婚約者に浮気されたので、肩代わりしてた公務その他をお返しします

泉花ゆき

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「何か……?」

半身で振り返ってみせると、ジェラルド殿下はしかめっ面をしながら、しかし私からは視線を逸らしている。
よほど言いたくないらしい。

「も、もし……万が一、分からない………いやっ、不明な点があればどうする」

殿下がプライドをちょっとだけ捨てて、助けを求めようとしている。 
が。私はその言葉を最後まで言わせず、食い気味に遮った。

「分からないこと、ですか?」 

「い、いや、その……念のためだ!確認という意味で!それに不明な点があるというのならお前の用意したこの資料が不手際で……」 

「ご冗談を。まさかこの国の次代を担う殿下が資料の読み方も分からないなんてこと、あるはずございませんでしょう?」

私はおかしそうに笑ってしまう。実際、笑い出しそうな気持ちではあったのだから。
……今までしてきた苦労の何分の一かでも、彼が知るところになったことですし。

「もしそんなことがあれば、それこそ無能の烙印を押されてしまいます……けれどご安心ください。資料はわたくしがいつも使用しているものと全く変わりませんわ」

そう言ってしまうと、殿下は押し黙る。
こいつに分かるものが自分に出来ないわけがない。できないとしてもそれを口に出すことは出来ない……そんなところかしら。

仕方ないと言った表情で取り掛かろうとするが、まず資料を読み込むところですらつっかえながら行っている。
殿下は忌々しげに、私を追いやろうと手を振った。

「くそっ……分かった、さっさと出ていけ」 

「ええ、言われなくとも。……ああ、それと」

私は壁時計をちらっと見上げた。

「そのような進み具合ですと、お昼……までには、終わらないかもしれませんわね」 

「何……!?」

殿下ががたっと立ち上がった。
彼は今日の昼も、裏庭でミナと待ち合わせをしているはず。だからこそこんなに慌てているのでしょう。

「昼は……大事な用事がある、外すわけにはいかん!」
 
「急を要する公務よりも大事な用事が?」 

「うっ……いや、そういうわけではないが……プライベートの……」 

「殿下は以前、仰いましたよね。私情を捨てて国に尽くせと……ご自身ではどうお考えなのです?」

以前私が風邪で高熱を出した時。見舞いに来るどころか、そう言い放ってパーティーへ出かけていったのは彼自身だ。 その言葉をそのまま差し出してみる。

「まさか一刻を争う公務を放り出して、プライベートを優先されるおつもりではありませんわよね?」 

「ぐ……っ!」 

「そのような無責任なこと、あれだけ厳しくわたくしに言い付けていた殿下がなさるはずがありませんもの」
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