姑が勝手に連れてきた第二夫人が身籠ったようですが、夫は恐らく……

泉花ゆき

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「ええ。ですから、奥方となる女性を選ばれた際には、このお話を思い出してくださいね」

男は念を押すように、優しく語り掛けました。

「奥方と同じ部屋でお休みになれば、きっと子が授かります。余計な知識や、下賤な者たちの噂話に耳を貸してはいけませんよ。それらはあなたや凌家のことを、騙そうとしている嘘ですから」

「ふーん……そんなものか。分かったよ」

涼珩リャンハンは素直に頷きました。
興味は薄いままでしたが、義務としての方法は理解したつもりになったのです。

彼はこの瞬間に自らの未来だけでなく、将来の妻となる女性の運命までも黒く塗りつぶしてしまったことにな?のですが。しかし、当然のことながらそれに気が付くこともありませんでした。

男は満足げに目を細め、深々と頭を下げて部屋を出ました。

廊下の闇の中で、男の唇がわずかに歪みました。
先ほどまでの優しげな教師の仮面は剥がれ落ち、そこには歪な笑みが張り付いていました。



……これでいい。

こんな馬鹿げたことが、いつまでも通るとは思わない。
いずれ誰かが教えるかもしれないし、本人が不意に書物などに触れて気が付くかもしれない。

しかし話してみて確信を深くしたが、この息子は母親に似て自分に都合の良いことしか信じない性質だった。そして他でもない母親の過干渉によって……他者からの助言を素直に聞く耳も持っていない。

思ったよりずっと御しやすそうな息子であった。
この日の教育は、いずれ必ず歪なものを結ぶだろう。

結婚しても、妻に指一本触れずに子供ができないと考える夫。
孫ができないと騒ぎ立てるであろう義母。

義母がかつて第一夫人から奪った家庭の幸せ。それを義母自身の手で、そして最愛の息子自身の手で砕かせるという想像。

誰に明かしてもそんなに上手く行くわけがないと笑うだろう。
男も、この凌家を出た後は行方が辿れないように身をくらますつもりである。

下らない嘘ではあったが……もしこれが凌家の未来を、根底から腐らせていくとしたら?

それは第一夫人が流した涙への、ささやかな手向けになるだろう。




明くる日、男は教育は完了したことを告げ、多額の謝礼を受け取って屋敷を去っていきました。
義母は最後まで男に感謝し、笑顔で見送りました。
その背中に、破滅の種が貼り付けられているとも知らずに。

こうして、時限爆弾はセットされたのです。

男は頭から意識して、そのことを考えないようにしていたのですが。蘭珠ランジュという被害者が、生まれてしまうことも確かなのでした。
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