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独り言は、誰に届くこともなく馬車の中に消えた。アルフレッドは、祈るような、あるいは縋るような思いで伯爵邸へと馬車を急がせようとした。
けれども決意は馬車の車輪が地を踏んでガタンと揺れた時、ひびの入った陶器かのように崩れてしまう。
(ああ…………)
不意に彼を襲ったのは、底冷えしたような不安だった。
もし、伯爵家へ行ったところでリリアーナに会わせてもらえなかったら?
門前払いを食らい、冷たい石畳の上で立ち尽くすことになったら。
(手紙に対する反応が何一つないのだ。家から家への手紙だというのに……これが伯爵家ぐるみだとしたら……)
あるいは幸運にも対面が叶ったとして、以前と同じあの氷のような眼差しを向けられたら……
到底一人で耐え切れるとは思えなかった。
己のプライドを守るための盾も、心を支える拠り所も今の彼には何一つ残っていない。
リリアーナがそれになるはずだったのだから。
アルフレッドは馬車の壁にある小窓を、苛立ちをぶつけるように乱暴に叩いた。
「アルフレッド様。どうかされましたか」
御者の怪訝そうな声に、アルフレッドは喉の奥から絞り出すように命じる。
「……カレンの家へ寄ってくれ」
カレンの邸は隣領にあり、伯爵家へ向かう道中からわずかに逸れた場所にある。決して遠回りと言うほどに時間の掛かる道程ではないが、御者は返す言葉に戸惑った。
主の息子が今日、どのような理由で伯爵家へ向かうのか。どんな姿勢でリリアーナの元へ向かうべきか。
その目的を知る立場として、この指示は受け入れがたいものだった。
「アルフレッド様、ですが。旦那様からは真っ直ぐに伯爵邸へ向かうよう、厳命されております。これ以上の遅滞は……」
「いいから向かえ!」
怒声が狭い車内に響いた。アルフレッドは窓枠を掴み、剥き出しの焦燥を御者へと叩きつける。
「お前を雇っているのは僕の家だぞ。僕に逆らってどうなると思ってる。一族揃って路頭に迷いたいのか」
けれども決意は馬車の車輪が地を踏んでガタンと揺れた時、ひびの入った陶器かのように崩れてしまう。
(ああ…………)
不意に彼を襲ったのは、底冷えしたような不安だった。
もし、伯爵家へ行ったところでリリアーナに会わせてもらえなかったら?
門前払いを食らい、冷たい石畳の上で立ち尽くすことになったら。
(手紙に対する反応が何一つないのだ。家から家への手紙だというのに……これが伯爵家ぐるみだとしたら……)
あるいは幸運にも対面が叶ったとして、以前と同じあの氷のような眼差しを向けられたら……
到底一人で耐え切れるとは思えなかった。
己のプライドを守るための盾も、心を支える拠り所も今の彼には何一つ残っていない。
リリアーナがそれになるはずだったのだから。
アルフレッドは馬車の壁にある小窓を、苛立ちをぶつけるように乱暴に叩いた。
「アルフレッド様。どうかされましたか」
御者の怪訝そうな声に、アルフレッドは喉の奥から絞り出すように命じる。
「……カレンの家へ寄ってくれ」
カレンの邸は隣領にあり、伯爵家へ向かう道中からわずかに逸れた場所にある。決して遠回りと言うほどに時間の掛かる道程ではないが、御者は返す言葉に戸惑った。
主の息子が今日、どのような理由で伯爵家へ向かうのか。どんな姿勢でリリアーナの元へ向かうべきか。
その目的を知る立場として、この指示は受け入れがたいものだった。
「アルフレッド様、ですが。旦那様からは真っ直ぐに伯爵邸へ向かうよう、厳命されております。これ以上の遅滞は……」
「いいから向かえ!」
怒声が狭い車内に響いた。アルフレッドは窓枠を掴み、剥き出しの焦燥を御者へと叩きつける。
「お前を雇っているのは僕の家だぞ。僕に逆らってどうなると思ってる。一族揃って路頭に迷いたいのか」
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