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第十五話 戦いの後で
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目を覚ますと、見覚えのある天井が目に入った。
どうやら侯爵の屋敷のベッドの上らしい…。
「いつも俺は気づいたらベッドの上だな…」
天井を見つめながら呟くと、
「それだけ無理をなさるからですよ?」
扉を開けたフェリルが水の入ったガラスの瓶を持って入って来た。
「あの後どうなった?」
ベッドから上半身を起こして、フェリルに尋ねた。
「レイが意識を失った後のことですが、アリアルデ様の転移魔法でこの屋敷に戻ってきました。ただ…、アリアルデ様のご指示で、レイの転移魔法でここまで戻って来た事にしています。それが、4日前の話ですね」
フェリルが水の入ったコップを俺に渡しながら答えると、ベッドの傍にあった椅子に腰をかけた。
「丸3日も眠ってたのか…。そう言えば、師《せんせい》とあのダンジョンにいた魔族は?」
「アリアルデ様はこの屋敷に戻ってきて、すぐに帰られました。あの魔族はここに置いていく訳には行かないとのことで連れて行かれました」
「オウカは?」
「オウカならこの数日間、嬉しそうな顔で氾濫したダンジョンに向かっては、満足そうに帰ってくるというのを繰り返しております」
「そうか…」
俺は呆れてため息を吐くとベッドから抜け出した。
「先に身体を綺麗にしてくるよ」
「はい。私は身支度をしておきます」
フェリルに見送られて、部屋を出て行くと浴場に向かう。
……………
…………
………
……
…
シャワーを浴びて部屋に戻ると、部屋の据付の椅子にフェリルと侯爵が座っていた。
「大事無いようで何よりだよ。レイ」
「キズだらけの満身創痍ですけどね。それで、氾濫の方はどうなっていますか?」
「君達がダンジョンから戻ってからは、氾濫の規模もかなり縮小したよ。ほぼ山場は抜けたと言っても過言では無い程度にね。後はギルドと連携すれば、我々だけでも鎮圧出来るだろう」
「それは何よりです」
「オウカという子がずいぶん暴れ回ってくれたおかげで、手を焼く魔物は皆居なくなったからね。ところで、彼女は何者だ?君達と共に帰って来たようだが」
「彼女はダンジョンに向かう途中で出会ったただの冒険者ですよ」
バカ正直に本当の話をする訳にも行かなかったので、元から用意していた回答を出来るだけ自然に答えた。
(あいつ…、戻って来たら注意…というか、釘を刺した方がいいか?)
用意していた答えを言いながら、ふとそんな事を考えていたが、直ぐに
(いや、今更無意味か…)
と、自分の疑問に自分で答えを出す。
「君達といい、彼女といい、ずいぶん強いようだね。お陰で、こちらは大助かりだよ」
「出来ることをしたまでですよ。それで、報酬の方はどうなりますか?」
「それなら既に用意しているよ。報酬金は…済まないが、それほど多くは用意が出来なかった。代わりに、リダールに入る為の段取りはしておいた」
「構いません。お金よりもリダールの方を優先しておりましたから」
「そう言ってくれると助かるよ。報酬を渡すにしても、立ったままと言うのも何だからね。こっちへ来て座ってくれ」
侯爵に促されて、俺も空いていた据付の椅子に腰掛けた。
「さて、先ずはこれが今回の依頼の報酬金百万ディアルだ。そして、これを持っていくがいい」
俺が座った途端に、侯爵がお金と共に華美な装飾が施されたカードと手紙を置いた。
「これほどの大金宜しいのですか?それとこの二つは?」
俺は後から置かれたカードと手紙を手に取ると、手紙を広げて見た。
カード同じ様な装飾が施されているのを見て、侯爵に尋ねる。
「構わん。君達が成した事を考えれば、少なすぎて申し訳ないくらいだ。それと、このカードはお前達が王家の使者である事を証明する身分証だ。その手紙はリダールに入った時に、折を見て領主に渡すがいい。くれぐれも無くさぬようにな?」
侯爵の返事を聞いて、俺が訝しむような顔をしていると、フェリルが代弁してくれる。
「随分と手際が宜しいのですね。むしろ、良すぎる様な気さえします。その様な身分証、例え侯爵様と言えど数日程度で用意できるものでは無いのでは?」
「君たちは、それだけこの国にとって重要な存在だという事だよ」
「本音はどうなんですか?」
受け取った報酬を空間収納魔法に収納しつつ、今度は俺が尋ねた。
「疑り深いね。強いて言うなら、王国も一枚岩では無いのだよ。地方や辺境の領主の多くを王家は信用していない。彼らは王家の力に従っているだけだからね。平時から…」
「各地に間者を潜り込ませているんですね」
俺が侯爵の言葉の続きを予想して答えた。
「そう言うことだ。情報戦は世の常という事だよ。君の父上が帝国との国境への移住が認められたのは、ギリギリのところで纏まっている王国に対して、そういった類の帝国からの謀略を阻止する為でもある」
「そのような大事を、あっさりと私達に教えてもよろしいので?」
王国の裏をサラッと話す侯爵を、不審に思ったフェリルが尋ねた。
「君たちを信用しているからな。それに、これでも見る目はあるつもりでね。君たちが王家に取って害となることは無いと判断している」
「…買い被りすぎですよ。と言うことは、リダールの領主が何を企んでいるのかも知っているのですか?」
各地で諜報活動をしているのなら、既にリダールが何をしようとしているのかも知っているのかと思い、質問して見ることにした。
「帝国が一枚噛んでいると思われるが、確信には至っていない。ずいぶん用心深くなっているようで、屋敷に潜入も出来ていない…。おかげで証拠を掴めていないのだよ。残念ながら、詳しいことは何も掴めていないのが現状だ。正直、中に入ってからは何が起こるかも想像も出来ん」
侯爵のその言葉を聞いて、俺がフェリルの方を見ると…。
「嫌です。お断りします」
何かを言う前に、即効で返事をされた。
「まだ何も言ってないんだけど…」
「どうせ、この街に残れとでも言うおつもりでしょう?お断りします。私の居場所は、レイのいるところです」
「でも、危険な目に合うかも知れないよ?」
「私を案じて下さっている事は理解していますが、私が居ないとレイは直ぐに無茶をしますから。それに、貴方が対等だと仰ったのですよ?守られてばかりで対等と言えますか?」
捲し立てる様に俺に言うフェリルを見て、侯爵は顔に手を当てて大笑いする。
「ククク…。随分と気の強いお嬢さんだ。レイ、君の負けだよ。ここまで君に惚れているのだから、共に行く以外の選択肢はあるまい?」
一頻り笑い続けた侯爵が笑いを堪えながら言うのを見て、俺とフェリルは顔を真っ赤にして俯いた。
それを見た侯爵がまた笑い始めた。
なんともむず痒く居心地の悪い空気に耐えきれなくなった俺は、逃げると言う選択肢を取ることにした。
「そ、それでは、俺たちはこれで…」
と、立ち上がろうとした俺の腕を侯爵が掴んだ。
「待ちたまえ。話はまだ終わってはおらんのだよ」
「どういう事でしょうか?」
渋々、大人しく席に着いて尋ねた。
「報酬はまだあるという事だ。君には貴族になってもらう。と言っても、準男爵だがね」
「お断りします」
先程まで破顔した様に大笑いしていたとは思えぬ程、真面目な顔つきになった侯爵を見て、俺は本気の意思を込めて拒絶する。
「そう言うとは思っていたよ。だが、その返事を聞き入れる訳には行かない」
「何故です?」
「理由は2つ。気付いていないようだが、今回のダンジョンの氾濫はこの国の地盤を揺るがしかねない程の規模だった。少なくとも、この街は滅び、私も生きてはいなかっただろう…。君達があのダンジョンの氾濫を鎮圧出来なければ、王都すら危うかったのだよ。そんな君達に栄誉を与えないというのは、王国の信用問題になる」
「もう一つは?」
「君達が向かったダンジョンを調査させた。私の部下は腰を抜かしたそうだ。ダンジョンは無事だったが、ダンジョン周辺は草木一つ生えていない程の荒地になっていたと聞いている。君がやったのだろう?何と戦い、何があってそんな状況になったのかは知らんがな」
(あいつと戦ったのが不味かったか…)
俺は表情を変えないように、努めて平静を保ちつつ返事をする。
「それは、師《せんせい》が…アリアルデ公爵様がなさった事ですよ?」
俺であろうが、師《せんせい》であろうが、いずれにしても爵位を必要としていない事を暗に示す為に、わざわざ言い直した。
ついでに、俺はこれまで散々面倒事を押し付けてきた師《せんせい》に今回は面倒を押し付け返そうと考えた。
「あのお方が同行していたのか?!いつ、こちらへ来られていたのか…」
「出発の日ですよ。守衛の方に聞いて貰えれば、直ぐに分かることですよ」
実はその前日にここへ来たのだが、目撃者も居ないだろうと思って黙っておく事にする。
「そうか…。直ぐに調べさせよう」
「では…」
この話は無かったという事で。と、続けようとした所で、侯爵に遮られる。
「だが、そういう訳には行かんのだよ」
「何故です?あれは師《せんせい》がなさった事です。栄誉なら、師《せんせい》にお与えになれば良いのでは?」
「もしだ。もし…、あの方がなさったとしても、そもそも彼女は公爵なのだよ。王に直接謁見出来る階位も既にある。あの方に最早これ以上の栄誉は既に意味を成さない」
「ですが、私には関係の無い事ですし、してもいない事で栄誉を与えられても困ります」
「そもそもこの依頼を引き受けたのは君達だ。例え、公爵が手を貸していたとしても、達成したのは君達なのだよ。それに…だ。仮に…だが、公爵殿があの場所をあれだけの状態にする程の戦いをしたにも関わらず君たちが無事に戻って来たのなら、君たちは十分な力を持っている事になる」
侯爵はどうしても折れてくれそうに無かった。
(俺に首輪を付けたい…という事だろうな)
「分かりました。拒否したいという気持ちは変わりませんがお受け致します。但し、条件があります」
これ以上議論しても、平行線を辿るのは目に見えていたから、ここは素直に折れる事にした。
「条件とは?」
「私は世界を見て回る旅の途中です。爵位を得る事で国から出れなくなってしまっては、父の下を出た意味がありません。師《せんせい》の様に、自由に行動する許可をいただきたいです」
「それなら構わんよ。但し、王国の窮地には力を貸してもらうがな。王国の貴族になる以上は王国の民を守る義務が君にはある。高貴なる者の義務という奴だよ」
「分かりました。そういう事でしたら、若輩の身ではありますが、慎んでお引き受け致します」
「爵位の授与は十日後に王城にて執り行う事となる。それまではこの街でダンジョンの氾濫の後詰を頼みたい。その後に、リダールの調査をすると良い。それから言うのを忘れておったが、ミリーナと従者のディルを君に付けるから、くれぐれも頼むぞ?」
「えっ?!い…いや、それは…」
俺は予想外の事に戸惑いつつ断ろうとしたが、また侯爵に遮られる。
「まさか、断るとは申さんであろうな?あれは、気立てが良い、Aランク冒険者程度には戦う事もできる。ディルも元々は私の騎士の隊長だから腕も確かだ。それに、あの娘は君への間者でもあり、お目付役でもある。わかるね?」
拒否は認めないと言わんばかりの表情で俺を見つめる侯爵に気圧され、俺は「はい…」と言うしかなかった…。
侯爵との話を終えた俺とフェリルは、意気揚々と氾濫したダンジョンに向かっていったオウカを探しに街の外へと出ていった。
どうやら侯爵の屋敷のベッドの上らしい…。
「いつも俺は気づいたらベッドの上だな…」
天井を見つめながら呟くと、
「それだけ無理をなさるからですよ?」
扉を開けたフェリルが水の入ったガラスの瓶を持って入って来た。
「あの後どうなった?」
ベッドから上半身を起こして、フェリルに尋ねた。
「レイが意識を失った後のことですが、アリアルデ様の転移魔法でこの屋敷に戻ってきました。ただ…、アリアルデ様のご指示で、レイの転移魔法でここまで戻って来た事にしています。それが、4日前の話ですね」
フェリルが水の入ったコップを俺に渡しながら答えると、ベッドの傍にあった椅子に腰をかけた。
「丸3日も眠ってたのか…。そう言えば、師《せんせい》とあのダンジョンにいた魔族は?」
「アリアルデ様はこの屋敷に戻ってきて、すぐに帰られました。あの魔族はここに置いていく訳には行かないとのことで連れて行かれました」
「オウカは?」
「オウカならこの数日間、嬉しそうな顔で氾濫したダンジョンに向かっては、満足そうに帰ってくるというのを繰り返しております」
「そうか…」
俺は呆れてため息を吐くとベッドから抜け出した。
「先に身体を綺麗にしてくるよ」
「はい。私は身支度をしておきます」
フェリルに見送られて、部屋を出て行くと浴場に向かう。
……………
…………
………
……
…
シャワーを浴びて部屋に戻ると、部屋の据付の椅子にフェリルと侯爵が座っていた。
「大事無いようで何よりだよ。レイ」
「キズだらけの満身創痍ですけどね。それで、氾濫の方はどうなっていますか?」
「君達がダンジョンから戻ってからは、氾濫の規模もかなり縮小したよ。ほぼ山場は抜けたと言っても過言では無い程度にね。後はギルドと連携すれば、我々だけでも鎮圧出来るだろう」
「それは何よりです」
「オウカという子がずいぶん暴れ回ってくれたおかげで、手を焼く魔物は皆居なくなったからね。ところで、彼女は何者だ?君達と共に帰って来たようだが」
「彼女はダンジョンに向かう途中で出会ったただの冒険者ですよ」
バカ正直に本当の話をする訳にも行かなかったので、元から用意していた回答を出来るだけ自然に答えた。
(あいつ…、戻って来たら注意…というか、釘を刺した方がいいか?)
用意していた答えを言いながら、ふとそんな事を考えていたが、直ぐに
(いや、今更無意味か…)
と、自分の疑問に自分で答えを出す。
「君達といい、彼女といい、ずいぶん強いようだね。お陰で、こちらは大助かりだよ」
「出来ることをしたまでですよ。それで、報酬の方はどうなりますか?」
「それなら既に用意しているよ。報酬金は…済まないが、それほど多くは用意が出来なかった。代わりに、リダールに入る為の段取りはしておいた」
「構いません。お金よりもリダールの方を優先しておりましたから」
「そう言ってくれると助かるよ。報酬を渡すにしても、立ったままと言うのも何だからね。こっちへ来て座ってくれ」
侯爵に促されて、俺も空いていた据付の椅子に腰掛けた。
「さて、先ずはこれが今回の依頼の報酬金百万ディアルだ。そして、これを持っていくがいい」
俺が座った途端に、侯爵がお金と共に華美な装飾が施されたカードと手紙を置いた。
「これほどの大金宜しいのですか?それとこの二つは?」
俺は後から置かれたカードと手紙を手に取ると、手紙を広げて見た。
カード同じ様な装飾が施されているのを見て、侯爵に尋ねる。
「構わん。君達が成した事を考えれば、少なすぎて申し訳ないくらいだ。それと、このカードはお前達が王家の使者である事を証明する身分証だ。その手紙はリダールに入った時に、折を見て領主に渡すがいい。くれぐれも無くさぬようにな?」
侯爵の返事を聞いて、俺が訝しむような顔をしていると、フェリルが代弁してくれる。
「随分と手際が宜しいのですね。むしろ、良すぎる様な気さえします。その様な身分証、例え侯爵様と言えど数日程度で用意できるものでは無いのでは?」
「君たちは、それだけこの国にとって重要な存在だという事だよ」
「本音はどうなんですか?」
受け取った報酬を空間収納魔法に収納しつつ、今度は俺が尋ねた。
「疑り深いね。強いて言うなら、王国も一枚岩では無いのだよ。地方や辺境の領主の多くを王家は信用していない。彼らは王家の力に従っているだけだからね。平時から…」
「各地に間者を潜り込ませているんですね」
俺が侯爵の言葉の続きを予想して答えた。
「そう言うことだ。情報戦は世の常という事だよ。君の父上が帝国との国境への移住が認められたのは、ギリギリのところで纏まっている王国に対して、そういった類の帝国からの謀略を阻止する為でもある」
「そのような大事を、あっさりと私達に教えてもよろしいので?」
王国の裏をサラッと話す侯爵を、不審に思ったフェリルが尋ねた。
「君たちを信用しているからな。それに、これでも見る目はあるつもりでね。君たちが王家に取って害となることは無いと判断している」
「…買い被りすぎですよ。と言うことは、リダールの領主が何を企んでいるのかも知っているのですか?」
各地で諜報活動をしているのなら、既にリダールが何をしようとしているのかも知っているのかと思い、質問して見ることにした。
「帝国が一枚噛んでいると思われるが、確信には至っていない。ずいぶん用心深くなっているようで、屋敷に潜入も出来ていない…。おかげで証拠を掴めていないのだよ。残念ながら、詳しいことは何も掴めていないのが現状だ。正直、中に入ってからは何が起こるかも想像も出来ん」
侯爵のその言葉を聞いて、俺がフェリルの方を見ると…。
「嫌です。お断りします」
何かを言う前に、即効で返事をされた。
「まだ何も言ってないんだけど…」
「どうせ、この街に残れとでも言うおつもりでしょう?お断りします。私の居場所は、レイのいるところです」
「でも、危険な目に合うかも知れないよ?」
「私を案じて下さっている事は理解していますが、私が居ないとレイは直ぐに無茶をしますから。それに、貴方が対等だと仰ったのですよ?守られてばかりで対等と言えますか?」
捲し立てる様に俺に言うフェリルを見て、侯爵は顔に手を当てて大笑いする。
「ククク…。随分と気の強いお嬢さんだ。レイ、君の負けだよ。ここまで君に惚れているのだから、共に行く以外の選択肢はあるまい?」
一頻り笑い続けた侯爵が笑いを堪えながら言うのを見て、俺とフェリルは顔を真っ赤にして俯いた。
それを見た侯爵がまた笑い始めた。
なんともむず痒く居心地の悪い空気に耐えきれなくなった俺は、逃げると言う選択肢を取ることにした。
「そ、それでは、俺たちはこれで…」
と、立ち上がろうとした俺の腕を侯爵が掴んだ。
「待ちたまえ。話はまだ終わってはおらんのだよ」
「どういう事でしょうか?」
渋々、大人しく席に着いて尋ねた。
「報酬はまだあるという事だ。君には貴族になってもらう。と言っても、準男爵だがね」
「お断りします」
先程まで破顔した様に大笑いしていたとは思えぬ程、真面目な顔つきになった侯爵を見て、俺は本気の意思を込めて拒絶する。
「そう言うとは思っていたよ。だが、その返事を聞き入れる訳には行かない」
「何故です?」
「理由は2つ。気付いていないようだが、今回のダンジョンの氾濫はこの国の地盤を揺るがしかねない程の規模だった。少なくとも、この街は滅び、私も生きてはいなかっただろう…。君達があのダンジョンの氾濫を鎮圧出来なければ、王都すら危うかったのだよ。そんな君達に栄誉を与えないというのは、王国の信用問題になる」
「もう一つは?」
「君達が向かったダンジョンを調査させた。私の部下は腰を抜かしたそうだ。ダンジョンは無事だったが、ダンジョン周辺は草木一つ生えていない程の荒地になっていたと聞いている。君がやったのだろう?何と戦い、何があってそんな状況になったのかは知らんがな」
(あいつと戦ったのが不味かったか…)
俺は表情を変えないように、努めて平静を保ちつつ返事をする。
「それは、師《せんせい》が…アリアルデ公爵様がなさった事ですよ?」
俺であろうが、師《せんせい》であろうが、いずれにしても爵位を必要としていない事を暗に示す為に、わざわざ言い直した。
ついでに、俺はこれまで散々面倒事を押し付けてきた師《せんせい》に今回は面倒を押し付け返そうと考えた。
「あのお方が同行していたのか?!いつ、こちらへ来られていたのか…」
「出発の日ですよ。守衛の方に聞いて貰えれば、直ぐに分かることですよ」
実はその前日にここへ来たのだが、目撃者も居ないだろうと思って黙っておく事にする。
「そうか…。直ぐに調べさせよう」
「では…」
この話は無かったという事で。と、続けようとした所で、侯爵に遮られる。
「だが、そういう訳には行かんのだよ」
「何故です?あれは師《せんせい》がなさった事です。栄誉なら、師《せんせい》にお与えになれば良いのでは?」
「もしだ。もし…、あの方がなさったとしても、そもそも彼女は公爵なのだよ。王に直接謁見出来る階位も既にある。あの方に最早これ以上の栄誉は既に意味を成さない」
「ですが、私には関係の無い事ですし、してもいない事で栄誉を与えられても困ります」
「そもそもこの依頼を引き受けたのは君達だ。例え、公爵が手を貸していたとしても、達成したのは君達なのだよ。それに…だ。仮に…だが、公爵殿があの場所をあれだけの状態にする程の戦いをしたにも関わらず君たちが無事に戻って来たのなら、君たちは十分な力を持っている事になる」
侯爵はどうしても折れてくれそうに無かった。
(俺に首輪を付けたい…という事だろうな)
「分かりました。拒否したいという気持ちは変わりませんがお受け致します。但し、条件があります」
これ以上議論しても、平行線を辿るのは目に見えていたから、ここは素直に折れる事にした。
「条件とは?」
「私は世界を見て回る旅の途中です。爵位を得る事で国から出れなくなってしまっては、父の下を出た意味がありません。師《せんせい》の様に、自由に行動する許可をいただきたいです」
「それなら構わんよ。但し、王国の窮地には力を貸してもらうがな。王国の貴族になる以上は王国の民を守る義務が君にはある。高貴なる者の義務という奴だよ」
「分かりました。そういう事でしたら、若輩の身ではありますが、慎んでお引き受け致します」
「爵位の授与は十日後に王城にて執り行う事となる。それまではこの街でダンジョンの氾濫の後詰を頼みたい。その後に、リダールの調査をすると良い。それから言うのを忘れておったが、ミリーナと従者のディルを君に付けるから、くれぐれも頼むぞ?」
「えっ?!い…いや、それは…」
俺は予想外の事に戸惑いつつ断ろうとしたが、また侯爵に遮られる。
「まさか、断るとは申さんであろうな?あれは、気立てが良い、Aランク冒険者程度には戦う事もできる。ディルも元々は私の騎士の隊長だから腕も確かだ。それに、あの娘は君への間者でもあり、お目付役でもある。わかるね?」
拒否は認めないと言わんばかりの表情で俺を見つめる侯爵に気圧され、俺は「はい…」と言うしかなかった…。
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