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第二十八章
946 止めたほうがいい
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(ジュワン)
差し出された書類には大きな文字で【休職申請書】と書かれていて、既に学院長であるフランの名前入り。
後は私のサインを残すのみとなっていた。
「……貴様……ふざけているのか?」
殺気を込めて睨んでやったが、フランは不敵に笑い、後ろのセリナは羽ペンを取り出し、私に平然と差し出してくる。
【休職申請書】とは、何らかの原因により、仕事の持続が困難となった場合に一時的な休みを申告する書類で、その休んでいる期間、最低限の生活賃金を国と教会が合同で保証してくれるという制度を利用するためのモノである。
元々この制度は第二王子アーサーが発案したもので、優秀な人材が戦いによって負傷を負った場合、賃金が出なければ生活ができないからと、退職を選んでしまう者達のために作ったらしい。
アーサー曰く────『爵位が低い者達ほど前線に駆り出される事が多く、怪我も多い。それにも関わらず仕事に復帰できるまで賃金が貰えないとなればいい人材はどんどん辞めてしまうだろう?』────などとほざき、あれよあれよと国公認の法律としてこれを組み込んでしまったのだ。
これには当時、エドワード様やカール様を初めとした他の高位貴族達は猛反発。
『掃いて捨てるほどいる下等民達の生活のため、なぜ国の予算を使わねばならないのか?』
『使えぬ物は切り捨て新たなモノを循環させた方が、結果的に無駄な出費を抑えて国は潤う。』
そんな当たり前の主張をしているというのに、それを一切無視する姿勢のアーサーに呆れ果て、エドワード様は王に直接直訴した。
『本当に国の事を考えるならば、その分の予算を貴族たちのケアに回すべきである』と。
しかし王はそれを却下し、アーサーの案をとった。
今でもその事に不満を感じているエドワード様と派閥の者達は、その法律を認めず日々反発しているというのに、私にそれを使えという事は明らかな嫌がらせ!
私に死ねというのと一緒の事であった。
「ふざけるなっ!!!この様なふざけた制度を私が使うわけがなかろうっ!!!
所詮はモノを作るしか能のない出来損ないドワーフ族が、調子に乗るなよ?
此度の数々の無礼は、エドワード様にご報告させて頂くからな。」
視線だけで人を殺せそうな程憎しみを込めて睨んでやったが、フランはフッ……と馬鹿にしたように軽く笑い、書類を後ろにいるセリナに渡す。
「そうか、良かれと思っての事だったが、不快にさせてすまんな?
もちろんなんなりと自由にするとよい。
エドワード様への報告も好きにしてもらって構わんが……貴下が試験の時に奴隷の少年に手も足も出ずに無様に負けた事、そしてその少年を合格させたのは貴下であると、キッチリ説明せねばならんな。
なんと言っても、エドワード様に仕えし選ばれたエリート集団の中の一人であるジュワン殿が、遥か下の身分の奴隷に敗れるなど前代未聞の大事件だ。
これは大々的に伝えねばならぬ故、こちらもキチンと準備しておこう。」
ニヤッと勝ち誇った様な笑みを浮かべてそう言い放つフラン。
私はその瞬間、まるで頭から冷水を被った様に一気に体温は下がり、顔色はどんどん青ざめていった。
この高貴なる血を持つ子爵の私が……。
王宮騎士にまで登り詰めたエリート騎士の私が……。
────奴隷に無様に負けた────???
その事実がジワジワと体中に広がっていき、身体は大きく震えだす。
未だかつて味わった事のない屈辱。
ドス黒い憎しみの感情……。
私の雲一つない青空のような栄光の人生のロードが、あの邪神の子と呪われた化け物によって蹂躙されて穢されたのだ!
こんな事……許されるはずがない!!
憎しみに黒く染まり震える私に、フランは見下した様な目で私を見下ろした。
「おい、恨む相手を間違えるなよ?貴下が恨むべきは、このライトノア学院最高責任者のフランだ。
何か文句があるならば、この私にそれを全てぶつけるとよい。」
「────はっ!教員のお手本の様な言葉ですねぇ?一体どんな汚い手を使ったのやら……。
大方あの公爵家の恥知らずな子供が、何かしらの魔道具をあの化け物に持たせてたのでしょう?
セキュリティー魔法にも引っかからないとは……。
アーサー陣営にそんな魔道具に長けたダークホースがいたとは、完全に油断していましたよ。」
恐らくあれは、新開発された魔道具……もしくは魔法の類のはず。
ステージ上に設置されていたか、もしくは化け物に持たせていたかは分からないが、そうでなければ説明がつかない現象だ。
ブツブツとそのまま化け物に対する恨み事を吐き捨てていると、突然フランのセリナはお互い顔を見合わせ、初めて見る様な焦った様子を見せる。
「ジュワン、悪いことは言わん。辞めておけ。あれにはもう二度と触れぬ事だ。
これはあの者達のためではなく、本当にお前の事を思ってだな……。」
「偽善に溢れた慈愛の言葉はもう結構です。白々しい。
直ぐにその魔道具の存在を暴き、こんなふざけた事をした者達に正義の裁きを与えてやる。」
フラン達を睨みつけながらそう言い捨てた私は、今回の事の弁明をするため王宮へと急ぐ事に。
起き上がりさっさとその隔離室から出た私は、無言で頭を抱えているフランとセリナの姿は一切見えなかった。
差し出された書類には大きな文字で【休職申請書】と書かれていて、既に学院長であるフランの名前入り。
後は私のサインを残すのみとなっていた。
「……貴様……ふざけているのか?」
殺気を込めて睨んでやったが、フランは不敵に笑い、後ろのセリナは羽ペンを取り出し、私に平然と差し出してくる。
【休職申請書】とは、何らかの原因により、仕事の持続が困難となった場合に一時的な休みを申告する書類で、その休んでいる期間、最低限の生活賃金を国と教会が合同で保証してくれるという制度を利用するためのモノである。
元々この制度は第二王子アーサーが発案したもので、優秀な人材が戦いによって負傷を負った場合、賃金が出なければ生活ができないからと、退職を選んでしまう者達のために作ったらしい。
アーサー曰く────『爵位が低い者達ほど前線に駆り出される事が多く、怪我も多い。それにも関わらず仕事に復帰できるまで賃金が貰えないとなればいい人材はどんどん辞めてしまうだろう?』────などとほざき、あれよあれよと国公認の法律としてこれを組み込んでしまったのだ。
これには当時、エドワード様やカール様を初めとした他の高位貴族達は猛反発。
『掃いて捨てるほどいる下等民達の生活のため、なぜ国の予算を使わねばならないのか?』
『使えぬ物は切り捨て新たなモノを循環させた方が、結果的に無駄な出費を抑えて国は潤う。』
そんな当たり前の主張をしているというのに、それを一切無視する姿勢のアーサーに呆れ果て、エドワード様は王に直接直訴した。
『本当に国の事を考えるならば、その分の予算を貴族たちのケアに回すべきである』と。
しかし王はそれを却下し、アーサーの案をとった。
今でもその事に不満を感じているエドワード様と派閥の者達は、その法律を認めず日々反発しているというのに、私にそれを使えという事は明らかな嫌がらせ!
私に死ねというのと一緒の事であった。
「ふざけるなっ!!!この様なふざけた制度を私が使うわけがなかろうっ!!!
所詮はモノを作るしか能のない出来損ないドワーフ族が、調子に乗るなよ?
此度の数々の無礼は、エドワード様にご報告させて頂くからな。」
視線だけで人を殺せそうな程憎しみを込めて睨んでやったが、フランはフッ……と馬鹿にしたように軽く笑い、書類を後ろにいるセリナに渡す。
「そうか、良かれと思っての事だったが、不快にさせてすまんな?
もちろんなんなりと自由にするとよい。
エドワード様への報告も好きにしてもらって構わんが……貴下が試験の時に奴隷の少年に手も足も出ずに無様に負けた事、そしてその少年を合格させたのは貴下であると、キッチリ説明せねばならんな。
なんと言っても、エドワード様に仕えし選ばれたエリート集団の中の一人であるジュワン殿が、遥か下の身分の奴隷に敗れるなど前代未聞の大事件だ。
これは大々的に伝えねばならぬ故、こちらもキチンと準備しておこう。」
ニヤッと勝ち誇った様な笑みを浮かべてそう言い放つフラン。
私はその瞬間、まるで頭から冷水を被った様に一気に体温は下がり、顔色はどんどん青ざめていった。
この高貴なる血を持つ子爵の私が……。
王宮騎士にまで登り詰めたエリート騎士の私が……。
────奴隷に無様に負けた────???
その事実がジワジワと体中に広がっていき、身体は大きく震えだす。
未だかつて味わった事のない屈辱。
ドス黒い憎しみの感情……。
私の雲一つない青空のような栄光の人生のロードが、あの邪神の子と呪われた化け物によって蹂躙されて穢されたのだ!
こんな事……許されるはずがない!!
憎しみに黒く染まり震える私に、フランは見下した様な目で私を見下ろした。
「おい、恨む相手を間違えるなよ?貴下が恨むべきは、このライトノア学院最高責任者のフランだ。
何か文句があるならば、この私にそれを全てぶつけるとよい。」
「────はっ!教員のお手本の様な言葉ですねぇ?一体どんな汚い手を使ったのやら……。
大方あの公爵家の恥知らずな子供が、何かしらの魔道具をあの化け物に持たせてたのでしょう?
セキュリティー魔法にも引っかからないとは……。
アーサー陣営にそんな魔道具に長けたダークホースがいたとは、完全に油断していましたよ。」
恐らくあれは、新開発された魔道具……もしくは魔法の類のはず。
ステージ上に設置されていたか、もしくは化け物に持たせていたかは分からないが、そうでなければ説明がつかない現象だ。
ブツブツとそのまま化け物に対する恨み事を吐き捨てていると、突然フランのセリナはお互い顔を見合わせ、初めて見る様な焦った様子を見せる。
「ジュワン、悪いことは言わん。辞めておけ。あれにはもう二度と触れぬ事だ。
これはあの者達のためではなく、本当にお前の事を思ってだな……。」
「偽善に溢れた慈愛の言葉はもう結構です。白々しい。
直ぐにその魔道具の存在を暴き、こんなふざけた事をした者達に正義の裁きを与えてやる。」
フラン達を睨みつけながらそう言い捨てた私は、今回の事の弁明をするため王宮へと急ぐ事に。
起き上がりさっさとその隔離室から出た私は、無言で頭を抱えているフランとセリナの姿は一切見えなかった。
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