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第十六章
607 恐ろしい未来へ
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( ジェニファー )
先程の上機嫌な様子とは一変……またいつもの様に何かに追い詰められている様な薄暗い表情を見せるクラークへ、私は視線を気づかれない様に向けた。
ソフィア様が狙われているならば、まず初めに命を落とすのは専属聖兵士の< アゼリア >だ。
それをクラークは理解しているはずだが……それについてどう思っているのかは知らない。
恐らくクラークは、心の底からアゼリアを恨んでいるのではと思う。
自分の母を悲しませ、家族をめちゃくちゃにした不義の子供であるアゼリアを。
勿論本人が悪いわけでないと分かってはいるだろうが……恐らくはアゼリアに勝って、失った家の名誉と家族を守りたい、その一心でここまで必死に過ごしてきたのだろうと思われる。
しかし────それはアゼリアの命を奪ってまで叶えたい事ではないはずだ。
……つくづく私とクラークは似ている。
笑いがおさまった後は、お互い無言のまま馬車は進んでいき、窓の外は景色を変えていった。
私はクラークから視線を外し、何気なくそちらへ視線を向けると……いつの間にか空はどんよりと曇っている様で少々薄暗い事に気づく。
もしかしたら一雨来るかも?
そう予想しながら、バラのブローチと共に来ていた父の手紙の最後に、何やら不可解な事が書かれていた事をフッと思い出した。
” 時が来たらお迎えを出す。
何も心配せずにそれに乗りなさい。
────大丈夫。
お前に危険な事は何一つおきはしないから。 ”
この文面から察するに、近々よくない事が起きるのではないか?……そんな不安が心を過ぎりゾッとした。
今直ぐ誰か相談した方がいい?
でも誰に?
それがバレてしまったらエドワード派閥がどう出てくる?
そうしたら父は……?
迷って迷って迷って…………結局私は動けない。
────ミシッ……。
自身の手にある扇子から小さな軋む音が聞こえて、私は慌てて力を緩めると、本当に唐突に ” リーフ様 ” の事を思い出した。
家族の愛を何一つ受けずに育ち、それでも周りに全く影響されずに前に進み続ける彼の事を。
────凄いな。
自分とのあまりの違いに単純にそう思う。
あの強さは私の様に迷える者にとっては眩しい存在で、それと同時に他人を何としても蹴落としたいと考える ” 悪 ” にとっては天敵とも言える存在だ。
更に、あのメルンブルク家の唯一絶対の弱点である ” リーフ様 ” が、今後の派閥による争いの中心になるであろう事は目に見えている。
それを見越して三者三様、様々な思惑を持って彼に接触しようとするだろうと思われるが────そう上手くはいかないだろう。
何故なら本人の性格もさることながら、とびきりの存在が彼の側にいるからだ。
私の頭の中のリーフ様の姿が徐々に霞み、代わりに浮かんできたのは世にも恐ろしい怪物の姿。
イシュル教会最大の禁忌と言われている ” 黒 ” の髪と瞳を持ち、左半身はまるで呪われているかの様な姿。
< 奴隷のレオン >
この存在こそが全ての派閥……それどころか。全世界の命運を握ってもおかしくはないイレギュラーな存在になることは間違いない。
その姿を思い出すだけで、私の身体はブルッ……と震えた。
「 寒くなってきましたね。窓を閉めましょうか? 」
そう気遣ってくれるクラークに私は首を振り、そのままクラークに話しかける。
「 ……クラーク。ご両親にレオン様の事はどう伝わっているかしら? 」
唐突な質問にクラークは一瞬戸惑いを見せたが、直ぐにその感情を引っ込め淡々と答えた。
「 ご心配なく。試験での結果は全てリーフ様の酔狂であると伝えてあります。
エドワード派閥である両親は、それが真実であるかどうか調べたくとも調べる事は出来ないでしょう。
それがメルンブルク家にバレれば、今の立場が危うくなるでしょうから。 」
「 そう……。なら良いわ。 」
私は扇子を開いて口元を隠すと、ホッと息を吐いた。
あんな恐ろしい存在がエドワード様にバレれば世界は終わる。
あの存在はもはや ” 人 ” などではない。
人の手に余る…… ” 神の作りし兵器 ” と言ってもいいほどだ。
初めて見た時はあの姿に、そしてその後はあの圧倒的とも言える力にどうしようもない恐怖を抱いた。
まさに ” 世界を変えうる力 ”
それを初めてこの目で見て、ライトノア学院の試験の時には、怖くて怖くて仕方がなかった。
奴隷という立場など恐らくあんなものには通用しない。
” もし、今直ぐ主人であるリーフ様を亡き者にし暴れだせば? ”
” もしその力を悪しき者のために使い始めたら? ”
” ────もし、自身を奴隷にし、虐げてきたであろう世界に復讐してやろうと考えたら? ”
現在絶対の力であるとされる ” 身分 ” など、あの圧倒的な ” 力 ” の前では紙の盾も同然だろう。
そんな恐怖を抱きながらの試験であったが、途中でどうも様子がおかしいと気づき、私は首を傾げる。
どうもレオン様は奴隷にしては異常なまでに主人であるリーフ様に尊敬の念を抱いている様子であったからだ。
これは少々……いや、かなりおかしい。
そもそも奴隷は主人を酷く憎んでいるはずなのに、なぜこんな盲信的に主人を崇拝しているのか?と、それにまた別の恐怖を抱いた。
更にこれを平然と受け入れ、何一つ心にさざ波すら立たぬリーフ様にも……。
この二人の関係性はまだよく分からず、共依存に近いようでそうではなく一方通行の様に見えてそういうわけでもない様で、正直理解し難い。
ただそういった関係性の事は置いておいて、とにかくハッキリしている事は、” レオン様の存在をエドワード派閥に隠しておく事 ” ────これは徹底すべきだと私は判断した。
そしてこれだけが、私に出せる唯一の意思。
スッと目線をクラークの方へ向けると、クラークは心得ている様子で軽く頷いた。
「 他の貴族の者達も様々な思惑はあれど、動きを見せていません。
活動的な貴族達には今後も注意が必要でしょうが、そもそもの派閥のトップにいるメルンブルク家があれだけ隠そうとしている存在には迂闊に探りは入れられないでしょうね。
もしいればコチラが動かずともメルンブルク家に消されるでしょうし……。
ただしリーフ様の存在については、隠しておけるのも時間の問題です。
歴代最高点を大きく塗り替え、更に自身の所有奴隷にその上をとらせたなど前代未聞ですから。 」
「 リーフ様に関しては、逆にその方がいいでしょう。
その存在が世間に露見するほど、消しにくくなるでしょうから。
……とは言っても、元々あんな化け物みたいな奴隷が側にいては、消す事など出来ないでしょうけど。
これからどうなるか分からないけれど……私達ができるのは、少しでも長くレオン様の存在を隠す事だけよ。
幸いソフィア様がレオン様の側でその存在を見張るおつもりらしいから、そちらに関しては任せしましょう。 」
私の言葉にクラークは「 はい。 」と答え、その後また沈黙が降りる。
結局力も覚悟もない私にできることは口を閉ざし、流れに身を任せて事を見守るだけ。
そしてそれをする度に自分という人間の嫌な部分を改めて突きつけられて、心はズブズブと沈んでいく。
そうしてまた沈みゆく心から目を逸らす様に、もう一度窓の外に視線を向ければ……空はどんよりと曇り、そのせいで周りは薄暗く生い茂る木々を酷く不気味な物の様に見せる。
そんな中をひたすら走っていく馬車が、まるで恐ろしい未来に向かって歩く自分の姿の様に思えて、思わず背筋がゾッとした。
先程の上機嫌な様子とは一変……またいつもの様に何かに追い詰められている様な薄暗い表情を見せるクラークへ、私は視線を気づかれない様に向けた。
ソフィア様が狙われているならば、まず初めに命を落とすのは専属聖兵士の< アゼリア >だ。
それをクラークは理解しているはずだが……それについてどう思っているのかは知らない。
恐らくクラークは、心の底からアゼリアを恨んでいるのではと思う。
自分の母を悲しませ、家族をめちゃくちゃにした不義の子供であるアゼリアを。
勿論本人が悪いわけでないと分かってはいるだろうが……恐らくはアゼリアに勝って、失った家の名誉と家族を守りたい、その一心でここまで必死に過ごしてきたのだろうと思われる。
しかし────それはアゼリアの命を奪ってまで叶えたい事ではないはずだ。
……つくづく私とクラークは似ている。
笑いがおさまった後は、お互い無言のまま馬車は進んでいき、窓の外は景色を変えていった。
私はクラークから視線を外し、何気なくそちらへ視線を向けると……いつの間にか空はどんよりと曇っている様で少々薄暗い事に気づく。
もしかしたら一雨来るかも?
そう予想しながら、バラのブローチと共に来ていた父の手紙の最後に、何やら不可解な事が書かれていた事をフッと思い出した。
” 時が来たらお迎えを出す。
何も心配せずにそれに乗りなさい。
────大丈夫。
お前に危険な事は何一つおきはしないから。 ”
この文面から察するに、近々よくない事が起きるのではないか?……そんな不安が心を過ぎりゾッとした。
今直ぐ誰か相談した方がいい?
でも誰に?
それがバレてしまったらエドワード派閥がどう出てくる?
そうしたら父は……?
迷って迷って迷って…………結局私は動けない。
────ミシッ……。
自身の手にある扇子から小さな軋む音が聞こえて、私は慌てて力を緩めると、本当に唐突に ” リーフ様 ” の事を思い出した。
家族の愛を何一つ受けずに育ち、それでも周りに全く影響されずに前に進み続ける彼の事を。
────凄いな。
自分とのあまりの違いに単純にそう思う。
あの強さは私の様に迷える者にとっては眩しい存在で、それと同時に他人を何としても蹴落としたいと考える ” 悪 ” にとっては天敵とも言える存在だ。
更に、あのメルンブルク家の唯一絶対の弱点である ” リーフ様 ” が、今後の派閥による争いの中心になるであろう事は目に見えている。
それを見越して三者三様、様々な思惑を持って彼に接触しようとするだろうと思われるが────そう上手くはいかないだろう。
何故なら本人の性格もさることながら、とびきりの存在が彼の側にいるからだ。
私の頭の中のリーフ様の姿が徐々に霞み、代わりに浮かんできたのは世にも恐ろしい怪物の姿。
イシュル教会最大の禁忌と言われている ” 黒 ” の髪と瞳を持ち、左半身はまるで呪われているかの様な姿。
< 奴隷のレオン >
この存在こそが全ての派閥……それどころか。全世界の命運を握ってもおかしくはないイレギュラーな存在になることは間違いない。
その姿を思い出すだけで、私の身体はブルッ……と震えた。
「 寒くなってきましたね。窓を閉めましょうか? 」
そう気遣ってくれるクラークに私は首を振り、そのままクラークに話しかける。
「 ……クラーク。ご両親にレオン様の事はどう伝わっているかしら? 」
唐突な質問にクラークは一瞬戸惑いを見せたが、直ぐにその感情を引っ込め淡々と答えた。
「 ご心配なく。試験での結果は全てリーフ様の酔狂であると伝えてあります。
エドワード派閥である両親は、それが真実であるかどうか調べたくとも調べる事は出来ないでしょう。
それがメルンブルク家にバレれば、今の立場が危うくなるでしょうから。 」
「 そう……。なら良いわ。 」
私は扇子を開いて口元を隠すと、ホッと息を吐いた。
あんな恐ろしい存在がエドワード様にバレれば世界は終わる。
あの存在はもはや ” 人 ” などではない。
人の手に余る…… ” 神の作りし兵器 ” と言ってもいいほどだ。
初めて見た時はあの姿に、そしてその後はあの圧倒的とも言える力にどうしようもない恐怖を抱いた。
まさに ” 世界を変えうる力 ”
それを初めてこの目で見て、ライトノア学院の試験の時には、怖くて怖くて仕方がなかった。
奴隷という立場など恐らくあんなものには通用しない。
” もし、今直ぐ主人であるリーフ様を亡き者にし暴れだせば? ”
” もしその力を悪しき者のために使い始めたら? ”
” ────もし、自身を奴隷にし、虐げてきたであろう世界に復讐してやろうと考えたら? ”
現在絶対の力であるとされる ” 身分 ” など、あの圧倒的な ” 力 ” の前では紙の盾も同然だろう。
そんな恐怖を抱きながらの試験であったが、途中でどうも様子がおかしいと気づき、私は首を傾げる。
どうもレオン様は奴隷にしては異常なまでに主人であるリーフ様に尊敬の念を抱いている様子であったからだ。
これは少々……いや、かなりおかしい。
そもそも奴隷は主人を酷く憎んでいるはずなのに、なぜこんな盲信的に主人を崇拝しているのか?と、それにまた別の恐怖を抱いた。
更にこれを平然と受け入れ、何一つ心にさざ波すら立たぬリーフ様にも……。
この二人の関係性はまだよく分からず、共依存に近いようでそうではなく一方通行の様に見えてそういうわけでもない様で、正直理解し難い。
ただそういった関係性の事は置いておいて、とにかくハッキリしている事は、” レオン様の存在をエドワード派閥に隠しておく事 ” ────これは徹底すべきだと私は判断した。
そしてこれだけが、私に出せる唯一の意思。
スッと目線をクラークの方へ向けると、クラークは心得ている様子で軽く頷いた。
「 他の貴族の者達も様々な思惑はあれど、動きを見せていません。
活動的な貴族達には今後も注意が必要でしょうが、そもそもの派閥のトップにいるメルンブルク家があれだけ隠そうとしている存在には迂闊に探りは入れられないでしょうね。
もしいればコチラが動かずともメルンブルク家に消されるでしょうし……。
ただしリーフ様の存在については、隠しておけるのも時間の問題です。
歴代最高点を大きく塗り替え、更に自身の所有奴隷にその上をとらせたなど前代未聞ですから。 」
「 リーフ様に関しては、逆にその方がいいでしょう。
その存在が世間に露見するほど、消しにくくなるでしょうから。
……とは言っても、元々あんな化け物みたいな奴隷が側にいては、消す事など出来ないでしょうけど。
これからどうなるか分からないけれど……私達ができるのは、少しでも長くレオン様の存在を隠す事だけよ。
幸いソフィア様がレオン様の側でその存在を見張るおつもりらしいから、そちらに関しては任せしましょう。 」
私の言葉にクラークは「 はい。 」と答え、その後また沈黙が降りる。
結局力も覚悟もない私にできることは口を閉ざし、流れに身を任せて事を見守るだけ。
そしてそれをする度に自分という人間の嫌な部分を改めて突きつけられて、心はズブズブと沈んでいく。
そうしてまた沈みゆく心から目を逸らす様に、もう一度窓の外に視線を向ければ……空はどんよりと曇り、そのせいで周りは薄暗く生い茂る木々を酷く不気味な物の様に見せる。
そんな中をひたすら走っていく馬車が、まるで恐ろしい未来に向かって歩く自分の姿の様に思えて、思わず背筋がゾッとした。
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