自称病弱いとこを優先させ続けた婚約者の末路

泉花ゆき

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「ええ、確かに海には得体の知れないものは多くありますが……けれども、正しく知れば恐れる必要のないこともございます」

怪物の心配よりも、現実的な恐怖の方が私にはまさる。海の流儀を軽んじるわけではないけれど、恐怖で脚を竦ませている場合ではないことのほうが多い。
けれどもこの私の感覚は、彼には共有され難いようだった。

「正しく知る……私には、少し耳が痛い言葉かもしれませんね。はは、何だか眩しいな……」

彼が伏せた目元には卑屈な色が混じっていた。謙遜けんそんと呼ぶには弱々しい響きを伴っていたため、努めて声の調子を落とさないように言ってみせる。

「まあ。ヴィンセント様も勉学に励んでいらっしゃるのでしょう、そこに違いなどありませんわ」

私はティーカップをソーサーに置いた。座学で基礎を学び実践で舵を取る。彼は未だその道を歩いているだけ……と、その時は思っていたが。

今なら分かる。
彼が口にする勉学とは私の想像するものとは異なっていた。貴族の嗜みという名目の放蕩や、興味の赴くままに買い漁る遊戯に近いものだと。

彼は私の視線から逃れるように目を逸らした。

「いや……そんな……あなたは、とても強い人なんだな……」
  
「……」

視線をはぐらかしてしまった彼から見えるかどうかは分からないが、私は笑みだけを返しておいた。

(……頼りがいのある、などと称されるタイプではないことは確かね)

だからこそ、女の身でなどと言われながらも表立った実務をこなしているような……私のようなものがちょうどいいと、向こうの家では考えられたのかもしれない。そして割り切ることは、私にとって難しいことではなかった。

婚期。そのような概念をちらつかされることが増えていた時期だった。
逃せば後はない、などと客から脅されることもある。

(……この分だと、私がすることに口出しをしてくるタイプでもなさそうですし)

で見る限りには悪いことも書いていない。

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