親同士の決め事でしょう?

泉花ゆき

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「彼女に最低限の身支度をさせろ。今すぐだ。それから、表に馬車を用意させなさい。彼女を自宅まで送り届けるように」

「かしこまりました。用意させていただきます」

使用人の表情は変わらない。けれども、侯爵の耳には、彼が放ったただちにという言葉には心なしか力の入っているように感じられた。

すぐにでも帰宅を願いたいという空気。
……カレンと息子が自分たちの留守中にどのようなふるまいをしていたのかがうかがい知れるような気がして、侯爵は頭痛をこらえるような表情になりながら息を吐く。

「はあっ!?」

驚いたのはカレンだった。急に、まだ今日は帰ってきてから直接話もしていない侯爵が使用人へと言いつけた言葉。彼女は抗議するように目を見開いた。

「え、ちょっと……待ってよ!……待ってください!」

言い募ろうとするが、侯爵はカレンの方へ視線もくれなかった。ただ使用人に指示を出したあとは、彼女を居ないもののように扱っている。
呼びかけにも答えない、こちらの方を向こうともしない。

いつもとは違う、明確に線を引かれてしまった侯爵の様子。カレンは怯みつつも、それでも彼女なりの主張を繰り返した。

「もうこんなに日が暮れちゃってるし……そうっ、あたし!具合が悪いって言ったじゃないですか!」

そんな夜に体調不良の人間を放り出す、その意味を分かってるのか!?……そう言わんばかりの剣幕だった。
もっとも後半は、そういう設定にしてあるのだということを思い出したカレンが、ただ保身に使っただけなのだけれど。

「……そうね、確かに夜も遅いわ」

「おばさま……!」

「ですから、馬車を用意すると言っているの。あなたの安全を保証しながら送り届けて差し上げると、そう主人は伝えたのよ」

あなたこそ、言っている意味が分かるわね?

夫人のまなざしがカレンの元へ突き刺さる。
二人の視線は口で発言する以上の意味を伴って互いを牽制しあっていたが、当然ながらに分が悪いのはカレンの方であった。

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