【第一部完結】天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

バナナ男さん

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第四章(メルンブルク家の様子、大樹の過去と結婚式について、リーフ邸襲撃事件)

(???)176 終わり

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(???)

女は焦っていた。

足元には大きめのトランクが一つと2つの小さなバックが置かれ、顔にはストールを被り今か今かと馬車が到着する予定の場所に一人佇んでいる。

もうすぐ朝日が昇る
始発の馬車はもう間もなく到着するはずで、それに乗れば女の実家のある領まで最短で着くことができる。
しかしなかなか到着しない馬車に焦る心を抑えつつ、女は公爵家で飼っているあの『化け物』について考えた。

きっと今頃あの化け物は殺されているだろう。

私がやってやったのだ。
あの神に仇なす大罪人を、この私が裁いてやったのだ!!

そう世界の中心部で声高々に叫びたいくらい、この胸には達成感と高揚感、そして自分の『正しい』世界と一体化することが出来た!という心地よい快感に、身体は包み込まれた。

後は急いでこの場所を離れ、自身の実家の領にさえ逃げ込んでしまえば、私を溺愛する父が多少の疑いはもみ消してくれるだろう。
そう考え、焦る心は多少の落ち着きを取り戻す。

「…………。」

そうして少し気持ちの余裕が出てくると、次にフッと浮かんだのは、あの『化け物』の飼い主である子供のことだ。

貴族の『き』の字もないみすぼらしい外見と、美しさも気品も優雅さも何もかもがないあの存在。
正直目障りで仕方なく、最大限の嫌味や皮肉を混ぜてぶつけていたが────外見同様、頭も残念なあの子供には何一つ伝わっている感じは見受けられなかった。

自分の『正しい』価値観に全くもってそぐわぬその存在を見て、毎日毎日必死で怒りを飲み込んだ日々は本当に辛いものであったが……それもやっとお終い!

スッキリした気持ちでまだ薄暗い空を見上げて、ハァ~……と満足気に息を吐き出した。

流石に公爵家のご子息に手を出すわけにはいかない。
だからそちらへは手を出せなかったが、お気に入りのおもちゃを壊してやって多少は怒りを晴らす事ができた。
それでよしとしよう。

その子供の泣き叫ぶ顔を想像して、思わずふっと笑いを漏らす。


私は裕福な男爵家の長女として生まれた。
溺愛してくれる両親、恵まれた教育環境、不自由の『ふ』の字もない満たされた生活。
そんな最高の環境の中、貴族としての誇りを忘れることなく生きてきた。

望めばなんでも手に入り、身の回りの事は全て使用人がしてくれるモノ。
そんな生活が『普通』であった私にとって、あくせくと毎日身を粉にして働かなければならない平民は、可哀想にと鼻で笑ってしまう存在でしかなかった。

人の価値はその身分で変わるもの。
生まれた時点で、その身分にふさわしい態度と行動をしっかりと心がけることは、人としての義務であり、自分の価値を高めるモノだ。

それにふさわしくない存在は罪人と同じ。
そのルールに則って、幼き頃より私は貴族の娘としてふさわしい教養とマナーを身につけ、まさに今、価値ある人間としてこうして日々を生きている。

そんな私と、あんな泥と埃で汚れた無作法で不潔な平民が、一体どこをどう見たら同価値の人間であると言えるのか?

それを『同価値』と宣言する者は『世界』の大罪人だ。
その全てが間違っていると、私は私の今までの人生全てを持ってそう断言することができる。

そうして自分の『正しい』考えに酔いしれていると、あたりにポツポツと人がまばらにうろつき始めた事に気づき、私は盛大に顔をしかめる。

道を歩くは、平民、平民、平民────……相変わらずのみすぼらしく汚らしい姿をしている事にうんざりし、私は直ぐに視線を逸らした。

あんなに汚い姿になってまで、彼らは生きたいと思うものなのだろうか?
泥にまみれて地面を這いずり回るくらいなら死んだほうがマシではないか。

私はつくづくそう思う。
つい堪えきれない不快なため息を漏らしていると、やっとカラカラカラと馬車の車輪が回る音と馬の蹄の音が聞こえ顔をあげた。

あぁ、やっと馬車が来たのか。

そう思い、音が鳴る方へと視線を向けると、一台の馬車がこちらに向かって走って来るのが見えた。
ホッ……としながら、足元にある荷物を持ち上げ乗り込む準備をすると、馬車は私の目の前で止まる。
そして、ゆっくりと扉が開いていくのを見て、私はフフッと笑った。

目障りだった罪人は裁いた。
悪しき者が消え去った一片の曇りもない私の『正しい』世界へ帰ろう。

その一歩を踏み出そうとした、その時────……。


「おはようございます。マリアンヌ様。朝早くからご苦労さまです。
────さぁ、お乗り下さい。」


清涼感のある声と共に馬車の中から降りて来た人物を見て、一気に血の気が引く。
そのまま小さく震え始めた私の前にいるのは────穏やかな笑みを浮かべたカルパス様であった。

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