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四章「夜廻りと神社の巫女」
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ボーっと生きていたかのように、時間が通り過ぎていくかのを待っていたかのように、俺はただ、またこの日常か…と思い授業を受けるフリをしながらも空を見ていた。
現在の時刻は2022年7月19日午後2時57分。
未来に行ったと思われる日は2022年7月19日。
司や天坂達と一緒に帰ったのが2022年7月18日。
ということは…、未来に行って仕事して家に帰って………、。
必然的に、あの未来に行ったという出来事は、夢と言うことになる。
感覚がリアルだったのは覚えている。
だが、それもただ俺が作り出した妄想なのだろう。
そう思ったら、唐突に死にたくなる。
なんて自分で考えて少し照れる。
もう少しで今日の授業が終わる。
今日は、天坂達と一緒に、夜廻りに行く約束をしていたな。
約束の事を、急に思い出したかのように、夜廻りの事を考えこむ。
そういや、待ち合わせ時間は、いつなのだろうか。
夜廻りが始まる10分前くらいに展望台に集合しても、俺としては全然いいんだけど、どうするのだろうか?
キーンコーンカーンコーン。
放課後という自由を与えるかのように、チャイムの音が校舎内に鳴り響く。
「起立、礼」
日直がそう言うと
皆は先生に向かって一礼をする。
すると真面目に授業を受けていたクラスが嘘だったかのようにわっと騒がしくなる。
すると、横木千咲がが俺の席に近ずいてきた。
「今日、行くんでしょ?」
夜廻りの事だろう。
「5時に朱里の家でいい?」
「俺天坂の家知らないんだけど」
「あ~、そっか、じゃあこの後、朱里の家に来てよ、手伝って欲しいことがあるみたいだし」
横木千咲はそう答えた。
「手伝って欲しい事…?」俺は不思議そうな顔を横木千咲に向ける。
「そうそう、あかりってば、九珠神社の巫女なの!すごくない!?」
横木千咲は、その事実を忘れていたかのように自分の事のように、自慢した。
「そうなのか、じゃああいつ、あの神社に住んでんの?」
俺は聞く。
「いいや、通学する時めんどくさいとかで、おばあちゃんの家で暮らしてるみたい、新年明けとかそういう時にも行くんじゃない?私もよく知らないけど」
へー、初めて知った。
はーい、それじゃー帰りのホームルーム始めるよー。」
あやちゃん先生が入ってきた。
するとガヤガヤ騒がしかったクラスはいつものように、渋々と自分の席に戻って行った。
「じゃ、後でね」
横木千咲がそう言うと、こいつも席に戻っていった。
「はーい、今日は夜廻りの日です。先生方も見回りに行くので、行く人は遅く帰り過ぎないようにしてくださいね~」
皆が席に座ったのを確認したあやちゃん先生は、さっそうとそう喋る。
「じゃあねー皆ーかいさーん。」
あやちゃん先生は1つの連絡事項を告げると解散の2文字を並べた。
♦
それから俺は四人で、天坂の祖母の家に向かった。
「ただいまー、」
とそう告げて先に入ると、天坂は俺達を招待するかのように手招きをした。
「手伝ってくれるんだよね?」
廊下を歩いていると振り返り俺達に聞いてきた。
「おう、手伝うっていったももの、俺たちは何をすりゃいいんだ?」
司がそう返すと、天坂朱里は笑顔で答えた。
「ちょうちん作りなんだけど大丈夫?」
天坂がそう言うと皆、戸惑った顔をする。
ちょうちんとは、水に浮かべるやつの事だろうか?祭りか夜廻りで使うのだろうが、難しそうだななんて俺も思っていると、
「大丈夫、そんなに難しくもないから」
天坂が笑顔でそう答えた。
目的地に着いたのか、大きな扉があった。
「こっち、と朱里がまた笑顔で後ろを振り返り言葉を放つと朱里はその扉の中に入ってった。
俺達も、扉を開けてその部屋の中に入る。
すると道場のような体育館のような広い部屋が眼前に広がった。
正面には「九珠神社」と記された看板と、その奥には、祈りを捧げるような礼堂のような大きめな物がドン、とあり、右の空間には、提灯(ちょうちん)を括りつけるような装置のような物がドン、とあり、真ん中に長テーブルと、作成途中だと思われる。提灯が三、四個置いてあった。
椅子には話にもあった祖母と、話には聞いていない眼鏡をかけた青年が2人で座っていて提灯を作っていた。
「あれ?直人くん、居たんだ」
「ああ、少し暇になってな」
青年がそう答えると、隣の天坂祖母も話出した。
「おかえり、あかり」
にっこり、笑顔で迎えている天坂の祖母は優しそうで印象が良かったが、反対に眼鏡をかけた直人という青年は目付きが悪く少し慄いた。
「こっちがさっき紹介した私のおばあちゃんと、私のお兄ちゃんの直人くん」
そう朱里が紹介するように言うと、その青年はペコと礼をした。
俺達は、天坂のおばあちゃんに教えられながら、提灯を作り始めた。
作り慣れている訳でもなく、俺達は教えられながら不器用に提灯を作っていた。
俺達な日常会話等をしていたが、直人と言う青年は、1人で黙々と提灯作りをしていた。
天坂は流石に作り慣れているようで、俺が提灯作りの工程を戸惑っている横で、流れるように提灯作りの工程を進めていた。
「不器用に、作っていてもいいんだよ、大事なのは、気持ちだから。」
そう言ってくれる天坂のおばあちゃんは、まるで菩薩みたいに優しかった。
「そろそろ、夜廻りの時間だねぇ。」
天坂のおばあちゃんがそう言うと、俺は提灯を作っていた手を止めて天坂のおばあちゃんの顔を見た。
もう終わりか。
意外と楽しいし、結構没頭できたな。
左のポケットを確認すると、7時20分と、表示されていた。
夜廻りは8時から開催される。
天坂の家からだと、20分位で着くか。
「よーし、じゃあ行こうぜ」
と、1番最初に司が立ち上がって口を開いた。
♦
準備をして、天坂のおばあちゃんと、直人という青年に礼を行って、俺達は展望台公園に向かおうとしていた。
外に出ると、日は既に暮れていて、街灯と月の光が俺達を照れしていた。
風は生暖かくて、そろそろ夏休みか、なんてことを連想させるようだった。
「あ、先行ってて」
天坂朱里は何かを思い出したかのように急に声を出した。
俺達は何が起こった?と思い天坂の方を振り向いた。
「どうしたの?あかり」
不思議そうな顔をして横木千咲が聞く。
「いや、ちょっとやる事があるから」
天坂朱里は、いつものような笑顔で、そう答えた。
その時に違和感を覚えたのは、俺だけだろうか。
「すぐ追いつくから、大丈夫だよ。」
また、俺達を心配させなくするためか笑顔でそう答えた。
その笑顔は、やはり何かが違う。
鉛筆でB4の紙を適当にぐちゃぐちゃに描いた時のような、そんな感覚に陥った。
だけど俺は、気のせいだろう。と
そう思った。
そう思いたかったのだ。これから先、その「何か」に気づいて今この時何もしなかった自分を責めるかもしれない。だけど、そこから一歩踏み出すのが、怖かった。
俺達は3人で、天坂をそこに残して、夜廻りを観に展望台公園に向かった。
♦
夜廻り。展望台公園には、既に先着が沢山いた。
展望台公園はここの他に2回所あり、この場所は九珠1番神社から一番遠い場所だった。
だが同時に一番来る人が少なく、少しだけ穴場だった。
10年前もこの公園に行ったのを覚えている。。
展望台の柵の外から見下ろせる九珠神社の山は
展望台公園の外灯と月明かり意外一切灯りはなく、本当にこれから夜廻りが始まるのだろうか?とも考えてしまう。
見下ろせる限り、三分の二の空間に海が広がっていて月明かりを帯びてギラつかせており、手前に見える九珠山は、ただの暗い塊のようにしか見えなかった
時間になったら1発きりの花火の合図と共に一斉に灯りをつけるのだろう。
「天坂の奴、まだ来ないな」
右隣で景色を見ていた司が口を開いた。
「夜廻り始まっちゃうのにねー、あかり、あんなに楽しみにしてたのに」
天坂の事を考えているのだろう。残念そうな顔をして、左隣で横木千咲は呟くようにそう言った。
確かに。少し遅いな。
一緒に観ることに意味があるとか、約束したから絶対一緒に観たいとか、別にそういう訳でもないし、俺はそこまで義理高くない。
だけどそういった類の祭りごとは、あいつが一番楽しみにしているだろう。
「ごめーん、遅れたー。」
天坂が到着したようだ。俺達に一言詫びる
「あかりー、おそいー、」
「どうしたの?」
横木のその言葉は喜んでいるように聞こえた。
そして、横木千咲はそう聞く。
「えー、いや」
バーン!
と、風を切る音と共に夜廻りの開幕を知らせる花火が鳴った。
夜廻りが始まるようだ。
俺達は、四人で柵に沿うようにならび、九珠神社を見下ろした。
横木達も始まった!と思い慌てて柵の外を見下ろす。
夜廻りは1番下の山道を歩く人が灯りを持って歩き、
登っていくにつれて灯りが増えていき、最終的には渦巻いているように灯りが幻想的な空間を作り出すのだ。
「あー!上がってってるー、!!」
天坂は夢中でそう言って指を指す。
小さな炎の蛇が、上へ登って行っている。
完成した想像図を思い浮かべて完成を焦るよつに俺はこの景色に集中していた。
「なぁ、10年後、皆でまた来ないか?」
俺がその言葉に少し驚いて横目で司の方を見ると司は俺達の方を向かず九珠山を観下ろしながらそう口を開いた。
まるで夜廻りの灯りが満タンになるのを待つかのように、司はそう言った。
九尾祭りは10年に1度。
逆を言えば夜廻りも10年に1度という事になる。
10年後の世界か。
俺は夢で10年後の世界がどれだけ変わったのかを知っている。
だがそれは所詮夢でしかない。
なんてことは知っている。
だけど、もう一度、あの夢を見てみたい。
もう一度だけ、あの夢の続きを見てみたい。
自分で。
そう思った。
「うん。いいよ。行こう、10年後も」
俺は自分が表現できる限界の笑顔を、こいつらに向けた。
すると一瞬音が消えたかのように皆が静まりかえる。
「えぇ!?そらが笑ったー!」
1番最初に笑い気にそう言ったのが天坂だった。
「確かに、珍しいな」
司が続けてそう言う。
「えー、意外ー。」
横木までもが、そう言った。
「いや、逆に笑わないと思ってんの」
俺は、つっこむようにこいつらに言葉を返す。
未来の話をするのは、楽しい。
この退屈だった日常がどんどん光を灯すかのように、これから自分が進んでいく道が照らされているんだ。いや、照らしていくんだ。
そう思った。
「なー、お前ら、夢とかあるか?」
司は話の流れに乗るように俺達に聞いてきた。
「俺は別に。」
一瞬未来の夢を見た事が頭によぎる。
確かに、未来の続きをみてみたい。自分で創っていきたい。なんてことも確かに思うが、今語るのは恥ずかし過ぎる。と、俺は顔を逸らしそう言った。
「そうだなー、私は獣医になることが夢かな~」
横木千咲は、ずっと昔から決めているかのように、その言葉を放った。
「へ~似合ってんじゃん。」
「いいじゃん、ちーちゃん!」
2人が褒めている中褒めないとみたいな意識も一瞬あったが、少し恥ずかしいので俺はその言葉を飲み込んだ。
「司こそなんかないの?」
天坂は皆の未来の話、すなわち進路の話に興味があったのだろう、天坂はワクワクしたような笑みで司に聞いていた。
「俺かー、俺はなー。まだ、無いかな。これから探してくわ。」
司はそう言った。
その表情は、不安等は一切感じられず、期待という2文字を連想させるかのように笑顔で、そう答えていた。俺達は、急に無言になった。
皆、どんどん灯されていく灯りの景色に集中しているのか、黄昏ているかのように、花が咲くのを待つかのように。俺達はその光を、灯りをただ待っていた。
「それにしても、本当に綺麗だな」
司が一番最初に言葉にした。
時間が経てば経つほど、時間が過ぎるのが一瞬に感じてしまう。意味なんてないもしれない。
それでも司は、言葉を続けた。
「あかりは?夢、ないのか?」
「私?私はー、」
朱里は、呟くように口を開いて言葉を続けた。
「10年先も、20年先も。ずっと皆が、元気で笑ってて欲しいなーなんて思う。それで私は笑顔で口にするの、「良かった」って。それが私の夢。」
誰かが言葉を喋ると、かき消されてしまいそうなくらい小さな声だけれど、天坂朱里は確かにそう口にした。
「いいじゃん、それでも。なんか、そういうの格好良い。」
賞賛するように横木が口を開いた。
「あー、楽しみだな。未来の私達。」
天坂朱里は黄色い月とグレーより少し濃い黒に染まった空に手を掲げて、柵からはみでてしまいそうなくらい、大きく、大きく手を伸ばした。
「おう、絶対叶えようぜ、お前の夢。」
司は、掲げられた手をみながら、そう答えていた。
「うん!」
横木千咲も、元気よく返事する。
「うん。分かった。」
俺も、こいつの夢は叶えてあげたい。
そんな気持ちが強くなった。
「ありがとう、皆。本当に。」
天坂朱里は俺達に向けて礼を言った。
「それにしてもお前、いつも笑顔だけど、この話の時笑顔に更に磨きがかかってんな」
司は、急に思い出したのか笑いながら朱里に言う。
「夢を語る時は笑顔で、夢を叶える時はもっと笑顔で。そう決めてるから。」
天坂はニシシと笑いながらそう答える。
「最初から最後まで笑ってんじゃん」
天坂がそう言うと俺は咄嗟に天坂にそうつっこむ。
「確かにあかり、言ってくれた夢でも笑ってる。」
横木千咲は共感するように笑い出す。
「なんだか、お前らしいな」
司は褒める様に天坂に言う。
「えへへー」
褒められているだけだと思っているだろう。天坂はバカっぽい顔をして、手を頭に伸ばして恥じるように笑う。
俺はその天坂の顔を見るとフッと、鼻で笑ってしまった。俺は慌てて顔を逸らす。
「あー!そらー、今笑ったでしょ~!」
天坂がそう俺に言ってくる。
俺は「笑ってない」とそう口にするも、天坂の方は見ずに笑ってしまうのを我慢する。
皆で笑い合う空間も、徐々に慣れてきた。
♦
夜廻りが終わり4人が並ぶ帰り道。
いつもの俺達の帰り道とは少し違う、違った雰囲気に包まれながら帰った。
住宅街、俺と司が同じ方向で、天坂と横木が同じ方向だった時に司は最後に皆で確認するように「約束な」と言って言葉を続けていい始めた。
「10年後も、あの場所、皆で夜廻りに行こう。夢、全部叶えてから。約束な」
司は言葉を、約束という2文字の意味合いも持たせる様に、そう言った。
epilogue
行った。行ってしまった。
いや、これでいいんだ。
私はその場に立ちながら、立ち尽くしながらそんな事を考える。
こうでもしないと、私に諦めがつかないかもしれないから。
一旦落ち着かないといけない。
本来私は、あそこにいるべきではない。
あの場所に、あの人達と一緒に居たら、まだ一緒に居たいとそう思ってしまう。だから私は、隔てる壁のような役割を持った物が欲しかった。
実物じゃないんだ言葉でしか表せれないものかもしれないが、私にとっては、私だけは、手に掴めるくらいな大きな武器になるのだ。
だから、これで、いいんだ。
私は自分が決めた事を、自分がこれからやるべき事を、成すべき事を、再確認するかのように手を強く握りしめて目を瞑る。
目からは瞼が異物を捕えたかのように、涙が出る。
自分でも驚いた。こんな感情がまだ残せているのだと、だけど、私もう、大丈夫だ。
決めた決心をさらに強く、もっと強く、心の中で鎖で縛るかのように。
「すまんね、あかり、なにもできなくて、選択させることが、できなくて」
後ろでおばあちゃんが優しく、小さな声、小さな音だけど私にそう言ってくる。
「誰も…悪くないし……。こうするしか、なかったし…。」
私は流れ続ける涙を何とか無視したくて、下を向いてそう答えた。
上を向いていると、泣いているって自分でも思ってしまうから、まだ、下を向いていた方が、気持ちが楽だ。大分落ち着いてきた。良し、行こう。残り少ない時間だけれど、
あの人達の所へ。
現在の時刻は2022年7月19日午後2時57分。
未来に行ったと思われる日は2022年7月19日。
司や天坂達と一緒に帰ったのが2022年7月18日。
ということは…、未来に行って仕事して家に帰って………、。
必然的に、あの未来に行ったという出来事は、夢と言うことになる。
感覚がリアルだったのは覚えている。
だが、それもただ俺が作り出した妄想なのだろう。
そう思ったら、唐突に死にたくなる。
なんて自分で考えて少し照れる。
もう少しで今日の授業が終わる。
今日は、天坂達と一緒に、夜廻りに行く約束をしていたな。
約束の事を、急に思い出したかのように、夜廻りの事を考えこむ。
そういや、待ち合わせ時間は、いつなのだろうか。
夜廻りが始まる10分前くらいに展望台に集合しても、俺としては全然いいんだけど、どうするのだろうか?
キーンコーンカーンコーン。
放課後という自由を与えるかのように、チャイムの音が校舎内に鳴り響く。
「起立、礼」
日直がそう言うと
皆は先生に向かって一礼をする。
すると真面目に授業を受けていたクラスが嘘だったかのようにわっと騒がしくなる。
すると、横木千咲がが俺の席に近ずいてきた。
「今日、行くんでしょ?」
夜廻りの事だろう。
「5時に朱里の家でいい?」
「俺天坂の家知らないんだけど」
「あ~、そっか、じゃあこの後、朱里の家に来てよ、手伝って欲しいことがあるみたいだし」
横木千咲はそう答えた。
「手伝って欲しい事…?」俺は不思議そうな顔を横木千咲に向ける。
「そうそう、あかりってば、九珠神社の巫女なの!すごくない!?」
横木千咲は、その事実を忘れていたかのように自分の事のように、自慢した。
「そうなのか、じゃああいつ、あの神社に住んでんの?」
俺は聞く。
「いいや、通学する時めんどくさいとかで、おばあちゃんの家で暮らしてるみたい、新年明けとかそういう時にも行くんじゃない?私もよく知らないけど」
へー、初めて知った。
はーい、それじゃー帰りのホームルーム始めるよー。」
あやちゃん先生が入ってきた。
するとガヤガヤ騒がしかったクラスはいつものように、渋々と自分の席に戻って行った。
「じゃ、後でね」
横木千咲がそう言うと、こいつも席に戻っていった。
「はーい、今日は夜廻りの日です。先生方も見回りに行くので、行く人は遅く帰り過ぎないようにしてくださいね~」
皆が席に座ったのを確認したあやちゃん先生は、さっそうとそう喋る。
「じゃあねー皆ーかいさーん。」
あやちゃん先生は1つの連絡事項を告げると解散の2文字を並べた。
♦
それから俺は四人で、天坂の祖母の家に向かった。
「ただいまー、」
とそう告げて先に入ると、天坂は俺達を招待するかのように手招きをした。
「手伝ってくれるんだよね?」
廊下を歩いていると振り返り俺達に聞いてきた。
「おう、手伝うっていったももの、俺たちは何をすりゃいいんだ?」
司がそう返すと、天坂朱里は笑顔で答えた。
「ちょうちん作りなんだけど大丈夫?」
天坂がそう言うと皆、戸惑った顔をする。
ちょうちんとは、水に浮かべるやつの事だろうか?祭りか夜廻りで使うのだろうが、難しそうだななんて俺も思っていると、
「大丈夫、そんなに難しくもないから」
天坂が笑顔でそう答えた。
目的地に着いたのか、大きな扉があった。
「こっち、と朱里がまた笑顔で後ろを振り返り言葉を放つと朱里はその扉の中に入ってった。
俺達も、扉を開けてその部屋の中に入る。
すると道場のような体育館のような広い部屋が眼前に広がった。
正面には「九珠神社」と記された看板と、その奥には、祈りを捧げるような礼堂のような大きめな物がドン、とあり、右の空間には、提灯(ちょうちん)を括りつけるような装置のような物がドン、とあり、真ん中に長テーブルと、作成途中だと思われる。提灯が三、四個置いてあった。
椅子には話にもあった祖母と、話には聞いていない眼鏡をかけた青年が2人で座っていて提灯を作っていた。
「あれ?直人くん、居たんだ」
「ああ、少し暇になってな」
青年がそう答えると、隣の天坂祖母も話出した。
「おかえり、あかり」
にっこり、笑顔で迎えている天坂の祖母は優しそうで印象が良かったが、反対に眼鏡をかけた直人という青年は目付きが悪く少し慄いた。
「こっちがさっき紹介した私のおばあちゃんと、私のお兄ちゃんの直人くん」
そう朱里が紹介するように言うと、その青年はペコと礼をした。
俺達は、天坂のおばあちゃんに教えられながら、提灯を作り始めた。
作り慣れている訳でもなく、俺達は教えられながら不器用に提灯を作っていた。
俺達な日常会話等をしていたが、直人と言う青年は、1人で黙々と提灯作りをしていた。
天坂は流石に作り慣れているようで、俺が提灯作りの工程を戸惑っている横で、流れるように提灯作りの工程を進めていた。
「不器用に、作っていてもいいんだよ、大事なのは、気持ちだから。」
そう言ってくれる天坂のおばあちゃんは、まるで菩薩みたいに優しかった。
「そろそろ、夜廻りの時間だねぇ。」
天坂のおばあちゃんがそう言うと、俺は提灯を作っていた手を止めて天坂のおばあちゃんの顔を見た。
もう終わりか。
意外と楽しいし、結構没頭できたな。
左のポケットを確認すると、7時20分と、表示されていた。
夜廻りは8時から開催される。
天坂の家からだと、20分位で着くか。
「よーし、じゃあ行こうぜ」
と、1番最初に司が立ち上がって口を開いた。
♦
準備をして、天坂のおばあちゃんと、直人という青年に礼を行って、俺達は展望台公園に向かおうとしていた。
外に出ると、日は既に暮れていて、街灯と月の光が俺達を照れしていた。
風は生暖かくて、そろそろ夏休みか、なんてことを連想させるようだった。
「あ、先行ってて」
天坂朱里は何かを思い出したかのように急に声を出した。
俺達は何が起こった?と思い天坂の方を振り向いた。
「どうしたの?あかり」
不思議そうな顔をして横木千咲が聞く。
「いや、ちょっとやる事があるから」
天坂朱里は、いつものような笑顔で、そう答えた。
その時に違和感を覚えたのは、俺だけだろうか。
「すぐ追いつくから、大丈夫だよ。」
また、俺達を心配させなくするためか笑顔でそう答えた。
その笑顔は、やはり何かが違う。
鉛筆でB4の紙を適当にぐちゃぐちゃに描いた時のような、そんな感覚に陥った。
だけど俺は、気のせいだろう。と
そう思った。
そう思いたかったのだ。これから先、その「何か」に気づいて今この時何もしなかった自分を責めるかもしれない。だけど、そこから一歩踏み出すのが、怖かった。
俺達は3人で、天坂をそこに残して、夜廻りを観に展望台公園に向かった。
♦
夜廻り。展望台公園には、既に先着が沢山いた。
展望台公園はここの他に2回所あり、この場所は九珠1番神社から一番遠い場所だった。
だが同時に一番来る人が少なく、少しだけ穴場だった。
10年前もこの公園に行ったのを覚えている。。
展望台の柵の外から見下ろせる九珠神社の山は
展望台公園の外灯と月明かり意外一切灯りはなく、本当にこれから夜廻りが始まるのだろうか?とも考えてしまう。
見下ろせる限り、三分の二の空間に海が広がっていて月明かりを帯びてギラつかせており、手前に見える九珠山は、ただの暗い塊のようにしか見えなかった
時間になったら1発きりの花火の合図と共に一斉に灯りをつけるのだろう。
「天坂の奴、まだ来ないな」
右隣で景色を見ていた司が口を開いた。
「夜廻り始まっちゃうのにねー、あかり、あんなに楽しみにしてたのに」
天坂の事を考えているのだろう。残念そうな顔をして、左隣で横木千咲は呟くようにそう言った。
確かに。少し遅いな。
一緒に観ることに意味があるとか、約束したから絶対一緒に観たいとか、別にそういう訳でもないし、俺はそこまで義理高くない。
だけどそういった類の祭りごとは、あいつが一番楽しみにしているだろう。
「ごめーん、遅れたー。」
天坂が到着したようだ。俺達に一言詫びる
「あかりー、おそいー、」
「どうしたの?」
横木のその言葉は喜んでいるように聞こえた。
そして、横木千咲はそう聞く。
「えー、いや」
バーン!
と、風を切る音と共に夜廻りの開幕を知らせる花火が鳴った。
夜廻りが始まるようだ。
俺達は、四人で柵に沿うようにならび、九珠神社を見下ろした。
横木達も始まった!と思い慌てて柵の外を見下ろす。
夜廻りは1番下の山道を歩く人が灯りを持って歩き、
登っていくにつれて灯りが増えていき、最終的には渦巻いているように灯りが幻想的な空間を作り出すのだ。
「あー!上がってってるー、!!」
天坂は夢中でそう言って指を指す。
小さな炎の蛇が、上へ登って行っている。
完成した想像図を思い浮かべて完成を焦るよつに俺はこの景色に集中していた。
「なぁ、10年後、皆でまた来ないか?」
俺がその言葉に少し驚いて横目で司の方を見ると司は俺達の方を向かず九珠山を観下ろしながらそう口を開いた。
まるで夜廻りの灯りが満タンになるのを待つかのように、司はそう言った。
九尾祭りは10年に1度。
逆を言えば夜廻りも10年に1度という事になる。
10年後の世界か。
俺は夢で10年後の世界がどれだけ変わったのかを知っている。
だがそれは所詮夢でしかない。
なんてことは知っている。
だけど、もう一度、あの夢を見てみたい。
もう一度だけ、あの夢の続きを見てみたい。
自分で。
そう思った。
「うん。いいよ。行こう、10年後も」
俺は自分が表現できる限界の笑顔を、こいつらに向けた。
すると一瞬音が消えたかのように皆が静まりかえる。
「えぇ!?そらが笑ったー!」
1番最初に笑い気にそう言ったのが天坂だった。
「確かに、珍しいな」
司が続けてそう言う。
「えー、意外ー。」
横木までもが、そう言った。
「いや、逆に笑わないと思ってんの」
俺は、つっこむようにこいつらに言葉を返す。
未来の話をするのは、楽しい。
この退屈だった日常がどんどん光を灯すかのように、これから自分が進んでいく道が照らされているんだ。いや、照らしていくんだ。
そう思った。
「なー、お前ら、夢とかあるか?」
司は話の流れに乗るように俺達に聞いてきた。
「俺は別に。」
一瞬未来の夢を見た事が頭によぎる。
確かに、未来の続きをみてみたい。自分で創っていきたい。なんてことも確かに思うが、今語るのは恥ずかし過ぎる。と、俺は顔を逸らしそう言った。
「そうだなー、私は獣医になることが夢かな~」
横木千咲は、ずっと昔から決めているかのように、その言葉を放った。
「へ~似合ってんじゃん。」
「いいじゃん、ちーちゃん!」
2人が褒めている中褒めないとみたいな意識も一瞬あったが、少し恥ずかしいので俺はその言葉を飲み込んだ。
「司こそなんかないの?」
天坂は皆の未来の話、すなわち進路の話に興味があったのだろう、天坂はワクワクしたような笑みで司に聞いていた。
「俺かー、俺はなー。まだ、無いかな。これから探してくわ。」
司はそう言った。
その表情は、不安等は一切感じられず、期待という2文字を連想させるかのように笑顔で、そう答えていた。俺達は、急に無言になった。
皆、どんどん灯されていく灯りの景色に集中しているのか、黄昏ているかのように、花が咲くのを待つかのように。俺達はその光を、灯りをただ待っていた。
「それにしても、本当に綺麗だな」
司が一番最初に言葉にした。
時間が経てば経つほど、時間が過ぎるのが一瞬に感じてしまう。意味なんてないもしれない。
それでも司は、言葉を続けた。
「あかりは?夢、ないのか?」
「私?私はー、」
朱里は、呟くように口を開いて言葉を続けた。
「10年先も、20年先も。ずっと皆が、元気で笑ってて欲しいなーなんて思う。それで私は笑顔で口にするの、「良かった」って。それが私の夢。」
誰かが言葉を喋ると、かき消されてしまいそうなくらい小さな声だけれど、天坂朱里は確かにそう口にした。
「いいじゃん、それでも。なんか、そういうの格好良い。」
賞賛するように横木が口を開いた。
「あー、楽しみだな。未来の私達。」
天坂朱里は黄色い月とグレーより少し濃い黒に染まった空に手を掲げて、柵からはみでてしまいそうなくらい、大きく、大きく手を伸ばした。
「おう、絶対叶えようぜ、お前の夢。」
司は、掲げられた手をみながら、そう答えていた。
「うん!」
横木千咲も、元気よく返事する。
「うん。分かった。」
俺も、こいつの夢は叶えてあげたい。
そんな気持ちが強くなった。
「ありがとう、皆。本当に。」
天坂朱里は俺達に向けて礼を言った。
「それにしてもお前、いつも笑顔だけど、この話の時笑顔に更に磨きがかかってんな」
司は、急に思い出したのか笑いながら朱里に言う。
「夢を語る時は笑顔で、夢を叶える時はもっと笑顔で。そう決めてるから。」
天坂はニシシと笑いながらそう答える。
「最初から最後まで笑ってんじゃん」
天坂がそう言うと俺は咄嗟に天坂にそうつっこむ。
「確かにあかり、言ってくれた夢でも笑ってる。」
横木千咲は共感するように笑い出す。
「なんだか、お前らしいな」
司は褒める様に天坂に言う。
「えへへー」
褒められているだけだと思っているだろう。天坂はバカっぽい顔をして、手を頭に伸ばして恥じるように笑う。
俺はその天坂の顔を見るとフッと、鼻で笑ってしまった。俺は慌てて顔を逸らす。
「あー!そらー、今笑ったでしょ~!」
天坂がそう俺に言ってくる。
俺は「笑ってない」とそう口にするも、天坂の方は見ずに笑ってしまうのを我慢する。
皆で笑い合う空間も、徐々に慣れてきた。
♦
夜廻りが終わり4人が並ぶ帰り道。
いつもの俺達の帰り道とは少し違う、違った雰囲気に包まれながら帰った。
住宅街、俺と司が同じ方向で、天坂と横木が同じ方向だった時に司は最後に皆で確認するように「約束な」と言って言葉を続けていい始めた。
「10年後も、あの場所、皆で夜廻りに行こう。夢、全部叶えてから。約束な」
司は言葉を、約束という2文字の意味合いも持たせる様に、そう言った。
epilogue
行った。行ってしまった。
いや、これでいいんだ。
私はその場に立ちながら、立ち尽くしながらそんな事を考える。
こうでもしないと、私に諦めがつかないかもしれないから。
一旦落ち着かないといけない。
本来私は、あそこにいるべきではない。
あの場所に、あの人達と一緒に居たら、まだ一緒に居たいとそう思ってしまう。だから私は、隔てる壁のような役割を持った物が欲しかった。
実物じゃないんだ言葉でしか表せれないものかもしれないが、私にとっては、私だけは、手に掴めるくらいな大きな武器になるのだ。
だから、これで、いいんだ。
私は自分が決めた事を、自分がこれからやるべき事を、成すべき事を、再確認するかのように手を強く握りしめて目を瞑る。
目からは瞼が異物を捕えたかのように、涙が出る。
自分でも驚いた。こんな感情がまだ残せているのだと、だけど、私もう、大丈夫だ。
決めた決心をさらに強く、もっと強く、心の中で鎖で縛るかのように。
「すまんね、あかり、なにもできなくて、選択させることが、できなくて」
後ろでおばあちゃんが優しく、小さな声、小さな音だけど私にそう言ってくる。
「誰も…悪くないし……。こうするしか、なかったし…。」
私は流れ続ける涙を何とか無視したくて、下を向いてそう答えた。
上を向いていると、泣いているって自分でも思ってしまうから、まだ、下を向いていた方が、気持ちが楽だ。大分落ち着いてきた。良し、行こう。残り少ない時間だけれど、
あの人達の所へ。
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