55 / 1,649
第一章(転生後、レオンハルトと出会うまで)
(カルパス)39 カルパスという男
しおりを挟む
(カルパス)
私、<カルパス・ロン・エタノール>は、現在公爵家メルンブルク家の次男リーフ様に仕える専属執事である。
元々の身分は子爵。
兄二人の三男であった私は比較的自由な環境で育ち、両親は私を愛してくれたし兄弟仲も問題なく、私は幸せに育ててもらったと思う。
ただ、物心ついた時から自身の心に、熱く燃える『怒り』が存在していた事に気づいていた。
正しくあろうとする心をあざ笑うかの様に、悪意は善者を襲う。
それに対し怒りの感情を抑えることが、私にとってはとても辛く難しい事であった。
恐らく育った環境に何か問題があったわけではない。
現に同じ環境、同じ教育方針で育った兄2人は穏やかで平和を好み、悪に対してもイシュル神の精神に則って慈悲を与えるべきだと言うような、根っからの善人達であったからだ。
両親も同様の善人で、余分なお金は貧しき人々へ────。
そのため子爵にしては非常に慎ましい生活を送っていたが、それに対し家族が不満を漏らすことは1度もなかったし、私もそんな生活に不満など持った事は一度もない。
しかし、我が家を利用し利益を貪ろうとする輩に対しては、常に怒りと不満がこの心にあった。
善良に生きている善人を陥れ自身の欲望を叶える姿、それほど醜い姿はこの世の中にありはしない。
そう思う自分はおかしいのだろうか?
最初の頃はそのことに酷く悩み、周りの人々の様に見て見ぬふりをして生きていく事────それが賢く正しい生き方であるし、そうすべきであると……そう思おうとした時もあった。
しかし、結局私にその生き方はできなかった。
その為これは生まれながらに私に備わった特性であると受け入れ、その心に従い私は精一杯生きてきたつもりだ。
そんな中、私が18の年を迎えてすぐの事。
毎週欠かさず行っていたイシュル神の礼拝で、私は運命的な出会いをした。
それがのちに私の妻となり、娘イザベルの母となる< イソラ >との出会いだ。
イソラは優しく慈悲深かったが、確固たる自分の意見を持っていて、決して人をむやみに甘やかしたりしない強い女性であった。
私はそんな彼女を心から愛し、そして彼女も私を愛してくれた。
そうして周りに祝福されながら私達は婚姻を結び、愛する人との目がくらむような幸せな日々を過ごしていたが、残念ながらその幸せは────……長くは続かなかった。
婚姻を結び少し経った頃、私達のもとに待望の新たな命が降り立つ。
それに歓喜する私達をよそに、医師は静かに告げた。
「お子を産めば奥様は死にます。
奥様は生まれつき体が弱く、出産に耐えることが出来ないでしょう。 」
そう医師は説明し最後に────「後悔のないご決断を……。」とだけ告げ、部屋を出ていった。
重々しい空気の中、長い長い沈黙が続いたが、私が先にその沈黙を破る。
「……諦めよう。」
未だ一言も発しないイソラに対し、私はポツリと呟いた。
新たに生まれようとする命。
しかも愛する人との子供を諦めるなど、それがどんなに辛い選択であるか……。
私の心がズタズタに引き裂かれた様に痛んだが、イソラを失う事など私には考えられない。
苦渋の決断をするしかなかった。
しかし、イソラは決して首を縦に振ってはくれない。
彼女は自身の命より生まれてくる子供の命を選んだのだ。
そしてイソラは最後までその選択を貫き通し、イザベルを出産した後は……幸せそうな笑みを浮かべたままイシュル神の元へと旅立っていった。
イソラが残してくれた世界で一番大事な宝物。
私は娘が愛おしい。
イソラが自身の命をかけてでも産むと決めた時、その選択を恨んだ事もあった。
だが、今はその気持ちが痛いほど分かる。
子供とは親にとって、かけがえのない存在であり、それこそ命に変えてでも守りたい存在であった。
それをイソラは産む前から知っていたのだ。
改めて彼女の強さを思い知らされ、今はイザベルをこの世に産み落としてくれた感謝の気持ちがこの胸を占めている。
そうして何事もなくイザベルはすくすくと育っていき、仕事も順調に出世していった頃。
実力を高く買われ公爵家メルンブルク家の執事長にどうだろうかと、当主のカール様から直々の指名があった。
公爵家メルンブルク家は王族に次ぐ権力をもつ貴族の頂点に立つ大貴族で、いくら仕事で高い地位を得ていたとしても、その話を断ることは不可能。
当時の仕事場の上司にそう告げられ、私はメルンブルク家の執事長になったのだった。
私、<カルパス・ロン・エタノール>は、現在公爵家メルンブルク家の次男リーフ様に仕える専属執事である。
元々の身分は子爵。
兄二人の三男であった私は比較的自由な環境で育ち、両親は私を愛してくれたし兄弟仲も問題なく、私は幸せに育ててもらったと思う。
ただ、物心ついた時から自身の心に、熱く燃える『怒り』が存在していた事に気づいていた。
正しくあろうとする心をあざ笑うかの様に、悪意は善者を襲う。
それに対し怒りの感情を抑えることが、私にとってはとても辛く難しい事であった。
恐らく育った環境に何か問題があったわけではない。
現に同じ環境、同じ教育方針で育った兄2人は穏やかで平和を好み、悪に対してもイシュル神の精神に則って慈悲を与えるべきだと言うような、根っからの善人達であったからだ。
両親も同様の善人で、余分なお金は貧しき人々へ────。
そのため子爵にしては非常に慎ましい生活を送っていたが、それに対し家族が不満を漏らすことは1度もなかったし、私もそんな生活に不満など持った事は一度もない。
しかし、我が家を利用し利益を貪ろうとする輩に対しては、常に怒りと不満がこの心にあった。
善良に生きている善人を陥れ自身の欲望を叶える姿、それほど醜い姿はこの世の中にありはしない。
そう思う自分はおかしいのだろうか?
最初の頃はそのことに酷く悩み、周りの人々の様に見て見ぬふりをして生きていく事────それが賢く正しい生き方であるし、そうすべきであると……そう思おうとした時もあった。
しかし、結局私にその生き方はできなかった。
その為これは生まれながらに私に備わった特性であると受け入れ、その心に従い私は精一杯生きてきたつもりだ。
そんな中、私が18の年を迎えてすぐの事。
毎週欠かさず行っていたイシュル神の礼拝で、私は運命的な出会いをした。
それがのちに私の妻となり、娘イザベルの母となる< イソラ >との出会いだ。
イソラは優しく慈悲深かったが、確固たる自分の意見を持っていて、決して人をむやみに甘やかしたりしない強い女性であった。
私はそんな彼女を心から愛し、そして彼女も私を愛してくれた。
そうして周りに祝福されながら私達は婚姻を結び、愛する人との目がくらむような幸せな日々を過ごしていたが、残念ながらその幸せは────……長くは続かなかった。
婚姻を結び少し経った頃、私達のもとに待望の新たな命が降り立つ。
それに歓喜する私達をよそに、医師は静かに告げた。
「お子を産めば奥様は死にます。
奥様は生まれつき体が弱く、出産に耐えることが出来ないでしょう。 」
そう医師は説明し最後に────「後悔のないご決断を……。」とだけ告げ、部屋を出ていった。
重々しい空気の中、長い長い沈黙が続いたが、私が先にその沈黙を破る。
「……諦めよう。」
未だ一言も発しないイソラに対し、私はポツリと呟いた。
新たに生まれようとする命。
しかも愛する人との子供を諦めるなど、それがどんなに辛い選択であるか……。
私の心がズタズタに引き裂かれた様に痛んだが、イソラを失う事など私には考えられない。
苦渋の決断をするしかなかった。
しかし、イソラは決して首を縦に振ってはくれない。
彼女は自身の命より生まれてくる子供の命を選んだのだ。
そしてイソラは最後までその選択を貫き通し、イザベルを出産した後は……幸せそうな笑みを浮かべたままイシュル神の元へと旅立っていった。
イソラが残してくれた世界で一番大事な宝物。
私は娘が愛おしい。
イソラが自身の命をかけてでも産むと決めた時、その選択を恨んだ事もあった。
だが、今はその気持ちが痛いほど分かる。
子供とは親にとって、かけがえのない存在であり、それこそ命に変えてでも守りたい存在であった。
それをイソラは産む前から知っていたのだ。
改めて彼女の強さを思い知らされ、今はイザベルをこの世に産み落としてくれた感謝の気持ちがこの胸を占めている。
そうして何事もなくイザベルはすくすくと育っていき、仕事も順調に出世していった頃。
実力を高く買われ公爵家メルンブルク家の執事長にどうだろうかと、当主のカール様から直々の指名があった。
公爵家メルンブルク家は王族に次ぐ権力をもつ貴族の頂点に立つ大貴族で、いくら仕事で高い地位を得ていたとしても、その話を断ることは不可能。
当時の仕事場の上司にそう告げられ、私はメルンブルク家の執事長になったのだった。
116
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる
路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか?
いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ?
2025年10月に全面改稿を行ないました。
2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。
2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。
2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。
2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる