【第一部完結】天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

バナナ男さん

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第二十九章

(リーン)964 ハッピーバースディ世界!

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(リーン)

「きゃ……きゃああああぁぁぁ────────!!!!」

女性の悲鳴があがると、今度は沢山の人達が同じ様に悲鳴をあげてはパニックを起こしだす。

「おっ……落ち着いて下さいっ!!」

神官様達が何とか落ち着かせようとしても、神官様達の声はパニックを起こしている人達の耳には入らない。

泣き叫ぶ子供たちの声。
泣き崩れる人達や呆然と立ち尽くし神に祈る人達……。

そこにはこの世の終わりの光景が広がっていた。

……もう終わりなんだ、何もかもが。
夢も希望も何もかも……これからあの『黒』に全て奪われる。

心は空と同じ様に黒い雲に覆われていき、やがて目に見えている景色全てまでも黒く染まっていく。

『黒』

『黒』

『黒』

…………世界が黒く染まる。

それが、私の『正義』の果てにあったものだ。

それを悟った今、私は自ら目を瞑り、『黒』の世界を創り出す。

すると目を開けた瞬間────そこは一面灰色の世界に変わっていて、そしてあの時誰かが消してくれたはずの真っ赤なろうそくが、今度は見渡せる範囲一面沢山立っていた。
しかも隣にはナッツちゃんが立っていて、二人でその景色をぼんやりと見下ろしていると、やがてその真っ赤な蝋達は溶けてドロドロと、赤く赤く地面を濡らしていく。

「……ここが……私達が選んだ先にあるもの……?」

そうボソッと呟くと、沢山の黒い感情が私達の心から飛び出して体中を締め付けてきた。

「……う……うぅっ……!!」

痛みに呻きながら、私は心の中で叫ぶ。

頑張っても頑張っても頑張っても頑張っても────────!!!
結局何もかもが無駄じゃないかっ!!!

悲しみ、怒り、憎しみ。

一体それをどこにぶつけていいのかも分からず、ただその感情にこの身は締め付けられて……。

「こんな『世界』、なくなってしまえばいい!」

そう叫んでまた目を閉じようとした、その時……耳元でボソッと呟く声が聞こえた。

『ナッツちゃんと二人でなればいい。』

『一人でなるより楽しいよ、きっと。』

簡単そうに語られる理想に、今回はカッ!としてしまい、私は怒鳴り声をあげてしまう。

「…………っ!だって……っだってっ!!結局こうやって邪魔されちゃうんだ。
沢山の事に邪魔されて邪魔されて……最後はこうして積み重ねたモノ全てが無駄になる。 
だったら……苦しいのも辛いのもない方が……いいっ!」

自分の感情を全て吐き出してそう言うと、今度は突然そこら中から沢山の拍手が聞こえてきて、ナッツちゃんと二人でギョッ!とすると、更にお誕生日の歌まで聞こえてきた。

ハッピッバースデー♬トゥ~ユ~♬


ハッピッバースデー♬ディア~………………。


《────────世界!》

目の前に誰かが突然現れ大きな声をあげると、突然私達を締め付ける黒い感情達がパリンっ!と音を立てて崩れ去り、ナッツちゃんと二人その場に尻もちを着く。
慌てて目の前の人を見上げたが、やはりその顔は見えなかった。

《いつだってそれを変えるのは自分。
大丈夫。毎日がお誕生日なんだ、世界ってやつは。
さぁ、二人共思い切り息を吐いてろうそくに吹きかけてごらん。
ハッピーバースディ世界!!》

その人はとても楽しそうにそう叫んだ後、足跡だけを残して消えてしまった。

私とナッツちゃんはその足跡を見下ろした後、お互いキョトンと顔を見合わせ何だか楽しくなって笑ってしまう。
そして頷き合うと、大きく大きく息を吸い込み────────…………。

フゥゥゥゥゥゥ────────ッ!!!

ゆらゆらと揺れている火に向かって思い切り息を吐き出した。


「なっ……何だい?あれは……。」

マリンさんが呆然とそう呟くと、街の人達は無言で立ち尽くし空を見上げている。

ハッ!!と意識を取り戻すと、隣にいるナッツちゃんも同じタイミングで我に帰った様で、お互い不思議な気持ちで顔を見合わせた。
しかし、恐ろしい光景がマリンさんの指した方向に見えたため、直ぐに意識はそちらに全てそちらに奪われ、私達も街の人達同様に無言で空を見上げる。
黒い蝶の前に沢山の小さな蝶の大群が集まりだして、更にどんどんと巨大な球状の形を形成している様だ。

「なに……?アレ……?」

ルルちゃんがブルブル震えながらそう呟き、また悲鳴が沢山あがったが……何だか私とナッツちゃんは不思議な事に、恐怖を感じなかった。

大丈夫。
大丈夫。
きっと、どうしようもなく邪魔をするモノは────────。

皆が悲鳴を上げた直後、黒い蝶が折りたたんでいた両羽を勢いよく広げ、前にあった球状の黒い固まりは街に向かって放たれる。
泣き叫ぶ声の中、私とナッツちゃんはジッと向かってくる黒い球を見つめ、そして─────……。

────ピッ!!

突然現れた光が、それを消し去る様をしっかりと目に焼き付けた。

「……な……な、なに……?」

「黒いやつが……き、消えた……?」

一瞬で消えてしまった黒い球。
その直後、晴れ上がってしまった一部の空を見上げながら、街の人達は呆然と立ち尽くす。
そんな中、どこからか飛んできた伝電鳥が、私達に向かって言葉を伝える。

『俺に呪いは効かないぞ!お前は俺がぶっ飛ばす!!』

『だから皆!!自分の”未来”を諦めるな!!』

『足掻いて足掻いて足掻いて────────全員でハッピーエンド、目指そうっ!!!』



《ハッピーバースディ!!世界!!》 



頭の中に先程の白昼夢で出会った人物の声が完全に重なり、私の目から涙が溢れそうになった。
それを慌てて袖で擦って拭くと、隣のナッツちゃんも同じ仕草をして溢れる涙を拭く。
そして全てを理解した私達は、お互いに顔を見合わせコクリと頷くと、呆然と空を見上げているニーナさんやマリンさん、ルルちゃんに向かって叫んだ。

「あの!私はこれから大きなけが人を収容する治療院の方に行ってきます!少しでも戦ってくれる人達のために何かしたいから。」

「今まで教会で沢山教えて貰った事が役に立つね!私もリーンちゃんと一緒に行ってくる! 」

そう宣言した私達に、ハッ!と我に返ったニーナさんが焦った様子で私達に視線を向ける。

「リーンちゃん……ナッツ……。あ、あなた達はまだ成人前の子供なのよ……?
だからここは私達大人が────。」

「ううん!今は子供も大人も関係ないよ!私は私のできることをしたいの!ねっ!リーンちゃん!」

グッ!と拳を握って私の方を見るナッツちゃんに対し、私は大きく頷いた。

「うん!!私もできる事をしたい!」

気がつけばその場にいる人達は皆私達のやり取りに注目していて、既にその顔には絶望や恐怖は綺麗さっぱり消えている様だった。
ニーナさんとマリンさんは困った様に眉を大きく下げ、くぅぅ~!!と何だか悔しそうな顔を見せる。

「うぅぅぅ~っ!!!子供に先に言われちゃって立つ瀬がないじゃないの~!」

「ハッハッ!!全く頼もしいじゃないか!でも二人の言う通りさ。
なんたって『救世主様』が戦ってくれているんだ。私達もこんな所で見学なんざしてられないよ。
皆も聞いただろ?さっきの言葉を!
『救世主様』が戦っているっていうのに、こんな所で泣き叫んで助けがくるのを座って待つかい?」

マリンさんが若干煽るように言うと、ゴッ!!と周りの人達は燃え上がり、「「「わぁぁぁぁ────!!!」」」と悲鳴ではなく、雄叫びの様な声がそこら中からあがった。

「俺だって戦ってやるぞぉぉぉ────────!!!俺は【掃除人】!消毒薬とかならスキルで作れるぜ!」

「私だって精一杯足掻いてやるから!!!私【介護人】だから怪我をした人達のケアを手伝うわ!」

「俺は【運送士】!けが人を運んだり物資の移動なら任せてくれ!」

ワイワイとそれぞれが自身の得意とする能力ごとに集まりだし、そのままワッ!と走り出す。
それをポカンっとしながら見ていると、皆を焚き付けたマリンさんは凄く嬉しそうにハッハッハッ~!!と大笑いした。

「じゃあ私は【調食師】だから、兵士達や神官様達のために何か作ろうかね。
『腹が減っては討伐できず』だ!ルル!手伝っておくれ!」

「────!!うん、分かった!」

マリンさんはルルちゃんを連れて、そのままダッ!!と倉庫の方へ走っていった。
ニヤッと笑いながらそれを見送ったニーナさんは、突然しゃがみ込み私達へ真っ直ぐ視線を向ける。

「二人のお陰で皆火が着いちゃったわね。ありがとう。
二人は回復魔法も使えるし、もしかしたら凄い才能を持っているのかもしれないわね。
……だけど絶対に無理はしちゃ駄目よ。二人が無茶して傷ついたら、私は凄く悲しいの。それを忘れないでね。」

「「分かった!」」

今まで学んだ事は全て心の中にある。
だから絶対に無茶をして大事な人に悲しい思いはさせないとナッツちゃんと共に誓った。
その返事を聞いたニーナさんはニコッと笑いながら立ち上がり、むんっ!と気合を入れる。

「よ~し!私の資質は【従事人】!色んな所のサポートに回るわよ~!!腕がなるわ!」

キランっ!と目を輝かせてニーナさんはマリンさんを追うように倉庫へ。
そしてそれを見送った後、私達は色違いのミサンガが巻かれた手でコツンッと手と手を叩き合い、そのままレンジュ神官長や、他の神官様達が集まっているであろう治療院の方へ向かって走った。
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