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第二十九章
(ヨセフ)982 愛は障害があるほど……
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(ヨセフ)
『女神様はこれが好きだった。だから君も好きだよね?』
『女神様はそんな時こう言っていたよ。だから君もそうだよね?』
『女神様はこんな事はしない。だから君もしてはいけないよ。』
毎日毎日歌う様に言い聞かせる彼の言葉。
それを与えられた人形は、その全てをニコニコと笑顔で受け取り『分かったわ!』と答えた。
以前と同じ『幸せ』な生活。
でも彼はとても不安だった。
その『幸せ』の中で女神様はいなくなってしまったからだ。
だから彼はもっともっと『幸せ』になれる場所を探した。
『ここは邪悪で無価値なモノが多すぎる。』
だから彼はそのまま目を瞑る。
黒いドラゴンが地を蹂躙し、人々を消し去っていくのを。
そしてすっかり何も無くなってしまった焼土の中、彼は人形を連れていき幸せそうに微笑んだ。
『邪魔なモノは全て無くなった。この地は全て君のモノ。
さぁ、踊ってごらん。』
観客など誰もおらず、見渡す限り地獄の様に焼けた大地。
それでも彼の目にはそこが楽園の様に見えていた。
そして彼はその『楽園』で人形についていた操り糸を持ち、可憐で美しいダンスを披露する。
男は『幸せ』だった。
やっと自分の愛する人を完璧に『幸せ』にする事ができたのだと喜んだ。
そのため彼は全く気付いていなかったのだ。
人形はとっくの昔に与えられた心を失い、また元の傀儡人形に戻ってしまっていた事に。
その内容を思い出し、何とも恐ろしい話だと思わずゾクッと背筋を凍らせる。
きっと最初は人形に対し愛情があったはずなのに、あまりにも強い愛が男を歪めてしまったのか……私は自分の中にあった大きな穴を思い出し、何となく胸の辺りを擦る。
相手を『見る』事を忘れてしまった愛はいずれ破滅する。
独りよがりな愛は相手を傷つけてしまうからだ。
私はチラッと隣にいるセイに視線を移した。
私の『愛』は独りよがりなモノになってないだろうか……?
私はキチンとセイを『見て』いるのだろうか?
少し不安になってジ────っとセイを見つめ続けていると、セイは私の視線に気づき、購入した恋愛小説を私の前に突き出した。
「ヨセフ、見て下さいよ!やっぱり小説と言ったら恋愛小説ですねぇ!
甘酸っぱい恋愛は見ていてとても心が踊ります。
愛は障害があればあるほど燃え上がり、二人は固く強く結ばれるのですよ。
────で!そんな素晴らしい愛のキッカケにと企画したイベントがありまして……障害物リレーと婚活パーティーを混ぜたイベントなのですが、教会が許可してくれないんです。酷いと思いませんか?」
はぁ~……と大きなため息をついてガッカリするセイ。
そんなセイにズイズイっ!と近づき肩が触れ合うと、私はセイの耳に顔を近づけた。
「確かに障害があると凄く燃えるよね、愛って。男同士、年の差、上司と部下、下剋上、後は……。 」
コショコショと内緒話をするようにそう言えば、セイは熟れたトマトの様に顔を真っ赤にして耳を抑えた後「……その通りだ。」と言って恥ずかしそうに笑った。
その笑顔を見てじんわり広がる幸せ。
それを噛み締めて、独りよがりではない愛に喜びを感じていると────……。
「あああ────────っ!!!それ!もう買っちゃったの!!??……という女性の大きな叫び声がすぐ近くで聞こえてきて、二人揃って耳を塞ぐ。
何だろう??
疑問に思いながら声がした方へ視線を向けると、そこには何ともゴージャスな出で立ちの若い女性が立っていて、グレスターの持っている本を指さしていた。
目に入って焼き付く程の真っ赤な色のドレスに、赤いバラがモチーフのキラキラ輝くアクセサリーをこれでもか!と沢山身につけている女性。
黄色味が強い金色の長い髪は、先端の方でクルンクルンと全て綺麗に巻かれているためか、それがまた派手なイメージを相手に与える。
更に顔全体の全てのパーツがくっきりパッチリしている美女のため、全体的にとにかく迫力がある女性であった。
そんな女性が何故グレスターに??
セイと一緒に疑問に思ったが、その女性が続けて言った言葉でその謎は直ぐに解決する。
「ねぇ!その本、私に譲ってくれないかしら?今買った値段の10倍出すわ!」
「す……すまないね。この本は私も探していた本だから譲れないんだ……。」
タジタジしながらもキッパリ断るグレスター。
しかしその女性は諦めずにグイグイとグレスターへ迫った。
「私もよ!だから絶対諦めないわ!!なら20倍、50倍……ええ~い!!1000倍だすわ!!
それでも駄目なら全ての財産を────……。」
彼女は外見に負けないくらいの迫力ある性格の持ち主だった様で、物凄い圧力でグレスターに更に迫る。
しかしグレスターは本にだけは非常に頑固なところもあって手に入れたそれを必死に抱き込み、何とか死守していた。
「何だ?何だ?トラブルか?」
「貴族のお嬢さんと揉めてるみたいだな。」
その騒ぎのせいで、次第に周りもざわつき出したが、彼女はなおも迫り、グレスターはダンゴムシ型のモンスターの様に身体を縮めて応戦する。
どうしたものか……と迷っていると、なんとそんな二人の間にヒョコッとセイが割り込んだ。
『女神様はこれが好きだった。だから君も好きだよね?』
『女神様はそんな時こう言っていたよ。だから君もそうだよね?』
『女神様はこんな事はしない。だから君もしてはいけないよ。』
毎日毎日歌う様に言い聞かせる彼の言葉。
それを与えられた人形は、その全てをニコニコと笑顔で受け取り『分かったわ!』と答えた。
以前と同じ『幸せ』な生活。
でも彼はとても不安だった。
その『幸せ』の中で女神様はいなくなってしまったからだ。
だから彼はもっともっと『幸せ』になれる場所を探した。
『ここは邪悪で無価値なモノが多すぎる。』
だから彼はそのまま目を瞑る。
黒いドラゴンが地を蹂躙し、人々を消し去っていくのを。
そしてすっかり何も無くなってしまった焼土の中、彼は人形を連れていき幸せそうに微笑んだ。
『邪魔なモノは全て無くなった。この地は全て君のモノ。
さぁ、踊ってごらん。』
観客など誰もおらず、見渡す限り地獄の様に焼けた大地。
それでも彼の目にはそこが楽園の様に見えていた。
そして彼はその『楽園』で人形についていた操り糸を持ち、可憐で美しいダンスを披露する。
男は『幸せ』だった。
やっと自分の愛する人を完璧に『幸せ』にする事ができたのだと喜んだ。
そのため彼は全く気付いていなかったのだ。
人形はとっくの昔に与えられた心を失い、また元の傀儡人形に戻ってしまっていた事に。
その内容を思い出し、何とも恐ろしい話だと思わずゾクッと背筋を凍らせる。
きっと最初は人形に対し愛情があったはずなのに、あまりにも強い愛が男を歪めてしまったのか……私は自分の中にあった大きな穴を思い出し、何となく胸の辺りを擦る。
相手を『見る』事を忘れてしまった愛はいずれ破滅する。
独りよがりな愛は相手を傷つけてしまうからだ。
私はチラッと隣にいるセイに視線を移した。
私の『愛』は独りよがりなモノになってないだろうか……?
私はキチンとセイを『見て』いるのだろうか?
少し不安になってジ────っとセイを見つめ続けていると、セイは私の視線に気づき、購入した恋愛小説を私の前に突き出した。
「ヨセフ、見て下さいよ!やっぱり小説と言ったら恋愛小説ですねぇ!
甘酸っぱい恋愛は見ていてとても心が踊ります。
愛は障害があればあるほど燃え上がり、二人は固く強く結ばれるのですよ。
────で!そんな素晴らしい愛のキッカケにと企画したイベントがありまして……障害物リレーと婚活パーティーを混ぜたイベントなのですが、教会が許可してくれないんです。酷いと思いませんか?」
はぁ~……と大きなため息をついてガッカリするセイ。
そんなセイにズイズイっ!と近づき肩が触れ合うと、私はセイの耳に顔を近づけた。
「確かに障害があると凄く燃えるよね、愛って。男同士、年の差、上司と部下、下剋上、後は……。 」
コショコショと内緒話をするようにそう言えば、セイは熟れたトマトの様に顔を真っ赤にして耳を抑えた後「……その通りだ。」と言って恥ずかしそうに笑った。
その笑顔を見てじんわり広がる幸せ。
それを噛み締めて、独りよがりではない愛に喜びを感じていると────……。
「あああ────────っ!!!それ!もう買っちゃったの!!??……という女性の大きな叫び声がすぐ近くで聞こえてきて、二人揃って耳を塞ぐ。
何だろう??
疑問に思いながら声がした方へ視線を向けると、そこには何ともゴージャスな出で立ちの若い女性が立っていて、グレスターの持っている本を指さしていた。
目に入って焼き付く程の真っ赤な色のドレスに、赤いバラがモチーフのキラキラ輝くアクセサリーをこれでもか!と沢山身につけている女性。
黄色味が強い金色の長い髪は、先端の方でクルンクルンと全て綺麗に巻かれているためか、それがまた派手なイメージを相手に与える。
更に顔全体の全てのパーツがくっきりパッチリしている美女のため、全体的にとにかく迫力がある女性であった。
そんな女性が何故グレスターに??
セイと一緒に疑問に思ったが、その女性が続けて言った言葉でその謎は直ぐに解決する。
「ねぇ!その本、私に譲ってくれないかしら?今買った値段の10倍出すわ!」
「す……すまないね。この本は私も探していた本だから譲れないんだ……。」
タジタジしながらもキッパリ断るグレスター。
しかしその女性は諦めずにグイグイとグレスターへ迫った。
「私もよ!だから絶対諦めないわ!!なら20倍、50倍……ええ~い!!1000倍だすわ!!
それでも駄目なら全ての財産を────……。」
彼女は外見に負けないくらいの迫力ある性格の持ち主だった様で、物凄い圧力でグレスターに更に迫る。
しかしグレスターは本にだけは非常に頑固なところもあって手に入れたそれを必死に抱き込み、何とか死守していた。
「何だ?何だ?トラブルか?」
「貴族のお嬢さんと揉めてるみたいだな。」
その騒ぎのせいで、次第に周りもざわつき出したが、彼女はなおも迫り、グレスターはダンゴムシ型のモンスターの様に身体を縮めて応戦する。
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