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第二十八話 回想—パレードの前に—
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部屋に入った俺達は、師《せんせい》と同じ様に据え付けの椅子に座って使用人の女性が入れてくれた紅茶を飲んでいた。
「…で?何でいるんですか?」
紅茶を啜る師《せんせい》に、単刀直入に尋ねた。
「冷たいわね~。ヴィルちゃんに頼まれたから、来たのに~」
「陛下の事を、ヴィルちゃんなんて呼んで大丈夫なんですか?」
やけに親しげな呼び方をする師《せんせい》に、フェリルが尋ねた。
「大丈夫よ~。あの子が小さい頃から知ってるもの~」
「フェリルって、何で師《せんせい》に悠久の魔女なんて異名が付いてるのか知らないの?」
初めて師《せんせい》に会った時に、何かを呟いていたから、気づいているとばかり思っていた。
「どこかで聞いた事があるなぁ。とは、思っていましたが…」
「ひょっとして、この国の建国の物語ではないですか?!」
師《せんせい》に出会って興奮気味のソフィアが、フェリルに続いた。
「…!。確かにそうです!」
しばらく頬に手を当てて考えていたフェリルが、ソフィアに尋ねられて思い出した様に反応した。
「あ~。それ、師《せんせい》の事だよ?」
「えっ?!あのお話って、三百年前とかの話じゃ無かったですか?」
「私、年取らないの~。見た目で言ったら、25歳から変わってないし~」
「そう言うこと。現に俺と出会った頃から変わってないしね。で、何しに来たんですか?」
「なにっ?追い出したいの?!」
師《せんせい》が涙目で訴える。
「…、出来れば?師《せんせい》が絡むとろくなことになりませんし…」
「酷くない?!」
割と本気で師《せんせい》がショックを受けた様子を見せる。
「と、冗談はここまでにして…。まさか、陛下の仰った手は打ってあるって、まさか…師《せんせい》の事ですか?」
「レイって、アリアルデ様にだけ何か冷たく無いですか?」
「そうよ、そうよ~。仮にも、師匠なんだから優しくして欲しいわ~」
フェリルが不思議そうな顔で言ったセリフを、助け舟を得たと言わんばかりに、師《せんせい》が勢い付いて抗議する。
「尊敬はしてますよ?ただ、師《せんせい》と話してるとすぐ脱線するから、主導権を握ろうと…つい?」
「この場合、話を脱線させてるのはレイですよね?」
ソフィがフェリルを見て同意を求めると、二人揃って俺を見た後に頷いた。
その側で、勝ち誇った顔をしている師《せんせい》に軽くイラッとしたが、ここで師《せんせい》に絡んだら負けだと思って我慢する。
「ごめん…。で、違うんですか?」
話を元に戻すべく舵を切った。
「合ってるわよ~。レイなら自分でどうにかするだろうけど~。それだと、困るのよね~」
「どうしてですか?」
「王都に潜んだ敵を炙り出したいから…とか?」
フェリルの質問に、ソフィが何となく思った事を口にする。
「せいか~い」
「要するに俺とフェリルは囮ですか…」
「そう言うこと~。ちゃんと私が守ってあげるから~。だから、二人は魔法を使わないでね~?警戒されて出てこないかもしれないし~」
「そうなると、ティアードみたいな対象を覆うタイプの防御魔法は使えませんよね?」
「もちろ~ん。なので、これとこれを使いま~す」
そう言って空間収納魔法から、片目にだけ着ける眼鏡と割と荘厳な装飾の施された杖を取り出した。
「何ですか?それ」
ソフィアが、師《せんせい》が取り出した杖を指差して尋ねた。
「私の愛用道具~。因みに、こっちが数百キロ離れた先まで視える眼鏡で~。こっちが、魔法の威力を増幅してくれるし~、私の思った形になってくれる杖なのよ~。こんな感じに~」
師《せんせい》が杖の形状を剣に変化させた。
「な、なんですか?!その杖?!」
フェリルが驚きの声を上げた。
「エルーシアナっていう杖なの~。珍しい金属で出来た杖なのよ~。って事で、早く着替えてきたら~?」
「師《せんせい》は良いんですか?」
「私はここにお留守番で~す。あなた達の側に私が居たんじゃ、私が来た意味ないもの~。私、レイ達より有名人だし~。ここにいることも秘密だし~」
「では、どうやってレイ達を守る気なんですか?」
ソフィアが最もな疑問を口にする。
「秘密で~す。ただ、パレードはここから見える場所しか回らないから~、方法はいくらでもあるのよ~」
「だから、どうやってですか?本当に守れるんですか?王城からなんて…。一緒に居ないようにするにしても、近くにいた方が…」
「こうなったら絶対教えてくれないから、諦めるしかないよ?」
ソフィがしつこく食い下がろうとするのを、俺が引き止めた。
「それより、ソフィはどうするの?」
聞いても答えの出ない事は放っておくことにして、パレードの参加者では無いソフィは、どうするのか確認する。
「私はお父様…陛下に、パレードの間は城で大人しくしているようにときつく言われてるので…。レイについて行く準備でもしながら部屋で大人しくしておく事にします」
「そうなんだ。それじゃぁ、俺とフェリルは着替える事にするよ」
二人とも別の部屋に入って着替えようと動き始めたが、師《せんせい》もソフィアも部屋を出る素振りも無く、優雅に紅茶を啜る。
「…。二人とも何してんの?」
部屋の扉のドアノブに手を掛けたまま、振り返る。
「「何が?」」
何がおかしいのか分からないという顔をして、二人がハモる。
「何が?じゃなくて、準備するんだけど…」
「どうぞ~」
師《せんせい》が紅茶を飲みながら、ヒラヒラと手を振る。
「いや…。出てって下さいよ…」
「いいじゃな~い。別の部屋で着替えるんだし~。ね~?」
師《せんせい》がソフィアと目を合わせると、二人して頷いた。
「良くないですよ。ちなみに、ソフィもだよ?」
「私はレイの妻になるんですもの。身内みたいなモノでしょう?」
「妻になるのは、私もですよ?ソフィ」
聞き捨てなら無かったのか、僅かに空いた扉の隙間から顔を出したフェリルが張り合いだした。
「二人ともありがとう…。…じゃなくて…」
師《せんせい》がいる前で、惚気て甘い空気を出すのも恥ずかしかったので、努めて冷静に答える。
「いいけど。早くしないと、パレードに間に合わなくなるわよ~?」
俺の話を遮って、こうなった元凶が急かして来た。
「あぁ!もう!そこから動かないで下さいよ!」
俺が勢い良くバタンッ!!とドアを閉めると、その少し後にパタンっと小さく音が聞こえた。
式典の前に着替えた部屋に入ると、白を基調にした服と黒を基調にした服の二着が置いてあった。
(何で二着…?好きな方を選べってことか?)
とりあえず、両方を手に取って見比べた後、黒を基調にした方の服を着る事にして、ベッドに綺麗に広げる。
そして、気付かれないように、服を覆う様にして光属性の魔素だけを集めた後、服を着替え始めた。
「ん?」
部屋を出ようとドアノブに手を掛けようとした所で、手紙が急に現れた。
オウカからの物だったらしく、中に書かれている事を一通り読み終えて収納魔法に収めた。
(反リダール同盟か。必要以上に首を突っ込んで無いと良いけど…)
返事を書こうかと悩んだが、パレードまで時間が無かったので、後にして扉を開けた。
「二人とも何してんの?」
部屋を出ると、師《せんせい》とソフィが、二人してフェリルを囲んで黄色い声を上げていた。
その光景に思わず、部屋に入る前と同じセリフを吐いてしまう。
「見て、レイ!フェリルが凄く可愛いのよ!どこかのお…」
言いかけたソフィが俺の方を見ると、急に黙ってボーッとする。
一方で俺も、ソフィが振り返って出来た隙間から見えた金の装飾が施された純白のドレスに身を包むフェリルに見惚れて、ボーッとする。
「どうしたんですか…?」
ソフィの傍から顔を覗かせたフェリルが、俺の方を見て惚けた顔をして固まった。
「あらあら~。みんなボーッとしちゃて~。あら?レイも良く似合うじゃな~い」
ソフィとフェリルが惚けた顔で固まっているのを見て、呑気な声を出して振り返った師《せんせい》が、俺の方を見る。
「あ、ありがとうございます。フェリルも着替え終わってたんだね。凄く似合ってるよ」
フェリルに声を掛けると、ボンッと音が鳴りそうな勢いで顔を真っ赤にする。
ソフィはまだトリップ状態から抜け出せていない様だ。
「フェリルちゃんは白…。レイは黒かぁ」
師《せんせい》が徐ろに服の色について口にしたのを聞いて、用意された服の事をフェリルに聞いてみることにした。
「そう言えば、服が二着用意されてたんだけど…、フェリルもそうだったの?」
「いえ?私の方はこのドレス一着でしたよ?二着用意されてたんですか?」
フェリルが左右に腰を捻って、ドレスのスカートをヒラヒラさせた後に一回転する。
「うん。何でだろう。ソフィは何か知ってる?」
急に話を振られて我に返ったのか、ソフィが頭をブンブン振る。
「い、いえ!流石に、そこまでは…。私も用意してある服まで説明されてる訳ではありませんので…」
慌てて答えてくれたソフィの頭を軽く撫でると、うっとりした表情で再びソフィがトリップした。
「そう言えば…、師《せんせい》にこれを渡して起きます。パレードが始まる前にでも、読んで置いて下さい」
師《せんせい》に小さく折り畳んだ紙を渡すと、フェリルの方を見る。
「そろそろ時間だし、行こうか」
トリップ中のソフィを放ったらかして、フェリルに声を掛けた。
「そうですね。アリアルデ様、よろしくお願いしますね」
「任せて~」
そう言って、部屋を出て行く俺とフェリルを、師《せんせい》が手をひらひらさせながら見送った。
未だトリップ中のソフィそっちのけで…。
城の中庭に行くと、豪華な装飾の施された屋根の無い荷台と荷台に繋がれた3頭の馬の周りに何人もの兵士がいた。
俺はひょっとすると居るんじゃ無いかと思い、その馬車に近づきながら式典で誘導してくれたイルダートという騎士を目で探す。
(居ない…か。読み違えたか?)
見つけられなかったが、中には兜を被った騎士や兵士もいるので、その中にいるのかも知れないと思いつつ探すのを止めた。
「どうぞこちらへ」
馬車の周りにいた兵士の一人が、俺とフェリルに気付いて誘導してくれた。
「すみません」
「ありがとうございます」
俺の言葉に続いてフェリルがお礼を言う。
「ハハッ。息ぴったりですね。まるで、ご夫婦の様だ」
微笑ましいものを見る様な目で言われたその言葉に二人揃って赤面する。
「こちらからお上がり下さい。時間になりましたら出発しますので、しばらく座ってお待ち下さい」
「分かりました。ありがとうございます」
俺たちが荷台の席に座ると、兵士が持ち場へ戻っていった。
「どうかしました?」
ソワソワする俺の様子が気になったらしい。
「特に何かあるって訳じゃ無いんだけど、どうも祝われるのって気恥ずかしいと言うか…。要は、苦手なんだ…。昔は良く逃げ回ってたしね」
「それでなんですね。ディール様もレイをあまり社交の場に連れ出さなかったのは」
「まぁね。フェリルは平気そうだね」
緊張してる様子も無く、いつも通りのフェリルに思わず感心する。
「そうですね。現実味が無いからでしょうか…。使用人の娘が叙爵されるなんて考えた事もありませんでしたし…」
「確かに。それもそうだよね」
フェリルと話して、気を紛らわせる事に成功した俺は少し余裕が出てきた。
周りを見回すと城の方から出て来た1人の騎士が、馬車の周りを囲む兵や騎士達の中で最もリーダーっぽい騎士に耳打ちする。
(そろそろか?)
リーダー格の騎士が号令を掛けると、騎士達が馬車の前後に二列で整列して隊を作り、馬車の左右で一列に列を成した兵士達が控える。
「では、出発致します!」
最後列にいた伝令役と思しき騎士が馬車まで来てそう言うと、また元の場所に戻っていった。
それから少ししてゆっくりと城の門が開くと、俺たちを乗せた馬車も騎士達と共に城を出発した。
「…で?何でいるんですか?」
紅茶を啜る師《せんせい》に、単刀直入に尋ねた。
「冷たいわね~。ヴィルちゃんに頼まれたから、来たのに~」
「陛下の事を、ヴィルちゃんなんて呼んで大丈夫なんですか?」
やけに親しげな呼び方をする師《せんせい》に、フェリルが尋ねた。
「大丈夫よ~。あの子が小さい頃から知ってるもの~」
「フェリルって、何で師《せんせい》に悠久の魔女なんて異名が付いてるのか知らないの?」
初めて師《せんせい》に会った時に、何かを呟いていたから、気づいているとばかり思っていた。
「どこかで聞いた事があるなぁ。とは、思っていましたが…」
「ひょっとして、この国の建国の物語ではないですか?!」
師《せんせい》に出会って興奮気味のソフィアが、フェリルに続いた。
「…!。確かにそうです!」
しばらく頬に手を当てて考えていたフェリルが、ソフィアに尋ねられて思い出した様に反応した。
「あ~。それ、師《せんせい》の事だよ?」
「えっ?!あのお話って、三百年前とかの話じゃ無かったですか?」
「私、年取らないの~。見た目で言ったら、25歳から変わってないし~」
「そう言うこと。現に俺と出会った頃から変わってないしね。で、何しに来たんですか?」
「なにっ?追い出したいの?!」
師《せんせい》が涙目で訴える。
「…、出来れば?師《せんせい》が絡むとろくなことになりませんし…」
「酷くない?!」
割と本気で師《せんせい》がショックを受けた様子を見せる。
「と、冗談はここまでにして…。まさか、陛下の仰った手は打ってあるって、まさか…師《せんせい》の事ですか?」
「レイって、アリアルデ様にだけ何か冷たく無いですか?」
「そうよ、そうよ~。仮にも、師匠なんだから優しくして欲しいわ~」
フェリルが不思議そうな顔で言ったセリフを、助け舟を得たと言わんばかりに、師《せんせい》が勢い付いて抗議する。
「尊敬はしてますよ?ただ、師《せんせい》と話してるとすぐ脱線するから、主導権を握ろうと…つい?」
「この場合、話を脱線させてるのはレイですよね?」
ソフィがフェリルを見て同意を求めると、二人揃って俺を見た後に頷いた。
その側で、勝ち誇った顔をしている師《せんせい》に軽くイラッとしたが、ここで師《せんせい》に絡んだら負けだと思って我慢する。
「ごめん…。で、違うんですか?」
話を元に戻すべく舵を切った。
「合ってるわよ~。レイなら自分でどうにかするだろうけど~。それだと、困るのよね~」
「どうしてですか?」
「王都に潜んだ敵を炙り出したいから…とか?」
フェリルの質問に、ソフィが何となく思った事を口にする。
「せいか~い」
「要するに俺とフェリルは囮ですか…」
「そう言うこと~。ちゃんと私が守ってあげるから~。だから、二人は魔法を使わないでね~?警戒されて出てこないかもしれないし~」
「そうなると、ティアードみたいな対象を覆うタイプの防御魔法は使えませんよね?」
「もちろ~ん。なので、これとこれを使いま~す」
そう言って空間収納魔法から、片目にだけ着ける眼鏡と割と荘厳な装飾の施された杖を取り出した。
「何ですか?それ」
ソフィアが、師《せんせい》が取り出した杖を指差して尋ねた。
「私の愛用道具~。因みに、こっちが数百キロ離れた先まで視える眼鏡で~。こっちが、魔法の威力を増幅してくれるし~、私の思った形になってくれる杖なのよ~。こんな感じに~」
師《せんせい》が杖の形状を剣に変化させた。
「な、なんですか?!その杖?!」
フェリルが驚きの声を上げた。
「エルーシアナっていう杖なの~。珍しい金属で出来た杖なのよ~。って事で、早く着替えてきたら~?」
「師《せんせい》は良いんですか?」
「私はここにお留守番で~す。あなた達の側に私が居たんじゃ、私が来た意味ないもの~。私、レイ達より有名人だし~。ここにいることも秘密だし~」
「では、どうやってレイ達を守る気なんですか?」
ソフィアが最もな疑問を口にする。
「秘密で~す。ただ、パレードはここから見える場所しか回らないから~、方法はいくらでもあるのよ~」
「だから、どうやってですか?本当に守れるんですか?王城からなんて…。一緒に居ないようにするにしても、近くにいた方が…」
「こうなったら絶対教えてくれないから、諦めるしかないよ?」
ソフィがしつこく食い下がろうとするのを、俺が引き止めた。
「それより、ソフィはどうするの?」
聞いても答えの出ない事は放っておくことにして、パレードの参加者では無いソフィは、どうするのか確認する。
「私はお父様…陛下に、パレードの間は城で大人しくしているようにときつく言われてるので…。レイについて行く準備でもしながら部屋で大人しくしておく事にします」
「そうなんだ。それじゃぁ、俺とフェリルは着替える事にするよ」
二人とも別の部屋に入って着替えようと動き始めたが、師《せんせい》もソフィアも部屋を出る素振りも無く、優雅に紅茶を啜る。
「…。二人とも何してんの?」
部屋の扉のドアノブに手を掛けたまま、振り返る。
「「何が?」」
何がおかしいのか分からないという顔をして、二人がハモる。
「何が?じゃなくて、準備するんだけど…」
「どうぞ~」
師《せんせい》が紅茶を飲みながら、ヒラヒラと手を振る。
「いや…。出てって下さいよ…」
「いいじゃな~い。別の部屋で着替えるんだし~。ね~?」
師《せんせい》がソフィアと目を合わせると、二人して頷いた。
「良くないですよ。ちなみに、ソフィもだよ?」
「私はレイの妻になるんですもの。身内みたいなモノでしょう?」
「妻になるのは、私もですよ?ソフィ」
聞き捨てなら無かったのか、僅かに空いた扉の隙間から顔を出したフェリルが張り合いだした。
「二人ともありがとう…。…じゃなくて…」
師《せんせい》がいる前で、惚気て甘い空気を出すのも恥ずかしかったので、努めて冷静に答える。
「いいけど。早くしないと、パレードに間に合わなくなるわよ~?」
俺の話を遮って、こうなった元凶が急かして来た。
「あぁ!もう!そこから動かないで下さいよ!」
俺が勢い良くバタンッ!!とドアを閉めると、その少し後にパタンっと小さく音が聞こえた。
式典の前に着替えた部屋に入ると、白を基調にした服と黒を基調にした服の二着が置いてあった。
(何で二着…?好きな方を選べってことか?)
とりあえず、両方を手に取って見比べた後、黒を基調にした方の服を着る事にして、ベッドに綺麗に広げる。
そして、気付かれないように、服を覆う様にして光属性の魔素だけを集めた後、服を着替え始めた。
「ん?」
部屋を出ようとドアノブに手を掛けようとした所で、手紙が急に現れた。
オウカからの物だったらしく、中に書かれている事を一通り読み終えて収納魔法に収めた。
(反リダール同盟か。必要以上に首を突っ込んで無いと良いけど…)
返事を書こうかと悩んだが、パレードまで時間が無かったので、後にして扉を開けた。
「二人とも何してんの?」
部屋を出ると、師《せんせい》とソフィが、二人してフェリルを囲んで黄色い声を上げていた。
その光景に思わず、部屋に入る前と同じセリフを吐いてしまう。
「見て、レイ!フェリルが凄く可愛いのよ!どこかのお…」
言いかけたソフィが俺の方を見ると、急に黙ってボーッとする。
一方で俺も、ソフィが振り返って出来た隙間から見えた金の装飾が施された純白のドレスに身を包むフェリルに見惚れて、ボーッとする。
「どうしたんですか…?」
ソフィの傍から顔を覗かせたフェリルが、俺の方を見て惚けた顔をして固まった。
「あらあら~。みんなボーッとしちゃて~。あら?レイも良く似合うじゃな~い」
ソフィとフェリルが惚けた顔で固まっているのを見て、呑気な声を出して振り返った師《せんせい》が、俺の方を見る。
「あ、ありがとうございます。フェリルも着替え終わってたんだね。凄く似合ってるよ」
フェリルに声を掛けると、ボンッと音が鳴りそうな勢いで顔を真っ赤にする。
ソフィはまだトリップ状態から抜け出せていない様だ。
「フェリルちゃんは白…。レイは黒かぁ」
師《せんせい》が徐ろに服の色について口にしたのを聞いて、用意された服の事をフェリルに聞いてみることにした。
「そう言えば、服が二着用意されてたんだけど…、フェリルもそうだったの?」
「いえ?私の方はこのドレス一着でしたよ?二着用意されてたんですか?」
フェリルが左右に腰を捻って、ドレスのスカートをヒラヒラさせた後に一回転する。
「うん。何でだろう。ソフィは何か知ってる?」
急に話を振られて我に返ったのか、ソフィが頭をブンブン振る。
「い、いえ!流石に、そこまでは…。私も用意してある服まで説明されてる訳ではありませんので…」
慌てて答えてくれたソフィの頭を軽く撫でると、うっとりした表情で再びソフィがトリップした。
「そう言えば…、師《せんせい》にこれを渡して起きます。パレードが始まる前にでも、読んで置いて下さい」
師《せんせい》に小さく折り畳んだ紙を渡すと、フェリルの方を見る。
「そろそろ時間だし、行こうか」
トリップ中のソフィを放ったらかして、フェリルに声を掛けた。
「そうですね。アリアルデ様、よろしくお願いしますね」
「任せて~」
そう言って、部屋を出て行く俺とフェリルを、師《せんせい》が手をひらひらさせながら見送った。
未だトリップ中のソフィそっちのけで…。
城の中庭に行くと、豪華な装飾の施された屋根の無い荷台と荷台に繋がれた3頭の馬の周りに何人もの兵士がいた。
俺はひょっとすると居るんじゃ無いかと思い、その馬車に近づきながら式典で誘導してくれたイルダートという騎士を目で探す。
(居ない…か。読み違えたか?)
見つけられなかったが、中には兜を被った騎士や兵士もいるので、その中にいるのかも知れないと思いつつ探すのを止めた。
「どうぞこちらへ」
馬車の周りにいた兵士の一人が、俺とフェリルに気付いて誘導してくれた。
「すみません」
「ありがとうございます」
俺の言葉に続いてフェリルがお礼を言う。
「ハハッ。息ぴったりですね。まるで、ご夫婦の様だ」
微笑ましいものを見る様な目で言われたその言葉に二人揃って赤面する。
「こちらからお上がり下さい。時間になりましたら出発しますので、しばらく座ってお待ち下さい」
「分かりました。ありがとうございます」
俺たちが荷台の席に座ると、兵士が持ち場へ戻っていった。
「どうかしました?」
ソワソワする俺の様子が気になったらしい。
「特に何かあるって訳じゃ無いんだけど、どうも祝われるのって気恥ずかしいと言うか…。要は、苦手なんだ…。昔は良く逃げ回ってたしね」
「それでなんですね。ディール様もレイをあまり社交の場に連れ出さなかったのは」
「まぁね。フェリルは平気そうだね」
緊張してる様子も無く、いつも通りのフェリルに思わず感心する。
「そうですね。現実味が無いからでしょうか…。使用人の娘が叙爵されるなんて考えた事もありませんでしたし…」
「確かに。それもそうだよね」
フェリルと話して、気を紛らわせる事に成功した俺は少し余裕が出てきた。
周りを見回すと城の方から出て来た1人の騎士が、馬車の周りを囲む兵や騎士達の中で最もリーダーっぽい騎士に耳打ちする。
(そろそろか?)
リーダー格の騎士が号令を掛けると、騎士達が馬車の前後に二列で整列して隊を作り、馬車の左右で一列に列を成した兵士達が控える。
「では、出発致します!」
最後列にいた伝令役と思しき騎士が馬車まで来てそう言うと、また元の場所に戻っていった。
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