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詩音の手紙
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震える指先で、蓮はそっと詩音からの手紙を開く。
封筒と揃いの、よく晴れた青空の色をした便箋に、詩音の綺麗な字が並んでいる。
『蓮くんへ
まだ、蓮くんのことを覚えているうちに書いておくね。
蓮くん、大好き。蓮くんの優しい笑顔も、大きな手も、きらきらしたピアノの音も、全部大好き。
私に、愛することの幸せを教えてくれて、ありがとう。
蓮くんのことは、いつか忘れてしまうかもしれないけど、この幸せな気持ちだけは忘れないでいたいな。
本当は、蓮くんのことも、忘れたくないけど。
蓮くんに会ってから、毎日が本当に幸せだったよ。蓮くんが弾くピアノみたいに、きらきらしてた。
ずっとこのままでいたいなぁって、何度も思ったよ。
だけど、近いうちに私は蓮くんのことも忘れてしまうと思う。ごめんね。酷いよね。
私が蓮くんのことを忘れる日が来たら、その時は蓮くんも私のことを忘れてください。
忙しい練習の合間を縫って会いに来てくれていたこと、本当に嬉しかったけど、これから先は蓮くんの時間は自分のために使ってください。蓮くんのピアノは、きっとこれからもたくさんの人を幸せにするから。
大丈夫、私は忘れちゃうから、蓮くんが来ないことにも気づかないもん。
ひとつだけ、私の手帳だけは処分してもらえると嬉しいな。手帳を見たら、蓮くんやヒナのことを忘れたことに気づいてしまうかもしれないから。
いつか私が死んだら、棺桶に一緒に入れてくれたら嬉しいけどね。
本当に、たくさんの幸せをありがとう。
いつか、有名になった蓮くんの弾くピアノをどこかで聴けたらいいな。
私のためじゃなくて、たくさんの人のために、これからもピアノを弾いていてね。
だから、私のことは忘れてください。
私からの、最後のお願い。
蓮くん、大好きでした。
詩音より』
途中から涙で視界が歪んで文字を追えなくなりながら、蓮はゆっくりと噛みしめるように手紙を読んだ。
震える吐息と共に読み終えた便箋をそっと畳むと、黙って見守っていた詩音が困ったような笑みを浮かべていた。
「また、泣いてる」
「うん、ごめん。今日は泣いてばかりだな、俺」
「悲しいことが、書いてあった?」
首をかしげる詩音に、蓮はかぶりを振った。
「すごく……、すごく嬉しいことが書いてあったよ」
目の前の詩音の手を握って、蓮は笑う。
たとえ蓮のことを忘れてしまったとしても、詩音のことを忘れるなんて、できるはずがない。今もこんなに好きなのに。
「ごめんね、詩音ちゃん。きみのお願いは、きけないや」
「え?」
目を瞬かせる詩音の手を引いて、蓮はその華奢な身体をそっと抱きしめた。
「わ、蓮くん?」
慌てたような声が聞こえるのが楽しくて、くすくすと笑いながらも蓮は詩音を囲う腕を緩めない。
「大好きなんだ。きみのことを忘れるなんて、できるはずない」
「え、何? 蓮くんってば、離して?」
「詩音ちゃんが、大好きだって言ってるんだ。これから、毎日でも何度でも伝えるから」
「え……、あ、え? 何、どういう……」
真っ赤になって焦る顔が可愛くて、蓮は笑いながら抱きしめた腕に力を込めた。
封筒と揃いの、よく晴れた青空の色をした便箋に、詩音の綺麗な字が並んでいる。
『蓮くんへ
まだ、蓮くんのことを覚えているうちに書いておくね。
蓮くん、大好き。蓮くんの優しい笑顔も、大きな手も、きらきらしたピアノの音も、全部大好き。
私に、愛することの幸せを教えてくれて、ありがとう。
蓮くんのことは、いつか忘れてしまうかもしれないけど、この幸せな気持ちだけは忘れないでいたいな。
本当は、蓮くんのことも、忘れたくないけど。
蓮くんに会ってから、毎日が本当に幸せだったよ。蓮くんが弾くピアノみたいに、きらきらしてた。
ずっとこのままでいたいなぁって、何度も思ったよ。
だけど、近いうちに私は蓮くんのことも忘れてしまうと思う。ごめんね。酷いよね。
私が蓮くんのことを忘れる日が来たら、その時は蓮くんも私のことを忘れてください。
忙しい練習の合間を縫って会いに来てくれていたこと、本当に嬉しかったけど、これから先は蓮くんの時間は自分のために使ってください。蓮くんのピアノは、きっとこれからもたくさんの人を幸せにするから。
大丈夫、私は忘れちゃうから、蓮くんが来ないことにも気づかないもん。
ひとつだけ、私の手帳だけは処分してもらえると嬉しいな。手帳を見たら、蓮くんやヒナのことを忘れたことに気づいてしまうかもしれないから。
いつか私が死んだら、棺桶に一緒に入れてくれたら嬉しいけどね。
本当に、たくさんの幸せをありがとう。
いつか、有名になった蓮くんの弾くピアノをどこかで聴けたらいいな。
私のためじゃなくて、たくさんの人のために、これからもピアノを弾いていてね。
だから、私のことは忘れてください。
私からの、最後のお願い。
蓮くん、大好きでした。
詩音より』
途中から涙で視界が歪んで文字を追えなくなりながら、蓮はゆっくりと噛みしめるように手紙を読んだ。
震える吐息と共に読み終えた便箋をそっと畳むと、黙って見守っていた詩音が困ったような笑みを浮かべていた。
「また、泣いてる」
「うん、ごめん。今日は泣いてばかりだな、俺」
「悲しいことが、書いてあった?」
首をかしげる詩音に、蓮はかぶりを振った。
「すごく……、すごく嬉しいことが書いてあったよ」
目の前の詩音の手を握って、蓮は笑う。
たとえ蓮のことを忘れてしまったとしても、詩音のことを忘れるなんて、できるはずがない。今もこんなに好きなのに。
「ごめんね、詩音ちゃん。きみのお願いは、きけないや」
「え?」
目を瞬かせる詩音の手を引いて、蓮はその華奢な身体をそっと抱きしめた。
「わ、蓮くん?」
慌てたような声が聞こえるのが楽しくて、くすくすと笑いながらも蓮は詩音を囲う腕を緩めない。
「大好きなんだ。きみのことを忘れるなんて、できるはずない」
「え、何? 蓮くんってば、離して?」
「詩音ちゃんが、大好きだって言ってるんだ。これから、毎日でも何度でも伝えるから」
「え……、あ、え? 何、どういう……」
真っ赤になって焦る顔が可愛くて、蓮は笑いながら抱きしめた腕に力を込めた。
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