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ヴィンセントはちらりと盗み見るようなしぐさで彼女の瞳を見た。
エルアナの目は無感動だった。ヴィンセントが発した言葉の裏側にある意図など、簡単に見透かしてしまいそうなクリアな目だ。
ヴィンセントが先ほどまで抱いていた姑息な自尊心さえも、すべてが露見してしまったかのような錯覚があって彼の背筋は冷たくなった。
「明日の会場が気になって……下見に、と思っただけなんだ。ほら、当日に迷ってはいけないだろう?」
ただ思いついたものを思いついたままに言い訳を並べ立てる。けれどもヴィンセントは、自分の声が不自然に上ずっていることを自覚していた。ともなって、冷や汗がこめかみを伝っていく感触も。
ヴィンセントは後ろめたさで、エルアナの視線を真っ向から受け止めることができない。そちらを見ていますよというポーズのためだけに、彼女の肩越しにある何もない空間へと視線を泳がせる。
対するエルアナは彼の動揺を一切咎めることもなく、そして重ねての質問をするわけでもなかった。ただ静かに佇んでいる。
その静寂こそが、ヴィンセントにとってはどのような罵倒よりも恐ろしい。
彼女の瞳の奥で自分の嘘が一つ、また一つと暴かれているような気になっている。まるで頭から解体されていくような心地がした。
しばらくの間があって、エルアナが動いた。
「そう、感心だわ」
何が飛び出すのかと思っていたが、エルアナの唇からこぼれたのは賛辞の言葉だった。ヴィンセントはハッとして彼女の眼を見るが、それが言葉通りではないことがすぐに知れる。
「準備のすべてを私に任せると仰っていたから、明日までお会いすることはないと思っていたのだけれど……」
彼女の唇が描く弧は、微笑みの形をしている。それでいて、その表情に込められた温度は限りなく低かった。
(そうだ、そんなことを僕は言った。なぜそんなことを言ってしまったんだ……)
ヴィンセントは自分が今にも崩れ落ちそうな場の上に立っていることを、改めて思い知らされていた。
エルアナの目は無感動だった。ヴィンセントが発した言葉の裏側にある意図など、簡単に見透かしてしまいそうなクリアな目だ。
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「明日の会場が気になって……下見に、と思っただけなんだ。ほら、当日に迷ってはいけないだろう?」
ただ思いついたものを思いついたままに言い訳を並べ立てる。けれどもヴィンセントは、自分の声が不自然に上ずっていることを自覚していた。ともなって、冷や汗がこめかみを伝っていく感触も。
ヴィンセントは後ろめたさで、エルアナの視線を真っ向から受け止めることができない。そちらを見ていますよというポーズのためだけに、彼女の肩越しにある何もない空間へと視線を泳がせる。
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しばらくの間があって、エルアナが動いた。
「そう、感心だわ」
何が飛び出すのかと思っていたが、エルアナの唇からこぼれたのは賛辞の言葉だった。ヴィンセントはハッとして彼女の眼を見るが、それが言葉通りではないことがすぐに知れる。
「準備のすべてを私に任せると仰っていたから、明日までお会いすることはないと思っていたのだけれど……」
彼女の唇が描く弧は、微笑みの形をしている。それでいて、その表情に込められた温度は限りなく低かった。
(そうだ、そんなことを僕は言った。なぜそんなことを言ってしまったんだ……)
ヴィンセントは自分が今にも崩れ落ちそうな場の上に立っていることを、改めて思い知らされていた。
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