138 / 140
138
私たちはホールを後にし、南へと続く回廊を歩み出す。春の柔らかな風が、開け放たれた窓から吹き込んできた。
背後から聞こえてくるのは大勢の令嬢たちの衣擦れの音と、控えめながらも浮き立った囁き声。
(……こんな風に、この学園でこれほど多くの期待を背負って歩いたことがあったかしら……)
重々しい扉を抜けた先では視界いっぱいに広がった眩い緑と青空がある。その眩しさに、私は静かに目を細めた。
庭園でのお茶会は誰もが熱に浮かされたような高揚感を抱きつつも、終始和やかな空気に包まれていた。
ドレスについて語り合うという名目のもとだけれど、全員が同時に話を聞くことは難しい。集まった令嬢たちは思い思いに芝生へクロスを敷き、簡素ながら場を整えてお茶を楽しんでいる。
「それではきっと、今から頼むのではデビュタントには間に合いませんわね」
「あら、でもデビュー後の社交界では機会もたくさんありましてよ」
「それではやはり近いうちにお訪ねしたいわ……」
そこかしこから、小鳥のさえずりを思わせる華やかで可愛らしい会話が聞こえてくる。
私はガゼボの奥に置かれた椅子に腰を下ろし、卓上に用意された茶を楽しみながら隣のソフィアと話を続けていた。
話題は店主のあり方に移っていた。退店の間際、店主から釘を刺されたように言われた言葉を伝えている。
「……そう、客を選ぶ店でもあるのね」
「ええ。……けれど、この学園に通う淑女の皆様であれば、きっと大丈夫かと」
ごく一部を除いて、という言葉は飲み込んでおく。だってこの場にいる皆様には、当てはまらない言葉だもの。
ソフィアは皆までを聞くことはなかったが、どこか浮かない顔をして手元のティーカップを見つめていた。
「わたくしなどは、きっと入店も拒否をされてしまうわ」
その声に含まれた響きで、ソフィアが懺悔を望んでいるのだと察した。それも相手は私についてだろう。
余計な口を挟まず、ただ静かに彼女の言葉を待つこととする。
背後から聞こえてくるのは大勢の令嬢たちの衣擦れの音と、控えめながらも浮き立った囁き声。
(……こんな風に、この学園でこれほど多くの期待を背負って歩いたことがあったかしら……)
重々しい扉を抜けた先では視界いっぱいに広がった眩い緑と青空がある。その眩しさに、私は静かに目を細めた。
庭園でのお茶会は誰もが熱に浮かされたような高揚感を抱きつつも、終始和やかな空気に包まれていた。
ドレスについて語り合うという名目のもとだけれど、全員が同時に話を聞くことは難しい。集まった令嬢たちは思い思いに芝生へクロスを敷き、簡素ながら場を整えてお茶を楽しんでいる。
「それではきっと、今から頼むのではデビュタントには間に合いませんわね」
「あら、でもデビュー後の社交界では機会もたくさんありましてよ」
「それではやはり近いうちにお訪ねしたいわ……」
そこかしこから、小鳥のさえずりを思わせる華やかで可愛らしい会話が聞こえてくる。
私はガゼボの奥に置かれた椅子に腰を下ろし、卓上に用意された茶を楽しみながら隣のソフィアと話を続けていた。
話題は店主のあり方に移っていた。退店の間際、店主から釘を刺されたように言われた言葉を伝えている。
「……そう、客を選ぶ店でもあるのね」
「ええ。……けれど、この学園に通う淑女の皆様であれば、きっと大丈夫かと」
ごく一部を除いて、という言葉は飲み込んでおく。だってこの場にいる皆様には、当てはまらない言葉だもの。
ソフィアは皆までを聞くことはなかったが、どこか浮かない顔をして手元のティーカップを見つめていた。
「わたくしなどは、きっと入店も拒否をされてしまうわ」
その声に含まれた響きで、ソフィアが懺悔を望んでいるのだと察した。それも相手は私についてだろう。
余計な口を挟まず、ただ静かに彼女の言葉を待つこととする。
あなたにおすすめの小説
我慢しないことにした結果
宝月 蓮
恋愛
メアリー、ワイアット、クレアは幼馴染。いつも三人で過ごすことが多い。しかしクレアがわがままを言うせいで、いつもメアリーは我慢を強いられていた。更に、メアリーはワイアットに好意を寄せていたが色々なことが重なりワイアットはわがままなクレアと婚約することになってしまう。失意の中、欲望に忠実なクレアの更なるわがままで追い詰められていくメアリー。そんなメアリーを救ったのは、兄達の友人であるアレクサンダー。アレクサンダーはメアリーに、もう我慢しなくて良い、思いの全てを吐き出してごらんと優しく包み込んでくれた。メアリーはそんなアレクサンダーに惹かれていく。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。
『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』
『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』
公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。
もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。
屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは……
*表紙絵自作
【完結済】25年目の厄災
紫
恋愛
生まれてこの方、ずっと陽もささない地下牢に繋がれて、魔力を吸い出されている。どうやら生まれながらの罪人らしいが、自分に罪の記憶はない。
だが、明日……25歳の誕生日の朝には斬首されるのだそうだ。もう何もかもに疲れ果てた彼女に届いたのは……
25周年記念に、サクッと思い付きで書いた短編なので、これまで以上に拙いものですが、お暇潰しにでも読んで頂けたら嬉しいです。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
居候と婚約者が手を組んでいた!
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!
って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!
父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。
アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。
最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。
私は私で幸せになりますので
あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。
ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。
それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。
最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。
愛されヒロインの姉と、眼中外の妹のわたし
香月文香
恋愛
わが国の騎士団の精鋭二人が、治癒士の少女マリアンテを中心とする三角関係を作っているというのは、王宮では当然の常識だった。
治癒士、マリアンテ・リリベルは十八歳。容貌可憐な心優しい少女で、いつもにこやかな笑顔で周囲を癒す人気者。
そんな彼女を巡る男はヨシュア・カレンデュラとハル・シオニア。
二人とも騎士団の「双璧」と呼ばれる優秀な騎士で、ヨシュアは堅物、ハルは軽薄と気質は真逆だったが、女の好みは同じだった。
これは見目麗しい男女の三角関係の物語――ではなく。
そのかたわらで、誰の眼中にも入らない妹のわたしの物語だ。
※他サイトにも投稿しています