不遇にも若くして病死した少年、転生先で英雄に

リョウ

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第十四話 強大な敵

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傍らにはオウカとフェリルが、少し後ろに師《せんせい》がいるという並びで、上の階層へと来た道を戻っていく。

ダンジョンが修復したのだろう…、部屋の戦闘痕が完全に消え去っていた。

しばらくの間、元に戻った部屋の中で戦闘の準備をしていたら、恐ろしく濃密で重く、暗い魔力が近づいてくるのに気付いた。

それから少しして、さっきまで話をしていた魔族の女の子が慌てた様子で走って部屋に駆け込んでくると、俺たちの後ろに隠れた。

「お前を仲間にした覚えないんだけど?」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ?!てか、なるわよ?!意地でも!」

無駄話をしていると、紳士の格好をした細身のイケメン然とした青髪の男がコツコツと音を鳴らしながら部屋に入ってきた。

男が近づいてくるのに合わせて魔力の塊も近づいてくるのを感じていた。

「フェリル!防御魔法を!」

俺の声に合わせてフェリルがティアードを発動する。

フェリルの防御魔法の上から、アルマティアで自分達を覆う。

直後、男は魔法をこちらに向けて放つとアルマティアが消失した。

俺は咄嗟にリフレクターを発動する。

男が放った魔法はアルマティアで弱まっていたのが功を奏したのか、リフレクターに弾かれて男に向かって飛んで行くと、男が右腕で弾き飛ばして部屋の右奥の壁に被弾した。

「誰か知らないが、随分な挨拶だな」

「おや?今のを弾き返して来ましたか…。甘く見過ぎましたね。っと、お初にお目にかかります。私はアドラメレクと申します。以後お見知りおきを」

「よりにもよって…!お前!一体何したら、こんなとんでもない奴が出てくるんだよ!」

俺は男に目を離さないように注意しながら、傍にいた魔族の女に怒気を放つ。

「しょ、しょうがないじゃない!このダンジョンに飽和してる魔力を一度に消失させる為にしたんだから!先に注意したでしょ!」

「レイ!遊んでいる場合ではありません!」

フェリルに注意されて俺は目の前の男に集中する。

「もぅ良いのですか?もう少しお付き合いしますよ?」

「ずいぶん律儀な奴だな。そのままお帰りいただいてもいいんだけど?」

「それは出来ない相談ですねー。久方ぶりに出てこられたのです。貴方方と遊ぶのも面白そうですしね」

「では、早々に帰ってもらう!」

俺は一閃に聖の魔力を流すと姿勢を低くして構える。

フェリルがルミニスを呼び出した状態で、俺の隣に移動する。

「こんなせせこましい所では力が十全に発揮出来ませんねぇ。場所を変えましょうか…」

アドラメレクは指を鳴らすと、一瞬にして姿を消した。

「まずい!地上に出たのか!師《せんせい》!」

俺は叫びながら、師《せんせい》の方を振り返る。

アドラメレクの所までこの面子を一瞬で全員をワープさせるとなると、俺には出来なかったからだ。

「分かったわ。それと、今回は私も参加するから」

「お願いします!」

俺の返事を聞いた直後、師《せんせい》が指を鳴らす。

「おや?ずいぶん早く上がって来られましたね」

師《せんせい》のワープで地上…というか空中に出ると、目の前にアドラメレクがいた。

「お前をほったらかすと、どうなるか分かったもんじゃないからな」

「ずいぶんな物言いですね。せっかくこの辺りを綺麗にして差し上げたのに」

その言葉を聞いて俺は地上を見下ろすと、辺り一帯が更地と化していた。

「何をした?」

「あの大量の魔物に困っていたのでしょう?私の余興の邪魔にもなるので、この周辺を掃除しただけですよ」

「あの一瞬で…か。本当にやばい奴が出てきたな」

「お褒めいただきありがとうございます。無駄話はここまでにして始めませんか。久々の外なので、身体が疼きましてね」

そういうと、アドラメレクは俺の目の前まで一瞬で移動する。

俺は一閃を振り上げてアドラメレクに斬りかかると、アドラメレクはまた一瞬で左側に移動する。

「反応は悪くありませんね。ただ攻撃が単調です。もう少し本気になっていただけませんと困りますね。そんな程度では倒せませんよ?」

「周囲は私が結界を張っているから、安心して思いっきりやりなさい?」

師《せんせい》が音魔法ウィスパーで俺に話しかけてきた。

(師《せんせい》が結界を張ってくれてるなら、ちょっとやそっとじゃ壊れないな。本気を出そうか…)

俺は身体強化を施すと同時に多重障壁魔法ティルアードを自身とフェリルにかける。

「では、行きますよ?デモンズシューター」

アドラメレクは矢を放つような動作をすると、複数の黒い矢の形した魔法が俺目掛けて飛んで来た。

俺は飛んでくる矢を右から左へと移動しながら交わして行く。

「氷槍グングニル!!!」

俺は、氷雪魔法と光魔法の合成魔法で作り出した光り輝く氷の槍十数本をアドラメレク目掛けて飛ばす。

アドラメレクが、俺の放ったグングニルに複数のデモンズシューターをぶつけて相殺していく。

一方で、フェリルがグングニルに合わせてルミニスに命じてライトニングレイを放っていた。

アドラメレクはデモンズシューターをグングニルの迎撃に回していた為、ライトニングレイを防御魔法で防いでいた。

同じ箇所を立て続けに撃ち続けるライトニングレイに次第に押され、遂には一発のライトニングレイが防御魔法を貫いた。

「これは…!!不味いですねっ!」

初めてアドラメレクに焦りが見えた。

ギリギリの所で回避行動を取ったが、避けきれずに腕を掠めた。

「始龍の砲架!!!」

オウカが追撃のチャンスとみて援護射撃をする。

その隙を逃さないと言わんばかりに、師《せんせい》も魔法を放った。

「フレアバースト!!!」

いくつもの小さな火の球が高速でアドラメレク目掛けて飛んで行く。

…直後、小さな火の球は凶悪なまでの熱量を放ちながら膨張し、空間ごとアドラメレクを焼失させるかの如く爆発を起こす。

しばらくすると、爆発の中からボロボロになったアドラメレクが現れた。

「さすがにダメージが大きいですね…」

フェリル達の攻撃によって、アドラメレクの攻撃が止んだ隙に、フェリルの隣へと移動して数少ないマナエーテルを飲んだ。

「もう大人しく倒されてくれよ。こっちは、オウカとの戦いで既に疲れてるんだよ…」

マナエーテルの瓶を空間収納魔法に突っ込みながら吐き捨てる。

「いやいや、実に楽しい闘いですよ。と、言っても、こちらもダメージを受け過ぎましたね。本当はもう少し楽しみたい所ですが…。では、次で最後にしましょうか?」

「あぁ、そうしてくれると助かる。ごめん。フェリルは距離を取って離れてくれる?」

「分かりました。無理はしないで下さいね」

スッと遠くに移動するフェリルを確認すると、一閃に光の魔力を纏わせ、生命力さえも使用するつもりで魔法を詠唱し、魔力を練り込んでいく。

何故か俺の周囲の魔素が魔力に変換されて俺の中に取り込まれていたが、気にする余裕が無かった。

一方で、アドラメレクも魔法の詠唱に入っていた。

そして、

「プレアデスメテオール!」
「終末を齎す破滅の闇!」

俺が一閃を空に向かって翳した直後、空からは九つの巨大な光が降り注ぎ、それに合わせるかの様に地上からは天を穿たんとする漆黒の闇が伸びる。

両者が空中で衝突すると、凄まじい暴風と魔力の爆散で、辺り一面が魔法の奔流に包まれる。

そんな状況の中、俺は一直線にアドラメレクに向かって突っ込み、一閃で斬りかかる。

アドラメレクもこちらに気付いたのか、魔力を纏った右手で一閃を受け止める。

「光戟の太刀!」

俺は一閃に更に魔力を流しながら、フェリルを一瞥する。

意図を察したフェリルが俺たちに向けて、ライトニングレイを打ち込むと一閃に命中する。

ライトニングレイを無理矢理吸収した一閃の纏う魔力が急激に膨れ上がると、一閃の刀身が光の奔流に覆われた。

「切り裂けぇぇ!」

俺がグッと力を入れ直すと、アドラメレクは苦悶の表情を浮かべて、咄嗟に大きく後退する。

「はぁはぁ…。これでも駄目か…」

「いえいえ…。十分過ぎる程、楽しめましたよ?その代償としては随分高くつきましたけどね…」

見ると、アドラメレクは右手が無くなり、全身キズだらけになっていた。

こちらも魔力の衝突によって、かまいたちの様に飛んでくるアドラメレクの魔力で全身キズだらけになっていた。

「いやはや。あなた方は、私がこれまで出会った者の中でもトップクラスですよ。実に面白い戦いでした。まだまだ遊びたい所ですが、お約束通り決着はまたの機会にしましょう…」

アドラメレクが振り返ってどこかに行こうとする。

「どこへ…行く…つもりだ…」

俺は肩で息をする様にゼェゼェ言いながら、頬の血を拭うと声を絞り出して引き止めた。

「次に備えて自分の根城に帰らせていただくだけです。おっと。そういえば、貴方の名前を伺ってませんでしたね」

「レイだ」

「レイ…覚えましたよ。次あった時は、また存分に楽しみましょう」

「待て。何を企んでいる…」

「企む?あぁ、ご心配無く。人の世等興味もありませんし、何処ぞを襲うつもりもありませんので。それでは、またお会いしましょう」

そう言い残して、アドラメレクは闇と共に消え去った。

アドラメレクが消え去った後、俺はふらふらと地上に降りてそのまま地面に仰向けに寝転がった。

(疲れた…。もう無理…。しばらくは動けない…)

フェリル達もゆっくりと降りてきて、俺の周りに着地する。

どうやらオウカ以外は師《せんせい》の魔法で飛んでいたのだろう。

オウカはさっさと降りてきたが、他の3人は同じ速度、同じタイミングで降りて来た。

「あらあら。ボロボロね~」

「随分、手酷くやられたな。あやつと戦うのも面白そうだな」

師《せんせい》とオウカが、ボロボロになって地面に転がる俺を見ながら声をかけて来る。

「無茶をしすぎです!もっと私を頼って下さい!!」

そんな二人を押しのけて俺に駆け寄ると、俺の側で正座したフェリルが泣きながら叫ぶ。

「…ごめん。次からは気をつけるよ…」

そういうと、フェリルは微笑んで俺の頭を自分の膝に乗せる。

「分かって下されば良いのです。それよりも少し休んで下さい」

「ありがとう…。そうさせて貰うよ…」

言い終えると、目に溜めた涙を拭うフェリルの膝枕で俺は眠りについた。

何やら言い争い始めたフェリルとオウカの声を聞きながら…



(世界の始まりをもたらした四龍の一体、黄龍…。原初の悪魔の一柱、アドラメレク…。新たな世が動き出したという事かしら…?)

言い争うフェリルとオウカに挟まれ、膝枕されてすやすやと寝る男の子を見ながら、アリアルデはふとそんな事を思う。

(となると、この子を…。いや、この子たちをもっと鍛えてあげないと、この先…)

「この世界を背負わせるとは随分残酷な事を…」

誰に聞こえるでも無いその呟きは、見上げていた夜空の彼方へと消えて行った…



魔族の住む大陸の更に奥地の辺境に佇む西洋風の大きな城…。

その城の王の間とも呼ぶべき広い部屋にはアドラメレクただ1人しかいなかった。

その広い王の間にある玉座で、アドラメレクは失ったはずの右手に目を向けて1人、レイとの戦いを思い出す。

(こちらも万全であったとは言えませんが、ここまでやられるとは思いませんでしたね。次の戦いあそびの時は、もっと楽しめるように舞台を準備しませんと…)

アドラメレクはほくそ笑み、くくくっと小さな笑い声だけが城の中に木霊した。
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