【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん

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36 嬉しいな

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(ルーカス)

兄さんは俺を幸せにしたい。
俺は────……。


◇◇
(一度目の人生)

兄さんは俺を愛してる。

きっと初めてそんな熱量のある想いを抱いて、それがなんなのかすらよく分かっていない。

兄さんは寂しがり屋だ。

本当は誰より愛情が欲しくて、他と繋がりたくて……でも、そのやり方が分からないくらい自分の気持ちを理解する心が成長してないから、周りの人間と上手くいかない。

そんな可愛い兄によってすっかり世界を変えられてしまった俺がまずしたのは、前髪を切る事だった。

『こんな汚い世界なんて見たくない。』
そんな想いで、俺は自分の視界を消すために、前髪を長くしていた。

目玉をくり抜いた方が楽かなって思っていたけど……良かった!潰さなくて。
潰したら、兄さんの可愛い姿を一生見れなくなる所だった。

俺はナイフを手にすると、そのまま長い前髪をバッサリと切ってやる。
すると床に自分の髪の毛が散らばり、それと同時にパッ!と視界が開けた。

キラキラ……。

キラキラ……。

すると今まで灰色一色だと思っていた世界が、とても輝いて見えて……それと同時に兄さんへの愛おしい気持ちが溢れ出す。

そうか。世界を輝かすには、兄さんが必要だったんだ。

「……ふっ……。ふふっ……。」

それに気づくと、なんだかおかしくて!
更に今までの事全てに感謝する気持ちさえ湧いてくるから、本当に不思議だと思った。

俺をこんな綺麗な世界に産んでくれてありがとう。

あのクソみたいな母親にすら感謝する気持ちが湧くんだから……それを可能にする兄への愛は凄い力を持っている!
その凄さに驚いたが、その直後に襲ってくるのは、『じゃあ、それを可能にする兄がいなくなったら?』だ。

「…………っ。」

それを考えるだけでも苦しくて痛くて、思わずその場に膝をついて呼吸を必死に落ち着けた。

兄がいなければ、俺の世界は輝く事ができない。
それは、世界の終焉。
俺の存在はその瞬間、『死』を迎えるという事だ。

「……死にたくないな。
────じゃあ、兄さんに殺されないためには、どうしたらいいんだろう?」

その日は自室で考えて考えて────……すると、突然自分の内なる力の存在を感じられる様になってきた。
それは心の奥の方に厳重に隠されていて……そこから漏れてくる僅かばかりの力だけが、今まで俺に恵まれた才能だと思っていたが、どうやら違う様だ。

「?なんだろう……?」

俺はその奥底に隠されたモノを探す様に手を伸ばすと、固く閉ざされた扉が突然瞼の裏に浮かぶ。

《そこには世界を守る力がある。》

そう直感的に感じ、俺はためらう事なくその扉を思い切り開けた。


才能ギフト……【聖令神】
能力値……潜在ステータス値(SSS)、現在の総合ステータス値(SSS)

(スキル)

<”世界”に手を伸ばす者>

”均等”という概念を守るため、本来持って生まれた力を封じ込める扉を開ける事ができる強制解除系スキル
扉を開ける鍵は絶対的な『孤独』と『愛情』
開けられた扉は永久に閉まる事ができずに消滅する


「……なるほど、これが俺の本当の『力』か。」

かつて人類が住める世界を創ったとされる才能、【聖令神】。
その才能の真の力を手にするには、絶対的な孤独な環境と、それが消し飛ぶ程のホンモノの『愛情』が必要だった様だ。

新たな自分になった様な、でも本来の自分に戻った様な不思議な感覚を味わいながら、これからの事を考えた。

「さぁ、どうしようかな。今直ぐ兄さんを連れて逃げてもいいけど……兄さんは、まだ両親に対して未練がありそうだし、それをしっかり断ち切ってからがいいかな。」

う~ん……と考え込み、正直今すぐ暗殺してしまった方が早いと思ったが、そんなに一気に事を進めては、兄さんの心が壊れてしまうかもしれない。
アレは駄目なモノだと、周りからではなく兄さん自身が答えを出さないと……全部俺のモノにはできないもんね?

「兄さんは頑固だし、先は長そうだけど……時間はまだたっぷりある。
とりあえず才能ギフトが決まるまではこのままココにいて……あぁ、その時排除すればいいか。」

方針が決まり、俺は上機嫌のままその日は眠りについた。


《才能ギフト鑑定日》

緊張している兄はとても可愛くて可愛くて、今直ぐ駆け寄って『大丈夫だよ』と言ってあげたくなる程。

でも我慢我慢。
この茶番みたいな儀式が終われば、これからはずっと一緒にいられるんだから。

クスクスと笑いながらその時を待っていると、兄さんの鑑定結果が出る。

兄さんの才能ギフトは、【やり直し】。

その能力がどんなモノかは不明だが、少なくとも戦闘に役立つ才能ではないらしい。
その能力値は、潜在ステータス値(F)、現在の総合ステータス値(D)……確かに戦闘系ではないにしろ、ここで俺が感心したのは、そのステータス値の差だった。

普通は潜在能力を超える事は稀で、つまりこの差は、兄さんが人並みならぬ努力してきたという何よりの証。
これはとても凄い事で、俺はそんな兄さんを純粋に誇りに思った。

馬鹿みたいに才能に頼り怠惰に過ごすヤツらが多い中、こうして努力できる者こそ真の人間の価値がある。
ただ……それを知っている人間は少ない。

皆、結果しか見ないから。

馬鹿みたいだね。
だってちっぽけな人間の人生の中で、この世界の中で役に立っている事なんて殆どないのに。
人間が重視している結果なんて、大海の砂一粒程度。たかが知れている。

最大級の皮肉に内心クスクスと笑いながら、真に無能な両親二人を背に兄さんに近づいた。

「兄さん、凄いね。二ランクもステータスレベルをあげるなんて、普通はできないよ。兄さんは努力の天才だね。」

「ル、ルーカスぅ~……。あ、ありがとうぅぅぅっ。」

可哀想な兄さんは泣きながら俺に抱きついてきたので、俺はその体を優しく抱きしめる。

兄さんは世界一凄い人だよ。
だってこんなにも努力ができて、俺に力をくれたんだから。

泣き続ける兄さんの背中を優しく優しく撫でて、大丈夫だと伝えた。

これで分かったでしょ?
あの両親二人は、兄さんを傷つけるだけで何もくれないの。
だから、もう諦めがついたでしょ?

無意識に両親に愛情を求めていたのは知っていたからこそ、今の今まで待った。
心がゆっくり成長し、その想いを捨てる時がやっときてくれたのだ。

だから、もう兄さんの愛情は全部俺のモノになる。

……嬉しいな。
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