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彼女のためのリサイタル
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詩音に連れられて行ったホールは、百人ほどが入りそうな広さだった。舞台の上にはグランドピアノが置かれていて、弾かれるのを待っている。
「ねぇ、早速弾いて! 私、どこで聴こうかな。指が見える近くがいいかなぁ。ヒナはどこがいいと思う?」
「せっかくのホールだし、ど真ん中が良くない? うちらだけのためにって感じが出るじゃん」
「じゃあ、ここにする~」
楽しそうに笑い合いながら、詩音と雛子がホールの中央付近の座席に座る。いいよー! と言う声に手を振り返して、蓮はピアノの前に座った。
最初に弾くのは、詩音が好きだと言ったリストの『ため息』。それから、雛子のリクエストで最近流行りのドラマの主題歌を。そのあとは、ふたりのリクエストに応える形で色々な曲の有名なところだけをいくつか弾いた。
詩音は前回と同じように目を輝かせてくれたし、雛子も、案外弾けるじゃん、と素直じゃない褒め言葉をくれた。
それほどでもないよと謙遜しつつも、ふたりに褒められて悪い気はしない。でれでれと伸びた鼻の下を押さえていると、後方にあるホールの扉が開いた。
「あれ、残念。もう終わっちゃった?」
穏やかな声と共に入ってきたのは、白衣の男性。
「金居先生!」
詩音が座席からぴょんと立ち上がると、男性のもとに駆け寄っていく。詩音の主治医は先日出会った相馬だと思っていたのだが、違うのだろうか。
戸惑う蓮に視線を向けて、金居はにこりと柔らかな笑みを浮かべた。
「はじめまして。詩音ちゃんの主治医の金居です。蓮くんっていう、ピアノの上手なお友達ができたって聞いたから、ぜひ聞いてみたかったんだけど、ちょっと遅かったか」
「あ、えっと、俺のピアノで良ければいくらでも」
「わ、嬉しいなぁ。それなら一曲リクエストしようかな」
金居が挙げた曲は、最近CMにも使われたメジャーなクラシック。それほど難易度の高い曲ではなかったのであっさりと弾いてみせると、金居は大きな拍手をしてくれた。
「詩音ちゃんの言ってた通り、すごく上手だね」
「ありがとうございます。あの、金居先生が詩音さんの主治医なんですよね? 俺、別の先生かと思ってて……」
先日会った相馬のことを思い浮かべつつそう言うと、金居は一瞬首をかしげたものの、すぐに何かひらめいたようにうなずいた。
「あぁ、相馬先生かな。相馬悠太先生。詩音ちゃんの従兄で、よく様子を見に来てくれてるから」
「従兄……」
詩音を守ろうとする相馬の姿勢は、確かに主治医だからというよりも従兄だからと言われた方がしっくりくる。
「蓮くん、悠太に会ったの?」
詩音が首をかしげるから、蓮はうなずいた。
「うん、この前帰り際に。詩音ちゃんのお友達? って聞かれたから」
「そうなんだ」
「言われてみれば、雰囲気とか似てる……かも?」
笑ってそう言いながら、相馬と交わした会話の内容は詩音に告げないでおこうと蓮は密かに唇を引き結んだ。
「ねぇ、早速弾いて! 私、どこで聴こうかな。指が見える近くがいいかなぁ。ヒナはどこがいいと思う?」
「せっかくのホールだし、ど真ん中が良くない? うちらだけのためにって感じが出るじゃん」
「じゃあ、ここにする~」
楽しそうに笑い合いながら、詩音と雛子がホールの中央付近の座席に座る。いいよー! と言う声に手を振り返して、蓮はピアノの前に座った。
最初に弾くのは、詩音が好きだと言ったリストの『ため息』。それから、雛子のリクエストで最近流行りのドラマの主題歌を。そのあとは、ふたりのリクエストに応える形で色々な曲の有名なところだけをいくつか弾いた。
詩音は前回と同じように目を輝かせてくれたし、雛子も、案外弾けるじゃん、と素直じゃない褒め言葉をくれた。
それほどでもないよと謙遜しつつも、ふたりに褒められて悪い気はしない。でれでれと伸びた鼻の下を押さえていると、後方にあるホールの扉が開いた。
「あれ、残念。もう終わっちゃった?」
穏やかな声と共に入ってきたのは、白衣の男性。
「金居先生!」
詩音が座席からぴょんと立ち上がると、男性のもとに駆け寄っていく。詩音の主治医は先日出会った相馬だと思っていたのだが、違うのだろうか。
戸惑う蓮に視線を向けて、金居はにこりと柔らかな笑みを浮かべた。
「はじめまして。詩音ちゃんの主治医の金居です。蓮くんっていう、ピアノの上手なお友達ができたって聞いたから、ぜひ聞いてみたかったんだけど、ちょっと遅かったか」
「あ、えっと、俺のピアノで良ければいくらでも」
「わ、嬉しいなぁ。それなら一曲リクエストしようかな」
金居が挙げた曲は、最近CMにも使われたメジャーなクラシック。それほど難易度の高い曲ではなかったのであっさりと弾いてみせると、金居は大きな拍手をしてくれた。
「詩音ちゃんの言ってた通り、すごく上手だね」
「ありがとうございます。あの、金居先生が詩音さんの主治医なんですよね? 俺、別の先生かと思ってて……」
先日会った相馬のことを思い浮かべつつそう言うと、金居は一瞬首をかしげたものの、すぐに何かひらめいたようにうなずいた。
「あぁ、相馬先生かな。相馬悠太先生。詩音ちゃんの従兄で、よく様子を見に来てくれてるから」
「従兄……」
詩音を守ろうとする相馬の姿勢は、確かに主治医だからというよりも従兄だからと言われた方がしっくりくる。
「蓮くん、悠太に会ったの?」
詩音が首をかしげるから、蓮はうなずいた。
「うん、この前帰り際に。詩音ちゃんのお友達? って聞かれたから」
「そうなんだ」
「言われてみれば、雰囲気とか似てる……かも?」
笑ってそう言いながら、相馬と交わした会話の内容は詩音に告げないでおこうと蓮は密かに唇を引き結んだ。
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