自称病弱いとこを優先させ続けた婚約者の末路

泉花ゆき

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この式場の事務官と思われる男は、ヴィンセントの突然の申し出に対して怪訝そうに言う。

「明日、でございますか。申し訳ないことですが、明日この会場の予定は埋まっております」

自らの話し方が悪いのだとは認めもしないヴィンセントが、言葉尻に被せるように彼の話を否定した。

「そうではない!……いや、僕がその会場を使用するものだ。明日の主役……つまり明日の婚約披露パーティーの主役を務める、ヴァルモント家のヴィンセントだ」

ヴィンセントは焦れったそうに胸を張りながら自らの素性を明かした。

自分はこの建物の規則に縛られるようなありていの客ではなく明日の主役なのだという自負。その気負いが彼の声をわずかに震わせる。

男はヴィンセントの態度と言葉を受けて微かに驚いた素振りを見せると、やや慇懃いんぎんに頭を下げた。

目の前の人物がどういうものなのか、やっと理解したようだな、とヴィンセントは思った。

「それは失礼いたしました。でしたら明日あすのご予定は滞りなく承っております。また明日みょうにちでのお越しを一同お待ちして……」

「違う、そうじゃないんだ。この……明日、僕たちが式典を行うだろう。その会場の隣室を一つ、僕の控室として開けてほしい」

男の、ヴィンセントに対しての丁寧な言葉。その平民を相手にしているという優越感が、彼の中にあった不安を一時的に塗り替えていく。

自分が名乗るだけで場が動くという事実に、彼は歪な全能感を抱いていた。
けれども事務官は困惑したように眉を寄せる。

「お言葉ですが……会場の控え室はすでに主役であるお二方と、そのご親族の分として確保してございます。配置図に基づき、すべての準備を整えておりますが……」

「だから、もう一つ必要になったと言っているんだ。主役というのは、準備がいろいろと入り用なのだろう?」

準備を一つとて手伝いもしなかった男が前日になって無理強いをしている。
この言動がどのような影響を及ぼすものか、彼は未だ気付きもしていない。

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