自称病弱いとこを優先させ続けた婚約者の末路

泉花ゆき

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「あそこは本来、王族や公爵家の方々が使われる場所で……並の利用者では解放すらされない部屋なんだ」

その控室の存在をしっている人間が、そのような決まり事を知らないわけはないのだけれど。
あまりにもリリアンが、ヴィンセントからすれば無垢な瞳でそのようなことを言うものだから彼はしどろもどろと説明をする。

「大体勝手な真似をすればエルアナが黙っていないだろうし……もし何か不手際があれば、父上からもひどく叱責されてしまうだろう……」

ヴィンセントは困り果てたように眉を下げ、情けない声を漏らした。リリアンは彼の戸惑いを見逃さない。そして彼女の細い指先がヴィンセントの袖へと触れるたびに、彼の思考はぐらぐらと揺れた。

リリアンの無言の訴えを受けて、ヴィンセントはますます声を小さくする。
車輪の音が聞こえる馬車の中では、聞こえなくなってしまうのではないかという声量だった。

「その案はもちろんいいもののように聞こえるし……僕だって、本当は一刻も早く君の側へ駆けつけたいと思っているけれど」

わかってくれ。そんな視線を向けるヴィンセントに対して、リリアンはわざとらしく自分の胸元を抑える。そして悲しそうに咳を繰り出した。

「……ケホッ……そう……ヴィンセント様まで、私を見捨ててあの方のところへと行ってしまうのですね……」

「リリアン、見捨てるだなんて……!僕は何もそんなつもりでは……明日の、明日の一日だけなんだ……!」

か弱い声を出すリリアンへと言いすがるヴィンセント。すでに立場は逆転しているのだが、彼は何もそのことに気が付けなかった。
リリアンはとどめとばかりに、彼の頭の中へこの上なく過酷な想像をうながすように言葉を紡ぐ。
その卑劣で愚かな振る舞いは、ヴィンセントの心と頭に暗く染み付いて汚れとなった。

「私がこんなに苦しくても、他に誰一人来てくれる方なんていないのに……きっとお部屋の隅で冷たくなっていても、誰も気づいてくれないのだわ……」

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