921 / 1,649
第二十七章
905 唯一の居場所
しおりを挟む
(レナ)
◇◇
昔の事を思い出し、クスクス笑う私をクルトは不思議そうに見つめたが、やがて笑い止まない私に見切りをつけたらしく自身の持ち場へと帰っていく。
自分の人生に何一つ後悔などない。
最高の仲間と、最高の環境を与えられた私は今まで本当に幸せだったから。
勿論この事件を起こした張本人達に憤りはある。悔しさもある。
その結果命を落とす事だって納得しているわけではない。
しかし────私にとっての『死』はあの空虚な時間であった。
『最後の瞬間まで戦って死ぬ』
きっとこれが私にとってのハッピーエンドなんだと思う。
「…………。」
私は一度目を閉じ、フッ……と唯一の家族である兄の事を思い浮かべた。
思い出と共に生きる事を決めた兄は、きっとあのキノコ小屋から避難はしない。
あーちゃんとの思い出に生きる兄にとって、あそこは世界で一番幸せな場所だから。
だから兄は恐らくあの場所で死ぬだろう。
優しかった兄、私を庇い続けてくれた兄、そんな様々な兄の思い出を振り返り暖かい気持ちになりながら、私は兄がそう決めたならそれを尊重しよう、そう考えた。
私は『未来』を、兄は『過去』を自身の死に場所に選んだ。
後は、お互い前に進むだけ。
「さようなら、兄さん。」
ポツリと呟いた後、私は目を開き正面門の遠い空に浮かぶ黒い呪いの蝶を睨みつけた。
それを目にするだけで、自然と体中から汗が吹き出し、身体はガクガクと震えてしまう。
「……あんなモノ、人の手でどうにかできるわけないわよね~。」
巨大な恐怖とワクワクする気持ちが入り混じり、背筋に新たな震えが走る。
フラン様も同時に黒い蝶がいる方向を睨みつけ、同じ様に身震いをした後、戦闘配置についた教員たちに向かって叫んだ。
「皆の者!!あれこそが呪災の卵から生まれし絶望の神!!
恐らくはあやつがこの場にいる限り、モンスター共は普段よりも格段に強くなっているはずだ!決して油断するでないぞ!!」
「「「「おおおおおぉぉぉぉ────────!!!!」」」」
フラン様の声に答える様に叫び声が上がり、全員が気合を入れ直す。
恐怖を勇気に変え、己の正義へと突き進む。
それができる『戦闘狂』しかこの場にはいない。
クスクスとまた笑えば、突然<拡張伝柱>を通じてポツリと呟くクルトの声が聞こえてきた。
「ソフィア様は、今頃王都に無事に避難完了したのだろうか?きっと、その心中はお辛いだろうな……。」
しょぼくれた言い方をするクルトに、また笑いが込み上げたが、一応はそれを隠して答えてあげた。
「恐らくは完了してると思うわ~。後は順番に生徒たちを逃がすだけね。
戦いの状況を見ながら、生徒たちに向かってもらいましょう。」
大丈夫だと安心させるために言ったのだが、クルトは真剣な雰囲気で私や他の教員達に向かってまたポツリと呟く。
「レナ……それにルーンや他の若い教員達も、無茶な戦い方はせずタイミングを見て生徒たちと教会へ向かってくれ。この国の未来を頼んだぞ。」
最後はかっこよくそう言ったクルトに、私も他の人達もキョトンとして顔を見合わせた後、一斉にドッ!!と笑いだす。
クルトは何故皆が笑うのか分からず、えっ?えっ??と本気で理由が分からなそうな顔をしたが、ルーンが放った静電気のビリビリボールを当てられ、「ぴぎゃっ!!」と悲鳴を上げた。
「おいおい、真剣な顔して何を言うかと思えば、な~に言ってるんだよ!
あたい達は仲間!苦楽を共にした同志だろうが!
仲間が命を懸けるなら、あたいだって命を懸けて戦うぜ!
ここは孤児で家族のいなかったあたいの唯一の居場所だからな。
だからここがあたいの死に場所。
野暮なことは言いっこなしだぜ!」
拳を真っ黒い空にかざし、うおおおお────────!!と叫ぶルーン。
それに続く様に「そうだそうだ~。」「全く~……何言ってるんですか。」と呆れた様な声が続き全員拳を空に掲げる。
私もそれに便乗し空に拳を掲げると、グシャッとした顔を隠すため下を向いてしまったクルト。
私はそんなクルトに気づかない振りをして、わざとため大きなため息をついた。
「全く……クルトって結構おバカさんよね~。
まぁ、確かにこの場合、『生き残りさえすれば新たな居場所が見つかるから』────って世の大半の人たちは言うかもしれないし、それが正しいのかもね。
でも私にとってココは、唯一見つかった『生きられる』場所なの。
未来にしか目が向かない私にとって、ココは過去にしたくない場所って事。
だから私もココを死に場所に選ぶわ~。」
◇◇
昔の事を思い出し、クスクス笑う私をクルトは不思議そうに見つめたが、やがて笑い止まない私に見切りをつけたらしく自身の持ち場へと帰っていく。
自分の人生に何一つ後悔などない。
最高の仲間と、最高の環境を与えられた私は今まで本当に幸せだったから。
勿論この事件を起こした張本人達に憤りはある。悔しさもある。
その結果命を落とす事だって納得しているわけではない。
しかし────私にとっての『死』はあの空虚な時間であった。
『最後の瞬間まで戦って死ぬ』
きっとこれが私にとってのハッピーエンドなんだと思う。
「…………。」
私は一度目を閉じ、フッ……と唯一の家族である兄の事を思い浮かべた。
思い出と共に生きる事を決めた兄は、きっとあのキノコ小屋から避難はしない。
あーちゃんとの思い出に生きる兄にとって、あそこは世界で一番幸せな場所だから。
だから兄は恐らくあの場所で死ぬだろう。
優しかった兄、私を庇い続けてくれた兄、そんな様々な兄の思い出を振り返り暖かい気持ちになりながら、私は兄がそう決めたならそれを尊重しよう、そう考えた。
私は『未来』を、兄は『過去』を自身の死に場所に選んだ。
後は、お互い前に進むだけ。
「さようなら、兄さん。」
ポツリと呟いた後、私は目を開き正面門の遠い空に浮かぶ黒い呪いの蝶を睨みつけた。
それを目にするだけで、自然と体中から汗が吹き出し、身体はガクガクと震えてしまう。
「……あんなモノ、人の手でどうにかできるわけないわよね~。」
巨大な恐怖とワクワクする気持ちが入り混じり、背筋に新たな震えが走る。
フラン様も同時に黒い蝶がいる方向を睨みつけ、同じ様に身震いをした後、戦闘配置についた教員たちに向かって叫んだ。
「皆の者!!あれこそが呪災の卵から生まれし絶望の神!!
恐らくはあやつがこの場にいる限り、モンスター共は普段よりも格段に強くなっているはずだ!決して油断するでないぞ!!」
「「「「おおおおおぉぉぉぉ────────!!!!」」」」
フラン様の声に答える様に叫び声が上がり、全員が気合を入れ直す。
恐怖を勇気に変え、己の正義へと突き進む。
それができる『戦闘狂』しかこの場にはいない。
クスクスとまた笑えば、突然<拡張伝柱>を通じてポツリと呟くクルトの声が聞こえてきた。
「ソフィア様は、今頃王都に無事に避難完了したのだろうか?きっと、その心中はお辛いだろうな……。」
しょぼくれた言い方をするクルトに、また笑いが込み上げたが、一応はそれを隠して答えてあげた。
「恐らくは完了してると思うわ~。後は順番に生徒たちを逃がすだけね。
戦いの状況を見ながら、生徒たちに向かってもらいましょう。」
大丈夫だと安心させるために言ったのだが、クルトは真剣な雰囲気で私や他の教員達に向かってまたポツリと呟く。
「レナ……それにルーンや他の若い教員達も、無茶な戦い方はせずタイミングを見て生徒たちと教会へ向かってくれ。この国の未来を頼んだぞ。」
最後はかっこよくそう言ったクルトに、私も他の人達もキョトンとして顔を見合わせた後、一斉にドッ!!と笑いだす。
クルトは何故皆が笑うのか分からず、えっ?えっ??と本気で理由が分からなそうな顔をしたが、ルーンが放った静電気のビリビリボールを当てられ、「ぴぎゃっ!!」と悲鳴を上げた。
「おいおい、真剣な顔して何を言うかと思えば、な~に言ってるんだよ!
あたい達は仲間!苦楽を共にした同志だろうが!
仲間が命を懸けるなら、あたいだって命を懸けて戦うぜ!
ここは孤児で家族のいなかったあたいの唯一の居場所だからな。
だからここがあたいの死に場所。
野暮なことは言いっこなしだぜ!」
拳を真っ黒い空にかざし、うおおおお────────!!と叫ぶルーン。
それに続く様に「そうだそうだ~。」「全く~……何言ってるんですか。」と呆れた様な声が続き全員拳を空に掲げる。
私もそれに便乗し空に拳を掲げると、グシャッとした顔を隠すため下を向いてしまったクルト。
私はそんなクルトに気づかない振りをして、わざとため大きなため息をついた。
「全く……クルトって結構おバカさんよね~。
まぁ、確かにこの場合、『生き残りさえすれば新たな居場所が見つかるから』────って世の大半の人たちは言うかもしれないし、それが正しいのかもね。
でも私にとってココは、唯一見つかった『生きられる』場所なの。
未来にしか目が向かない私にとって、ココは過去にしたくない場所って事。
だから私もココを死に場所に選ぶわ~。」
323
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる
路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか?
いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ?
2025年10月に全面改稿を行ないました。
2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。
2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。
2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。
2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
無能と呼ばれた婚約者は王を完成させる〜替え玉婚約者のはずが、強すぎる王太子に手放してもらえません〜
統子
BL
兄の身代わりとして王太子の婚約者になった伯爵家次男リュシー。
嘘の名を名乗ったはずが、冷静で誠実な王太子リオンは彼を「力の装置」としてではなく、対等な伴侶として扱おうとする。
本物になりたいと願う替え玉と、完成された王太子の静謐な王宮ロマンス。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる