不遇にも若くして病死した少年、転生先で英雄に

リョウ

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第十三話 未開の最奥

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自由に動ける様になったオウカが立ち上がると、右手を宙に翳す。

何をしてるんだろうかと思いながらしばらくその様子を見ていると、部屋の中を漂っていた魔力がオウカの右手に集まってくる。

(こいつ…まだ戦う気か?!)

俺とフェリルが同じタイミングで身構えると、オウカが勢いよく口元に右手を持ってくると、集めた魔力を一気に飲み込んだ。

「…?何をしておる?」

身構えていた俺とフェリルを見たオウカが不思議そうな顔をする。

「あれ?回復した…?」

何となくだが、オウカから感じる魔力が増えた事に気付いて尋ねた。

「我の食べ物は魔力だからのぅ」

「それ…戦いの最中にやられてたら、普通に負けてたんじゃ…」

「馬鹿者。そんな事をしたら興醒めでは無いか。折角の楽しい戦いに自ら水を差す阿呆がどこにおる」

((こいつ(この人)…絶対戦闘狂バトルホリックだ…))

とりあえず戦うつもりがある訳じゃない事が分かって姿勢を崩して呆れていると、オウカがジトーっとした目でこちらを見た。

「お主ら…。何か失礼な事を考えておらんか?なんならもう一度やり合っても良いのだぞ?」

「か、考えてないよ!そ、それより!その口調どうにかならないの?美人な人がそんな厳かな話し方してるの、何か…違和感しかなくて…」

弁解しつつ、気になっていた口調の話に話題を変える事にした。

「ん?そうか…。なら、こんな感じでどうだ…ですか?どうも軽い感じの話し方は苦手でな。もっと、柔らかくと言われても難しいのだ…ですよ」

「…ごめん。やっぱり無理して変えなくていいよ。しばらくすれば慣れるだろうし…」

「す、すまない…。努力は…してみる」

オウカが分かりやすく肩を落として謝る。

「やれやれ。もう大丈夫そうですね…。ルミニス」

その様子を見ていたフェリルが、一度俺の方をじろっと睨んで軽く溜息を吐くと、ルミニスと両手を合わせた。

ルミニスは合わせた手の方から徐々に光の粒子となってフェリルの中に消えていった。

「もう疲れたから、敵とかいないといいなぁ…」

俺は叶わないであろう希望を口にしつつ、2人と新たな仲間1人(?)と部屋の奥に向かって歩いていく。

部屋の奥へ進むと、また通路があった。

やはりここに来るまでと同じ様に特にトラップがあるでも無ければ、魔物が居る訳でもなかった。

「何でこの階層には魔物がいないんだろう…」

オウカを先頭にして歩きながら、思わず疑問を口にする。

「私が来た時は、オウカちゃんはいなかったし、魔物もかなりいたんだけどね~」

「そうなんですか?すると、氾濫で外に出てしまったのでしょうか?」

師《せんせい》の後に、フェリルが続く。

「私が食べたからだろ?」

というセリフを吐いたオウカに、俺とフェリルが勢い良くオウカを見た。

何というか…、この美女が魔物をムシャムシャ食べている所が想像出来なかったからだ。

「な…何だ?あぁ、別に齧り付いて食べた訳じゃ無いぞ?この階層の魔物の魔力を全て喰らい尽くしただけだぞ」

俺とフェリルはお互いに顔を見合わせると、胸に手を当ててホッとする。

(美女が魔物を食い荒らしたって、展開じゃなくて良かった…)

「おい。そんな事より…これだろ?お前たちが言っていた扉とやらは」

俺たちの方に振り返ったオウカが、通路の奥にドンと鎮座する大きな扉を親指で指した。

「多分、これだと思うんだけど…」

チラッと師《せんせい》の方を見ると、「これね~」と肯定する。

扉を見てみると取手らしき物も無い重たそうな扉で、これまでこのダンジョンで見たどの扉よりも重厚感があった。

試しに押してみたがうんともすんとも動かない…

「うーん…。やっぱり、力づくでやれば良いって物じゃなさそうだね…」

俺は魔力を両眼に集中させて精霊眼エレメンタルサイトを発動すると、扉から大小様々な魔力の糸が出ているのが見えた。

どうやら何処かに伸びているらしく、みんなにはここに残るように伝えて一人で1番太い糸を辿ってみた。

(ん?さっきオウカと戦った大きな部屋に戻ったな…)

そのまま糸を追いかけて行くと、ちょうど部屋の中央の床に繋がっていた。

精霊眼エレメンタルサイトで見て初めて気づいたが、この床だけ何故か感知魔法では気付かないレベルの僅かな魔力を帯びていた。

そのまま入り口に近い所、まだ通っていなかった通路やその先にある部屋に入ったが、どこも糸が繋がっている床や壁だけ、僅かに魔力を帯びていた。

魔力を帯びている箇所を一通り確認を終えると、最初に確認した糸に繋がっている床を試しに押してみたが、何も起こらなかった。

「ひとまず扉の所に戻るか」

「何かありましたか?」

戻って来るなり、フェリルが尋ねてきた。

俺は魔力の糸が扉に繋がっていること。糸を辿るとあちこちの部屋、通路の床や壁に繋がっていること。魔力の糸に大小があることを伝えた。

「どういう仕掛けなんでしょうね…」

「分からないんだよね。試しにさっきオウカと戦ってた部屋の糸と繋がった床を押してみたんだけど、何も無かったし…」

「師《せんせい》は…」

俺は助け船を求めて話を師《せんせい》に振ってみたが

「忘れた~。仮に覚えてても教えないし~。こう言うのは自分で解いてこそでしょ~」

と、即答された。

「とりあえず、その壁やら床を片っ端から壊してみたらどうだ?」

不意にオウカがそんな事を言い出したので…

「不採用」

と、即座に却下した。

「とりあえず、もう一度糸や糸の先を確認しませんか?」

俺はフェリルの提案に賛成し、フェリルと糸を追いかけて行く。

後の2名は何をするのでもなく付いてくる。

何回か繰り返していると、師《せんせい》とオウカは飽きたのか、扉の前で待っていると言い出したのでほったらかす事にした。

また、糸を追いかけていたが、ふとさっき聞けなかった事があったのを思い出した。

2人ほどでは無いが俺も飽きてたので、フェリルに聞いてみることにした。

「そういえば、精霊と契約してたんだね」

「えぇ。まぁ、はい…黙っていて、すみません」

フェリルが少し肩を落として謝罪する。

慌てて俺は左右に手を振って怒っていないし、気にしてない事をアピールする。

「べ、別に責めてる訳じゃ無いよ?ただ、人前に滅多と姿を見せない精霊って聞くから、よく契約出来たなぁ。って」

「偶然なんです…。でも、出て来て貰うのも怖くて…。ずっと、中に閉じ込めちゃってましたから…」

「そうなんだ…。フェリルも色々とあったんだね…。無理に話さなくていいよ?話したくなったら、話してくれれば」

どことなく重苦しい雰囲気を纏うフェリルに、どう声を掛けるのが正解なのか分からなかったので、そう言って話を終わらせる事にした。

「か…な…」と、ボソッとフェリルが何かを呟いたが、何と言ったのか聞き取れ無かった。

もう一度フェリルを見てみると、少し赤い顔をしていた。

「どうかしたの?」

「い、いえ!何でもありません!それより、魔力の糸って、一体何なんでしょうか?」

「えっ?!見えてるの?」

「え、ええ。ルミニスを呼んでから、精霊眼《エレメンタルサイト》が使えるみたいで」

「そうなんだ。フェリルが視て、何か分かったことはある?俺と違って、フェリルのは正真正銘の精霊眼《エレメンタルサイト》だから、俺の見えてない事まで見えてるんじゃないかな?」

「そうなんでしょうか?何度も見てて不思議に思っていたのは、糸に時折り魔力が伝ってるんですよね。各部屋から扉に向かっているような…」

「魔力が扉に…?」

「はい。扉に魔力を送っているような気がします。まるで、血が巡っているみたいな……。………。あっ!そういえば!ダンジョンって魔物なんですよね?!」

「そうか!この糸は魔力回路か!」

俺とフェリルは互いに顔を見合わせて確認し合う。

「アリアルデ様はちゃんとヒントをくれてたんですね」

「そうだね。確かにあの話を聞いていなければ、気付かなかったよ」

「それで、どうしますか?」

「選択肢は三つだね。一つは魔力回路を断ってしまう。でも、魔力回路を絶たれたダンジョンがどうなるかが分からない以上は取れない選択肢だね。もう一つは、魔力回路にジャミングを掛けて乱すなり、スリープの魔法を流し込むなりして一時的に動けなくなってもらう。最後の一つは、回路そのものを乗っ取る。だね」

「ダンジョンに眠ってもらうのが良さそうですね。他の選択肢は、ダンジョンが気づいて何をしてくるかが読めませんので」

「だね。なら、この糸の太さはより中心的な役割を果たす回路か何かだろうから、1番太いのに掛けてみようか」

俺とフェリルはオウカと戦った部屋へ向かい、太い魔力糸に繋がった床と魔力糸の接合点に向かってスリープの魔法を放った。

「これでいいんでしょうか?」

「多分?だけどね。一度扉まで戻ろう。二人がかりの魔法だから、十分な魔法強度はあったはずだし、効果があったなら押せば開くんじゃないかな?」

「そうですね。でしたら、戻りましょう」

2人で扉まで戻ると、扉の前にいたオウカと師《せんせい》がこちらに気付いた。

「待ちくたびれたぞ…。何か分かったのか?」

パタパタ駆け寄ってくるオウカの後ろを気怠そうに師《せんせい》が歩いてやって来る。

「まぁ何とかなったんじゃないかな?後は、開けるだけだと思う」

俺の後ろを皆が付いてくる形で扉の前に立つと、力一杯扉を押してみる。

少し扉が開いた所で、俺の脇を抜けたオウカが真っ先に扉の向こうへ入っていく。

「おい!何があるか分からないんだぞ!」

「私に何かできる奴などそうそうおらんよ」

流し目でこちらを見てから、扉の向こうに消えていくオウカに少しドキドキしつつ扉を開けていく。

みんなが中に入っていく途中でフェリルに背中をつねられた。

「イタッ!。???」

俺はつねられたところをさすりつつ、最後に部屋に入っていく。

扉をぬけると通路があってその先には階段があった。

ズンズン進んでいくオウカに続いて、降りて行くと割と広い部屋に出てきた。

「ここが最下層みたいですね。でも、何かダンジョンって感じがしませんが…」

何かの研究室の様な部屋をあちこち見ながら、不思議そうな顔をしたフェリルが言った。

部屋の中央では、液体の入った怪しげな装置があって、その周りは何かの本塗れだった。

本がゴソゴソし始めたと思ったら、本の下から何かが顔を出す。

「ふわぁ~。お客さんとは珍しいね…。ここの階層に来るだけでも簡単じゃないのに、扉を通って…。おや?君は、この上の階層にいついてなかった?それと、そこのあなたが来たのは五年ぶりかな?ここまで来れた訳だよ」

どうやら本に埋まって寝ていたらしいツインテールの女の子が、両手を広げて伸びをしながら起き上がった。

咄嗟に俺は一閃を抜いて構えた。

「その日焼けをした様な肌の色…金色の瞳…瞳の中に特有の十字の紋様…魔族か!?」

俺の言葉に全く興味無さそうな顔をしながら、女の子が本の中から這い出て来た。

「そうだけど?どうでもいいけど、君面白い魔力してるね。で、何しに来たの?」

「レイちゃん?その物騒なのはおろしなさい?この子はそんな気全く無いからぁ」

師《せんせい》が、俺の刀の峰の部分をそっと掌で押し下げる。

師《せんせい》をチラッと見た後、諦めて素直に納刀した。

「話が早くて助かるよ。で、こんな所まで何しに来たのかな?」

「単刀直入に聞くけど、このダンジョンの氾濫はお前の仕業か?」

「私の仕業かと言えばそうでもあるし、そうで無いとも言えるわね」

「めんどくさい奴だな…。で、どうすれば止まる?お前を切り捨てて、あの装置を壊せばいいのか?」

「ちょ!ちょっと待って!私を斬れば、あの装置を安全に扱えなくなるわよ!?それに暴走したら手に負えなくなるわよ!?」

「チッ!」と、俺は舌打ちをする。

相手にするのも面倒くさくなってきたので、切り捨てて壊すつもりでいた。

「で、どうすればこの氾濫を止められるんだ?」

「そうねぇ…。元々、外の氾濫はダンジョンに充満した魔力の暴走だから、消滅させれば収まると思うけど?」

「同じ事を何度も言わせるな。どうすれば止まる?」

俺は焦ら立ちを隠しもせず言い放つ。

どうやらこいつと波長が合わないらしい、逐一イライラする。

「そんな露骨にイライラしないでよ。貴方腕に自信は?」

「そこそこだが?」

「なら、魔力をこの装置《こ》に吸わせて、発散させましょう。倒せれば、丸く収まるでしょう?ダメだったら出てきた子が外に出て、氾濫の方がマシだったと思うような事態になるかもしれないけど」

「他に方法が無いのなら是非もないな。俺たちは戻ってさっきオウカと戦った部屋にいる。お前もやる事済ませたら来ればいい」

俺はそう言い残すと、3人を連れて来た道を引き返した。
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