自称病弱いとこを優先させ続けた婚約者の末路

泉花ゆき

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案内された場所は、大広間に隣接する部屋だった。扉を開けて中に入ると、既にそこでは明日のための準備が進められている。

先ほどのヴィンセントの要望で空けられている、とも思えるが……その割には置いてある物の多いようにも感じられた。

「ここは……本来は何のために使用する場所だったかしら」

台帳を開いて確かめる。責任者も紙の上で指で示して、当初の予定を教えてくれた。

「予備の什器や、演奏者の待機場所として確保していた空間でしたが……ヴィンセント様がご所望とのことでしたので、少し移動をさせます」

部屋の中にはいくつかの荷物も置かれていたけれど、作業員たちの手によって端へと寄せられている。

(……不義理をするとは思っていたけれど、こんなに期限が迫ってから変更を言い出すだなんて)

「前日だと言うのに、無理を言ってしまってごめんなさいね」

責任者の答えは、呆気ないほどに軽やかだった。

「いいえ、このように……間仕切りを運ぶだけですから」

「間仕切りを……?」

「おい、やってくれ」

不思議そうに尋ねる私の前で、彼が短く合図を送る。すると、作業員たちが数枚の大きな板を運び込んできた。

「はい、ただいま」

手際よく動く男たちの手によって、大きな板が天井と床の隙間にぴったりと嵌められていく。それは即席の壁となり、入り口からの視線を完全に遮断した。

まるで最初からこの空間のみの部屋であったかのような、密閉された小部屋が一つ出来上がる。

「まあ……」

「……ですから、エルアナ様。明日は、鍵がなくとも様子をうかがうことが出来るかと」

責任者が壁の一部を指し示す。そこには接合部のわずかな隙間があり、音や気配が漏れ聞こえる構造になっていた。

「……そうね、都合がいいことに」

私はその壁に指を触れた。ヴィンセントはこの密室を、自分とリリアンだけの聖域だと思い込むだろう。扉だけを警戒しておけば全てが済むのだと感じるのに違いがなかった。

壁一枚隔てた先で、すべてを把握することが出来るとも知らないで。


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