親同士の決め事でしょう?

泉花ゆき

文字の大きさ
125 / 128

125

独り言は、誰に届くこともなく馬車の中に消えた。アルフレッドは、祈るような、あるいは縋るような思いで伯爵邸へと馬車を急がせようとした。

けれども決意は馬車の車輪が地を踏んでガタンと揺れた時、ひびの入った陶器かのように崩れてしまう。

(ああ…………)

不意に彼を襲ったのは、底冷えしたような不安だった。

もし、伯爵家へ行ったところでリリアーナに会わせてもらえなかったら?
門前払いを食らい、冷たい石畳の上で立ち尽くすことになったら。

(手紙に対する反応が何一つないのだ。家から家への手紙だというのに……これが伯爵家ぐるみだとしたら……)

あるいは幸運にも対面が叶ったとして、以前と同じあの氷のような眼差しを向けられたら……

到底一人で耐え切れるとは思えなかった。
己のプライドを守るための盾も、心を支える拠り所も今の彼には何一つ残っていない。

リリアーナがになるはずだったのだから。

アルフレッドは馬車の壁にある小窓を、苛立ちをぶつけるように乱暴に叩いた。

「アルフレッド様。どうかされましたか」

御者の怪訝そうな声に、アルフレッドは喉の奥から絞り出すように命じる。

「……カレンの家へ寄ってくれ」

カレンの邸は隣領にあり、伯爵家へ向かう道中からわずかにれた場所にある。決して遠回りと言うほどに時間の掛かる道程ではないが、御者は返す言葉に戸惑った。

主の息子が今日、どのような理由で伯爵家へ向かうのか。どんな姿勢でリリアーナの元へ向かうべきか。
その目的を知る立場として、この指示は受け入れがたいものだった。

「アルフレッド様、ですが。旦那様からは真っ直ぐに伯爵邸へ向かうよう、厳命されております。これ以上の遅滞は……」

「いいから向かえ!」

怒声が狭い車内に響いた。アルフレッドは窓枠を掴み、剥き出しの焦燥を御者へと叩きつける。

「お前を雇っているのは僕の家だぞ。僕に逆らってどうなると思ってる。一族揃って路頭に迷いたいのか」

あなたにおすすめの小説

うまくやった、つもりだった

彼岸 さく
恋愛
四大貴族、バルディストン公爵家の分家に生まれたオスカーは、ここまでうまくやってきた。 本家の一人娘シルヴィアが王太子の婚約者に選ばれ、オスカーは本家の後継ぎとして養子になった。 シルヴィアを姉と慕い、養父に気に入られ、王太子の側近になり、王太子が子爵令嬢と愛を深めるのを人目につかぬよう手助けをし、シルヴィアとの婚約破棄の準備も整えた。 誠実と王家への忠義を重んじるこの国では、シルヴィアの冷徹さは瑕疵であり、不誠実だと示せば十分だった。 かつてシルヴィアはオスカーが養子になることに反対した。 その姉が後妻か商家の平民に落ちる時が来た。 王太子の権威や素晴らしさを示すという一族の教えすら忘れた姉をオスカーは断罪する。 だが、シルヴィアは絶望もせずに呟いた。 「これだから、分家の者を家に入れるのは嫌だったのよ……」  

悪役令嬢が残した破滅の種

八代奏多
恋愛
 妹を虐げていると噂されていた公爵令嬢のクラウディア。  そんな彼女が婚約破棄され国外追放になった。  その事実に彼女を疎ましく思っていた周囲の人々は喜んだ。  しかし、その日を境に色々なことが上手く回らなくなる。  断罪した者は次々にこう口にした。 「どうか戻ってきてください」  しかし、クラウディアは既に隣国に心地よい居場所を得ていて、戻る気は全く無かった。  何も知らずに私欲のまま断罪した者達が、破滅へと向かうお話し。 ※小説家になろう様でも連載中です。  9/27 HOTランキング1位、日間小説ランキング3位に掲載されました。ありがとうございます。

【完結】私は側妃ですか? だったら婚約破棄します

hikari
恋愛
レガローグ王国の王太子、アンドリューに突如として「側妃にする」と言われたキャサリン。一緒にいたのはアトキンス男爵令嬢のイザベラだった。 キャサリンは婚約破棄を告げ、護衛のエドワードと侍女のエスターと共に実家へと帰る。そして、魔法使いに弟子入りする。 その後、モナール帝国がレガローグに侵攻する話が上がる。実はエドワードはモナール帝国のスパイだった。後に、エドワードはモナール帝国の第一皇子ヴァレンティンを紹介する。 ※ざまあの回には★がついています。

何か、勘違いしてません?

シエル
恋愛
エバンス帝国には貴族子女が通う学園がある。 マルティネス伯爵家長女であるエレノアも16歳になったため通うことになった。 それはスミス侯爵家嫡男のジョンも同じだった。 しかし、ジョンは入学後に知り合ったディスト男爵家庶子であるリースと交友を深めていく… ※世界観は中世ヨーロッパですが架空の世界です。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

なぜ、虐げてはいけないのですか?

碧井 汐桜香
恋愛
男爵令嬢を虐げた罪で、婚約者である第一王子に投獄された公爵令嬢。 処刑前日の彼女の獄中記。 そして、それぞれ関係者目線のお話

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。 婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。 愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。 絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……