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第十六章
606 分からない
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( ジェニファー )
上げられた顔に浮かんでいたのは笑顔であったが、隠しきれない怒り、憎しみを持っているであろう事は、ヒクヒクと動く口の端を見れば分かる。
「 …………ローマン様がお決めになった事ですので、良いと思います。 」
「 そう!良かったわ~。
私、その事でずっと心を痛めていたの!
パニーシャがそう言ってくれるなら、気兼ねなくお茶会を楽しめそうだわ。 」
ローマン様の婚約者は、確かこのパニーシャという女性だったはず。
勿論それをシャルロッテ様は分かっていてそれを言っている。
そして周りの ” ご友人 ” 達は、その瞬間ワッ!とシャルロッテ様のドレスを褒めちぎり、パニーシャの方へ視線をチラチラと向けては私の時同様クスクスと笑った。
シャルロッテ様の恐ろしい手口はこれで、直接モノは言わずに周りの者達を使って楽しむ。
彼女は常に、大きな泉に小さな小石をポンッと投げるだけ。
たったそれだけで、まるで波紋が広がっていく様に周りが勝手に都合よく動き始め、それを高みの見物してはその美しい顔を歪めて楽しそうに笑うのだ。
周りの ” ご友人 ” 達は、自分がそのターゲットになりたくないが故に、必死になってそのターゲットにされた者を攻撃し、シャルロッテ様がいる側に回ろうとする。
先程他の ” ご友人 ” 達と共に私を笑ったパニーシャ様と同じ様に。
これを茶番劇と言わずに、なにをそう呼べば良いのだろう?
そう思うほど非常に滑稽な場面だが、本日はそれを楽しむ事は出来なさそうだとほくそ笑み、私はスッ……とセンスを広げて顔を隠した。
「 そういえばシャルロッテ様に是非お話したいことがありまして……。
わたくし、実はソフィア様と共にライトノア学院に通っているのですが、なんと!シャルロッテ様の弟君である< リーフ >様と同級生でしたのよ。
病弱と聞いておりましたが、すっかり元気になられたのですね。
なんといっても今までの入学院試験の最高得点 ” 305 点 ” を大幅に上回る点数での合格でしたから、ご家族もさぞ鼻が高いでしょうね。 」
” リーフ ” 様の話題が出た瞬間────シャルロッテ様の顔から一切の表情は消えた。
更に、サ~ッ……とどんどん血の気が引いていく顔色にニヤッと笑った私は、更に怒涛の攻撃を仕掛ける。
「 ご家族の仲が非常に良い事で有名なメルンブルク家ですもの。
きっとそれはそれは盛大なお祝いをなさるんでしょうね。
NO・1中学院の歴代最高点を塗り替えるなど、もしかして王都中の貴族が全員参加する程の規模になるかも知れませんわね。
私も勿論、その時は是非参加させて下さい。
このジェニファー、シャルロッテ様は、皆様があっと驚くようなセンスのドレスと装飾品で着飾って参加したいと思います。 」
ニコッと笑って軽く会釈すると、周りにいる ” ご友人 ” 達がその話題に食いつき、我先にと喋りだした。
「 まぁ!確かずっと病に伏せていた弟君ですか?
歴代最高点って……シャルロッテ様の弟君でしたのね!流石ですわ~。 」
「 神童と言われていたお兄様のグリード様ですら250点だったというのに、それに100点以上も差をつけての合格ですか!?
病に伏していたとはおもえませんね。本当に素晴らしい! 」
「 美しさで有名なメルンブルク家ですもの。
優秀なだけではなく、さぞやお美しい美少年なんでしょうね~。 」
果たしてこの中の何人が ” 真実 ” を知っているのかは知らないが、表情を失くしたシャルロッテ様を見て、今がチャンスと思った ” ご友人 ” 達もいるであろうことはヒクヒクと上がる口角を見れば分かる。
後ろにいるクラークも、貼り付けた笑顔の下でほくそ笑んでいるのが雰囲気で伝わってきた。
勝利を確信した私は扇子を閉じてニコリと笑顔を見せると、シャルロッテ様は周りから矢継ぎ早にぶつけられる言葉にやがて耐えられなくなったのか、フラッ……とよろめく。
そして────……。
「 し、失礼します!! 」
怒鳴る勢いでそう言って私の隣を通る際、まるで親の敵を見るかの様な目で私を睨みつけてきたが……そのまま何も言わずに足早に奥の部屋の方へと去っていった。
シャルロッテ様が退場した後、 ” ご友人 ” 達はヒソヒソとメルンブルク家の次男< リーフ様 >についての話をし始め、そのやり取りを見ていた周りの者達にもその話は次々と伝わっていく。
それが全体に伝わる少し前に、侍女の一人が ” シャルロッテ様の突然の体調不良により……。 ” とお茶会の中止を告げてきたため、私とクラークはそのままご機嫌で屋敷を後にした。
◇◇
「 シャルロッテ様のあんなお顔、初めて見ましたよ!
正直胸がすく思いでした。 」
帰りの馬車の中、クラークは非常に機嫌が良さそうにそう言い私も同様に気分良くフフッと笑う。
「 まぁ、たまにはこんな日があっても良いでしょう。
毎回苦汁を飲まされ続けているのだから。 」
本来ならば公爵家のご令嬢相手にするべきではない行動であったかもしれないが、防戦一方であった状況を一度でもひっくり返してやったという事実はとても心地よかった。
それに今度の事を考えると、これが最後になるだろう事は分かっていたからこそ余計に……。
クラークと私は穏やかに微笑みながらも、すぐ後ろに迫っている恐ろしい何かに今もずっと怯えている。
父がエドワード派閥に入れば、私はあの女と同種になる。
毎回飲まされ続けてきた嫌な気分を、今度は私が与える側に……そしてそれを楽しいと思えなければ、私の心の方が先に潰れるだろう。
そうなれば父は悲しむ……。
私は笑いがおさまった後、胸元に光るバラのブローチへ視線を落とす。
父が決めた事を娘の私が止めることはできない。
きっと父はこう思っているはずだ。
” エドワード様の派閥に入れば沢山の富を得ることができる。
そうすれば────ジェニファーはもっと幸せに……。 ” と。
でも────私には何の覚悟もできていない。
あちら側に行く覚悟も、人の命を奪ってでも上に立つ覚悟も。
そしてそんな道を歩きだそうとする父を見て受け入れる覚悟も……。
結局流されるまま覚悟が自然と身につくのを待っているだけで、何の解決法もないまま毎日を過ごしている。
────ズズッ……。
嫌な音を立てながら背後に恐怖が迫ってくる音がまた近づいた様な気がして、私はそれを必死に隠して前に座るクラークに視線を向ける。
多分クラークも、同じ恐怖に常に追いかけられているはずだ。
それから逃げようとしても、色々なものが絡みつきどう動けばいいのか分からない。
上げられた顔に浮かんでいたのは笑顔であったが、隠しきれない怒り、憎しみを持っているであろう事は、ヒクヒクと動く口の端を見れば分かる。
「 …………ローマン様がお決めになった事ですので、良いと思います。 」
「 そう!良かったわ~。
私、その事でずっと心を痛めていたの!
パニーシャがそう言ってくれるなら、気兼ねなくお茶会を楽しめそうだわ。 」
ローマン様の婚約者は、確かこのパニーシャという女性だったはず。
勿論それをシャルロッテ様は分かっていてそれを言っている。
そして周りの ” ご友人 ” 達は、その瞬間ワッ!とシャルロッテ様のドレスを褒めちぎり、パニーシャの方へ視線をチラチラと向けては私の時同様クスクスと笑った。
シャルロッテ様の恐ろしい手口はこれで、直接モノは言わずに周りの者達を使って楽しむ。
彼女は常に、大きな泉に小さな小石をポンッと投げるだけ。
たったそれだけで、まるで波紋が広がっていく様に周りが勝手に都合よく動き始め、それを高みの見物してはその美しい顔を歪めて楽しそうに笑うのだ。
周りの ” ご友人 ” 達は、自分がそのターゲットになりたくないが故に、必死になってそのターゲットにされた者を攻撃し、シャルロッテ様がいる側に回ろうとする。
先程他の ” ご友人 ” 達と共に私を笑ったパニーシャ様と同じ様に。
これを茶番劇と言わずに、なにをそう呼べば良いのだろう?
そう思うほど非常に滑稽な場面だが、本日はそれを楽しむ事は出来なさそうだとほくそ笑み、私はスッ……とセンスを広げて顔を隠した。
「 そういえばシャルロッテ様に是非お話したいことがありまして……。
わたくし、実はソフィア様と共にライトノア学院に通っているのですが、なんと!シャルロッテ様の弟君である< リーフ >様と同級生でしたのよ。
病弱と聞いておりましたが、すっかり元気になられたのですね。
なんといっても今までの入学院試験の最高得点 ” 305 点 ” を大幅に上回る点数での合格でしたから、ご家族もさぞ鼻が高いでしょうね。 」
” リーフ ” 様の話題が出た瞬間────シャルロッテ様の顔から一切の表情は消えた。
更に、サ~ッ……とどんどん血の気が引いていく顔色にニヤッと笑った私は、更に怒涛の攻撃を仕掛ける。
「 ご家族の仲が非常に良い事で有名なメルンブルク家ですもの。
きっとそれはそれは盛大なお祝いをなさるんでしょうね。
NO・1中学院の歴代最高点を塗り替えるなど、もしかして王都中の貴族が全員参加する程の規模になるかも知れませんわね。
私も勿論、その時は是非参加させて下さい。
このジェニファー、シャルロッテ様は、皆様があっと驚くようなセンスのドレスと装飾品で着飾って参加したいと思います。 」
ニコッと笑って軽く会釈すると、周りにいる ” ご友人 ” 達がその話題に食いつき、我先にと喋りだした。
「 まぁ!確かずっと病に伏せていた弟君ですか?
歴代最高点って……シャルロッテ様の弟君でしたのね!流石ですわ~。 」
「 神童と言われていたお兄様のグリード様ですら250点だったというのに、それに100点以上も差をつけての合格ですか!?
病に伏していたとはおもえませんね。本当に素晴らしい! 」
「 美しさで有名なメルンブルク家ですもの。
優秀なだけではなく、さぞやお美しい美少年なんでしょうね~。 」
果たしてこの中の何人が ” 真実 ” を知っているのかは知らないが、表情を失くしたシャルロッテ様を見て、今がチャンスと思った ” ご友人 ” 達もいるであろうことはヒクヒクと上がる口角を見れば分かる。
後ろにいるクラークも、貼り付けた笑顔の下でほくそ笑んでいるのが雰囲気で伝わってきた。
勝利を確信した私は扇子を閉じてニコリと笑顔を見せると、シャルロッテ様は周りから矢継ぎ早にぶつけられる言葉にやがて耐えられなくなったのか、フラッ……とよろめく。
そして────……。
「 し、失礼します!! 」
怒鳴る勢いでそう言って私の隣を通る際、まるで親の敵を見るかの様な目で私を睨みつけてきたが……そのまま何も言わずに足早に奥の部屋の方へと去っていった。
シャルロッテ様が退場した後、 ” ご友人 ” 達はヒソヒソとメルンブルク家の次男< リーフ様 >についての話をし始め、そのやり取りを見ていた周りの者達にもその話は次々と伝わっていく。
それが全体に伝わる少し前に、侍女の一人が ” シャルロッテ様の突然の体調不良により……。 ” とお茶会の中止を告げてきたため、私とクラークはそのままご機嫌で屋敷を後にした。
◇◇
「 シャルロッテ様のあんなお顔、初めて見ましたよ!
正直胸がすく思いでした。 」
帰りの馬車の中、クラークは非常に機嫌が良さそうにそう言い私も同様に気分良くフフッと笑う。
「 まぁ、たまにはこんな日があっても良いでしょう。
毎回苦汁を飲まされ続けているのだから。 」
本来ならば公爵家のご令嬢相手にするべきではない行動であったかもしれないが、防戦一方であった状況を一度でもひっくり返してやったという事実はとても心地よかった。
それに今度の事を考えると、これが最後になるだろう事は分かっていたからこそ余計に……。
クラークと私は穏やかに微笑みながらも、すぐ後ろに迫っている恐ろしい何かに今もずっと怯えている。
父がエドワード派閥に入れば、私はあの女と同種になる。
毎回飲まされ続けてきた嫌な気分を、今度は私が与える側に……そしてそれを楽しいと思えなければ、私の心の方が先に潰れるだろう。
そうなれば父は悲しむ……。
私は笑いがおさまった後、胸元に光るバラのブローチへ視線を落とす。
父が決めた事を娘の私が止めることはできない。
きっと父はこう思っているはずだ。
” エドワード様の派閥に入れば沢山の富を得ることができる。
そうすれば────ジェニファーはもっと幸せに……。 ” と。
でも────私には何の覚悟もできていない。
あちら側に行く覚悟も、人の命を奪ってでも上に立つ覚悟も。
そしてそんな道を歩きだそうとする父を見て受け入れる覚悟も……。
結局流されるまま覚悟が自然と身につくのを待っているだけで、何の解決法もないまま毎日を過ごしている。
────ズズッ……。
嫌な音を立てながら背後に恐怖が迫ってくる音がまた近づいた様な気がして、私はそれを必死に隠して前に座るクラークに視線を向ける。
多分クラークも、同じ恐怖に常に追いかけられているはずだ。
それから逃げようとしても、色々なものが絡みつきどう動けばいいのか分からない。
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