不遇にも若くして病死した少年、転生先で英雄に

リョウ

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第三十七話 アルバレード解放戦ー後ー

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俺は街の東側を目指して、敵を探しながら建物の間を縫うように駆け抜けていた。

目的地も特に無い中、ただ走り回っているだけで頻繁に敵と遭遇するおかげで、既にそれなりの数の敵を倒していた。

「思ってたよりも多いな…」

何人、何匹倒したかなんてとっくに覚えていないが、もう三桁位は倒したんじゃ無いかと思う程にはなっていた。

ガシャっ!

脇に転がっていた瓦礫に何かが当たって音を立てる。

「チッ!外したか!おい!そこのお前!お前だな。私の部下を倒して回っているのはっ!」

(厳密には外れたんじゃなくて、避けたんだけどな…)

不意に敵意を感じて咄嗟に立ち止まり、身体を僅かに捻って敵の攻撃を交わしていた。

「わざわざ姿を見せてくれるとは…」

攻撃が飛んで来た方角にある建物の上で腕を組んで仁王立ちで、声高高に話しかけて来たフードを被った敵を見据える。

「貴様のせいで私の部隊は壊滅的な損害を受けた!落とし前は付けさせてもらう」

敵が2丁のアサルトライフルの様な銃を構えた。

「お前がこの辺りにいた奴等の指揮官だな。なら、お前を倒せば終わりだ」

腰に帯びていた一閃を抜いて構えると、一直線に敵の懐に向かって飛び込む。

「やれるものならやってみな!」

驚いた様子も見せず、眼下にいる俺目掛けてトリガーを引く。

「甘いっ!」

飛んで来る大量の銃弾を、中級風魔法の一つトルネアで弾き飛ばす。

「甘いのは貴様だっ!」

ほとんどの銃弾がトルネアで吹き飛ばされる中、いくつもの銃弾がものともせずこちらに向かって来ていた。

「対魔法弾っ?!」

急いで足下にエアロバレットを発動し、そのまま炸裂させて構わず向かってくる銃弾を回避する。

「危なかったぁ」

「チッ!」

避けた俺の姿を睨みつけながら舌打ちした敵が、何発も打ってくるのを俺は建物の陰から陰へお隠れながら移動して避けていく。

(じゃぁ、今度はこっちの番だな)

分身魔法ダブルシェイドを発動すると二手に分かれた。

「クソッ!!ちょこまか逃げ回りやがって!」

建物の隙間から時々姿を見せる俺を見る度に銃弾を撒き散らしているのに、全く当たら無い事に徐々に敵がイラつきを見せ始めた。

(まぁ、さっきから狙われてるのは俺の分身だけどね)

分身魔法を操りながら音も気配も殺し、相手の背後に回り込む。

「なぁっ!?」

俺の分身目掛けて放った敵の銃弾が当たる直前、分身が姿を消した。

「ぐはぁっ」

分身の姿が消えたのと同時に、敵のすぐ側に姿を現した俺が一閃の峰を相手の腹目掛けて思いっきり振り抜いた。

ミシミシと敵の肋骨が砕ける音が鳴る。

「これでよし!っと。運が良ければ、こいつが他にも道具を持ってるはずだが…」

重症を負って気を失った敵を腕で支えると、そのまま仰向けに寝かせて、俺は身体を弄り始めた。

魔物を従えるのに何かしらの道具があるはずだが、こいつが持っていれば位に探してみたが…。

「やっぱりこいつは持ってないか…。仕方ないっと」

気絶した敵の持ち物を一通り漁ると、俺はすぐさまを担ぎ上げた。

「反対側はエステが何とかするだろうし。後は街の外の敵かな」

……………………
…………………
………………

一度屋敷に戻った俺は、担いでいた奴を兄さん達に引き渡す。

「これが街の東側にいた指揮官だと思う。それと、これ」

倒した相手が持っていた武器を、ロキア兄さんに手渡した。

「直ぐにこいつを牢に!ん。…しかし、帝国はどうやってこれを手に入れた…?」

手に取った銃をまじまじと見つめて、ロキア兄さんが考えを巡らせるかの様に呟いた。

「さぁ。あっ、そのトリガーは気をつけてね。まだ、弾があるみたいだから」

トリガー周辺を触っているのをみて、思わず忠告する。

「あぁ。しかし、帝国はこんな武器をどうやって…」

(俺だって不思議だよ…。どういう手を使ってこんな物を量産出来たんだ…?)

「そんな事より敵の残党の有無を確認しないと」

急ぎその場を離れようとした俺を、ロキア兄さんがスッと手を差し込んで制した。

「いや、後はこちらで対応するよ。ジャン!エリシア!陣頭指揮を頼む!」

「「はっ!!!」」

敬礼と共に返事をした後、2人が部屋を出て行こうとする。

「ちょっと待って下さい。敵の武器は遠距離武器です。防御魔法を貫通してくる場合があるので、気をつけて下さい」

「ありがとう」

ジャンさんの後に続いて出ていこうとするエリシアさんが少し振り返ってお礼を言うと、2人は慌しく部屋を出て行った。

「それはそうと。エスティアナさんはどうしたんだ?一緒に行ったんじゃなかったっけ?」

2人を見送ったロキア兄さんが思い出したように尋ねて来た。

「彼女ならまだ街で敵を倒して回ったり、生存者を探していると思いますよ?後から向かう部隊の苦労も減るでしょう?」

「確かにありがたいが…」

困惑してる様な…それでいて、考え事をしてる様な顔をして、ロキア兄さんは口に手を当てて何かを考え込む素振りをみせた。

「…。ところで、少し休んでもいいですか?折角、時間が出来たので、外の敵に備えたいのですが…」

「それもそうだな。お前の部屋で休むといい」

その言葉を受けて真っ直ぐ自室に向かうと、すぐさまベッドに横たわると天井を見つめる

(日が落ちるまで、まだしばらくある…。次の行動まで準備だけしておいて。少し休むか)

『ミリーナ。今、大丈夫かな?』

念話魔法で呼びかけてみる。

『は、はい!どうかしましたか?』

予期して無かったのか、少し慌てた様子で返事が返ってきた。

『そちらの様子は?』

『レイ様の予想通りですね。こちらには見向きもせず、ザエルカとアルバレードに兵力を割いているようで』

『そうか。なら、予定通りに動けそうだね。こっちはアルバレードに侵入した敵をほぼ掃討し終えたよ』

『では、明朝にザエルカとこちら側で挟撃するつもりで準備を始めます』

『あぁ。でも、ミリーナはベレルに残ってね。君が連絡の要だから』

『分かっています。ですが、アルバレードは今だに多数の敵が取り囲んでいると聞いてますが…』

『そっちは何とかするよ。それより、ザエルカの方は?』

『幸い。オウカ様がザエルカにいらっしゃったので、侯爵…お父様の兵と協力して戦っています。戦況は優勢の様です』

『なら、もうしばらくは防衛に専念しながら、対応するようにお願いしておいて。進軍の合図はこちらから出すから』

『分かりました。あっ!それと!』

『どうしたの?』

急に少し慌てた様子で話すのを感じて、思わず聞き返した。

『フェリルさんがザエルカに入ったと聞きました』

『王都の方は大丈夫なの?』

『アリアルデ様とソフィア様が王国騎士団をまとめて防衛するそうです。ソフィア様がフェリルさんの仕事も引き受けたと聞きました』

『分かった。じゃぁ、俺はこれから少し休むから、何かあればまた連絡して』

『分かりました。では、これで』

『よろしく』とだけ答えて、念和魔法を打ち切った。

せんせいは随分無茶なやり方で、ソフィを鍛えたのかな…。ふぁ~)

眠気に任せて、一眠りすることにした。

……………
…………
………

バンッ!

勢いよく開けられたドアの音で目を覚ました。

「おーい!寝てるって聞いて来てやったぞー」

この元気な声に起こされた俺は身体を起こして、無意識に出た欠伸で開いた口を手で隠した。

「寝てるって聞いたんなら静かに来いよ…。というか、来んなよ…」

「この状況でぐっすり寝れるとは大物だな。お前」

「戦争中だろうが、休める時に休まないと戦えないだろ」

「一理あるな」

「そんな事より何しに来たんだよ…」

「随分な物言いじゃないか。こっちはさっきまで戦ってたと言うのに…」

「それは、お疲れ様。で、そんな事言いに来たのか?」

「そんな訳無いだろう。とりあえず、街中は全て片付いたぞ。当然、次は考えてるんだろう?」

「それはそうだけど。エステの出番無いよ?」

「なぜ?!」

「逆に何でそんなに戦いたいんだよ…。十分活躍して貰ったから、休んでていいよ」

「馬鹿を言え。こんな状況下ではジッとしておれん」

「もうとっくに日も落ちてるから、エステの出番じゃ無いって言ってんだけど?」

横目に見た窓の外には月が高々と光を放っているのが見えた。

(結構、良い時間に起こしに来たな…)

「私は夜戦も得意だぞ?三日三晩、ドラゴンと戦った事もある」

戦闘狂バトルホリックか…。命知らずも良いけど、死ぬよ?」

「そんなものは冒険者になった時から、覚悟の上だ」

ニカッと快活な笑顔を向けてくる。

「俺の魔法で」

ニヤッと悪い笑みを浮かべて言い放ってやった。

「私まで殺す気か!?」

「俺の言う事聞かないで、敵勢に突っ込んでったら死ぬよ?って話なだけだよ。何千、下手したら何万っていう敵兵と魔物を個々に相手にしてられるわけないだろ?」

「じゃぁ、どうする気なんだ?」

「各個撃破してられないなら?」

「まとめてか…。どうやって?」

「教える義理なんか無いだろ。仲間でも無いのに…」

「なら、仲間になろう!」

「ちょっと待て…。お前には既に仲間がいるだろ!」

「なら、私のパーティー諸共!」

「却下。目立ちたくないし」

「どうせ盛大にぶっ放す気なんだろうから、目立つんじゃないか?」

「だから、闇夜に紛れてやるんだろ?」

「なら、私がいてもいいだろ?」

「エステにも知られたく無いって言ってんだよ…。めんどくさい…」

「ひどい…!シクシク…」

「しょうがないだろ…。こっちにも理由があるんだよ」

シクシク…

シクシク…

シクシク…

「あー!もう!鬱陶しい!連れていきゃぁ良いんだろ?」

「ほんとうに…?」

「あざとい…。連れてくの辞めても良いんだけど?」

涙目で上目遣いしながら恐る恐るこっちの顔を覗き込む様にして、こちらに問いかけてくるエステを一蹴する。

「ごめんなさい…」

更に涙目でジッと見てくる…。

……………………

「あぁ。もう!連れてくよ!これでいいだろ!」

根負けした俺がそう言うと、初めて見たとびっきりの笑顔をこちらに向けて嬉しそうにしている。

「ただし!」

「…ただし?」

「見たことの一切が他言無用。もし、誰かに喋ったら…」

「喋ったら?」

どうでも良いけど、さっきからこいつずっとオウム返ししかしてないな。

「俺の敵と見做す。悪いけど、こいつをつけさせて貰うよ」

そう言って、エステの肩を掴むとゆっくりと少しだけ俺の魔力を流し込んだ。

「な、何をした?!」

「俺の魔力を流した。他言した時は、その魔力がエステを蝕む毒になる。例え、エステのパーティーメンバーであっても話すことは許さない」

「そんなまどろっこしいことしなくても、仲間に入れてくれればいいだろ?そしたら、側で監視も出来るだろ」

「エステが既にパーティーを組んで無ければそうしたよ。好き好んでこんな回りくどい事したくないよ。俺も…」

「ごめんなさい…」

「さて、時間もあまり無いし。これ飲んだら、すぐに行くぞ」

エステが俺から受け取ったマナポーションを飲み干したのを見届けると、自分の分のマナポーションを飲んだ。

「じゃぁ、外の敵を殲滅しに行きますか」

ベッドの側に置いていた一閃を腰に差すと、エステと2人、その場を後にした。
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