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そして数日後の放課後から、空き教室の使用する許可を貰って勉強会が始まった。
「さて、ニナはどこがわからないのかしら」
「うー、全部」
流石に全部は無いだろうと詳しく聞くと、生活する上で必要最低限程度しかできないことが判明した。
「本当に入学してから一度も数学の授業を受けていないのね……」
「うー、だってもともと苦手だもん」
唇を尖らせて不機嫌なニナ。エリスは苦笑して、持参した鞄からあるものを取り出す。
「そうよね、苦手なものを無理強いされるのは辛い。だから頑張ったらご褒美をあげるわ」
「ごほうび!?」
取り出した箱の蓋をちらりとずらして中をみせる。そこには様々な種類のクッキー。
「クッキーだ!」
以前ニナは甘い物が好きと言っていたので、エリスは安直にお菓子を用意したのだった。
「王都の有名店から取り寄せたの」
「わーい」
「今日の勉強が終わったら好きなだけ食べていいから、頑張りましょうね」
「うん!」
それからニナへ入学後すぐの内容を教え始めた。最初はもたついたが、ゆっくり何回か似た問題を解かせると、ニナはすんなりと覚えた。
そもそもニナの頭の基本性能はそれなりにいいはずなのだ。無詠唱魔法はバカでは扱えない。ニナは少し呑み込みが遅い分、一度覚えたら忘れないタイプらしかった。生徒の考える力を養うことを重点に置いた学園の授業はニナにとって少し覚えにくい教え方のようだ。
一生懸命勉強するニナを見るとエリスは微笑ましい気持ちになった。同時に教えるという行為の難しさを痛感した。授業で覚えた内容を教えるには、ただ試験の為に覚える程度の覚え方では難しく、深く理解してやっとできるのだと初めて知った。
「さて、今日の勉強会は終了です。よく頑張りました」
「ごほうび!」
「ええ、どうぞ」
エリスが微笑んで箱を手渡す。受け取ってうきうき蓋を開けて、食べるかと思いきやニナ、固まる。
「どうしたの?」
「罠が仕込まれてる……」
まさか毒が、とエリスが青褪める。
「…………ハーブはいってりゅ……」
「え?」
しょんもり項垂れるニナ。エリスが確認すると確かに少しハーブの香りがする。
「ハーブは少量のようだけど……」
「無理ー……異物混入異物混入ー……」
「そう、なら仕方が無いわね。今度は違うものを持ってくるわ」
箱を片付けながら、ふと思い聞いてみる。
「ニナ、他に苦手なお菓子はある?」
「果物とかナッツとか入ってるのも無理―」
「ええ!?」
この国のお菓子は果物を使ったものが殆どだ。庶民派は小麦と砂糖が主な原料の素朴なお菓子を食べるのだが、貴族が利用するような店にそれは販売されていない。
貴族御用達の店は学園に配達してくれるが、庶民の店はそうもいかない。学園は使用人を連れてこれないので、入手するには自分で買いに行くしかないのだが、生徒の外出には基本的に騎士が同伴しなければいけないので事前に申請する必要がある。それに何回もは許可されない。
「困ったわ、ご褒美をどう用意すればいいのかしら」
「お菓子じゃなくて白いパンでいいよー」
白いパンは寮の食事で毎日出てくる。食堂でも頼めば個別に販売してくれるだろう。
「それでいいの?」
「ぱんすき」
「そうなの……」
──でも、ニナは頑張って勉強しているのに、ご褒美がいつものパンだなんて。
どうにかしてあげたいと思うエリスだった。
□
エリスは食堂に来ていた。食堂の調理師に頼んで庶民のお菓子を作ってもらおうと考えたのだ。
厨房を覗いて、手の空いていそうな調理人を手招きする。
「どうかしましたか、ご令嬢」
「あの、お願いしたいことが……」
「食に関するご要望でしたら、無理です」
言いたいことを予想され断られる。
「そんな……」
「一々、貴族の子息令嬢の要望を聞いていたら仕事になりませんから。やれ質素すぎるだの、実家のシェフの味を再現しろだの、聞いていられません」
溜息を吐く調理人にエリスは用意していた金貨を数枚取り出す。
「金を出されても無理なものは無理ですよ」
明らかに不機嫌になる調理人にエリスは頭を下げて懇願する。
「お願いします。どうしても必要なのです。小麦粉と砂糖だけの、庶民のお菓子が……」
「はい?」
エリスは軽く理由を話した。すると調理人は元平民のニナが懐かしい味を食べたがっているのだと解釈し、とても同情した。
「同じ平民だったよしみだ。毎日では無いけど、僕らがまかないで作ってるおやつでよければ分けて差し上げます」
「ありがとうございます……!」
エリスはニナの喜ぶ顔を想像して嬉しくなった。ニナに向けるような穏やかな笑顔で調理人に礼を言う。
「……」
調理人の顔がみるみるうちに赤くなった。何も答えない彼を不思議に思いエリスが「どうしました?」と問うと調理人はハッと意識を取り戻した。
「え、あ、いや何でも無いです。ええと、まかないのお菓子は毎日僕が届けます。お名前を伺っても?」
「エリス・クライスです」
「えっ、クライス侯爵家の……」
その後何故か少し沈んでしまった調理人に何度も礼を言ってエリスはその場を後にした。
エリスが去ってから調理人は肩を落とす。
「くっそー、男爵家のご令嬢とかならギリいけるかと思ったけど、侯爵家は無理か―……」
一部始終見ていた同僚が笑いながら出てきた。
「いや、あのレベルの美人さんが男爵令嬢なわけないだろう」
「それもそうか、まさか氷花の君とはなー……」
「初見ですげえ美人と思ったが、笑うとガラッと印象が変わるな。何か年相応の可愛さっつーか、ギャップがすごいな」
「そのギャップに見事やられたわ……あー、第二王子が羨ましい」
「不仲らしいけどな」
「マジかよ。第二王子妃の愛人目指すか」
「やめとけやめとけ」
そんな会話をしながら仕事に戻っていった。
「さて、ニナはどこがわからないのかしら」
「うー、全部」
流石に全部は無いだろうと詳しく聞くと、生活する上で必要最低限程度しかできないことが判明した。
「本当に入学してから一度も数学の授業を受けていないのね……」
「うー、だってもともと苦手だもん」
唇を尖らせて不機嫌なニナ。エリスは苦笑して、持参した鞄からあるものを取り出す。
「そうよね、苦手なものを無理強いされるのは辛い。だから頑張ったらご褒美をあげるわ」
「ごほうび!?」
取り出した箱の蓋をちらりとずらして中をみせる。そこには様々な種類のクッキー。
「クッキーだ!」
以前ニナは甘い物が好きと言っていたので、エリスは安直にお菓子を用意したのだった。
「王都の有名店から取り寄せたの」
「わーい」
「今日の勉強が終わったら好きなだけ食べていいから、頑張りましょうね」
「うん!」
それからニナへ入学後すぐの内容を教え始めた。最初はもたついたが、ゆっくり何回か似た問題を解かせると、ニナはすんなりと覚えた。
そもそもニナの頭の基本性能はそれなりにいいはずなのだ。無詠唱魔法はバカでは扱えない。ニナは少し呑み込みが遅い分、一度覚えたら忘れないタイプらしかった。生徒の考える力を養うことを重点に置いた学園の授業はニナにとって少し覚えにくい教え方のようだ。
一生懸命勉強するニナを見るとエリスは微笑ましい気持ちになった。同時に教えるという行為の難しさを痛感した。授業で覚えた内容を教えるには、ただ試験の為に覚える程度の覚え方では難しく、深く理解してやっとできるのだと初めて知った。
「さて、今日の勉強会は終了です。よく頑張りました」
「ごほうび!」
「ええ、どうぞ」
エリスが微笑んで箱を手渡す。受け取ってうきうき蓋を開けて、食べるかと思いきやニナ、固まる。
「どうしたの?」
「罠が仕込まれてる……」
まさか毒が、とエリスが青褪める。
「…………ハーブはいってりゅ……」
「え?」
しょんもり項垂れるニナ。エリスが確認すると確かに少しハーブの香りがする。
「ハーブは少量のようだけど……」
「無理ー……異物混入異物混入ー……」
「そう、なら仕方が無いわね。今度は違うものを持ってくるわ」
箱を片付けながら、ふと思い聞いてみる。
「ニナ、他に苦手なお菓子はある?」
「果物とかナッツとか入ってるのも無理―」
「ええ!?」
この国のお菓子は果物を使ったものが殆どだ。庶民派は小麦と砂糖が主な原料の素朴なお菓子を食べるのだが、貴族が利用するような店にそれは販売されていない。
貴族御用達の店は学園に配達してくれるが、庶民の店はそうもいかない。学園は使用人を連れてこれないので、入手するには自分で買いに行くしかないのだが、生徒の外出には基本的に騎士が同伴しなければいけないので事前に申請する必要がある。それに何回もは許可されない。
「困ったわ、ご褒美をどう用意すればいいのかしら」
「お菓子じゃなくて白いパンでいいよー」
白いパンは寮の食事で毎日出てくる。食堂でも頼めば個別に販売してくれるだろう。
「それでいいの?」
「ぱんすき」
「そうなの……」
──でも、ニナは頑張って勉強しているのに、ご褒美がいつものパンだなんて。
どうにかしてあげたいと思うエリスだった。
□
エリスは食堂に来ていた。食堂の調理師に頼んで庶民のお菓子を作ってもらおうと考えたのだ。
厨房を覗いて、手の空いていそうな調理人を手招きする。
「どうかしましたか、ご令嬢」
「あの、お願いしたいことが……」
「食に関するご要望でしたら、無理です」
言いたいことを予想され断られる。
「そんな……」
「一々、貴族の子息令嬢の要望を聞いていたら仕事になりませんから。やれ質素すぎるだの、実家のシェフの味を再現しろだの、聞いていられません」
溜息を吐く調理人にエリスは用意していた金貨を数枚取り出す。
「金を出されても無理なものは無理ですよ」
明らかに不機嫌になる調理人にエリスは頭を下げて懇願する。
「お願いします。どうしても必要なのです。小麦粉と砂糖だけの、庶民のお菓子が……」
「はい?」
エリスは軽く理由を話した。すると調理人は元平民のニナが懐かしい味を食べたがっているのだと解釈し、とても同情した。
「同じ平民だったよしみだ。毎日では無いけど、僕らがまかないで作ってるおやつでよければ分けて差し上げます」
「ありがとうございます……!」
エリスはニナの喜ぶ顔を想像して嬉しくなった。ニナに向けるような穏やかな笑顔で調理人に礼を言う。
「……」
調理人の顔がみるみるうちに赤くなった。何も答えない彼を不思議に思いエリスが「どうしました?」と問うと調理人はハッと意識を取り戻した。
「え、あ、いや何でも無いです。ええと、まかないのお菓子は毎日僕が届けます。お名前を伺っても?」
「エリス・クライスです」
「えっ、クライス侯爵家の……」
その後何故か少し沈んでしまった調理人に何度も礼を言ってエリスはその場を後にした。
エリスが去ってから調理人は肩を落とす。
「くっそー、男爵家のご令嬢とかならギリいけるかと思ったけど、侯爵家は無理か―……」
一部始終見ていた同僚が笑いながら出てきた。
「いや、あのレベルの美人さんが男爵令嬢なわけないだろう」
「それもそうか、まさか氷花の君とはなー……」
「初見ですげえ美人と思ったが、笑うとガラッと印象が変わるな。何か年相応の可愛さっつーか、ギャップがすごいな」
「そのギャップに見事やられたわ……あー、第二王子が羨ましい」
「不仲らしいけどな」
「マジかよ。第二王子妃の愛人目指すか」
「やめとけやめとけ」
そんな会話をしながら仕事に戻っていった。
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