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第六章(ライトノア学院試験編、ソフィアとアゼリア、レイドとメル、リリアとサイモンとの出会い)
(ソフィア)304 人が越えてはいけない線
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(ソフィア)
もしかして戦いの中で失ってしまったのだろうか?
その時の痛みを想像し、思わず痛ましい表情を浮かべながら、私はその男性に声をかける。
「あの……申し訳ありませんが、ここが何処かご存知ですか?」
返事は返ってこなかった。
「騎士団に所属されているお方ですか?」
これも全く反応がない。
その後も思いつく限りの言葉をその男性にぶつけたが、何一つ返ってはこず……心底困り果てていた、その時だった。
────ヒュゥ……。
優しく撫でるような風が突然その場に吹き、その男性の髪がサラサラと僅かに揺らめく。
すると今まで一切の反応がなかったその男性の肩がピクッと動き、風が吹いてきた方向……左の方へとその顔を向けた。
そのお陰で見えるようになった横顔を見る限り、歳は恐らく20に届いてないくらい?
そして見えている部分だけでも、人を圧倒する様な美しさを持った男性である事が分かる。
しかしそんな美しい顔面には、左目を縦一直線に切り裂いた跡が存在しており、残念ながらその瞳は見えなかった。
その男性はジッとその方向を見つめ続け、やがて────ニコッと笑った。
私のような貼り付けた笑顔ではなく、幸せで幸せで仕方がないという様な溢れんばかりの笑顔。
まるで先程見た赤ん坊と同じ笑顔の様な……。
私がポカンとそれを眺めていると、その男性は小さな声で囁いた。
「あぁ、そこにいましたか。====様。」
聞き取るのが難しいほど小さな声は、私の耳を風の様に通り過ぎていき、突然景色がまた変わる。
晴れやかな空、木は生い茂り、あたり一面花が咲く……そこはまるで楽園の様に美しい場所になってしまった。
「な……なんてこと……。」
目を見開きながら辺りを見渡していると、目の前の男性はゆっくりと、視線を向けていた方向へと歩きだした。
一点を見つめ、幸せそうな笑みを浮かべたままで。
………………。
────ハッ!!
パチっと瞬きをすれば、元の現実が目の前に現れる。
ライトノア学院の闘技場。
隣にはアゼリア、そして周りには他の受験生達の姿があった。
「…………?」
先ほど見たモノと現実が噛み合わなくて、ボンヤリしながらも慌ててレオン様の方へ視線を戻せば、その背にはリーフ様が乗っている。
この状況は……??と疑問を持った瞬間────……レオン様が一瞬私の方へと視線を向けた。
────────次はない。
一瞬で理解させられたレオン様と私の……いえ、他者との『境界線』。
それを超えてしまえば、私はきっとあの黒に……。
────ゾッ!!
底しれぬ恐怖が体中を走り抜け、直ぐにレオン様から目を反らし、その恐怖を必死に抑えながら私は考える。
あんなものが、エドワードお兄様に見つかれば大変な事になる!
今ある勢力図を根本から塗り替えられる力、最初に感じた通り、あれは『人ならざる力』であるに違いない。
そしてその考えは正しかったということが、あのエドワードお兄様が中学院に送りつけた<ジュワン>という男によって証明されてしまった。
<ジュワン>は黒い噂の絶えない男で、残忍で冷徹な性格と、身分制度に対する過激な思想を持ってエドワードお兄様専属の騎士をしている男であった。
勿論その思想だけで抜擢されたわけではなく実力も相当高く、流石はナンバーワン中学院に堂々と送り込んできた人物だと言わざるを得ない男であったというのに……気がつけば<ジュワン>は倒れていた。
生きるために必要な大部分を失った姿で。
一体何があったのか?
純粋な戦闘職ではない私には全く分からず、隣に立つアゼリアに説明を求めて視線を向けたが、アゼリアは真っ青な顔でガタガタと震えていて、聞かずともありえない事が起きたのだということは分かった。
周囲を見回せば、他の受験生達も教員さえも同様であったため、私同様何が起きたのか全く分からなかった者たちにもその恐怖は伝わっていく。
私は思わず笑ってしまった。
だってこんなどうしようもない存在……どうすればいいの???
一歩間違えればこの国どころか、もしかしてこの世界までも一瞬で……?
多分そう思ったのは私だけではない様で、そのまま誰も彼もが動けない中、当の本人はリーフ様を攫う様にその場を去り、残るは真っ赤に染まったリングと錯乱するジュワンだけ。
ジュワンはお腹を擦りながら、やっと自身が負けたことを理解すると、あろうことか近くの受験生に斬りかかろうとし、教員達総出でそれを防ぐ。
ジュワンほどの実力者相手では、殺さず押さえつけるのは難しく、ましてや他の受験生達を守りながらとなると、それなりに時間がかかってしまった。
そして────それに時間がかかればかかるほど、そんなジュワンを相手に一瞬で……という事実に恐怖は増していく。
もしかして戦いの中で失ってしまったのだろうか?
その時の痛みを想像し、思わず痛ましい表情を浮かべながら、私はその男性に声をかける。
「あの……申し訳ありませんが、ここが何処かご存知ですか?」
返事は返ってこなかった。
「騎士団に所属されているお方ですか?」
これも全く反応がない。
その後も思いつく限りの言葉をその男性にぶつけたが、何一つ返ってはこず……心底困り果てていた、その時だった。
────ヒュゥ……。
優しく撫でるような風が突然その場に吹き、その男性の髪がサラサラと僅かに揺らめく。
すると今まで一切の反応がなかったその男性の肩がピクッと動き、風が吹いてきた方向……左の方へとその顔を向けた。
そのお陰で見えるようになった横顔を見る限り、歳は恐らく20に届いてないくらい?
そして見えている部分だけでも、人を圧倒する様な美しさを持った男性である事が分かる。
しかしそんな美しい顔面には、左目を縦一直線に切り裂いた跡が存在しており、残念ながらその瞳は見えなかった。
その男性はジッとその方向を見つめ続け、やがて────ニコッと笑った。
私のような貼り付けた笑顔ではなく、幸せで幸せで仕方がないという様な溢れんばかりの笑顔。
まるで先程見た赤ん坊と同じ笑顔の様な……。
私がポカンとそれを眺めていると、その男性は小さな声で囁いた。
「あぁ、そこにいましたか。====様。」
聞き取るのが難しいほど小さな声は、私の耳を風の様に通り過ぎていき、突然景色がまた変わる。
晴れやかな空、木は生い茂り、あたり一面花が咲く……そこはまるで楽園の様に美しい場所になってしまった。
「な……なんてこと……。」
目を見開きながら辺りを見渡していると、目の前の男性はゆっくりと、視線を向けていた方向へと歩きだした。
一点を見つめ、幸せそうな笑みを浮かべたままで。
………………。
────ハッ!!
パチっと瞬きをすれば、元の現実が目の前に現れる。
ライトノア学院の闘技場。
隣にはアゼリア、そして周りには他の受験生達の姿があった。
「…………?」
先ほど見たモノと現実が噛み合わなくて、ボンヤリしながらも慌ててレオン様の方へ視線を戻せば、その背にはリーフ様が乗っている。
この状況は……??と疑問を持った瞬間────……レオン様が一瞬私の方へと視線を向けた。
────────次はない。
一瞬で理解させられたレオン様と私の……いえ、他者との『境界線』。
それを超えてしまえば、私はきっとあの黒に……。
────ゾッ!!
底しれぬ恐怖が体中を走り抜け、直ぐにレオン様から目を反らし、その恐怖を必死に抑えながら私は考える。
あんなものが、エドワードお兄様に見つかれば大変な事になる!
今ある勢力図を根本から塗り替えられる力、最初に感じた通り、あれは『人ならざる力』であるに違いない。
そしてその考えは正しかったということが、あのエドワードお兄様が中学院に送りつけた<ジュワン>という男によって証明されてしまった。
<ジュワン>は黒い噂の絶えない男で、残忍で冷徹な性格と、身分制度に対する過激な思想を持ってエドワードお兄様専属の騎士をしている男であった。
勿論その思想だけで抜擢されたわけではなく実力も相当高く、流石はナンバーワン中学院に堂々と送り込んできた人物だと言わざるを得ない男であったというのに……気がつけば<ジュワン>は倒れていた。
生きるために必要な大部分を失った姿で。
一体何があったのか?
純粋な戦闘職ではない私には全く分からず、隣に立つアゼリアに説明を求めて視線を向けたが、アゼリアは真っ青な顔でガタガタと震えていて、聞かずともありえない事が起きたのだということは分かった。
周囲を見回せば、他の受験生達も教員さえも同様であったため、私同様何が起きたのか全く分からなかった者たちにもその恐怖は伝わっていく。
私は思わず笑ってしまった。
だってこんなどうしようもない存在……どうすればいいの???
一歩間違えればこの国どころか、もしかしてこの世界までも一瞬で……?
多分そう思ったのは私だけではない様で、そのまま誰も彼もが動けない中、当の本人はリーフ様を攫う様にその場を去り、残るは真っ赤に染まったリングと錯乱するジュワンだけ。
ジュワンはお腹を擦りながら、やっと自身が負けたことを理解すると、あろうことか近くの受験生に斬りかかろうとし、教員達総出でそれを防ぐ。
ジュワンほどの実力者相手では、殺さず押さえつけるのは難しく、ましてや他の受験生達を守りながらとなると、それなりに時間がかかってしまった。
そして────それに時間がかかればかかるほど、そんなジュワンを相手に一瞬で……という事実に恐怖は増していく。
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