不遇にも若くして病死した少年、転生先で英雄に

リョウ

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第十九話 王都へ

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式典当日、朝食を取った俺達は部屋に戻っていた。

「俺とフェリルは王都に向かうけど、オウカは予定通りベレルに向かってくれ。どうする?なんなら、俺が転移魔法でベレルまで送るけど?」

「いらぬ。私も転移魔法なら使える。まさか…、お主と出会うまでずっと龍の姿でおったと思っておるのか?」

俺の提案をオウカは即座に断った。

「ちょっと?会った時は龍の姿をしてたし」

正直に言えば思ってたので、素直に答えた。

「阿呆。そんな目立つ姿でおったら、人間どもが私を討伐しに来るだろうが」

「それもそうか…。って、まさか?!お前と同じ様に、他のやつらも皆人の姿してるのか?」

「当たり前だろう?兄弟姉妹だから、私は会えば認識できるけどな。人間には区別できぬと思うぞ?」

「お前、その他の龍達とは仲良いの?」

「仲良く…は無いと思う。仲が良ければ、行動を共にしてるだろうし」

「そうか。うっかり出会わない様に気をつけておかないとなぁ」

「ほっとけば勝手に寄ってくると思うぞ?龍は強い奴を好むしな。そんな事より、もたもたしてて良いのか?」

「そうだった。じゃぁ、俺たちは行くから向こうは頼むぞ?屋敷に転移しろよ?変な所に出ると余計な混乱を招くからな?」

「任せておけ。それより、何をして貰うか考えておくから、楽しみにしておくがいい」

ニヤッと不敵な笑顔を向けたオウカを見て、嫌な予感しかしなかった。

「さて、オウカも行きましたし。私達も行きましょう」

オウカが転移魔法でベレルに向かったのを見届けて、俺とフェリルも部屋を後にした。

屋敷の外には鎧に身を包んだディール、ディールが連れてきた騎士達、そして侯爵と侯爵の連れらしき人達が待っていた。

「2人とも準備はもう良いのか?」

「はい。いつでも大丈夫です」

俺が答えると、侯爵が豪華な装飾が施された大きな馬車を指さす。

「2人ともあれに乗りなさい。私の妻が中で2人を待っている」

「分かりました。では、私は先に行ってます。レイはお二人と話があるでしょうから、終わってから来て下さい」

フェリルは、ディールと侯爵に丁寧にお辞儀をすると馬車の方へ歩いていった。

「行って参ります。父上もお気をつけて」

「あぁ、レイも気をつけてな。侯爵、これより我らはダンジョン鎮圧に向かいます」

「うむ。そちらは頼んだぞ」

侯爵がディール達を見送ると、俺の方を見て頷いた。

それを合図に、俺と侯爵は馬車の中に入っていった。

馬車に入ると、左の奥にフェリル、その向かいには侯爵の奥方がいて、その隣に侯爵が座る。

「そう言えば、紹介していなかったね。私の妻のフリネーラだ」

「レイ=イスラ=エルディアです」

俺はフェリルの横に座ると、簡単な自己紹介をしてお互いに軽く会釈を交わす。

「そう言えば、ミリーナ様はいらっしゃらないのですね。王都に来るものとばかり思っておりましたが…」

「あの子はベレルで待機しているよ。今頃屋敷で、オウカ殿と対面している頃かな?」

「しかし、侯爵家の皆様がザエルカを開けてしまっては不味いのでは…」

フェリルが、俺が思っていた事を代わりに言葉にした。

「そこは手を打ってあるから大丈夫だよ。フリネーラには王都でやって貰わないといけない事があるからな。どうしても、付いて来て貰う必要があった」

「何かあるんですか?」

「まぁ、その内分かるよ。そんな事より、陛下にこれから会うというのに、随分と緊張していないようだな」

「実感が無いからですよ。貴族だったとは言え、陛下に謁見の機会すら無かった私にとって、雲の上にいるような方ですよ?それが、ある日急に謁見する事になってもピンと来ませんよ」

「そのようなものか?」

「日頃から陛下と顔を合わせる私たちとは感覚が違うのかも知れませんね」

フリネーラ様も感覚的には侯爵と同じなのだろう。俺との認識の違いをそうまとめた。

「そうかも知れませんね」

大して意味のある会話では無いと思ったので、俺もそう答えて締めくくった。

「そう言えば、王城へ着いたら私達はどこへ行けば良いのでしょうか?」

話が終わったと判断したフェリルが、話を切り出した。

「あぁ、それならフリネーラが2人を案内する」

「侯爵はどうされるのです?」

俺はふと思った疑問を口にした。

「私は先に陛下と話をせねばならんのでな。君たちとは別行動だ」

王城に着いた後の予定を確認した後は、4人で他愛も無い話をして過ごしていた。

しばらくして馬車は王都を抜け、王城へと入って行った。

馬車から降りると、フリネーラ様が付いてくるように指示をする。

道中で仲良くなったらしく、フリネーラ様とフェリルが楽しそうに話をしているのを見ながら、後に続く。

「2人ともこの部屋で服を着替えてね。着替える服は中に置いてあるから、着替えが済んだら部屋にいるのよ?時間になれば、城の方が2人を迎えに来るから」

部屋の前に到着すると、フリネーラ様が簡単に説明をしてくれる。

「分かりました。時間まで部屋で過ごさせて貰います」

説明を終えると扉を開けてくれたので、そのまま部屋に入らせて貰った。

「そうだったわ。城内で魔法は使わない様にね。王宮魔術師達が、騎士達と総出でここに押し寄せて来るわよ?」

扉を閉めようとする手を止めて、思い出した様に俺たちに伝えた。

「ご忠告ありがとうございます。部屋で大人しくしておきますよ」

俺がそう返事すると、フリネーラ様は扉を閉めた。

部屋に入ると、大人8人が一緒に食事を取れるくらい大きく豪華な装飾が施された机と据付の椅子があり、机の上に2人分の服が置いてあった。

その向こうには扉が開いた状態の部屋があり、左手にも同じように扉が開いた状態の部屋があった。

「時間的には式典まで後1時間位だね。俺は先に着替えて置こうかと思うけど、フェリルはどうする?」

俺が自分の着替えを手に取り、振り返ってフェリルに尋ねた。

「私もそうします」

フェリルも俺の隣に来て、机の上に置いてあった服を
手に取る。

「なら、お互い着替え終わったら、この部屋に集まろう。俺はあっちの部屋で着替えるから、フェリルはそっちで着替えるといいよ」

俺は奥の部屋と左手の部屋を順に指差して提案した。

「分かりました。では、後程…」

フェリルの返事を聞いて俺も部屋に行こうとすると、フェリルが一言付け加える。

「覗いちゃ…ダメですよ?」

顔を真っ赤にして部屋に足早に消えていくフェリルに、此方も顔真っ赤にしてしまう。

しばらく顔を真っ赤にしたまま立ち尽くしていた俺は必死に顔を振った後、両頬を強めに叩いて無理矢理気持ちを切り替えた。

「よしっ!着替えるか…」

フェリルが着替えている姿を除きたい欲望を抑えて、俺も部屋に入っていった。


一方、遡ること数時間前…

ベレルにあるエルディア家の屋敷の庭に転移したオウカは、目の前で尻もちをついている女の子を見下ろしていた。

「大丈夫か?」

転移した直後に「きゃっ!」と何かが聞こえたのはこれか…、と思いながら手を伸ばした。

「ありがとうございます!」

女の子を起こすと深々とお辞儀をしてお礼を言って来たが、そんな事はどうでも良かった。

「構わんよ。それよりここはレイの実家の屋敷で合ってるのか?」

「あっ、合ってますよ。ここはエルディア様の屋敷です。何か用事がおありですか?」

とりあえず転移先に問題無いらしい事は確認できたので、屋敷に入って行くことにする。

「ちょっと待って!」

「何?」

私は立ち止まって振り返り、疑問を投げかける。

「あなたは…誰?どうやってここへ入り込んだの?」

「私の名はオウカ。レイに言われてここに来た」

そう言えば名乗っても無ければ、目的も言って無かったなと思って素直に告げる事にした。

「オウカ様ですか!?来られるとは聞いてましたが、まさかこんな急に現れるとは思わなかったので、びっくりしました」

「で、そなたの名は?」

特に興味が無かったが、このままでも埒があかないと思ったので、話を変える事にした。

「あっ!す、すみません!私はミリーナ=フォン=エルアドルフと言います!」

「ほぅ?そなたがあの侯爵の娘か。くれぐれもレイの邪魔だけはしてくれるなよ…」

「えっ?!何ですか、その話?!」

何も聞かされていなかったのか、必死に問いただそうと駆け寄って来たミリーナを無視して屋敷に入って行った。

屋敷に入ると、エルディア家の者が私を部屋に案内してくれる。

「さて、どうしようか…」

部屋に入ったのはいいが、致命的な問題に気付いた。

「全くする事が無い…」

どうしたものかと思案していると“ガチャ”と音が鳴ったので、扉の方を見る。

「あの~、さっきの話…」

「しつこいのぅ…。侯爵がお主達をレイに付けるつもりみたいだぞ?」

「お父様がその様な事を?でも、何故…」

「知らんな。レイを監視したいのだろうが、私にはレイの邪魔をしたいのかとしか思えん」

苛立ちを込めて吐き捨て、その場を後にしようとミリーナの横を通り過ぎる。

「どちらへ行くのですか?」

答えるでも無く、後ろを付いてくるミリーナにイライラしながら無視して歩き続ける。

………
……


「どこまでついて来る気だ?」

ベレルの街を抜けた所で足を止めて振り返ると、一向に付いてくるのをやめる気がないミリーナに話しかけた。

「どちらへ行くつもりですか?返事を聞いておりませんので」

「そなた…思ったより頑固な奴だな…。可愛いだけの世間知らずなお嬢様という訳では無いようだのぅ」

「…ッ!私を!侮らないで下さい!!!」

こちらを睨みながら、血が滲むほど拳を握っているのを薄目に見遣ると、ミリーナの顔を見る。

「見所がありそうだ。付いてくるか?」

ニヤッと不敵な笑みを浮かべると、返事を聞くでもなくまた歩き始める。

ベレルを出てしばらく経った頃、そろそろ転移魔法で飛ぼうかと考えていた。

「そういえば、そなたは転移魔法を使えるのか?」

ミリーナの強さを調べる意味で聞いてみる。

「私にはそんな高等魔法使えません」

「そうか…」

昔は皆当たり前のように使っていたのだが、今は皆が使えるわけではないようだ。

「ここまで来れば目立たんだろう…。こっちに来い」

特に期待していた訳でも無かったので、ミリーナを手招きして呼び寄せる。

「どうするのですか?」

側まで来たミリーナの肩を掴むと、何も言わずに転移した。

次に眼前に広がる光景は、さっきまでの広々とした草原ではなく、人間の村が目の前にあった。

(思ったより近くに転移してしまったか…)

少し離れた所に転移して歩いて入るつもりだったが、村を囲う様に設置された柵が目の前にある位の至近距離に転移してしまった。

(レイがあんな縮尺もよく分からない地図を渡したからだ。そう言うことにしておこう)

これでもし目立ってしまっても、レイが悪いと勝手に決めつけて納得する。

「あの~、何処ですか?ここ…」

状況を飲み込めないミリーナが、恐る恐る尋ねて来る。

「さぁ?リダールの近くにある村としか分からんな」

「そうですか…。ここへは何しに?」

「下見だな。そなたはザエルカとか言う街から来たのだろう?ここには寄らなんだのか?」

この村がレイの地図通りなら、ベレルよりザエルカに近く、レイ達がミリーナと出会った村よりもリダールとザエルカに近いはずだった。

「はい。この村はリダールに近いので…。リダールが怪しい動きを見せている以上、立ち寄らない方がいいと思いましたので」

「まさかとは思うが、そなた感知魔法も使えんのか?」

本来敵味方の大雑把な識別だけならそれだけで分かるのに、感知魔法も使えないのかと思って聞いてみた。

(感知魔法すら使えんのなら、足手纏いでしか無いぞ…)

と思いつつ、答えを待っていた。

「いえ。使えるんですが、得意では無くて…、村全体を識別出来ないので、手前の敵意の反応の量だけで判断したんです」

ミリーナの返事に少し安堵しつつも、このまま付いて来られては足手纏いになると思わざるを得なかった。

「そなた…少しは補助魔法を習得した方が良いぞ?私たちについて来る気があるのか知らんが、今のままだと邪魔になるぞ?」

「そ、そうですか…」

露骨に気落ちした様子を見せるミリーナを見ていて、気が向いたので提案する事にした。

「私が鍛えてやろうか?」

「い、いいのですか!?是非っ!!」

食い気味に返事するミリーナを前に少し機嫌を良くしつつ、元々の目的に取り掛かる事にした。

「ベレルに戻ってからだがな?一先ず、中に入る事にしよう」

「き、危険なのでは?」

「阿呆。何もせずに敵陣かも知れんとこに入る訳ないだろう。それに、今回は村の様子を見るだけだ」

認識阻害魔法、遮音魔法、感知魔法、空間把握魔法を同時発動し、村の中へ入って行く。

「そなたにも魔法をかけておいた。さっさと入るぞ」

そうして、ミリーナと一緒に村の中へと入っていった…。
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