らなくてもいいのでは?
なんて、考えてしまう。
だけど何故だろう、この心に引っかかるような、何かが刺さっているようなこの感覚は。
このままじゃ駄目だと心の中では確かに思っているのだろうか。やっぱり、元の世界に帰らなきゃ。
そう思った。
そうして俺は、深い、眠りにつく。
♦
チュンチュン。雀の音だろう。
目を開けるのが怖かった。
未来の世界で目覚めるか、現実の世界で目覚めるかが分からなかったからだ。
俺はゆっくりと、体を起こして目を開ける。
どうやら、後者らしい。
俺は元いた現実の世界に、帰ってきていた。
10年経っているのだろう。夢だとしても。
この体は10年間、動き続けてきたのだろう。
単純に計算すれば、27歳である。
おっさんだ。
考えた事もないようなおっさん。
そしてそのおっさんの体を今、Googleマップの機能を使ってあるべき所に向かっている。
「株式会社、OriginalColorCrustPROJECT文庫」の事務所だ。三上さんの履歴によるとどうやら俺は、この会社に所属しているらしい。
恐らくだが、会話内容的にライトノベルの出版会社なのだろう。
小さな会社なのだろうが、俺はこの会社に所属しているらしい。
ということは小説家の、担当編集なのかな?俺は。
なんてことを左手にスマホを持ちマップを確認しては前を向いて走り、マップを確認しては前を向いて時には曲がったりして走っていた。
息切れがかなり早かった。
だがマップでは20分と表示されているから、そこまでの距離はないのだろう。
時には疲れて急ぎ足を交えながらも、何とか会社の前についた。
エレベーターがあるが遅刻しているし待ちたくないので、外で本社は4階と記されていたので階段をかけのぼり本社と記されたガラスのドアを勢いよく開けて入った。
そこには受付のカウンターが手前にあり、奥には3、4人がパソコンの入力作業のような事をしていた。
そしてその会社員と思われる人達は、
凄い勢いで入ってきた俺の方に驚いたように顔を向けていた。
はぁ、はぁ、はぁ。と自分でも息切れしている自分が分かるくらいなのだが、手を膝にやり上半身を支えながら顔を上げて、言葉を放つ。
「すいません!遅れました!」
すると社内?はシーンとしてといた。
俺はあれ?とばかりに首をかしげる。
すると右横の「会議室」と記された看板のドアが空いて、眼鏡をかけたいかにもショートボブの「できる女」みたいな見た目の人が、俺の方に向かってきた。
「おそーい!柊編集部部長!」
その女性は俺を「編集部部長」と呼んでいた。
編集部部長なのか、俺はと思いその響きが新鮮で感動しているとその女性は俺の手を引きどこかに連れていこうとする。
「もう来ちゃってますからね!」
と、怒り口調でその女性は喋る。
右胸の名札には「三上」と、書かれていた。
この人が三上さんか、と思い彼女の思うがままに連れられた。
♦
そこは会議室だった。
中には三上さんと俺が長テーブル机の横の椅子に座っていて長テーブルには封筒と封筒の上に置かれていた「企画書」らしきものが置かれていた。どうやら企画書の解説をしてくれるのだろう。そして質問をするみたいな感じか。目の前の長テーブルには、封筒を抱えた中学生くらいの少女?がいた。
「それでは企画書の解説をよろしくお願いします。」と三上さんがペコ。っとその女の子に礼をふる。
そして三上さんは礼をしながら俺をにらんできた。
これは俺も礼をしろ。というサインなのだろう。
俺も「よろしくお願いします」とペコ。と礼をする。
「それではまず最初に作品タイトルは「森山君とオタクの花言葉」
と、その少女は手馴れているかのように、饒舌に、語り始めた。
その会議の時間は楽しかった。
もともと小説は結構読んでいたから、企画書に関する質問を、シナリオに関する質問をイキイキとその少女にして、帰ってくる返事に満足できなかったら、具体的にどういう訳か?など聞き返したり、凄く充実した会議だった。
一通り解説が終わり俺の質問も出尽くすと、
「それではこの企画の出版枠を来月に取りますのでよろしくお願いします」
と、またその少女に詫びて礼をする。
俺はよし、と思い、「よろしくお願いします」とばかりにまた、その女性にペコ。と礼をする。
すると、「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
とその少女は俺達に向けて礼をする。
そして三上さんは立ち上がり、会議室のドアを開けて、「先に出ていいよ」と優しく笑みを向けてくれた。すると、その少女は俺におじぎをして先に会議室を出ていった。
俺もその流れで出ようとすると三上さんが会議室に入りドアを閉める。
俺は、はっ!と驚くと般若のような顔をした三上さんが俺に話しかけてきた。
「遅れてきた理由を聞こうか」
笑顔なようで、般若のようで。と、一瞬思ったが、般若だろ。と思ってしまう。
「いや、あの、すいません、寝坊してしまって……」
10年前から来ました!なんて言えない。
「もー、しっかりしてくださいよー!部長ー!」
「部長が来なかった分スケジュールおしてるんですからね!」
と胸元に荒く紙束を押し付けられる。
手元にとってみると1枚目にスケジュールと印刷されていた。
「さーて、働いて貰いますよー?」
と、三上さんがそう言うと背中を押されて自分のパソコンなのだろうか、椅子に座らせられた。
「じゃあ、午前中に入力作業、お願いしますね。午後から会議が三件ありますので」
三上さんが笑顔でそう答えるのを俺はただ見上げていた。
すると三上さんが封筒を机にバン!と置いて、どこかに行ってしまった。
まさかこの封筒に印刷されている文字を、このパソコンを使って入力作業をしてくれ。ということだろうか。
明らかに午前中じゃ終わらない量でしょ…。これ。
ブラックだな。社会人らしいや。と思い、少し笑みがこぼれる。
さて、入力作業くらいは俺もできるだろうし、頑張るか。
♦
それから俺は、この編集部の仕事にあけくれた。
入力作業を死にものぐるいで終わらせて、
昼食は三上さんが持ってきてくれて、
午後の会議は、さっきと同じような新作企画書の解説など、連載中の作品について考えたりした。
そして後は、出版枠の調整スケジュールの締切が今日までと三上さんに言われて、ひたすらスケジュールの事について考えて、色々なメモなどを漁ってスケジュール表を完成させていたりした。
そんな時間を送っていると、気がつくと夜になっていて他の編集の人達は「先に帰ります。」などと言い、三上さんと俺だけが仕事を残って取り組んでいた。
「よーし。終わったー!」
俺が入力作業をしていると奥から、三上さんが今日のお仕事終了!の合図を出すかのように声をあげていた。
俺の仕事はあと一段。この一段を売上グラフの下に入力すれば俺の作業も終了だ。
俺は、もう少しだー、と思い少し伸びをする。
「今日の柊部長、なんか可愛かったですよね」
後ろで帰る準備をしながら三上さんが俺に話しかけてくる。
精神体感では歳上なわけだから、そういう事を言われるとマジで照れる。
俺は緊張して手を止めてしまう。
汗をダラダラ流しながらあくまで自然を装って言葉を返す。
「なんでですか?」
「だって部長、部長の方が歳上なのに、ずっと敬語ですもん」
と笑いながら三上さんが答えた。
「いつも仕事に余裕ある感じでクールなのに、今日だけはなんか初めて編集者やる人みたいに張り切っちゃってて…」
三上さんは、その整った顔をずっと崩しながら三上さんは言葉を続ける。
「今日どうしちゃったんですか???」
と、トドメを刺すかのように三上さんが俺に向けて言葉を放つ。
「とりあえず、仕事終わらせます」
と、めちゃくちゃ恥ずかしがりながら俺は答えた。
俺の顔が熱くなる。やばい。早く帰ってくれないかな。この人。と心の中でそう思う。
「分かりました、明日編集部おやすみですもんね、明後日、またお会いしましょう、お疲れ様です。さようなら」
三上さんはクスッと小悪魔のように笑い、右横にトートバッグを抱えて編集部を出ていった。
10年後の世界。案外悪くないかもしれない。
なんて、明かりを消された誰もいない夜の編集部を見ながらそう思う。
好きな事で食べていける。なんて素敵な事なのだろう。確かに大変だけれど。
ブーッと、スマホが着信を受け取った合図が俺のスマホに送られる。
司だった。
「今日、飯食いに行かね?」
とLINEで送られてきていた。10年後でも俺は、こいつと絡んでいたのか、とまた笑みがこぼれる。
俺は
「分かった、どこに行けばいい?」
と文字を送った。
10年後の司か。一体どうなってるんだろうか。
楽しみだ。
♦
居酒屋。人生で生まれて初めての居酒屋だ。
だが、ここが10年後の世界ならば、生まれて初めてのカウントに含まれるのだろうか?なんて思う。
居酒屋特有の匂いと違う会社のおっさん達がワイワイと盛り上げている。
そして俺も、おっさんなのだ。
目の前に出されているビールは、飲むべきなのか、飲まないべきなのか、精神体感は17歳だ。
未成年飲酒を守るべきなのだろうか?
なんてことを考えていると、目の前の席に座っている司が、がぶがぶハイボールを飲んでいた。
「久しぶりだなー、そらー、2年半ぶりくらいか?」
なんてことを言われても、この体と司がいつ会ったかなんてしらない。もっといえば、この10年間き何が起こったのかすら分からないのだ。
「飲まないのか?」
司が首をかしげてそう聞いてきた。
やっぱり成人してないし、なんか凄い断りずらいけど飲みたくない。
ここで飲んだら不良の階段を登るようで嫌なのだ。
「いや、飲む気分じゃないんだ」
なんて返してみる。
自然に返せているだろうか?
「なんかあったのか?嫌な事とか」
司が心配そうな顔をして聞いてくる。
「ないよ。そんなの。」
「それよりお前はどーなの。」
結構自然に言葉を運べた気がする。
「聞いてくれよー、そらー。」
そこから俺は、ずっと司の愚痴を聞いていた。
この世界でこいつと初めての会うが、何年も過ごしてきた親友かのように、俺は司と話していた。
気がつくと深夜になっていて、司は酔いつぶれていた。
「帰るかあー、そらぁー。」
酔いつぶれた司が立ち上がる。
フラフラになりながら会計をしに行った。
「大丈夫か?」
と、心配そうな顔をして司に聞く。
「おー、」
とだけ返事をしていた。
店から出て、俺達2人は、タクシーを待っていた。
司がフラっとして倒れそうになる。
俺は司を受け止めて支えた。
「本当に大丈夫なのかよ、お前」
再確認するかのように司に聞く。
「お、おう。それよりありがとな、話、聞いてくれて。」
司は立ち直して俺の方を見ずに、車が通らない道路を見ながらそう答えた。
昼のように少し蒸し暑かった空気も、今はそうでもなく、涼しいと言えるほどでもなく、風は冷たくなっていた。
電柱が俺達をスポットライトのように照らしている。
俺達は、ただ前をみて、なにも、喋らなかった。
奥でフラフラのおっさん達が肩を組んで駅に向かっている。物音はといえば、それくらいだった。
10年経っても俺たちの関係は変わらない。
この夢のような現実に、不確かな物も多いが、
それでも俺はこの現実を信じたかった。
ブォォー。と、車の音が近ずいて来る。
タクシーが来たようだ。
どっちが乗る?と、俺は司の方を向く。
司は「先に乗っていいぞ」と口にする。
「ありがとう」
と口にし俺はタクシーに乗る。
すると自動でドアが俺達の間に蓋をするかのように閉まった。
「じゃあな」
と、口にしているんだろうが、声は聞こえない。
タクシーは司を置いていくかのように残して進んで行った。
俺は窓から司を見ていた。
司は胸の前で小さく手を振る。
俺はフフっと、小さく声を出して笑った。
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今日は楽しかった。
久々に楽しいと思う日だと、そう思った。
俺は、電気を消してベットの中で、疲れを癒すかのように俯せで枕の中に顔を向けてめりこんでいた。
10年後の世界なんて、
俺の全く知らないこの世界にも、俺が楽しめるようになってるんだ、なんて思った。
「元の世界になんて、戻らなてもいいのに。 」
なんて言葉がつい、こぼれてしまう。
元の世界より楽しくて、元の世界より退屈じゃない。
元の世界に戻らなくてもいいのでは?
なんて、考えてしまう。
だけど何故だろう、この心に引っかかるような、何かが刺さっているようなこの感覚は。
このままじゃ駄目だと心の中では確かに思っているのだろうか。やっぱり、元の世界に帰らなきゃ。
そう思った。
そうして俺は、深い、眠りにつく。
♦
チュンチュン。雀の音だろう。
目を開けるのが怖かった。
未来の世界で目覚めるか、現実の世界で目覚めるかが分からなかったからだ。
俺はゆっくりと、体を起こして目を開ける。
どうやら、後者らしい。
俺は元いた現実の世界に、帰ってきていた。
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