【R18】純白の巫女姫は、憎しみの中で優しいぬくもりに囚われる

夕月

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 激しく抱かれるのも消耗するけれど、もどかしいほどゆっくりと抱かれるのも疲れるものだ。
 ぐったりと寝台の上に倒れ込んだファテナを、ザフィルがそっと抱き寄せて腕の中に囲った。
「疲れたか」
「ん……ちょっとだけ」
 ふうっとため息をついたファテナに笑って、ザフィルがそうだとつぶやいて床に落ちた服に手を伸ばす。
「これを」
「え?」
 差し出されたのは、小さな包み。開けてみろと促されて中を開くと、小指の先ほどの青い石を連ねた、装飾品と思しきものが出てきた。だが、腕輪には少し大きく、首飾りにしては短い。
「……足輪?」
 もしかしてとつぶやくと、ザフィルがうなずいた。
「土産を買ってくると言っただろう。あのあたりは、その……青い石がよく採れるから」
「綺麗。ありがとうございます」
 早速身体を起こして左の足首に着けると、ひんやりとした石の感触と共に足の甲にしゃらりと鎖が垂れる。
「あんたは肌が白いから、よく映えるな」
 隣で同じく身体を起こしたザフィルが、それを見て満足そうな笑みを浮かべた。

 床に脱ぎ捨てていた服をかき集めて着替えたあと、ファテナはあらためてザフィルに向き直った。
 そしてしっかりと見上げると微笑みを浮かべた。
「おかえりなさい。誰かをこうして送り出して、そして迎えるのは初めてなの。ちゃんと無事に帰ってきてくれてよかった」
「……あんたは、ずっと一人だったもんな」
 ファテナの手に光る腕輪を撫でたあと、ザフィルはファテナを引き寄せた。
「俺は、あんたが泉で水浴びをしてるところを、見たことがあるんだ」
「水浴び?」
「ウトリド族の集落のそばにあっただろう、森の中の小さな泉」
「あぁ……、水の精霊が宿ると言われていて、毎日祈りを捧げていたわ。そのあと水浴びをするのが好きだったの」
 もうあの場所には行けないと、過去を思い出すように遠い目をしたファテナの表情に、少し切ないものが混じる。
「すごく綺麗だと思った。目が離せなくて思わずあとをつけたら、あんたが家族から酷い扱いを受けていることを知った」
「そう、ね。今思えば酷い扱いだったのかもしれない。あの頃は、それが当然だと思っていたけど」
「だから、あんたを救い出したいと思った。もちろん、あんただけじゃなく俺たちの仲間にも酷いことをしていたあいつらを生かしてはおけないと思ったというのもあるが」
 ザフィルの表情に、微かに怒りがよぎる。ウトリド族を滅ぼし、長とその家族を処刑しても、彼らに殺された者は戻ってこない。今なお生かされているファテナは、その償いもしなければならないだろう。
「……私、あなたに酷いことをたくさん言ったわ。大嫌いだとか、汚らわしいとか」
「そうだな。俺からすれば、私欲のために人を殺し、実の娘を精霊に生贄に差し出していたあいつらの方がよっぽど汚らわしいと思うが」
「今更だけど……ごめんなさい。それから、私を助けてくれてありがとう。私だけじゃなく、罪のない村人たちを受け入れてくれたこと、本当に感謝してる」
 そう言ってうつむいたファテナの頬に触れて、ザフィルはそっと顔を上向かせる。じっとファテナを見つめる青い瞳は、優しく細められていた。
「守りたいもののために全てを投げ出せるあんたは、すごいと思う。だけど、その優しさがもどかしくもある。もう、あんたはウトリド族の巫女姫なんかじゃない。あんた自身の幸せを求めても、誰も責めない」
「でも……私は捕虜だから。それに、やっぱり私は長の娘なのよ。父の犯した罪を償うのは、私の役目だわ」
 ファテナの言葉に、ザフィルはゆるゆると首を振ると眉を下げて笑った。
「もう俺は、あんたを捕虜として扱う気はない。ウトリドの長は、その死をもって罪を償った。だからあんたには何の責任もないんだ」
 一度言葉を切ったあと、ザフィルは小さく息を吐いて顔を上げた。
「あんたには自由に生きてほしいと思ってる。だけど願わくば……俺のそばに、いてほしい。あんたに、俺を選んでもらいたい」
 まっすぐに見つめる青い瞳は、晴れ渡った空の色。太陽の光を溶かしたような金の髪も、大地の色のような褐色の肌も、生命力にあふれていてまぶしいほどだ。
 精霊に全てを捧げて色を失い、感情を動かすことなく生きていたファテナに、怒りも悲しみも、そしてぬくもりも教えてくれた人。
 触れ合う肌から伝わるあたたかさは、ファテナにどれほど安心を与えてくれただろう。
 許されるなら、これからも彼のそばにいたい。このぬくもりを手放したくない。
 その想いを込めて、ファテナはザフィルに抱きついた。
「私もあなたのそばに、いたい。本当にそれを願っても……いいの?」
「もちろんだ。あんたが望んでくれるなら、俺はあんたを手放さない」
 強く抱きしめ返され、思わず吐息が漏れる。
「ずっとそばにいてくれるか、ファテナ」
 耳元で聞こえた声に、ファテナはしっかりとうなずいた。
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