不遇にも若くして病死した少年、転生先で英雄に

リョウ

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第三十五話 アルバレード解放戦ー前ー

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「さて…と、こいつらを屋敷に連行するか。あっ!あの親子も連れてかないと」

二人を拘束している鎖を掴んでズルズル引き摺りながら建物を出て少し歩いた所で、銃声が二回鳴り響いた。

「まだ居たのか?!」

咄嗟に鎖から手を離して後ろに飛び、建物の壁に背中を合わせる様に隠れる。

「やられた!」

拘束していた敵が銃弾で頭部を貫かれて絶命しているのが壁越しに見えて、苛立ちをぶつける様に壁を叩く。

(さっきの重力魔法に対処したのか?いや、待てよ…。銃弾の飛んできた方向から考えると、別の奴か!)

(弾道から察するに、敵は…あの辺りか…)

壁越しに銃弾が飛んできた方向を見て、同心円状に魔力を広げ、敵の居場所を特定した。

「まだ他に居ても面倒だから、思い切りやろうかな…」

今度は両手首を合わせ、指を広げた両腕を敵が居る方に向ける。

指先に魔力を集めると、全ての指先にグラビタシオンスフェラが発動する。

「悪いけど、暇じゃないんだ」

そのセリフと共に指先から放たれた魔法が、ホーミング弾の如く敵に目掛けて宙を舞う。

次の瞬間…

敵を感知した辺りに着弾した魔法が、周囲の建物を巻きこんで、その一帯を重力の渦が飲み込んだ。

「これで、いいかな。っと、テレポート!」

親子の所まで転移すると、二人を守る様に掛けておいた防御魔法を解除する。

「おかえりー。お兄ちゃんっ!」

防御魔法を解除して直ぐに、母親の下から顔を出した女の子が俺に気付いた。

「あ、あの…」

「ただいまっと…。そんな事より手を掴んで貰えますか?」

女の子に微笑みながら返事を返して、戸惑う母親に告げる。

「わ、分かりました!」

おどおどしていた母親が少し逡巡した後、俺が伸ばした手を掴み返した。

「テレポート!」

握り返された手の感触を感じたのに合わせて、天井から土の壁が崩れていく中で俺と親子はその場を後にした。

「随分、急に戻って来たね」

屋敷に転移するなり、真横に急に現れた俺に兄さんが驚いた顔をして話しかけて来た。

「ちょっとね。それより、生存者がいたよ」

「すまない。お二人はどうぞ奥に。温かい物でも口にして休んで下さい」

兄さんの言葉に続く様に、屋敷の使用人が二人を連れて行く。

連れられて奥に行く途中、女の子が振り返って手を振ってきたので、手を振り返した。

「どうだった?」

「状況は良くないです。じ…変わった武器を使っている様ですね」

銃の事を知ってる事がバレると面倒な事になりそうだと思い、咄嗟に知らないフリをした。

「レイの合図に合わせて敵の鎮圧に向かわせてはみたが…」

「ギルドからは冒険者は?」

「ギルドは中立組織だからね。支援を求める事は出来ないよ。個人で判断して参戦したとなったら、ギルドの判断次第ではギルドから追放される可能性もあるし。それでも…」

「私のように自ら志願した者はいるがな!」

急に俺とロキア兄さんの間を割って入った細身の身体には似つかわしく無い大剣を背負った女が、声高々と兄さんの言葉に続く。

「誰ですか?」

肩に乗せられた肘を迷惑そうに払い除けてやった、

「私を知らんのか?!これでも有名人なんだぞ!」

「知りませんよ…」

「そう言えば、昔からレイは有名人に興味無かったね」

(そりゃ、この国で最も有名な人が師匠だったからね!)

と、言うわけにもいかず…

「所詮、他人は他人。自分は自分。今の自分に何が出来るかの方が大事ですから」

「なら、この現状でお前一人で一体何が出来る?」

「話に乗っかってくんなよ。先ず、あんた誰だよ」

「そうだったな!私はエスティアナ=フィオリナ=アルンステッドだ。気軽にエステとでも呼んでくれ。これでも、Sランク冒険者パーティ〈紅き翼〉のメンバーだぞ」

「レイは知らなかったみたいだけど、王国内のギルドでも指折りの一人だよ」

「そうなんですか?で、何しに来たんです?」

「だ・か・らっ!ギルドの命に逆らってこの戦いに参戦したんだってば!」

「良いの?」

「国の大事とギルドの命令…比べるまでも無いな」

「と、言う事なんだよ」

「そんな事は良いとして、兄さん。住民の避難状況を」

「冷たいな!」

「いや、遊んでる場合じゃ無いんで」

エスティアナの抗議の声を適当にあしらって本題に戻る事にする。

「まぁまぁ…。住民の大半は帝国の侵攻前に避難を済ませてある。ミリーナ様のおかげだけどね」

「あの侯爵令嬢殿かっ?!」

「一々、入って来んなよ。後、微妙に俺のセリフ奪うな」

兄さんが乾いた笑いを浮かべる。

「昨晩、ミリーナ様からこの紙で連絡が来てね。合わせたかの様に従者を名乗る方が来られて、住民をベレルまで避難させてくれたよ。ここに残っているのは、逃げ遅れた人と兵士達だけだよ」

話をしながら、指で挟んでひらひらさせていたミリーナ様の手紙を胸のポケットに仕舞った。

「まだ逃げ遅れている人はいますか?」

「レイのさっきの合図で体制を立て直した兵士達が、もう一度街に探しに出てはいるが、居たとしても恐らくは…」

「そうですか…。言いにくいですが、現状…アルバレードを捨ててベレルへ引いた方が良いかもしれませんね」

「それは出来ない相談だ」

「断る!」

「だよね。って、アンタは関係ないだろ」

どう反応されるかは予想できていたので素直に頷いた。

次いでに、関係ない奴の返事にも突っ込んだ。

「それが、あながちそう言う訳でも無いんだよ」

「えっ?!」

エスティアナが反論して来るかと思ってたら、兄さんの方が反論して来たので思わず驚いてしまった。

「私は昔ここに住んでいたからな…。私の剣の師は、お前たちの父親だぞ?」

「父上が?」

「あぁ。故郷の一大事だからな。パーティーのみんなで王都に戻る途中でこっそりこっちに来てやったわ」

カラカラと女性らしく無い笑い声を上げながら、聞いても無いことまで答えてくれた。

(スタイル抜群だし美人だから、黙ってれば良いのに…)

防具越しにも分かるそのスタイルを下から上へと見た後、顔を見て、惜しい気持ちになった。

「な、何だ?!さては、お前!私をエロい目で見てたなっ!」

エスティアナが胸を腕で隠しながら、顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている。

「見てねぇよ!もう黙ってろよ!」

「私としてはお前がその気なら…」とか、ゴニョゴニョ言っているが、もう無視しよう。

(最近、ピリピリする事ばっかだったから、この感じはちょっとホッとするな…)

戦時中とは思えない久しぶりの緩い空気に和みつつ、咳払いを一つして話を元に戻す。

「ですが、この状況は途轍もなく分が悪いですよ?魔物に帝国兵…、何より武器が厄介です。それに対して、こちらは僅か数百の兵士と騎士だけ。それも負傷者多数な上に逃げ遅れた住民を探しながら護りながらになります。ましてや、兄さんやこの屋敷のみんなはここから離れる事も出来ませんし」

「だが、ここを捨てる訳には行かないな。というか、その武器の事にしろ、ここを守る方法にしろ。レイには何かあるんだろう?」

「えぇ。まぁ、あるにはありますけど…」

「勿体ぶるな!早く言え!」

「真面目な話してるんだから、しゃしゃり出てくるなよ!」

急に話に割って入ったエスティアナに注意する。

「まぁまぁ。それで?今は有事だからね。方法があるなら直ぐにでも聞きたい」

「これが奪った物です。遠距離攻撃に向いた武器で連射も効くみたいです。種類によっては、長距離攻撃も出来るようです。確認した限りでは、動力は魔力でしょうね」

さっきの戦闘で倒した敵兵から奪った銃を収納魔法から取り出して、兄さんに渡した。

「初めて見るな。なるほど、厄介な武器だ」

「さすが兄さん。これの厄介な所は、弾さえ有ればいくらでも攻撃出来ます。必要な魔力も一発に対してほとんど消費しないみたいです。他の用途の物はまた仕様が違うかもしれないけど…」

「なら、防御魔法で絶えずガードしておけば…」

「対魔法弾もあるので、それだけでは駄目だと思います。しかも、数十メートルは離れた場所から攻撃してくるのを全て耐えつつ倒すのは困難。魔法で反撃するにしても、相手はこちらが魔法を発動するまでに、いくらでも攻撃出来ますし」

「想像以上に厄介だな…。何でレイはこの武器にそこまで詳しいんだ?」

「さっきまで戦ってましたから。後は、秘密です」

「まぁ、お前は昔から不思議な奴だったからな。余計な詮索はしないでおくよ」

「ありがとう。で、事を起こす前に確認しておきたいのですが…」

「なんだい?」

「この街を救うならある程度の被害はやむを得ません。復興するにしても、かなり長い時間が必要です。その覚悟はありますか?」

この状況を打破するには、街への被害に目を瞑ってでも殲滅するしかもう手が無く、言質を取らざるを得なかった。

「既に街の被害は甚大だからね。これ以上の被害を受けたとしても、ここで奴等を倒さなければ復興等とは言っていられない」

「分かりました。なら、俺は二の刻程休みます。その後、街に侵入した魔物、敵兵を一掃しに街に向かいます。エスティアナさんは兄さんの護衛をお願いします」

「断る!お前が起きたらついて行くぞ」

これから仮眠取ろうとしてるのに、とんでもない事をぶっ込んで来た。

「いやいや。邪魔なんだけど?」

「銃の事だが、ドラゴンの吐く炎とどっちが強い?」

「比べる対象がおかしい」

「と言う事は、ドラゴンの炎の方が強いんだな」

「当たり前だろ」

「なら、大丈夫だ!」

「何がだよ…。意味が分からん」

「レイ。この人の通り名は、ドラゴンスレイヤーだよ。ファイヤードラゴン位なら、一人で討伐するよ」

「マジか?!」

「まあな。私は絶えずこの防具で物理防御と魔法防御が強化されているからな。ドラゴンの吐く炎の中に飛び込んで、この大剣アドワーズでぶった斬ってやったわ」

「人間じゃ無いな!」

「失礼な!うら若き乙女に何と言う!」

「真正面から突っ込んで、ドラゴンを斬り伏せる奴をうら若き乙女とは言わないよ」

「まぁ、そう言うことだから。レイが休んでいる間は護衛を頼むけど、事を始める時はレイの側に居てもらった方がいいと俺も思うよ」

「でも!」

「大丈夫。ここにはファラさん達もいるからね。それに、レイのさっきの指示通りここの周辺にいれば安心なのだろう?」

「そうですけど!…あぁ、もうっ!とりあえず仮眠を取って来ます!」

強い眼差しでこちらを見据える兄さんをどうにか説得しようとしたが、朝から戦い続きで疲れて回ってない頭では無理だと悟る。

「さっきの合図代わりの攻撃でそれなりに敵は減っている筈ですが、気を付けて下さい。それと、長距離射撃をして来る敵は建物の上や相手が見えやすい場所とかに居るはずです。出来るだけ建物等で身を隠して行動して下さい」

二人がまだ何かを言いたそうにしていたが、無理矢理話を切り上げて俺は自室だった部屋へと向かった。
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