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「……リリアーナ、どうかした?」
「あ、あの……」
振り返ったアルフレッド様の声には、何の曇りもありません。それを聞いたとで、かえって私の心は不安になったのです。
けれども、その声に何か答えるよりも早く。
「ほらぁ。アル、早く!」
「お、おい。カレン……引っ張るなよ」
カレン様が、引き立てるようにしてアルフレッド様を連れていってしまったのです。
「あ……」
扉が閉まり、静まり返ったサロンに一人取り残された私は、ただ呆然と立ち尽くしていました。
磨き上げられた床と窓から差し込む午後の光。
本来であればこの屋敷では、婚約者であるアルフレッド様と、そのご両親とのご挨拶が待っていると思っていたのですが……
(……何かしら、今の状況は)
胸の奥をちりちりと焼いているような、言いようのない不安。今日は、私のこれからの人生を決める大切な日であったと思っていたのです。
アルフレッド様と交流し、そして彼のご両親への挨拶のために伺ったはず…… それなのに、事前に存在すら知らされていなかった女性が現れ、あろうことか……私を置き去りにして、二人で連れ立って部屋を出て行ってしまうなんて。
貴族としての礼儀を欠いているのはもちろんですが、それ以上に彼らの中ではこれが普通なのかもしれないという事が、私をひどく心細くさせました。
……確かに私たちは、格式を重んじる方々のようではなく、二人自然と惹かれあって恋愛関係になったのだけれど。
(自由な恋愛、とは言っても……礼儀や、相手を敬う心まで自由にしていいわけではないと思うのだけれど……)
考えれば考えるほど、複雑な気持ちが渦巻きます。
ただ幸いなことに、二人は出て行ってからそれほど経たずに戻ってきました。本当に、ただ使用人に指示を伝えに行っただけのようです。
「お待たせ!お茶とかお菓子とか、すぐに来ると思うからね~」
開け放されたままの扉から、カレン様が戻ってきました。その後ろを、アルフレッド様が少し苦笑いしながらついてきます。
「カレン、君がそこまで仕切らなくても」
「だってぇ、アルに任せておくと、こういう時おっとりしすぎてていらいらするんだもん。私の方がこの家の勝手、分かってるしね!」
「あ、あの……」
振り返ったアルフレッド様の声には、何の曇りもありません。それを聞いたとで、かえって私の心は不安になったのです。
けれども、その声に何か答えるよりも早く。
「ほらぁ。アル、早く!」
「お、おい。カレン……引っ張るなよ」
カレン様が、引き立てるようにしてアルフレッド様を連れていってしまったのです。
「あ……」
扉が閉まり、静まり返ったサロンに一人取り残された私は、ただ呆然と立ち尽くしていました。
磨き上げられた床と窓から差し込む午後の光。
本来であればこの屋敷では、婚約者であるアルフレッド様と、そのご両親とのご挨拶が待っていると思っていたのですが……
(……何かしら、今の状況は)
胸の奥をちりちりと焼いているような、言いようのない不安。今日は、私のこれからの人生を決める大切な日であったと思っていたのです。
アルフレッド様と交流し、そして彼のご両親への挨拶のために伺ったはず…… それなのに、事前に存在すら知らされていなかった女性が現れ、あろうことか……私を置き去りにして、二人で連れ立って部屋を出て行ってしまうなんて。
貴族としての礼儀を欠いているのはもちろんですが、それ以上に彼らの中ではこれが普通なのかもしれないという事が、私をひどく心細くさせました。
……確かに私たちは、格式を重んじる方々のようではなく、二人自然と惹かれあって恋愛関係になったのだけれど。
(自由な恋愛、とは言っても……礼儀や、相手を敬う心まで自由にしていいわけではないと思うのだけれど……)
考えれば考えるほど、複雑な気持ちが渦巻きます。
ただ幸いなことに、二人は出て行ってからそれほど経たずに戻ってきました。本当に、ただ使用人に指示を伝えに行っただけのようです。
「お待たせ!お茶とかお菓子とか、すぐに来ると思うからね~」
開け放されたままの扉から、カレン様が戻ってきました。その後ろを、アルフレッド様が少し苦笑いしながらついてきます。
「カレン、君がそこまで仕切らなくても」
「だってぇ、アルに任せておくと、こういう時おっとりしすぎてていらいらするんだもん。私の方がこの家の勝手、分かってるしね!」
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