少女(偽)とゴーレム(偽)

蔵間 遊美

文字の大きさ
2 / 16

2. 少女(偽)ゴーレム(偽)出くわす

しおりを挟む
 リンが事態を把握できず呆然とゴーレムを見上げていると、鹿が一声鳴く。するとゴーレムが今度は反対側にコトンと首を傾けた。
『え? こんな暗い森に小さな子が一人で入ってくるから心配になって追いかけたら怯えて泣かれてしまわれたのですか? 鹿さんは何もされてなかったのに? それはひどいお話でございますねぇ』
「ちっちゃないわー!」
 何もする気がなかったことがわかったものの勝手に怯えて泣いていたことへの気恥ずかしさで、思わずリンが怒鳴ると、先ほどまでリンをおびえさせていた鹿がその声の大きさに驚いて逃げていく。
『あ…もしかして泣いていたのはアナタですか?』
「うるせぇ!」
『もーだめでございますよ。あの鹿さんはアナタを心配してですね…』
「黙って追いかける方が悪いだろ!」
『鹿さんは人間の言葉をお話しになられないのですからそんな無茶は…』
「うるさいな! アタシは動物が苦手なんだよ! つーか、ゴーレムの分際でしゃべるお前の方が無茶なんじゃー!」
 リンは思いっきり突っ込んだ。
 ゴーレムというのは意志を持たず、創造主の命令だけを厳格に守る人形だ。こんな風に自分の意志を持ってペラペラしゃべるゴーレムなぞ聞いたことがない。
 すると、ゴーレムは頭をポリポリとかく。
『その…ワタクシちょっとした事情がございましてまして…その…体はご覧の通りゴーレムなのでございますが、魂は人間なのでございます』
「は?」
『その…ちょっとした事故に遭いまして。体から魂が分離されてしまい、仕方なくこの器の中にはいったワケなのでございますが、その…』
「その?」
『ちょっとしたアクシデントにより、気がついたら体がある場所から遠く離れた場所まで来ておりまして』
「……で?」
『それで…このような姿だと人が多いところを通っては住んでおりました場所に戻れないであろうと思いまして、このような森などの人気のない場所を選んで戻ろうと思っておったのでございますが、いかんせんよくわからないままに進んでしまった結果、余計に道がわからなくなってしまい迷子になったという次第なのでございます』
「……ふーん。で?」
『いやその…どういたしましょうみたいな状態でございます。あはは』
「あはは。やないやろお前は!」
『いやでもその…!』
 はっとゴーレムが緊張した様子で後ろを向く。リンもその気配に気づいて同じ方向へ鋭い視線を飛ばす。

 そこには魔物がいた。

「ようやっと見つけた」
 魔物はニィと笑うとゴーレムを指差す。
『あわわわ…』
 ゴーレムは慌てふためいている。その人間臭い…というか間抜けな仕草にリンは脱力しそうになった。
「わが主の命によりお前を捕らえる」
『いやでございます! ワタクシ平和に暮らしたいだけなのでございます!』
「あきらめろ!」
 魔物はそう叫ぶと爪を伸ばしてゴーレムに襲いかかろうとする。
『きゃー! いやー!』
 ゴーレムが間抜けな悲鳴を上げて、両手で頭を抱えると同時だった。
「させるかっつーの!」
「なに?!」
 ガキィンという音をさせてリンは右手の剣でもってその爪の攻撃からゴーレムを守る。
『えぇ?!』
「よっしゃあぁ! 魔物なら怖くなーい! バッチコーイ!」
 リンはそう言うなり左手で抜きさった剣で魔物をなぎ払おうとしたが、それに気づいた魔物があわてて飛び退いた。
「双剣使いか?!」
 魔物はチッと舌打ちをすると慎重に間合いをはかってくる。だがゴーレムはそんな二人の状況にかまわずリンに抗議した。
『なんか間違ってございませんかソレッ?! 鹿さんのほうが怖くて魔物さんが恐くないっておかしくございませんか?!』
 頭を抱えるゴーレムを横目に見ながらリンは、思わず怒鳴った。
「うっせぇ! お前こそ魔物の姿してんだったらそのオカマチックな仕草ヤメロ! しかもなんやねん、そのそのへんてこりんな言葉使い!」
『ヘ、ヘンテコリンと申されても、これはもう身に染み付いたものでございまして、どうしようもできないものでございまして…!』
「直せや! ゴーレムやろ!」
『えぇぇっ?! 理不尽すぎやしませんか?!』
「文句いうな!」
 リンがゴーレムの方を向いた一瞬の隙を魔物は見逃さず襲いかかってくる。
「ガキが!」
「誰がガキやっちゅーねん! このリン様をなめんなよ!」
 魔物が飛びかかってくると、ギリギリで避けながら剣を逆手に持ち直しリンは魔物を斬りつけようとしたが、魔物はなんとか間一髪よけるとまた慌てて間合いを取った。
「ガキのくせにやるじゃねぇか」
 ニヤリと不敵に笑う魔物に、リンは口元を引きつらせる。
「せやからなぁ、ウチはガキとちゃうってさっきから言うてるやろーが」
「なんだと?」
「アタシャ立派な20歳やっちゅーねん」
「……え?」
『……え?』
 魔物とゴーレムの間抜けな声が重なった。
「なんやねんお前ら。その間抜けな声」
 リンがムッとした顔でそう言うと魔物は驚いた顔を隠しもせずリンを頭の先からつま先まで眺め、ある一点に目を留める。
「……その胸で?」
 魔物の目はリンの胸のあたりに釘付け。たしかにちょっと…ないかもしれない。
「?! ちくしょー! 全部ちっさくて悪かったなぁっ!」
 だが、普段から気にしていることを指摘され、リンは顔を真っ赤にして魔物へと飛びかかる。しかし、勢いに任せただけの隙だらけの攻撃に今度はリンが魔物に反撃をくらい剣で防御したが勢いは殺せず吹っ飛ばされ、ゴーレムの近くまで転がってしまう。慌てて立ち上がるが、魔物はその隙を見逃さない。
「いけ!」
 魔物がリンを指差すと同時に炎がリンへと向かってきた。ゴーレムはそれに気づき、リンを庇おうと咄嗟に手を出しかけたのだが。
「動くな!」
『え?』
 リンに怒鳴られ、ゴーレムが反射的に動きを止めると同時にリンは無造作に剣をつかんだまま右手をその炎に突き出した。
「なっ?!」
『えぇぇっ?!』
 予想外の行動に魔物とゴーレムが驚きの声を上げるが、リンはニッと不敵に笑い。
 魔物の放った炎にリンの右手が触れたかいなかのその瞬間。
 いきなり炎が掻き消えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...