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第十二話 激闘
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その頃、殴り飛ばされた俺は、アルマティアと咄嗟の判断で発動したティアードのおかげで肋が何本かいったが、何とか動ける程度の怪我で済んでいた。
「どうした?久々に面白い獲物がいると思ったが、この程度か?」
俺は手を自分の負傷した所に当てると、ヒールを自分に掛けた。
「…いやいや。まだまだやれるよ」
よろよろと立ち上がって口元の血を拭うと、腕を組んで仁王立ちする美女に向かって、剣を構えて目を瞑る。
「やれやれ、やれると言っておきながら諦めおったか…?」
次の瞬間、物凄い速さでオウカが突っ込んで来るのを感じる。
俺は周囲の魔素を取り込みながら、その流れを感じて頭を右に傾げると、背後にある壁がもの凄い音を立てて割れた。
「ほぉ。この距離で避けたか。なら、これはどうだ」
オウカは右手でフェイントを掛けて、左手で殴りかかる。
俺は攻撃される気配の無かった右手の動きを気にせず、左手の動きに合わせて再び頭を左に傾げて回避すると、壁が物凄い音で更に割れた。
「さっきまでより格段に動きが良くなったのぅ…。面白い!おっ?」
俺が目を開けたのに合わせて、その変化に気付いたオウカが少し高揚を含んだ反応をする。
髪は白銀に染まり、一閃は刀身だけで無くその柄さえも白銀一色に染まる。
「さて、これで俺も全力…、今度はこっちから行くよ?」
俺は周囲と同化して、スッと姿を消した。
「ほぉ~。そんな技があろうとはのぅ。初めからそれで来られてたら危なかったかも知れんが、今のおぬしでは能力を十分に発揮できておらんぞ?そこじゃろ!!」
そう言うと、オウカは左腕を宙に振り抜いた。
俺は寸での所で身を沈めて躱し、思い切り地面を蹴って伸びた腕に向かって刀を振り上げる。
(ぅぐっ!硬い!)
俺は飛び上がった勢いのまま、オウカと距離を取った。
「危ない危ない。腕を切り落とされるところじゃたわ。こちらも、少し本気を出すとしよう」
オウカは両手を伸ばして構えを取ると、2本の大きな光線を放った。
俺は魔素を操作して反射魔法リフレクターを発動して押し返すと同時に、分身魔法ダブルシェイドで分身を作って直ぐにその場を離れた。
オウカからかなり距離をとった所でマナポーションとポーションを急いで飲み、陽動の為にわざと空瓶を投げてまたその場を後にする。
「なんだ?逃げるばかりで、攻めてこんのか?」
一瞬、瓶の音に気を取られた様子を見せたが、オウカは何となくだがこちらの動きを感じているのだろう。
俺がいる方向に向いて話しかけて来た。
俺は空間収納魔法から買った短剣を全て同じように魔力を纏わせて放り投げて空中に分散させて浮かべ、ロープに魔力を流して左手に巻きつけた。
2本の短剣を自分の背後に浮かべると、俺は一閃を構えてオウカに飛びかかる。
5本の剣をオウカの背後から襲い掛からせると、そちらに先ほどの光線を放って消し飛ばした。
俺は再度残る13本の内、左右から6本ずつを飛ばすとオウカは同じ様に右手で右側を、左手で左側を消し飛ばした。
そこへ、オウカに正面から突っ込んで斬りかかったが、先ほどと同様に体表が硬くて致命傷には至らなかった。。
(やっぱり硬いな!!)
決定的なダメージが与えられない事に焦りを感じる。
(残る短剣三本…それと、このロープ…)
もう一度、周囲の魔素構成を調節し直して自分と短剣の存在の隠蔽をより確実なものにする。
「おっ!さっきまで感じていた存在がより希薄になったのぅ!」
オウカが楽しそうにケラケラ笑っているのを横目に、ロープを伸ばして一閃の柄についていた紐と結びつけると、残った短剣を魔力操作してオウカに三方向から襲わせ、魔力で作った足場を渡りながら背後に回る。
「お主の隠蔽魔法は見事!!…だが、物に対しては不完全じゃな!!っと!」
オウカが正面から飛んできた見えないはずの短剣を殴って弾き、左右から飛んできた短剣を避けた。
オウカには見えていないはずの短剣を事もなげに捌かれたが、気にせず背後から斬りかかる。
それでも、オウカはこちらを見もせずに左肘で一閃を受け止めた。
(これでもダメなのかっ?!)
驚愕していると、オウカが動きを見せたので咄嗟に防御魔法を発動すると、右からオウカの回し蹴りが襲いかかる。
咄嗟に一閃で受け止めたが、弾き飛ばされてしまう。
その直後、空中で一回転してローブを伸ばし、オウカの蹴りの勢いに遠心力を乗せた一閃で斬りつけた。
「面白いな小僧!ワシをここまで傷物にしたのは、おぬしが初めてだぞ!」
致命傷では無いものの脇腹につけられた傷口から流れる血を指で軽く拭うと、初めにやった魔力放出と同じように全方位に魔力を放出させる。
回転した勢いのまま何とか着地した俺は一閃でその勢いを受けつつも、かなり後退させられた。
(ちっ!一緒に周囲に纏っていた魔素まで吹き飛ばされた!!)
一閃に括り付けていたロープを外して手に持つと流していた魔力量を増やして、一本の鉄の棒の様になったロープを持って二刀流状態になる。
「さて、漸く姿を表したのぅ~。まさか、これで終わりではあるまい?今度はこちらから行くぞ!」
真っ直ぐ俺の懐まで突っ込んでと、魔力を纏った拳で乱打を放ってくる。
全て一閃と棒状になったロープで受けて捌いていくが、一発一発がかなり重たいせいで次第に腕が痺れてきた。
いつまでも続けられそうに無いなと思っていると、オウカの動きが変化した。
「これでどうじゃ!」
オウカが乱打の打ち終わりに両腕を前にして両手を絡め合った。
(…ちっ!!大きいのがくるっ!!)
俺は避けれないと判断してロープを捨てると、無詠唱でアルマティアとティアードを可能な限り重ねがけすると、一閃を構えて防御態勢を取る。
「始龍の砲架!」
オウカが放った衝撃波によって、後方に吹き飛ばされそうになるのを堪えながら防御する。
アルマティアが一枚…また一枚と次々に割られていく…。
(このままだと押し切られるな…)
ティアードが最後の一枚になる頃には、俺はここで死ぬのか…と諦めかけていた。
(にしても、こいつとんでも無く強いな…。残るはティアード一枚…。だいぶ弱められたとは思うが、これを受けて無事でいられるのか…?)
ティアードが剥がれるかどうかのタイミングで、どこからともなく物凄い大きな光の塊がオウカを襲う。
「クッ!!!」
オウカが咄嗟に回避行動をとったおかげで、俺への攻撃は左上に逸れ、後から飛んできた光の塊は衝撃波に弾かれて天井を破壊した。
俺は咄嗟に光の塊が飛んできた方向に移動すると、フェリルとフェリルの左上に浮かぶ見知らぬ女性がそこにいた。
「ありがとう、助かったよ。聞きたい事もあるけど…、先ずはあいつをどうにかしないと!!」
「無事で良かったです。時間を稼ぎますので、レイは準備を整えて下さい。ルミニス、もう一度!!」
フェリルはこちらを見て微笑むと、宙に浮かぶ女性に命令する。
ルミニスと呼ばれた女性の前に魔法陣が浮かび上がると、魔法陣からさっきと同じ光の塊がオウカに向けて放たれた。
「くっ!もう1人…!おかしな奴が混じっておったかっ!」
オウカは腕を身体の前に交差すると防御姿勢でフェリルの攻撃を真正面から受け止める。
一方で、俺はフェリルから離れた所に移動して持っていた残りのマナポーション全てを大急ぎで飲む。
飲み終えた瓶を捨てると、その場でしゃがんで地面に手を当てながら、周囲の魔素の中から闇の魔素だけを一箇所に集中させつつ、自身の魔力を闇一色に染める。
「ルミニス!!」
「始龍の砲架!!」
オウカは先程の攻撃でフェリルの攻撃を弾き飛ばすと、こちらの動きに気付いたのか向かってきた。
「ルミニス!フォトンレーザー!!」
フェリルの言葉に従って、フェリルの周りに9つの光の球が浮かび上がると、光の球から光線が放たれる。
オウカはフェリルの攻撃が放たれるのに合わせて地面を蹴ると、右へ左へと方向を変えてフェリルの攻撃を避けながらこちらに向かって来る。
全てを避け切ったオウカが、手を伸ばすと魔力を纏った手刀で俺を襲う。
僅かに身体を捻る事で急所から外させると、オウカの手刀が俺の左肩を貫いた。
と、同時に俺の魔法の発動も完了した。
「ぅぐっ!ロストアモルファス!!!」
床から全てを飲み込みそうなほど真っ黒な魔力の奔流が現れ、オウカに襲いかかる。
オウカは急いで俺の肩から手を引き抜いて回避行動に移るが、避けきれずに左半身に命中する。
「くっ。直撃は免れたか…。いや、降参だ…」
足元の床が黒焦げになっているのに気付いたオウカがその場で座り込むと、直撃を免れた右手をヒラヒラさせて降参の意思を示した。
フェリルの方を見ると、先程の倍の光の球が全てオウカを狙うように宙に浮いていた。
恐らくあの内の一つがオウカに威嚇射撃をしたのだろう。
「じゃぁ、ここは通させて貰いますよ?」
と言って、歩き出そうとすると、フッと身体の力が抜けてうつ伏せに倒れ込んだのを見て、フェリルが駆け寄ってくる。
「あらあら~、大怪我ね~」
のんびりした声で先生も歩いて来る。
俺はいつものやり取りをしようとするが、身体に力が入らないので諦めた。
「ルミニス」
フェリルがルミニスに叫ぶと、ルミニスが俺に回復魔法を掛けてくれる。
「ありがとう。フェリルと…」
「ルミニスです。私の契約精霊です」
「ありがとう。ルミニス」
「私は~?」
「師《せんせい》は何もして無いじゃ無いですか…」
ルミニスのお陰で身体が動かせるようになった俺は身体を起こしてその場にへたり込むと、周りの魔素を吸収して自分の魔力を回復させつつ言い返す。
「あらあら?いいのかなぁ?誰のおかげでフェリルちゃんが…」
「わ、わぁー!そ、その話はいいじゃないですか!」
フェリルが空中で両手をぶんぶん振って、誤魔化しに入る。
「お主ら…ずいぶんと緊張感がないのぅ…。仮にも、我はまだ動けるし、ダンジョンの下層にいるというのに…」
「何かなさるおつもりですか?」
フェリルがルミニスをチラッと見ると、光の球がオウカを囲む様に配置される。
「いやいや、先ほども降参だと言うたじゃろ?今さらお主らに危害は与えぬ。というか、我は主らに付いていくことにした」
「えっ?!何で急に?!」
俺はびっくりして思わず声を上げてしまった。
「元々、我はこのダンジョンから生み出されたものではない。ただ単にちょうど面白そうな場所を見つけて、ちょうど良さそうな寝床があったから居座っていただけだからな。その娘も面白そうだが、何より我はお主に興味が湧いた。力を隠しておって、なおその強さだからのぅ」
「???。全力でしたよ?」
「ほぉ?気付いておらんのか…。そこの魔女にでも聞けば良かろう?」
「何のこと~?」
「こうなると師《せんせい》は絶対教えてくれませんよ。まぁその内、必要ならわかる時が来るでしょう」
「そうか…。で、我もついていって良いのか?」
「まぁ、いいんじゃない?敵対しないならだけど…」
フェリルをチラッと見るとコクリと頷いたので、了承する事にした。
「そうか。改めて、我はこの世界に4体存在する龍が一角…黄龍オウカという。ふつつか者だが、よろしく頼む」
「ん?龍?ドラゴンじゃないの?」
俺は最初に見た時の違和感を思い出しながら、確認するように訊いてみる。
「あんな下等な者どもと一緒にするな」
怒気を含んだ声で、オウカが心底嫌そうな顔をする。
「えっ?だって、俺の言った事否定しなかったよね?師《せんせい》だって…」
「我は一言もドラゴンと名乗っておらんぞ?」
「私も一言もドラゴンなんて言ってないわよ~?」
何故かここで2人が息ピッタリな掛け合いをして笑い出す。
「あっ…!そう言えば…。まぁ、良いか…って、良くないよ!何で、この世界に4体しかいないような奴がこんな所にいるんだよ!」
(どうりで禁術レベルの特級の闇魔法を全力で使っても死なない訳だ…)
と、1人で納得した。
「悪いが、お主の魔法で身体が侵食されておってな。そろそろ何とかしてもらえないだろうか?」
俺はフェリルに肩を借りてオウカに近づくと、魔法で侵食された部分に手を当てて魔法を魔力に、魔力を魔素に分解していく。
「とんでもない力じゃのぅ…。我でさえも初めて見る力じゃ…」
「そうなんですか?昔の勇者とかが使ったりとかありそうですが…」
「よぅ知らぬが、勇者というとエルダの事かの?彼奴でもその様な力は持っておらなんだわ」
「えっ?それ昔話に出てくる勇者の名前じゃ…」
と、驚いている内にオウカを侵蝕していた魔法を全て魔素に変換して吸収し終えた。
「どうした?久々に面白い獲物がいると思ったが、この程度か?」
俺は手を自分の負傷した所に当てると、ヒールを自分に掛けた。
「…いやいや。まだまだやれるよ」
よろよろと立ち上がって口元の血を拭うと、腕を組んで仁王立ちする美女に向かって、剣を構えて目を瞑る。
「やれやれ、やれると言っておきながら諦めおったか…?」
次の瞬間、物凄い速さでオウカが突っ込んで来るのを感じる。
俺は周囲の魔素を取り込みながら、その流れを感じて頭を右に傾げると、背後にある壁がもの凄い音を立てて割れた。
「ほぉ。この距離で避けたか。なら、これはどうだ」
オウカは右手でフェイントを掛けて、左手で殴りかかる。
俺は攻撃される気配の無かった右手の動きを気にせず、左手の動きに合わせて再び頭を左に傾げて回避すると、壁が物凄い音で更に割れた。
「さっきまでより格段に動きが良くなったのぅ…。面白い!おっ?」
俺が目を開けたのに合わせて、その変化に気付いたオウカが少し高揚を含んだ反応をする。
髪は白銀に染まり、一閃は刀身だけで無くその柄さえも白銀一色に染まる。
「さて、これで俺も全力…、今度はこっちから行くよ?」
俺は周囲と同化して、スッと姿を消した。
「ほぉ~。そんな技があろうとはのぅ。初めからそれで来られてたら危なかったかも知れんが、今のおぬしでは能力を十分に発揮できておらんぞ?そこじゃろ!!」
そう言うと、オウカは左腕を宙に振り抜いた。
俺は寸での所で身を沈めて躱し、思い切り地面を蹴って伸びた腕に向かって刀を振り上げる。
(ぅぐっ!硬い!)
俺は飛び上がった勢いのまま、オウカと距離を取った。
「危ない危ない。腕を切り落とされるところじゃたわ。こちらも、少し本気を出すとしよう」
オウカは両手を伸ばして構えを取ると、2本の大きな光線を放った。
俺は魔素を操作して反射魔法リフレクターを発動して押し返すと同時に、分身魔法ダブルシェイドで分身を作って直ぐにその場を離れた。
オウカからかなり距離をとった所でマナポーションとポーションを急いで飲み、陽動の為にわざと空瓶を投げてまたその場を後にする。
「なんだ?逃げるばかりで、攻めてこんのか?」
一瞬、瓶の音に気を取られた様子を見せたが、オウカは何となくだがこちらの動きを感じているのだろう。
俺がいる方向に向いて話しかけて来た。
俺は空間収納魔法から買った短剣を全て同じように魔力を纏わせて放り投げて空中に分散させて浮かべ、ロープに魔力を流して左手に巻きつけた。
2本の短剣を自分の背後に浮かべると、俺は一閃を構えてオウカに飛びかかる。
5本の剣をオウカの背後から襲い掛からせると、そちらに先ほどの光線を放って消し飛ばした。
俺は再度残る13本の内、左右から6本ずつを飛ばすとオウカは同じ様に右手で右側を、左手で左側を消し飛ばした。
そこへ、オウカに正面から突っ込んで斬りかかったが、先ほどと同様に体表が硬くて致命傷には至らなかった。。
(やっぱり硬いな!!)
決定的なダメージが与えられない事に焦りを感じる。
(残る短剣三本…それと、このロープ…)
もう一度、周囲の魔素構成を調節し直して自分と短剣の存在の隠蔽をより確実なものにする。
「おっ!さっきまで感じていた存在がより希薄になったのぅ!」
オウカが楽しそうにケラケラ笑っているのを横目に、ロープを伸ばして一閃の柄についていた紐と結びつけると、残った短剣を魔力操作してオウカに三方向から襲わせ、魔力で作った足場を渡りながら背後に回る。
「お主の隠蔽魔法は見事!!…だが、物に対しては不完全じゃな!!っと!」
オウカが正面から飛んできた見えないはずの短剣を殴って弾き、左右から飛んできた短剣を避けた。
オウカには見えていないはずの短剣を事もなげに捌かれたが、気にせず背後から斬りかかる。
それでも、オウカはこちらを見もせずに左肘で一閃を受け止めた。
(これでもダメなのかっ?!)
驚愕していると、オウカが動きを見せたので咄嗟に防御魔法を発動すると、右からオウカの回し蹴りが襲いかかる。
咄嗟に一閃で受け止めたが、弾き飛ばされてしまう。
その直後、空中で一回転してローブを伸ばし、オウカの蹴りの勢いに遠心力を乗せた一閃で斬りつけた。
「面白いな小僧!ワシをここまで傷物にしたのは、おぬしが初めてだぞ!」
致命傷では無いものの脇腹につけられた傷口から流れる血を指で軽く拭うと、初めにやった魔力放出と同じように全方位に魔力を放出させる。
回転した勢いのまま何とか着地した俺は一閃でその勢いを受けつつも、かなり後退させられた。
(ちっ!一緒に周囲に纏っていた魔素まで吹き飛ばされた!!)
一閃に括り付けていたロープを外して手に持つと流していた魔力量を増やして、一本の鉄の棒の様になったロープを持って二刀流状態になる。
「さて、漸く姿を表したのぅ~。まさか、これで終わりではあるまい?今度はこちらから行くぞ!」
真っ直ぐ俺の懐まで突っ込んでと、魔力を纏った拳で乱打を放ってくる。
全て一閃と棒状になったロープで受けて捌いていくが、一発一発がかなり重たいせいで次第に腕が痺れてきた。
いつまでも続けられそうに無いなと思っていると、オウカの動きが変化した。
「これでどうじゃ!」
オウカが乱打の打ち終わりに両腕を前にして両手を絡め合った。
(…ちっ!!大きいのがくるっ!!)
俺は避けれないと判断してロープを捨てると、無詠唱でアルマティアとティアードを可能な限り重ねがけすると、一閃を構えて防御態勢を取る。
「始龍の砲架!」
オウカが放った衝撃波によって、後方に吹き飛ばされそうになるのを堪えながら防御する。
アルマティアが一枚…また一枚と次々に割られていく…。
(このままだと押し切られるな…)
ティアードが最後の一枚になる頃には、俺はここで死ぬのか…と諦めかけていた。
(にしても、こいつとんでも無く強いな…。残るはティアード一枚…。だいぶ弱められたとは思うが、これを受けて無事でいられるのか…?)
ティアードが剥がれるかどうかのタイミングで、どこからともなく物凄い大きな光の塊がオウカを襲う。
「クッ!!!」
オウカが咄嗟に回避行動をとったおかげで、俺への攻撃は左上に逸れ、後から飛んできた光の塊は衝撃波に弾かれて天井を破壊した。
俺は咄嗟に光の塊が飛んできた方向に移動すると、フェリルとフェリルの左上に浮かぶ見知らぬ女性がそこにいた。
「ありがとう、助かったよ。聞きたい事もあるけど…、先ずはあいつをどうにかしないと!!」
「無事で良かったです。時間を稼ぎますので、レイは準備を整えて下さい。ルミニス、もう一度!!」
フェリルはこちらを見て微笑むと、宙に浮かぶ女性に命令する。
ルミニスと呼ばれた女性の前に魔法陣が浮かび上がると、魔法陣からさっきと同じ光の塊がオウカに向けて放たれた。
「くっ!もう1人…!おかしな奴が混じっておったかっ!」
オウカは腕を身体の前に交差すると防御姿勢でフェリルの攻撃を真正面から受け止める。
一方で、俺はフェリルから離れた所に移動して持っていた残りのマナポーション全てを大急ぎで飲む。
飲み終えた瓶を捨てると、その場でしゃがんで地面に手を当てながら、周囲の魔素の中から闇の魔素だけを一箇所に集中させつつ、自身の魔力を闇一色に染める。
「ルミニス!!」
「始龍の砲架!!」
オウカは先程の攻撃でフェリルの攻撃を弾き飛ばすと、こちらの動きに気付いたのか向かってきた。
「ルミニス!フォトンレーザー!!」
フェリルの言葉に従って、フェリルの周りに9つの光の球が浮かび上がると、光の球から光線が放たれる。
オウカはフェリルの攻撃が放たれるのに合わせて地面を蹴ると、右へ左へと方向を変えてフェリルの攻撃を避けながらこちらに向かって来る。
全てを避け切ったオウカが、手を伸ばすと魔力を纏った手刀で俺を襲う。
僅かに身体を捻る事で急所から外させると、オウカの手刀が俺の左肩を貫いた。
と、同時に俺の魔法の発動も完了した。
「ぅぐっ!ロストアモルファス!!!」
床から全てを飲み込みそうなほど真っ黒な魔力の奔流が現れ、オウカに襲いかかる。
オウカは急いで俺の肩から手を引き抜いて回避行動に移るが、避けきれずに左半身に命中する。
「くっ。直撃は免れたか…。いや、降参だ…」
足元の床が黒焦げになっているのに気付いたオウカがその場で座り込むと、直撃を免れた右手をヒラヒラさせて降参の意思を示した。
フェリルの方を見ると、先程の倍の光の球が全てオウカを狙うように宙に浮いていた。
恐らくあの内の一つがオウカに威嚇射撃をしたのだろう。
「じゃぁ、ここは通させて貰いますよ?」
と言って、歩き出そうとすると、フッと身体の力が抜けてうつ伏せに倒れ込んだのを見て、フェリルが駆け寄ってくる。
「あらあら~、大怪我ね~」
のんびりした声で先生も歩いて来る。
俺はいつものやり取りをしようとするが、身体に力が入らないので諦めた。
「ルミニス」
フェリルがルミニスに叫ぶと、ルミニスが俺に回復魔法を掛けてくれる。
「ありがとう。フェリルと…」
「ルミニスです。私の契約精霊です」
「ありがとう。ルミニス」
「私は~?」
「師《せんせい》は何もして無いじゃ無いですか…」
ルミニスのお陰で身体が動かせるようになった俺は身体を起こしてその場にへたり込むと、周りの魔素を吸収して自分の魔力を回復させつつ言い返す。
「あらあら?いいのかなぁ?誰のおかげでフェリルちゃんが…」
「わ、わぁー!そ、その話はいいじゃないですか!」
フェリルが空中で両手をぶんぶん振って、誤魔化しに入る。
「お主ら…ずいぶんと緊張感がないのぅ…。仮にも、我はまだ動けるし、ダンジョンの下層にいるというのに…」
「何かなさるおつもりですか?」
フェリルがルミニスをチラッと見ると、光の球がオウカを囲む様に配置される。
「いやいや、先ほども降参だと言うたじゃろ?今さらお主らに危害は与えぬ。というか、我は主らに付いていくことにした」
「えっ?!何で急に?!」
俺はびっくりして思わず声を上げてしまった。
「元々、我はこのダンジョンから生み出されたものではない。ただ単にちょうど面白そうな場所を見つけて、ちょうど良さそうな寝床があったから居座っていただけだからな。その娘も面白そうだが、何より我はお主に興味が湧いた。力を隠しておって、なおその強さだからのぅ」
「???。全力でしたよ?」
「ほぉ?気付いておらんのか…。そこの魔女にでも聞けば良かろう?」
「何のこと~?」
「こうなると師《せんせい》は絶対教えてくれませんよ。まぁその内、必要ならわかる時が来るでしょう」
「そうか…。で、我もついていって良いのか?」
「まぁ、いいんじゃない?敵対しないならだけど…」
フェリルをチラッと見るとコクリと頷いたので、了承する事にした。
「そうか。改めて、我はこの世界に4体存在する龍が一角…黄龍オウカという。ふつつか者だが、よろしく頼む」
「ん?龍?ドラゴンじゃないの?」
俺は最初に見た時の違和感を思い出しながら、確認するように訊いてみる。
「あんな下等な者どもと一緒にするな」
怒気を含んだ声で、オウカが心底嫌そうな顔をする。
「えっ?だって、俺の言った事否定しなかったよね?師《せんせい》だって…」
「我は一言もドラゴンと名乗っておらんぞ?」
「私も一言もドラゴンなんて言ってないわよ~?」
何故かここで2人が息ピッタリな掛け合いをして笑い出す。
「あっ…!そう言えば…。まぁ、良いか…って、良くないよ!何で、この世界に4体しかいないような奴がこんな所にいるんだよ!」
(どうりで禁術レベルの特級の闇魔法を全力で使っても死なない訳だ…)
と、1人で納得した。
「悪いが、お主の魔法で身体が侵食されておってな。そろそろ何とかしてもらえないだろうか?」
俺はフェリルに肩を借りてオウカに近づくと、魔法で侵食された部分に手を当てて魔法を魔力に、魔力を魔素に分解していく。
「とんでもない力じゃのぅ…。我でさえも初めて見る力じゃ…」
「そうなんですか?昔の勇者とかが使ったりとかありそうですが…」
「よぅ知らぬが、勇者というとエルダの事かの?彼奴でもその様な力は持っておらなんだわ」
「えっ?それ昔話に出てくる勇者の名前じゃ…」
と、驚いている内にオウカを侵蝕していた魔法を全て魔素に変換して吸収し終えた。
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しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
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40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
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部長に傷つけられ続けた私
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剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
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俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
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ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
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その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
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