【完結】昔セフレ扱いして捨てた元恋人がドン底だったから拾ってやりました、けど……??

バナナ男さん

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( 晴矢 )

◇◇◇◇

「 ……あれ……? 」


気がつけば朝になっていて、ベッドの上に冬司はいなかった。


珍しいな……。

いつもはダラダラベッドの上で寝ているのに。


仕事ギリギリまで睡眠を貪り、時間になったらまるでスイッチが入った様にテキパキと動き出す冬司。

一切の無駄がないその行動も、昔は好きな所だった。


「 オンとオフの切り替えが上手くていいな。

俺はどうも無駄が多いから……。

よくそれで聖華に怒られて…………。 」


気を抜くとツン……と痛む鼻を摘んで耐え、苦痛を訴える体を動かして風呂へと向かう。


星華に会う前は、完全に冬司の臭いを消す。

そうしないと、星華の顔をまともに見れない。


「 俺がしている事って、結局は不倫だもんな……。

完全な裏切り行為だ。

しかも、普通の不倫ですらない…………。 」


必死に病と戦っている星華に比べ、最低な事をしている自分が本当に嫌で、嫌悪感は日々募っていく。


「 ……俺ってなんて無力なんだろう。

一生懸命生きてきたつもりなのに……。 」


お風呂場のガラス張りのドアを開けて中に入ると、そのままシャワーを全身に浴びた。

すると下半身からダラダラと流れていく白いモノを見下ろして、様々な想いがぐるぐると頭の中を回る。


” 情けない ”

” 無力 ”

” 汚い ”

” 最低 ”


そんな嫌な言葉が心をザクザクと抉ってくるが、それを押しのけて心を包みこんでくれたのは……星華と秋人の存在だった。


「 ……そうだった。 」


ズシンと心を重くしていたモノは全てなくなり、霞みかかっていた視界は突然晴れる。

愛している人たちのためなら、自分の正義やプライドなんてクソ喰らえだ。


「 …………。 」


俺は全身にボディーソープを浴びるようにかけると……そのままワッシャワッシャと豪快に洗い始めた。



◇◇◇◇

「 ママ!! 」


手を繋いでいたはずの秋人は母親の姿を目にすると、俺の手を振り払ってまるでロケットの様に飛んでいく。


「 秋人……! 」


星華は随分と痩せてしまったが、ベッドに横たわったまま必死に抱きついてきた秋人を抱きしめ、嬉しそうに笑った。

俺も直ぐに駆け寄って、二人に覆いかぶさる様に抱きしめると、秋人はキャ~!と悲鳴混じりに笑う。


「 パパ!重い!! 」

「 う~……まだまだ力が足りないぞ~秋人。

パパを持ち上げるくらい強くならないと! 」


秋人の後頭部にグリグリ顔をつけてやると、秋人は更に笑い、動いて擽ったかったのか星華まで笑いながら俺の肩を押してきた。


「 もう、くすぐったいよ。

今日は早かったね。いつも来てくれてありがとう、二人とも。 」


「 ……うん、今日は早く来れそうだったからさ。

せっかくだから、秋人が起きてすぐ来たんだ。 」


いつもはダラダラしている冬司が仕事に行ってから来るから昼近くになってしまうが、今日は何故か朝からいなかったから、早く会いにこれたのだ。

ちなみに俺が行くことを許されているのは、あの冬司の家とこの病院だけ。

あとは誰かが必要な物を全て揃えて持ってきてくれる……そんな怠惰な生活を続けている。


「 そっか。今日は嬉しいな!

じゃあ、秋人、昨日楽しかった事はなにかな? 」


星華がご機嫌でそう尋ねると、秋人はキラキラと目を輝かせて喋りだした。


「 朝ご飯のオムレツのスフレが美味しかったでしゅ!

あと、桃先生が僕の絵を褒めてくれたんだよ!

あとね~変な形のブランコが家にあって、パパとそれに乗って~……。

あ!オヤツはイチゴが沢山乗ったパンケーキだったよ! 」


わーい!と嬉しそうに語る秋人は本当に幸せそうで、俺は嬉しいのと同時に……チクリとした悲しみの感情が湧く。

秋人は今まで一度も我が儘は言わず、オヤツなんて殆どあげれなかったが……本当は沢山食べたい物もしたい事もあったんだなと知った。

それが親として悲しい。


「 …………。 」


しんみりしてしまったのを慌てて隠し、秋人の頭を撫でた。


「 良かったな~秋人。これからは沢山したい事をしよう。

パパ頑張るから。 」

「 うん、僕も頑張る~。 」


ニコニコ笑う秋人を見て、星華も秋人の頭を撫でる。


「 じゃあママも頑張る~。

早く病気がよくなって、また一緒に暮らそうね。 」


それは嘘。

星華に残された時間は少ない。

今だって無理して元気そうにしているのを知っている。

星華の震え始めた手を、秋人にバレる前に握りしめたら、秋人がそうだ!と今思いついたかの様に喋りだす。


「 あのね、パパの友達のトージお兄しゃんとママも友達になって、皆で遊ぼうよ!

トージ兄しゃん、凄くゲームが上手いんだ。

僕、色々教えてもらってるの。」


冬司の話題が出て、ギクリッとしてしまい体は固まった。

お金を貰って繋がっている関係は、罪悪感と後ろめたさを感じさせ、酷く居心地が悪い。

思わずタートルネックで完璧に隠れている首元を擦って、汗を掻いていると、星華はあっさりと返事を返した。


「 あ~お世話になっている晴矢の友達さんか。

本当に頭が上がらないよね。

私達家族にとって、その人は神様だ。

とりあえず今度お礼を言いたいな。 」


「 う、うん……。そ……うだな……。 」


精一杯不自然じゃない様に言うと、突然星華がゴホゴホと咳き込みだしたので、その背中を擦る。

すると星華は、フゥ……と息を吐き出した後、俺の手を握って笑った。


「 そろそろお昼寝しようかな。また後で来てね! 」

「 ……うん、分かったよ。ゆっくりおやすみ。 」


一回の面会の度に星華はこうして疲れてしまい、直ぐに眠ってしまう。

手術で苦痛に感じる部分は取り除けたが……病はどんどんと星華の命を削っているのが分かった。

本当に残された時間は少ない。

それが分かっているから、短い時間で一日に何回か会いに行く。

これが寿命を縮める行為だとしても、星華自身がそれを望んでいるから。


「 え~!まだ一緒にお話ちたい~! 」


駄々を捏ねる秋人を抱っこし部屋を出ようとすると……突然、背後から星華が話しかけてきた。



「 ありがとう。 」



その ” ありがとう ” が何に対してかは分からなかったが……俺は、振り返って「 どういたしまして。 」と返す。

そして俺は、笑顔の星華に向けて笑顔を見せた後、部屋の中を出ていった。

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