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精霊の泉

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 その時、数人の男たちが駆け寄ってきた。その顔は明るく、何かいいことがあったようだ。
「ザフィル様、水が……!」
「枯れていたはずの泉から、水が湧き出してます!」
 喜びにあふれた表情の男たちを見て、ファテナは思わずザフィルの顔を見上げた。目が合うと、彼は小さく笑った。
「……ファテナのおかげだな」
 耳元で小さく囁いたあと、ザフィルは彼らの報告を受けるために立ち上がった。

 夜が明けて、ザフィルが泉を見に行くというので、ファテナも頼んで同行させてもらうことにした。本当に水の精霊がその泉にいるのか、確認したくなったのだ。
 少し複雑そうな表情を浮かべたザフィルは、自分から決して離れないことを条件に、うなずいた。
 しっかりと手を繋がれて向かった先は、かつてウトリド族でファテナが毎日水浴びをしていた泉によく似た場所だった。
 つい先日水が枯れて、木々も朽ち果てていたというが、そんなことが嘘のように澄んだ水がこんこんと湧き出ている。
 懐かしい風景を思い出させるその泉を見て、ファテナは確かに精霊がここにいるのだと確信した。
「信じられないな……。この前までとは大違いだ」
 水を掬って確認したザフィルは、驚いたようにつぶやく。ひんやりと冷たい水は、陽の光にきらきらと輝きながら泉からあふれ出て、小さな川を作り出している。いずれここから、もっと大きな川ができあがるだろう。
――早速顔を見せに来てくれたのだね、ファテナ。
 耳元で嬉しそうな声がして、ファテナは顔を上げた。周囲に精霊の姿はないが、囁いた声は間違いなくヤーファルのもの。やはりこの泉にいるのだと分かり、思わず笑みがこぼれる。
「ファテナ、そんな嬉しそうな顔をされると、ちょっと妬けるんだが。別にあんたに顔を見せに来たわけじゃなくて、泉を見に来ただけだ」
 不機嫌そうなザフィルの言葉から察するに、彼も精霊の声を聞いたらしい。
――嫉妬深い男だね、おまえは。
 くすくすと笑う精霊の声が響くのと同時に、泉の水面が小さく揺れる。ファテナはそこに、微笑みを浮かべるヤーファルの姿を見たような気がした。
――また、定期的に顔を見せておくれ、ファテナ。この水に対価を求めるつもりはないが、愛し子の顔を見たいという気持ちはあるのだよ。
「……ファテナ一人ではだめだ。俺と一緒なら、時々は。ただし、水浴びは絶対させないからな。ファテナの肌を、おまえになんて見せてやるものか」
 しっかりとファテナの肩を抱き寄せて、独占欲にまみれた言葉を重ねるザフィルに、仕方がないというような精霊の笑い声が響いた。

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