【第一部完結】天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

バナナ男さん

文字の大きさ
340 / 1,649
第七章(試験後、レオンと娼館、アントンと呪いについて、リーフ暗殺計画)

(アントン)324 呪いの恐怖

しおりを挟む
(アントン)

ムシャムシャと地震モグラの串に刺さっている肉を1つ食べ終えたリーフ様は、当然の様に後ろにいるレオンにその串を近づける。
するとレオンは今までの無表情から一変、幸せで幸せで仕方がないといわんばかりに笑みを浮かべながら、その串肉を食べ始めた。

きっとこの光景だけを切り取れば、微笑ましい子供同士のコミュニケーションなのだろうが、傭兵の勘が全力で鳴らす正体不明の警戒音と『呪い』自体に対する恐怖、そして……何よりレオンの持つ非常に狭い世界観を考えると、ある恐ろしい出来事を思い出し、どうしても微笑ましいという言葉が思い浮かばない。

俺が初めてレオンを見た時感じたのは『呪い』という存在自体に対する恐怖であった。
黒髪に黒い瞳は、それほど厳粛なイシュル信者ではない俺からしたら大したモノではない。
ましてや傭兵なんてものをやっているとそれ以上に強烈なモノを見ることは多々あったので、格別気になるものではなかったが─────『呪い』は別だ。

俺の脳裏には、今でも忘れることが出来ない1つの事件が思い浮かぶ。

ある村で『呪い』が発生しその鎮圧に駆り出された時の事。
その当時はまだ呪いというものに関して軽く考えていた節があり、とりあえず生還者の保護を第一にと考えていたが─────それは現場に向かうまでであった。
到着した時、村を囲うように結界が張られているのが目に入り、既に到着して入り口辺りに集まっていた他の傭兵達のところへと急いだが、その表情は一様に暗い。
それに一瞬驚いて足を止めたが、結界の中では沢山の人々の苦痛を訴える大きな悲鳴が上がっていたため我に返る。

「急いで救出を!」

直ぐに中に入ろうとしたのだが……メンバーの中でも最年長であろう男が俺の行動を制し、静かに言った。

「手遅れだ。」─────と。

しかし、目と鼻の先にまだ生きている人達が沢山いる。
助けないわけには……と訴えるような視線を向けたが、その男は俺の視線に動揺することなく淡々と話しだした。

「伝染型の呪いだ。少しでも触れれば死ぬ。
俺達に今出来るのは、感染した者達が外に出られないようこのまま閉じ込める事だけだ。
呪いを掛けた奴はこの村の中にいるから、村人が全員死んだ後、一気に片付ける。」

「そんな……。」

なんとかならないのかと目で訴える俺に向かい、悲痛な表情を浮かべた男が更に語ったのは、何故『呪い』が発生したのかという理由だった。

『呪い』を発生させたのはこの村の村人である1人の青年。
彼には生まれた時から両親はおらず、この閉鎖的な村では厄介者として扱われてきたらしい。
それに加えて、貧しくて娯楽も一切ないような限界集落の中、これといって代わり映えのない日常を村人達は、その青年を使って退屈や不満を発散してきたのだそうだ。
そんな長く続く辛い日々の中、彼が外の世界に逃げ出そうとしても唯一の娯楽と言っても良いその青年を逃したくない村人達はそれを許さない。
洗脳に近い暴言に酷い暴力、そして逃げるための知識すら全て奪い『逃げる』という概念そのものを取り上げ、彼を自分たちにとって都合がよい存在で有り続ける事を強いてきた。

そうして他者のためにその人生が消費されていく中、彼は1人の女性と出会い恋に落ちる。
そして彼女もまた酷い環境の中耐え続ける青年に恋をし、その青年の待遇について村人達に必死に訴えを続けたのだが……それが気に入らなかった村長の息子と仲間たちが、その女性を力づくで襲おうとし、抵抗されたためそのまま殺してしまったのだそうだ。

あまりにも身勝手極まりない事件に、犯人達にはそれ相応の罰が与えられる……はずが、村人達は誰一人それを咎め罰する事をしようとせず、それどころかそれがさも当たり前の事であるかの様に言った。

『あんな厄介者に惚れて、平穏な村を陥れようとするような女、死んで当然でしょう?』

『お前が厄介者だったから死んだんだろ?そんな当たり前の事を他人のせいにするなよ。』

そう口々に男を責めながら……。

それぞれの村や街で起きた事件は、基本その中で解決するよう法律で決まっているため、こういったケースの場合、被害者は村の中以外助けを呼ぶことができなければ、大抵は泣き寝入りするしかない。

酷い話だがそれは格別珍しい事ではなく、権力を持った人を『正しい』とし、それにあやかりたい、もしくは自分に関係ない事だから事を荒立てたくない、今いる『居心地のいい環境』を壊したくないと考える者たち総出で事件をもみ消すなんて事は、小さな村や街ではよくあることだ。
しかし、今回はそれが原因で『呪い』が発生してしまい、あっという間に村人全員が感染してしまった。
傭兵達が駆けつけた時には、もう手遅れであったらしい。

そのため直ぐに結界を張り、村の人達を全員閉じ込めたのだが……どうやら効くまでに時間がかかる遅行型の呪いだったようで、まだ苦痛を感じていない村人達が、結界の中からずっと叫んでいたそうだ。

『人でなし!』

『早く俺達を助けろ!!それが仕事だろうがっ!』

そう散々喚いていたが、顔色1つ変えない傭兵達に対し、やがて青ざめポツリポツリと今回の経緯について懺悔する様に話し始めたのだそうだ。
馬鹿な事を……と思った傭兵達は大きなため息をつき「村の中の事はその中で解決するべきなんだろう?」と皮肉を込めて言えば、村人達は顔を大きく歪めて怒鳴る。

「なぜ直接関わっていない無関係の自分達まで犠牲にならなければならないんだ!」

「そうだ!!悪いのは直接事件を起こした村長の息子たちだろう!!?」

本気で怒りを顕にする村人達へ、傭兵達は最終宣告を叩きつけた。

「結局、何もしない、目を瞑り犠牲ありきの自分にだけ居心地のいい場所を選んだのなら、そこに破滅が来た場合はそれと共に滅ぶのが筋というもの。」

「自分が助けて欲しい時も同様に、見て見ぬふりをされても文句は言えないだろう。
それが己の欲を優先した世界の『代償』なんじゃないのか?」

そう傭兵達が言い放つと、村人達は真っ青な顔をして震えだす。
そんな村人達を見ながら、最後にもう一度大きなため息をつき傭兵達は続けて言った。

「そもそもの原因を作った村長の息子たちの死体だけでも差し出せば……もしかして許してくれるかもな?」

すると村人達の怒りはその村長の息子たちへ。
その怒りに震え上がった元凶の村長の息子たちは、その場から慌てて逃げていったが村人達はそれを追いかけ村の中央の方に走って行ってしまったのだそうだ。

俺はそこまで聞いた後、呆れてはぁ……とため息をつき、他の傭兵達と同様「なんて馬鹿なやつらだ……。」と呟く。
そしてこの世の終わりでも来たのか?と言いたくなるような数々の苦痛の悲鳴を聞きながら、それが止むのをひたすら待った。
しおりを挟む
感想 274

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか? いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ? 2025年10月に全面改稿を行ないました。 2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。 2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。 2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。 2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。 第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

処理中です...