【第一部完結】天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

バナナ男さん

文字の大きさ
320 / 1,649
第六章(ライトノア学院試験編、ソフィアとアゼリア、レイドとメル、リリアとサイモンとの出会い)

(ソフィア)304 人が越えてはいけない線

しおりを挟む
(ソフィア)

もしかして戦いの中で失ってしまったのだろうか?
その時の痛みを想像し、思わず痛ましい表情を浮かべながら、私はその男性に声をかける。

「あの……申し訳ありませんが、ここが何処かご存知ですか?」

返事は返ってこなかった。

「騎士団に所属されているお方ですか?」

これも全く反応がない。
その後も思いつく限りの言葉をその男性にぶつけたが、何一つ返ってはこず……心底困り果てていた、その時だった。

────ヒュゥ……。

優しく撫でるような風が突然その場に吹き、その男性の髪がサラサラと僅かに揺らめく。
すると今まで一切の反応がなかったその男性の肩がピクッと動き、風が吹いてきた方向……左の方へとその顔を向けた。
そのお陰で見えるようになった横顔を見る限り、歳は恐らく20に届いてないくらい?
そして見えている部分だけでも、人を圧倒する様な美しさを持った男性である事が分かる。
しかしそんな美しい顔面には、左目を縦一直線に切り裂いた跡が存在しており、残念ながらその瞳は見えなかった。
その男性はジッとその方向を見つめ続け、やがて────ニコッと笑った。

私のような貼り付けた笑顔ではなく、幸せで幸せで仕方がないという様な溢れんばかりの笑顔。
まるで先程見た赤ん坊と同じ笑顔の様な……。

私がポカンとそれを眺めていると、その男性は小さな声で囁いた。

「あぁ、そこにいましたか。====様。」

聞き取るのが難しいほど小さな声は、私の耳を風の様に通り過ぎていき、突然景色がまた変わる。
晴れやかな空、木は生い茂り、あたり一面花が咲く……そこはまるで楽園の様に美しい場所になってしまった。

「な……なんてこと……。」

目を見開きながら辺りを見渡していると、目の前の男性はゆっくりと、視線を向けていた方向へと歩きだした。

一点を見つめ、幸せそうな笑みを浮かべたままで。


………………。


────ハッ!!
パチっと瞬きをすれば、元の現実が目の前に現れる。

ライトノア学院の闘技場。
隣にはアゼリア、そして周りには他の受験生達の姿があった。

「…………?」

先ほど見たモノと現実が噛み合わなくて、ボンヤリしながらも慌ててレオン様の方へ視線を戻せば、その背にはリーフ様が乗っている。

この状況は……??と疑問を持った瞬間────……レオン様が一瞬私の方へと視線を向けた。


────────次はない。


一瞬で理解させられたレオン様と私の……いえ、他者との『境界線』。
それを超えてしまえば、私はきっとあの黒に……。

────ゾッ!!
底しれぬ恐怖が体中を走り抜け、直ぐにレオン様から目を反らし、その恐怖を必死に抑えながら私は考える。
  
が、エドワードお兄様に見つかれば大変な事になる!

今ある勢力図を根本から塗り替えられる力、最初に感じた通り、あれは『人ならざる力』であるに違いない。
そしてその考えは正しかったということが、あのエドワードお兄様が中学院に送りつけた<ジュワン>という男によって証明されてしまった。

<ジュワン>は黒い噂の絶えない男で、残忍で冷徹な性格と、身分制度に対する過激な思想を持ってエドワードお兄様専属の騎士をしている男であった。
勿論その思想だけで抜擢されたわけではなく実力も相当高く、流石はナンバーワン中学院に堂々と送り込んできた人物だと言わざるを得ない男であったというのに……気がつけば<ジュワン>は倒れていた。

生きるために必要な大部分を失った姿で。

一体何があったのか?
純粋な戦闘職ではない私には全く分からず、隣に立つアゼリアに説明を求めて視線を向けたが、アゼリアは真っ青な顔でガタガタと震えていて、聞かずともありえない事が起きたのだということは分かった。

周囲を見回せば、他の受験生達も教員さえも同様であったため、私同様何が起きたのか全く分からなかった者たちにもその恐怖は伝わっていく。

私は思わず笑ってしまった。

だってこんなどうしようもない存在……どうすればいいの???
一歩間違えればこの国どころか、もしかしてこの世界までも一瞬で……?

多分そう思ったのは私だけではない様で、そのまま誰も彼もが動けない中、当の本人はリーフ様を攫う様にその場を去り、残るは真っ赤に染まったリングと錯乱するジュワンだけ。
ジュワンはお腹を擦りながら、やっと自身が負けたことを理解すると、あろうことか近くの受験生に斬りかかろうとし、教員達総出でそれを防ぐ。
ジュワンほどの実力者相手では、殺さず押さえつけるのは難しく、ましてや他の受験生達を守りながらとなると、それなりに時間がかかってしまった。
そして────それに時間がかかればかかるほど、そんなジュワンを相手に一瞬で……という事実に恐怖は増していく。

しおりを挟む
感想 274

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか? いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ? 2025年10月に全面改稿を行ないました。 2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。 2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。 2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。 2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。 第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

無能と呼ばれた婚約者は王を完成させる〜替え玉婚約者のはずが、強すぎる王太子に手放してもらえません〜

統子
BL
兄の身代わりとして王太子の婚約者になった伯爵家次男リュシー。 嘘の名を名乗ったはずが、冷静で誠実な王太子リオンは彼を「力の装置」としてではなく、対等な伴侶として扱おうとする。 本物になりたいと願う替え玉と、完成された王太子の静謐な王宮ロマンス。

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

処理中です...