少女(偽)とゴーレム(偽)

蔵間 遊美

文字の大きさ
14 / 16

14.少女(偽)とゴーレム(偽)たどり着く

しおりを挟む
「あった!」
 目印となる場所を見つけ、リンの声が弾むが、同時に後ろから声が聞こえてくる。
「やっべ」
 リンは慌てて、背中のザックからハーディの手を取り出す。ハーディ曰く、器を切り離しても魂は切れないので、一部だけでも魂がつながっている部分を当てればいいとのことだった。
 リンはハーディの手を切り離すことを嫌がったが、最終的にそれしかないということになり渋々承知するしかなく。最も、こういうことを一番いやがりそうなハーディから提案されたということも大きかった。
「うまくいってくれ!」
 リンがハーディの手を体ごとぶつかるように壁に当てると同時に男たちが姿を現した。
「見つけたぞ!」
 だがその声を上げた男たちの前からリンの姿が消える。正確には壁に吸い込まれるように消えたのだ。
「な…なんだ?!」
 男たちは何が起こったのかわからず、呆然とした後、慌ててリンを消えた辺りをたたくがそこにはかわらず壁があるだけだった。
 一方リンは。
「ぎゃあああ!」
 身構える暇もなくポッカリとあいた穴へ落ちたかと思うと、そのままゴロゴロとなすすべなく転がり落ちてしまう。どうやら坂になっていたようだ。
「こんなん聞いてへんぞハーディのバカ!」
 ようやっと転がり落ちるのが終わり、リンはイテテと言いながら、注意深く周りを見渡すが真っ暗だ。
「えーっと、明かり、明かり…」
『おねえちゃんだぁれ?』
「?!」
 すぐそばに聞こえてきた声にリンはハッと身構える。だが、声はあどけなく幼い。
『だぁれ?』
「……ハーディから頼まれたんや」
『おにいちゃんから?』
「おにいちゃん?」
『うん。ハーディおにいちゃんはだれにもあそんでもらえなかったぼくとあそんでくれたんだ』
 それを聞いて、リンはヒクリと顔を引きつらせた。今話している相手は間違いなく幽霊だ。どうしようと冷や汗をかくリンの手に、何かが触れてくる。手を引くよりも先にその感触に覚えがあり、踏みとどまった。
 ハーディと同じ砂の感触。つまり。
「ハーディに体を作ってもらったんか?」
『そうだよ』
 嬉しそうな子どもの声にリンは深呼吸をする。大丈夫。
「ハーディの体がどこにあるか知ってる?」
『しっているよ。みんなでまもっているの。どうして?』
「ハーディの魂をつれてきた」
『たましい? それっておにいちゃんがもとにもどるってこと?』
「そうや」
 リンが頷くと、リンの手をキュッとつかまれる。ハーディと同じ感触だけど、それよりもずいぶんと小さい手。
『ほんとうだ。おにいちゃんがいるね』
「体のところまで連れて行って。急ぎで」
『わかった』
 手に引かれてリンは走る。しばらくして暗闇に目が慣れてくるが、目の前の幽霊…ゴーレムの形はボンヤリとしかわからない。
「まだ?」
『もう少しだよ…ほらついた』
 言われて目を凝らすとそれなりに広い場所のようだ。
「ここ?」
『うん。そこのもりあがっているところにおにいちゃんが…え?』
「なに?」
『みんながおねえちゃんはだれだって』
「皆?」
『うん。みんな』
 途端にヒヤリとした空気が周りに流れる。身に覚えのある空気にリンは涙目になった。苦手な幽霊に囲まれている…それだけで腰が抜けそうになるが、ハーディの手を縋るようにギュッと胸に抱きしめながらなんとか踏ん張った。
「ハ…ハーディをつれてきてるんや」
 だが、声の震えは止まらない。子供の声がうんうんと何かを聞いている。
『おねえちゃん、みんながはやくおにいちゃんのたましいをもどしてあげてほしいって』
「わ…わかった…どうすれば」
『そのもりあがっているところにおにいちゃんのてをおいて』
「よ、よし」
 カクカクとした動きで、リンは右手を置くとモゾリと土が動く音がして、目の前の盛り上がっているところがどんどん崩れていき、ヌッと何かが起き上がってくるのがわかる。息を殺して見つめていると…。
「うわぁぁ…誰ですかぁこんなところにワタクシを埋めたのはぁ」
 聞き慣れた呑気な声が聞こえた途端、リンは現れた人物に飛びついた。
「ハーディ!」
「リンさん」
 受け止める腕は柔らかで。リンは不覚にも泣きそうになる。
「よかった…よかった…」
「はい…リンさんのおかげでございます」
「感謝しろ」
 しばらくそのままだったが、ハーディが不思議そうに首を傾げた。
「ところで」
「何?」
「なんで真っ暗なままなのでございますか?」
「あ」
 幽霊に出会ってしまい、動転して明かりをつけるのを忘れていたのだ。リンはハーディから体を離すと、ザックのなかから照明を取り出し明かりをつける。
 明かりの中から浮かび上がってきたのは。
「リンさん?」
「ハーディ…やんな?」
「はい」
 穏やかに笑う青年は予想よりもガッシリとした体格で、それなりに凛々しい顔立ちをしていた。リンは何となく気恥ずかしくなって辺りを見渡して、ある一点で目を止め…その異様な姿に目を丸くして固まってしまう。
 次の瞬間。
「ぎゃあああ!」
「リンさん?!」
 思わず叫ぶなり目の前のハーディにガッツリと抱きつく。恥も外聞も関係ない。
「あれなんやぁ!」
 真っ青な顔でリンが指差す先にはかろうじて人かな?とわかる程度の人形がたたずんでいた。その姿形はかなり独特というか…前衛芸術というか…な造形である。
『おねえちゃん?』
 それが顔らしきものを傾け、声を発してリンはようやく悟った。
「も…もしかしてお前、アタシを案内してくれた子?」
『そうだよ?』
 ふと周りを見渡すと、多少、大きさが違うだけの似たり寄ったりの造形の土でできた人型が壁際にズラリと並んでいる。
「リンさん?」
「……ハーディ」
「はい?」
「お前、これ特定のモデルがいるんか?」
「特定のモデルじゃなくて、それぞれの幽霊さんたちがモデルですけど」
 不思議そうに首を傾げるハーディにリンはガクリと地面に手をつく。
「……そりゃ悲鳴もあげるわ」
 こんな姿を見たらそら誰でも悪人の仕業に見えるわ!とリンはものすごく納得した。同時にいくら何でもこんなんには入りたくないよなとも。ハーディ本人に悪気がない分、幽霊たちも文句が言えなかったのだろう。
「え? え?」
 わけがわからず首をひねるハーディに、リンは頭を抱える。まさか単なる美的センスが理由だけでこんな大事になるなんて!
 しかし、ハーディの美的センスは破壊的ではあるので、仕方ないかとちょっと思ったりもしたり。だが、とにかくこれをなんとかしなければいけないことだけはわかる。リンは難しい顔で人型を見つめた。
「この人型ってさ、アタシが手直ししても大丈夫なんか?」
「はい。母が以前手直ししたことがございますが、中に入ることができておりました」
「そうか…なんとか姿形がわからんかな…」
 リンが呟くと、ハーディが聞き返す。
「それは幽霊さんたちの生前のお姿のことですか?」
「うん。わかったらなんとかなるんやけど」
 ハーディはふんふんとうなずきながら幽霊たちと話しだした。
「なんとかなるかもしれないそうですが」
「が?」
「……部屋を暗くしないと見られないかもとのことでございまして」
「……」
 つまり真っ暗な中、幽霊たちに囲まれるということになる訳で…。リンは顔が引きつるが背に腹は代えられない。
「かまいませんか?」
「かまわんわ! やったる!」
 ちょっぴり声が震えてしまったのはご愛嬌。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...